01 俺の行く学校はとんでもないところでした。
俺は夢を見ていた。まだ小さかった頃の夢である。俺は泣いていた。そこへ同い年くらいの少女がやって来た。
「何を泣いているの?」
「道に迷って帰れないんだ……」
「なら、あたしが案内してあげる。ついてきて」
少女は俺の手を引いて歩き出した。少女には猫耳が生えており、しっぽも2つに分かれていた。
「君は一体……」
「あたしは猫又。あんた名前は?」
「たくやだよ……」
「なら、たく坊。ここからならわかるだろ?」
「あ! ここ、見たことがある! ありがとう」
俺が振り返ると、猫又はいなかった。そこで俺の夢は終わった。というか、目覚ましが鳴ったので目が覚めただけなのだが。
ジリリリと鳴る目覚まし時計を止め、俺は起き上がる。今日から新しい学校の登校日である。
「母さんがすすめてくれた学校ってどんな所なんだろ……」
少し自己紹介が遅れたが、俺の名前は前橋 たくや。16歳。高校1年生。A型。何の取り柄もない普通の男だ。なんだか、自分で言ってて悲しくなる。
おれがそんなことを考えていると、スマホが鳴った。相手は母さんである。
「もしもし、母さん?」
「おはよう、たくや。まだ出てないわよね?」
「今から準備して学校に行くところだけど」
「あー! 違う違う。あなたが行くのは夜間の学校の方よ」
「は?」
母さんが言うには、俺が行く陽園学校は昼と夜の2つがあるらしい。もう少し早く言ってほしかった。
「ごめんねー。でも行く前でよかったわ。じゃぁ学校頑張ってね。きっとあなたにいい刺激を与えてくれると思うから」
「どういうこと?」
俺の問いかけは聞かず、母さんは電話を切った。
「少し時間ができちゃったな。何をしよう……」
俺はリビングのソファーに座り、学校のパンフレットを見た。確かに昼と夜の分が書いてあるけど、夜の分はあまり書かれていないな。
「俺が行く学校って、どんなところなんだろう……」
俺は少し不安になりながら昼間を過ごした。そして、やっと夜である。
「確か学校に直行のバスがあるらしいけど、どれだ?」
辺りを見回すと、バスがちらほらあった。俺が戸惑っていると、運転手が寄ってきた。
「もしかして君、陽園学校に行きたいのかい?」
「はい、そうですが……」
運転手は帽子を目深に被っていたため、顔は見えなかったがなんだか笑っているような気がした。
「それなら私のバスですよ?でも、珍しい方が入学なさったものだ」
「珍しい?」
俺が首を傾げていると、俺を乗せたバスは発進した。乗っているのは俺だけである。そして、運転手が何かボタンを押すと、名前が変わった。「陽」の部分が「妖」に変わったのだ。
「あれ? 学校名が違いますよ」
「いいえ。合ってますよ」
運転手はそれから何もしゃべらなかった。そして、目的地について俺が降りると、運転手は傍に寄ってきた。
「あなたがこれから行くところは、この世のものでない者たちの集まるところ、ようこそ妖園学校へ。あなたを歓迎しますよ」
「はぁ?!」
俺は目が飛び出るほどに驚いた。
「では、私はこれで失礼します」
そう言うと、運転手はさっさとバスを発進させて去っていってしまった。残された俺は呆然と立っていた。
「一体ここはどういうところなんだ?」
俺が青ざめていると、色々な妖怪と呼ばれる者たちが学校に向かっていた。俺は慌てて近くの木に隠れた。
「なんであんな奴らがうようよいるんだよ……」
「君、そこで何をしているの?」
女の声に俺が振り返ると、そこには猫耳としっぽが2つに分かれた少女が立っていた。
「あれ、君は確かたく坊ではないか! 大きくなったなー」
そう言われて俺は夢を思い出した。あの時の猫又である。
「しかし、あんたは人間だろ。何故ここにいるの?」
俺が黙っていると、猫又は首を傾げた。
「実は母さんにすすめられて、ここに来たんだ。でも妖怪がいっぱいいて近づけないんだ……」
「ならあたしが一緒に行ってあげる。ほら、ついてきて」
それは夢の中で言われた言葉とほとんど同じであった。
猫又は俺の手を引いて歩き出した。
「しかし、またたく坊に会えるとは思ってなかったよ」
「なら、なんであの時姿を消したんだ?」
「妖怪は基本人間と関わらない方がいいからな。だから仕方がなかったんだよ」
猫又は少しすまなそうにこちらを見た。そんな目で見られたら何も言えないじゃないか。そんなことをしていると、1つの部屋に着いた。
「ほら、ついたぞ。ここがあたしたちのクラスだ」
中に入ってみると、そこにはたくさんの妖怪がいた。俺が震えていると、猫又がそっと耳元で囁いた。
「大丈夫。皆取って食ったりはしないだろうから」
なんでそんな曖昧なんだ。全然落ち着けないんだが。
俺が迷っていると、猫又はスタスタと席に着いた。皆の席にはネームプレートが置いてあった。本を読んでいる雪女や、外を見ている天邪鬼、それにふざけあっている小鬼たち。たくさんの妖怪がいるな。しかも、金棒を持っている鬼までいるじゃないか。
「俺、やっていけるのかな……」
俺はビクビクしながら席に座った。よかった、猫又の前の席である。
「これからよろしくね?」
「あ、あぁ……」
俺は元気なく答えると、猫又は首を傾げた。すると、教室のドアが開き先生が入ってきた。