02 ようこそ、あやかしクラブへ
よく見てみれば、先生の頭には角があった。先生も鬼じゃないか。
「えー、今日からお前たちの担任になった。よろしくな」
先生の野太い声が教室に響き渡った。それから先生はクラスメイトを1人ずつ読み上げていった。そして俺の番である。
「前橋 たくや」
「はい!」
「おや?お前だけ人間なのか。珍しいな」
先生がそう言うと、皆がざわめき始めた。
「人間? なんでこんなところにいるんだよ」と小鬼。
「私には関係ないわ……」と雪女。
「俺は最初から知っていたけどな」と天邪鬼。
「ワシと戦って強ければ問題なかろう!」と赤鬼。
それぞれが話し出したため、先生も困っていた。
「ちょっと皆静かにしてよ!」
すると、皆ぴたっと止まり静かになった。声の主は猫又であった。
「人間でもいいじゃない。あたしはたく坊がここに来てくれてうれしいよ。だから皆仲良くしようじゃないか」
「猫又の言う通りだな。皆仲良くしろよ」
先生もほっとしたようで、読み上げを続けた。
「仲良くってなー……」
「人間は俺たちとは違うし、何の力もないしな……」
そんな声が聞こえてきた。おいおい、ちゃんと聞こえてるんだが。仕方ないか。
俺は、はぁーとため息をついた。今日は最初の登校日なので、授業はなし。
「では、これでホームルームは終わるが、皆部活動を必ず入っておくように!」
先生がそう言うと、全員からブーイングが始まった。
「えー、めんどくさい」
「絶対入らないといけないんですか?」
それぞれが口に出していると、先生は名簿をバンッと机に叩きつけた。
「えぇい、うるさいぞお前たち。これは決まり事だ。さっさと部活を決めてこい!」
先生の大声がビリビリと教室を揺らした。チャイムが鳴って皆急いで教室を出ていった。
「ふー、部活って言っても、俺が入れる部活はあるんだろうか……」
「大丈夫。たく坊ならすぐに見つかるよ」
「だって俺は人間だから、妖怪には遠く及ばないだろ? 嫌われるのが目に見えてる」
俺が呆れていると、猫又は首を傾げた。
「あたしは、たく坊のこと好きだぞ?」
「え?」
「人間の中でも面白そうだからな!」
あぁ、そういうことか。びっくりするじゃないか。
俺が苦笑いを浮かべていると、先生がやって来た。
「おい、いつまでいちゃついてるんだ。早く部活を見つけてこい!」
「はい!」
俺たちは慌てて教室を出ていった。
「じゃぁ、あたしは行くところがあるから、ここで失礼するぞ」
「あれ、一緒に行くんじゃないのか?」
「さすがに1人でも大丈夫だろ? あたしも用事があるんでね」
そう言うと、猫又はさっさと行ってしまった。
「なんだよ、一緒に行ってくれてもいいじゃないか……」
まぁ仕方ないか。小さい頃とは違うんだ。
猫又が去っていった方を見つめながら、俺は逆方向に歩いていった。
「しかし色んな部活があるんだな。呼びこみもしているし」
部活には人間界と同じ運動部と文化部があった。しかし、人間の俺が入れる訳がなかった。聞いても門前払いされるだけだった。
「はぁー、どうしよう……これじゃどこも入れないじゃないか」
俺が困って廊下を歩いていると、1つの教室が目に入った。
「ここも何かやってるのかな?」
おずおずとドアを開き入ってみると、中はうす暗かった。
「ここは何の部屋なんだろ……」
「ここはあやかしクラブだよ」
後ろから声をかけられて俺は悲鳴を上げた。
「ぎゃあああぁ!」
「わあああぁ!」
すると、相手も悲鳴を上げていた。なんであんたも驚くんだよ。
「い、いきなり声を上げないでおくれ。びっくりするじゃないか……」
「す、すみません。いきなり声をかけられたもので……」
俺はすぐに謝った。よく見ると、相手は小さな子どもだった。あれ? ということは……
「もしかして、座敷童?」
「初めて会ってなれなれしいぞ」
そう言うと、座敷童は指を天井に向けた。すると、上から枕がたくさん落ちてきた。
「ぎゃあっ!」
俺はあっさりその下敷きになった。ただ名前を呼んだだけなのに。
「あ、あの、ここってクラブっていうからちゃんと部活なんですよね?」
「あぁ、そうだよ。しかし今は僕1人だけだけどね」
「もしかして他に来た人たちにも、こんなことしてるんですか?」
「無礼な奴にはやってるぞ」
そんなことしてるから、誰も入らないんじゃないのか。
俺がなんとか枕の山からはい出ると、座敷童が近づいてきた。
「それで、君はここに何をしに来たんだい?」
「あの、俺をここの部活に入れてもらえないでしょうか!」
「おぉー!入ってくれるのかい。それはうれしいよ!」
「でも、俺人間なんですが……」
「問題ない。あやかしクラブは誰でも歓迎さ」
「ありがとうございます! 俺、前橋 たくやって言います」
こうしてやっと俺も部活を見つけることが出来た。
「それで、部活内容はどんなことをするんですか?」
「妖怪たちが自由に、そして気ままに遊んで過ごす部活だよ」
「え、それだけ?」
「他に何があるんだい?」
「それだと、部活として認められないんじゃないでしょうか……部員も俺たちだけですし」
「うーむ、ならばどうしたらいい?」
「妖怪たちの困りごとを解決するのはどうでしょうか?」
「果たして僕たちを頼ってくれるだろうか。人間もいるし」
「す、すみません……」
俺がうなだれていると、座敷童が手を振った。
「あぁ、別に君を責めている訳ではないんだよ? とにかく最初の案で人数集めでもしようか」
「はい!」
そして俺たちは校庭に向かった。