#6 誘導
「浮遊砲台らしき物体、多数反応!」
来たな。思った通り、いくつかの浮遊砲台が反応する。作戦の取り決め通り、僕は号令を発する。
「三時方向!」
すると艦隊は全速のまま、一斉に右側へ転進する。直後、浮遊砲台からのビームが側面を横切る。
しかし全速で進む艦艇に対し、無人の兵器が狙いを定められるわけがない。
連合側には、地球〇〇一という最先端技術を所持する星を抱えている。その技術力により、連盟側よりも技術的に有利さがあるのは事実だ。
その有利さの一つが、この機関だ。
我々連合側は、三十分限定だが通常の三倍の出力を出すことができる機関を持っている。その機関を使って、最大で光速の十パーセントほどの速度まで加速することができる。
浮遊砲台の砲撃を探知したら、発射寸前に向きを変える。これで攻撃をかわしつつ、ワームホール帯に接近するというのが今回の作戦の趣旨だ。
それのどこが、浮遊砲台の殲滅につながるのか……と言われそうだが、その先のことは正直、僕にも確証はない。が、この軍事行動がもたらす影響に期待しての作戦だ。
「浮遊砲台、さらに多数反応!」
「十時方向!」
僕はただひたすら、砲台の充填を探知するたびに、艦隊の進行方向をランダムに指示する。今度は一斉に左方向に転舵する。
「砲台探知! 数およそ五十!」
「ゼロ時方向!」
「また砲台からのエネルギー反応!」
「一時方向!」
艦橋内には、限界突破させた機関の唸り音が響き渡る。浮遊砲台の真っ只中に入り込んだからだろうか、砲撃頻度が上がる。その度に方向転換を行っているが、だんだんと目的地に向かって進んでいるかどうかが分からなくなってきた。
「提督! 進路、戻り始めてます!」
「了解、では、百八十度、六時方向に転舵!」
「浮遊砲台探知! 数三十!」
「ご、五時方向だ!」
だんだんとややこしいことになってきたぞ。指示しているこっちが、段々と訳がわからなくなってきた。本当にこの作戦、上手くいくのだろうか?
あまりグズグズできないな、すでに二十分が経過している。残りあと十分。
「そろそろ本気で向かうぞ。七時方向!」
徐々にではあるが、出現する浮遊砲台の数が減りつつある。こちらの接近に合わせて自動的に出現する砲台だが、この辺りの宙域をあらかた走り回ったおかげで出尽くしたようだ。
で、一度現れるとこの砲台、位置がバレバレとなる。位置さえ分かれば、不意打ちを受けることはない。すでにレーダー上には三千近い数の砲台が映し出されている状態だ。
僕は、意を決する。
「該当のワームホール帯へ向かう、進路修正! 全艦突入せよ!」
高出力限界時間まで、あと五分まで迫っている。もはや多少のリスクは承知の上で、僕は艦隊を目的のポイントへと突入させる。
出現した浮遊砲台が、一斉にこちらの一千隻を狙い撃ちする。だが無人砲台では不意打ちでもない限り、我々を当てることができない。砲台の動きが見えているから、大体どこを狙ってくるのか分かるためだ。
といっても、こちらの三倍の数の砲台だ、把握するのも大変である。しかも残り時間が少ない。小刻みによけつつ、艦隊はワームホール帯に突入する。
「ワームホール帯、捕捉! ワープ準備!」
「超空間ドライブ作動! ワープ開始まで、三、二、一、今!」
短いカウントダウンの後に、一千隻は浮遊砲台に守られたワームホール帯に突入、ワープを開始する。
さて、その先にあるのは、我が連合側がほとんど把握していない宙域だ。その先に現れたのは、パトロール任務中の連盟艦隊十隻。その十隻に向けて我々は発砲、即座に殲滅する。
で、そのまま一時間ほど、この宙域をうろつく。百万キロほど先に民間船を多数捉えるが、我々の出現を見て一斉に回避し始める。そして、どこからともなく連盟艦隊が一千隻ほど集まってきた。
しかし我々はそれを見届けると、再びワームホール帯に突入する。再び全速力で浮遊砲台をかわしつつ、連合の支配宙域へと戻っていった……
◇◇◇
「で、三日前にその艦隊は、引き揚げていったというのですか?」
「そうだ」
「被害はあったのですか?」
「パトロール中の艦隊十隻が、全滅させられた」
「それだけですか? 浮遊砲台は?」
「全基、無事だ」
「……では、敵は何のためにこちら側に突入してきたのですか」
「分からんな。だが、危うく民間航路にまで入り込まれるところだった。ゆえに、何らかの対策を迫られておる」
私は、敵の不可解な行動に関する報告をパザロフ大将より聞いた。この一件については箝口令が敷かれており、口外禁止事項ではあるとも聞かされる。だが、敵は浮遊砲台群を潜り抜け、わざわざ命を張ってまで侵入してきたわりには、実に乏しい戦果だ。
連合のやつらめ、何を考えているんだ。だが、この無意味で奇怪な行動に私は、なんとなくだが一抹の不安を覚える。
これを仕掛けたやつは何か、企んでいるな。
◇◇◇
『意味が分からんな。この軍事行動にどういう意味があるのか?』
僕は早速、ディーステル大将から先の作戦についての説明を求められる。
「はっ、この行動自体には、ほとんど意味はありません」
直接通信で話をしているが、僕のこの発言で、一気に総司令官殿の表情が曇るのが分かる。
『……まあ、それはそうだろう。肝心の浮遊砲台を一つも破壊せず、ワームホール帯を抜けた先にいた十隻の艦隊のみを殲滅しただけだからな』
「その通りです」
『だが当然、何か狙いがあっての行動なのだろう。次の作戦で浮遊砲台を破壊するための布石だとか、その狙いがあっての行動なのか』
「はい、仰る通りです。もっとも、狙い通りに動いてくれるかどうか……」
頼りない返事に、ますます不機嫌な表情を浮かべる大将閣下だが、僕は涼しい顔で答える。嫌な顔をされるのは、あの婚約者のおかげで慣れっこだ。
『少なくとも、私にはその狙いとやらを聞かせてはもらえないか? さもなければ、いくら私でもこの先の作戦を許可できないぞ』
「おっしゃる通りです。では、ご説明いたします。まず次の軍事行動ですが、一週間後といたします」
『なんだと!? それでは浮遊砲台が、元通り探知不能状態に戻ってしまうではないか!』
「ええ、そうです。もっとも、元通りかどうかは分かりません」
『言っている意味が分からないな。もう少し真面目に説明してはもらえないか』
「はい、それはですね……」
僕は、作戦の概要を大将閣下に説明する。
『……なるほど、そういうことか。だがそれは随分と運任せな案だな』
「はい、それは認めます。ですが、一個艦隊でも打ち破れないあの浮遊砲台を、たった一千隻で殲滅せよとおっしゃったのです。普通のやり方ではまず、不可能でしょう」
『そうだな。当然、それくらいの奇策を用いるであろうことは想定していた。分かった、貴官のその作戦案を承認しよう』
「ありがとうございます。では」
たがいに敬礼し、通信が切れる。僕は、極秘情報の通信専用のその狭い部屋から出た。
「いかがでしたか、総司令官閣下の反応は?」
「予想通りだ。終始、怪訝な表情で聞いていたよ」
「ですが、その口ぶりからすると、了承はされたのですね」
「当然だろう。他に策はないのだから。それにだ、大将閣下も元々これくらいの奇策を期待していたはずだから、了承せざるを得ないんじゃないのか」
外で待っていたヒンメル中佐に、僕は今の会話の結果のみを伝える。それを聞いた中佐は正直、複雑な気持ちのようだ。
「しかし、失敗する場合も考慮せねばなりませんね」
「そうだな。だが多分、上手くいく。僕はそう思うけどね」
「いや、ほんとにうまくいきますかね? 私だったらそんなこと、やらないと思いますけど」
「偶然ではあるが、先日の作戦ではあちらの民間航路に肉薄できたんだ。となれば、連盟側にとっては由々しき事態、あちらも何らかの対応を迫られるはずだ」
「それはその通りですが、だからといって提督の思い通りになるとは限りませんよ」
どうにも慎重過ぎる参謀長だな。もう一人の兵站担当の方が呑気な分、肝が据わっているように見えるぞ。心配したって、決定は覆らない。後は最善を尽くすだけだ。
で、そんな僕は今、前線旗艦ではなく、艦隊旗艦である戦艦ハンブルグにいる。作戦宙域にいるわけではないから、わざわざ狭い艦に乗り込む理由などない。
本来、艦隊指揮官というのは、この大型艦に乗り込んで指揮するというのが普通だ。前線には駆逐艦を配置し、後方には大型の戦艦を並べる。基本的に戦艦とは、その名前に反して前線には出ない。あくまでも後方にて補給や修理を担当する移動基地が主な役目だ。
そんなところから指揮を執れば、最前線で起きていることを把握できず、戦いに敗れてしまうと常日頃言っていたのが、戦死されたグートハイル上級大将だ。そこで上級大将閣下は駆逐艦を前線用の旗艦として定めた。それが「前線旗艦」と呼ばれる駆逐艦だ。
要するに、指揮官が乗艦する駆逐艦というだけなのだが、この新編成の艦隊にも一隻だけ、前線旗艦を設けた。まさにこの間の作戦では、前線旗艦がないと成り立たなかったこともある。
でも本音を言えば、駆逐艦ではなくこの後方にいる戦艦から指揮できる体制が望ましいことには変わりない。
というのも、全長が五千メートルを超えるこの大型艦には、街があるからだ。小惑星を削り出して作られたこの大型艦の中央部には、四百メートル四方、高さ百五十メートルの空間があり、その中に四層からなる街が築かれている。
各層には五階建てのビルが碁盤目状に並び、その間を歩道が結ぶ。そのビルの一階部分は商業施設となっており、飲食や雑貨、服飾品を扱う。一番下の階層のみ、自動車用の道路があって、そこを自動運転タクシーがひっきりなしに走り回り、客を拾う。
駆逐艦とは大違いだ。居住性がまるで違う。指揮官によっては戦艦暮らしが常態化して、地上に降りてこないという者もいると聞く。
ここには、僕を見るたびにマウントをとってくるあのご令嬢もいないしなぁ。僕もここでずっと、平和に暮らそうかしらん。
ところで、この艦には軍民合わせて約二万の人々が暮らす。そこに、四十五基ある繋留ドックに補給のため駆逐艦が随時寄港しているが、その乗員が補給作業の間にこの街を訪れる。普段は狭い駆逐艦暮らしを強いられている、一隻辺り百人の乗員らは、ここで羽を伸ばしてもらいつつ日頃の狭い艦内での鬱憤を晴らしてもらう。
この艦は、艦歴二百年を超える老朽艦だ。それゆえにこの街にも、古い店が多い。ステーキハウスにラーメン屋、ファーストフード系の店には、この艦が進宙した時から続く店がいくつもあるという。
そんな店の一つであるハンバーガーショップに、僕は今、立ち寄っている。
表にあるくすんだ看板が、進宙以来続く老舗ぶりを伺わせる。しかし中は最近改装されたばかりのためか、新しいカウンター席が並ぶ。表の印象とは、大きく異なる。
ついつい栄養ゼリーに頼りがちな堕落した食生活を正すためにこの店に立ち寄ったのだが、目の前に並ぶコッテリとしたハンバーガーとフライドポテト、そしてアップルパイに清涼飲料水を見ると、さほど食生活が改まるとは思えない。選択を誤ったか?
「あれえ? 提督じゃないですかぁ」
と、そこで僕は脳天気な声で呼ばれる。振り向くと、ヴァルター中尉がいた。その女性士官は、僕の横にドンと座る。トレイには、ハンバーガー二つにドリンクが二本、そしてパンプキンパイが載っている。まさかとは思うが、これ全部食べるのか?
「なんだ、艦隊指揮官がファーストフードにいちゃいけないとでも?」
「そんなことはないですけど、提督はいつも簡素なものばかり食べているイメージですから、戦艦にいる間くらいはまともなものを食べた方がいいのではないかと思いますよぉ」
「そういう中尉だって、似たようなものを食べてるじゃないか」
「えっ? これは食事じゃないです。間食ですよ、間食。メインディッシュは、ヘルシーなお弁当を作っているのでぇ」
ヘルシーなお弁当って、あのいつものサンドイッチのことか。あれがヘルシー? しかも間食がこの量? 正直言って、僕の食生活をどうこう言えるレベルではないな。
「うーん、このお店のハンバーガー、老舗の味がしますぅ。やっぱりいいですね、老舗は」
などと意味不明な感想を口走るこの士官だが、食べているのはハンバーグが三枚重ねされたトリプルバーガーだ。しかも、それが二つ。そういえばヴァルター中尉は、ちょっと体つきがやや太めな印象だ。間食でこれだけ食っていれば、そりゃそうなるな。ついでに、胸も大きい。まさか今食べているハンバーガーはそこに収められているのか? と思えるくらいの大きさはある。
「んーっ、んまいでふーっ!」
しかしこの大雑把さのおかげで、かえって癒されるかもしれない。どこかの毒舌令嬢とは比べ物にならないほど穏やかな性格。どうせなら、これくらい平穏な婚約者だったら良かったのに。そう思えてならない。
「ところで提督、今度の作戦、どうなんですかぁ?」
「どうって、どういうことだ?」
「そのままですよぉ。勝算はあるんですかねぇ、と思っただけです」
「……戦う前から、負けると考えている指揮官はいないだろう。何とかなるよ、多分」
「そうですよねぇ。やっぱり勝つ気満々ですよねぇ。安心しましたぁ」
僕の言葉を聞くと、この楽天的過ぎる士官は二つ目のハンバーガーを頬張り始める。にしてもよく食うな。ペースが全く落ちていない。
「あーっ、美味しかったですぅ。それじゃあ提督、私、行きますねぇ」
「そういえば中尉、今から五時間後に第七会議室にて作戦会議を行うことになっているけど、覚えてるか?」
「ええ〜っ、そうでしたっけ? 友達と会う約束してましたぁ。連絡しなきゃ」
と言いながら、スマホを取り出して何やら呼び出している。ていうか、この短いうちにいつのまにか友人を作ってたのか。案外、社交的なようだ。あの性格なら当然か。
で、僕はさっきの女性士官の半分ほどの食事を終えると、一人立ち上がり店を出る。数人の士官と思しき人々が、僕の軍服を見て敬礼してくる。それに僕は、返礼で応える。
やれやれ、街に来る時ぐらいは軍服は脱ごうかな。こんなものを着てるから、親しい友人ができないんだ。僕はそう思いながら、くすんだ看板のその店を後にする。
「おう、久しぶり。元気にしてるか?」
艦内宿舎に向かおうと歩き出したところで、誰かが声をかけてくる。振り向くと、そこにいたのは私服姿の人物。だが僕はその男に見覚えがある。
「なんだ、ヨーナスか」
「なんだ、じゃねえよ。四年ぶりじゃねえか、フリッツ。あ、いや、今はアルトマイヤー少将閣下とお呼びしなきゃならないか」
などと言いつつ、私服姿でやる気のない敬礼をするこの男。軍大学時代の悪友で、ヨーナス・エーベルスという。人型重機のパイロットになっていたはずだが、どうしてここに?
「で、なぜヨーナスがここにいるんだ」
「俺が聞きてえよ。なんでも、敵の人型重機隊に対抗できる、強固な重機隊を編成したいってここの指揮官が言うから、重機隊隊長として配属されてきたんだよ」
「えっ、お前は今、隊長やってるのか?」
「栄養ゼリーに頼りすぎなお前が、艦隊指揮官をやってる方がはるかに不思議だよ」
聞けばこの男、今は大尉で、四十機の人型重機隊を指揮するという。
「ていうか、俺がここにきたこと、知らなかったのか」
「いや、分かるわけないだろう。駆逐艦乗員だけで十万、戦艦二隻には合計四万、合わせて十四万人もいるんだぞ。いちいち把握できるわけがない」
「つれないやつだな。軍大学時代には、散々一緒にやりたい放題してきた仲だっていうのに」
そうだ、こいつと連んだおかげで、軍大学時代は思い出したくもないほど、いろいろとやってきた。門限破りのヨーナス・フリッツと、当時は寮長から目をつけられてしまうほどだ。僕の黒歴史だな。
「今はもう無理だぞ、あんなこと。立場が立場だしな」
「俺もだよ。今や隊長なんだぜ、隊長。こう見えても、結構忙しいんだよ」
「で、その忙しい隊長殿が、なぜこんなところに?」
「二十四時間、仕事してるわけないだろう。それに、ここの指揮官がなかなか俺ら重機隊の活躍の場を作ってくれなくてよ。憂さ晴らしに街をうろついてたんだ」
なんだ、再会早々、皮肉か。しかしまあ、事実だしな。
「今回の相手は、噂の強襲艦隊ではないからな。重機隊の出番はない。が、いずれ出撃の場面があるはずだ。その時までに……」
「そんなことよりも、さっきお前の横にいた女性士官、あれが噂の婚約者か?」
あれ、なんだこいつ、そんなことまで知ってるのか。
「いや、あの士官は司令部付きの者だ。婚約者ではない」
「そうだよなぁ。えらい美人の貴族令嬢って聞いてたから、なんか違うと思ってたけどよ」
「美人の貴族令嬢というのは本当だが、正直、羨むほどの婚約者じゃないぞ」
「そうなのか?」
「そうだ」
「美人の貴族令嬢の、どこに不満要素があると?」
「貴族の賎民差別というものを目の当たりにすれば、そんなことを言っていられないぞ」
「賎民差別って、なんだお前、婚約者から差別でも受けてるのか?」
「貴族ではないからな、僕は」
「ああ、そういうことか。で、そのお嬢様からは何を言われてるんだ?」
「平民風情が私と直に話をするなど、身分不相応も甚だしい、とか、そのレベルの毒舌を、取り巻きの令嬢たちの前で平然と口にするんだ」
「うげぇ、そんなにキツいのかよ。てっきりお前は指揮官の身分を悪用して、まだ未開の帝国で好き放題しているのかと思ってたぜ」
なんてこと言い出すんだ、こいつは。そんなことが許されるわけがないだろう。
「ヨーナス、いやエーベルス大尉、まさかお前、あの星に降り立ったらろくでもないことをしようと企んでいるんじゃあるまいな?」
「何を言ってるんだ、それじゃまるで俺が、ろくでもないことをしかねない人物みてえじゃねえか」
「実際にそうだから聞いている」
「その前に俺はまだ、あの星に降りちゃいないんだ。この船に乗せられてかれこれ一週間、この不毛の小惑星帯で待機させられてるんだぜ? それで何ができると?」
うーん、その待機命令、もう少し延長しておこうかな。とんでもないやつを野に放つことになりかねない。僕はそう懸念する。
で、その後、僕はこの腐れ縁の男とアドレスのやり取りをしてしまう。それにしても、あんな男に頼らざるを得ないとか、地球一〇七も案外、人材がいないのだな。軍人なんて職業になりたがる有能な人材など、いないということか。
「そんじゃ、俺はこれから用事があるからよ。また会おうぜ。そんじゃ、ご武運を」
で、散々近況を語り合った後に、ヨーナスは街の向こう側の区画にある演習場の方へと向かっていった。驚いたことに、あの男にはまだ奥さんがいないらしい。長いこと防衛艦隊所属で過ごしながらも、訓練の毎日でそれどころではなかったようだ。意外にまっとうな暮らしをしていたんだな、あいつは。
そんな旧友、いや悪友との再会を果たしつつも、僕は会議室へと向かう。
最終決戦に、備えるために。