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#52 報復

「レーダーに感! 艦影多数、およそ一千隻!」

「艦色識別、灰白色! 連合艦隊です!」

 我が強襲艦隊は今、地球(アース)三一五星系、第七惑星軌道上にて待機してる。そして、待ち望んだ相手が出現したことを知らせる報告がたった今、入ったところだ。

「連合艦隊より入電! 『魔王の名は?』、以上です!」

 例の質問か。私は通信士に命じる。

「『アザトース』と返信せよ」

「はっ!」

 我々は、確かに連合側に鞍替えした。が、我々の艦艇の中身は未だ連盟の仕様のままだ。色は連盟側の艦艇であることを示す赤褐色だし、通信規格も全て連盟仕様。このため、向こうから見れば我々は地球(アース)三一五なのかそれ以外の連盟軍なのかは見分けられない。だからこそ、あの「符丁」が必要となる。

「連合艦隊より入電! 『受け入れ準備完了、いつでも発進されたし』、以上です!」

「そうか、では人型重機隊、全機発進だ」

「はっ! 人型重機隊、全機発進します!」

 強襲艦隊の、ハッチが開く。中から次々と重機が射出される。発進した重機隊は、真っ直ぐあの艦隊を目指す。

 といっても、今回の発進目的は攻撃ではなく、荷物の受領だ。あるものを受け取るために、重機隊は向かう。それは、連合規格の識別機だ。全部で二万個、あの機動艦隊は、わざわざそれを渡すためにここへ現れた。

 その役目を、わざわざこの強襲艦隊が引き受けたのにはわけがある。五百隻もの強襲艦を集めた艦隊など、連盟内では地球(アース)三一五にしかない。だから我々が行けば、向こうはすぐに地球(アース)三一五の艦隊であると認識してくれるはずだ、と私は総司令部で主張した。そこで今回のこの役目を、我々が引き受けることとなる。

 で、向こうは向こうで、おそらくアルトマイヤー少将が我々、地球(アース)三一五側と接触していたことを知ったのだろう。その実績をかわれて、おそらくあの艦隊を送り込んできた。

 お互いに、見れば分かり合えるほど散々やり合った仲だから、今さらあの符丁は不要だったとは思うが、再会の挨拶のようなものだ。それにしても、前回の対面からまだ一週間ほどしか経っていないが、このわずか一週間であまりにも大きく環境が変化した。そのせいか、まるで数か月ぶりの再会のように感じられてしまう。

「スクリャロフ提督、アルトマイヤー少将より通信、戦艦ハンブルグに入港されたし、以上です」

「戦艦ハンブルグ?」

「おそらく、あの機動艦隊後方約一万キロの地点にいる大型艦のことではないかと思われます」

 今や同盟関係となったわけだが、それでも灰白色の大型艦に横付けすることにまだ抵抗があるな。だが、その要請に答えないわけにはいかない。

「承知した。これより向かうと返信せよ」

「はっ!」

 前回は駆逐艦内だったが、今度は戦艦か。前回よりはゆとりのある場所だが、あの艦隊の懐深く飛び込むことになるかと思うと、少々落ち着かない。

 が、呼ばれてしまった以上、行くしかあるまいな。私は旗艦〇〇一番艦を動かし、指定された大型艦へと向かった。

「ようこそ、戦艦ハンブルグへ」

 到着早々、私はアルトマイヤー少将からの直接の出迎えを受ける。心なしか、一週間前よりもやつれたような気がするが……それ以上に気になるのは、その後ろにいる人物だ。

 近世の貴族風ドレス姿の令嬢が四人、その頭上には黒い悪魔。そのご令嬢らは我々に深々と頭を下げ、黒い悪魔は何が可笑しいのか、我々を見下ろしながら笑みを浮かべている。

 相変わらず、異様な集団だ。どこか現実離れをしている、まるで幻影世界(ファンタジー)から飛び出したような連中だな。

「では、こちらへ」

 さて、我々はとある士官に案内されて、この大型艦の艦橋にある大きな会議室へと導かれる。中に入ると、軍服姿の人物がずらり……ではなく、たったの二人しかいない。

 気難しそうな参謀と、呑気な顔の女性士官が立ち上がり、敬礼する。私と、同行するエカチェリーナとドルジエフ大佐が返礼で応える。

 こんな広い部屋に、我々二人と、向こうの司令部と思われる三人、令嬢が四人、悪魔が一人。どう考えても、おかしいだろここは。

 私は今まで、こんな連中と戦っていたのか。勝てなくて当然だな。非常識すぎる。

「ええと、それじゃあ今後のことについての話に入ります。まず、我々からの伝達事項ですが……」

 アルトマイヤー少将が、我々をここに招いた件について話し始める。

 先に受領した識別装置を稼働させるためのキーコードや、当面の間、双方で用いる通信プロトコル、そして戦闘時における連携方法などが伝えられる。それについて、ドルジエフ大佐からはいくつかの質問が投げかけられた。

 そんなやり取りの間も、あの令嬢らと魔王はずっと居座っている。しかしなんだ、軍務と無関係な者が同席してもよいのかと思う以前に、彼らは退屈ではないのか?

「旦那様!」

 そんな事態についにしびれを切らしたのか、赤いドレスのあの少将の妻である令嬢が声を上げる。

「どうしたの、カタリーナ?」

「戦の話ばかりでは、先方様も退屈でありましょう。ここらで一息つかれてはいかがかと」

「いや、単にカタリーナが退屈なだけじゃ……だから、わざわざ同席しなくてもいいって言ったんだよ」

「そうは参りません。グラーツェン帝国貴族の代表として、この重要な場に旦那様が立たれている以上、妻である(わたくし)がどうして呑気に街で食事など楽しんでいられましょうか?」

 なぜか妙に責任感の方向がずれたご令嬢だな。にしても、軍務に首を突っ込むことが、妻の役目? しかも取り巻きを三人も引き連れて参加とは、それにどういう意味があるのかと問いたい。

「だけど一息つくって、何をするつもり?」

「それについては、すでにご用意しております。ヴァルター!」

「はいはーい、ただいま。ちょっとお待ちくださぁい」

 カタリーナというお嬢様は、なぜか司令部側の一人である女性士官に合図する。それに応えて、手元のスマホを操作する女性士官。

 何が起きるのか。すぐにこの部屋の前後の扉が開き、人がぞろぞろと入ってくる。何事かと見れば、それはまさに執事とメイドの集団だった。彼らはトレイの上に載せた何かを、我々のところに運び込む。

 目の前に、それが置かれる。見ればそれは、ハンバーガーとポテト、そしてドリンクだ。私とエカチェリーナ、ドルジエフ大佐、そしてあちら側の出席者全員に、その不可解な差し入れが置かれる。

「あの、これは……」

「お客様のもてなしと言えば、それは無論、極上のお食事と決まっております」

 などと堂々と宣言するご令嬢だが、目の前のそれはどう見てもハンバーガーだ。極上と呼ぶには、あまりにもかけ離れたものだ。まさか彼女の基準では、これが極上だというのか?

「ふっふっふっ……もしやこのハンバーガーをみて、これのどこが極上な料理だなどと思われたのではありませんかぁ?」

 と、そんな私の脳裏を読んだのか、あの女性士官が不敵な笑いを浮かべつつそう述べる。

「この艦暦二百年の艦内の中の街にあって、その進宙当初から続く老舗の一つから取り寄せたる、見た目を裏切るその極上の一品の味、ぜひ堪能なさって下さい」

「えっ、二百年の老舗のファーストフードですって!?」

 この女性士官の妙に重みのある紹介に、驚くエカチェリーナ。彼女は早速そのハンバーガーを一口、食らいつく。

「ん~っ! 何なのこの肉のうまみは!」

「どうですかぁ、この艦の老舗の味とやらは?」

 なんとなく、嫌な士官だな。たかがハンバーガー一つで妙にマウントをとってくる。といいつつも、出された以上、頂かないわけにはいかない。私はそれを一口、食べる。

 なんだ、この味は? 未だかつて、ハンバーガーにこれほどの食感と味、そして香りを感じたことなどない。柔らかく濃厚なハンバーグ肉に、香り豊かで深い味のチーズ、そしてその脂っこさを打ち消す野菜、それらを挟む、柔らかくも歯ごたえのあるパン。

 ポテトも、異次元だ。単なるフライドポテトではないな、明らかに香辛料が入っている。そして飲み物も、普通ではない。かなりの高級茶葉を用いた茶であることは、素人の私ですら容易に想像がつく。

「場所が場所だけに、このような簡素な食事しかご用意できませんでしたこと、お許しください。ですがこの後は、見た目も豪華なるディナーをご用意いたしますので、それまでのつなぎと心得ていただきたいですわ」

 と話すのはあの赤いドレスの貴族令嬢だ。これが簡素な食事と言い切るとは、なかなか挑発的な物言いだな。しかし、先ほどからもっと気になることがある。

 その貴族令嬢だが、さっきから何皿食べているんだ? 私がようやく一つ目を食べ終えようというのに、あの令嬢はすでに四皿目を平らげようとしている。いくら何でも食べ過ぎではないか。

 しかし、周りの者はその様子を気にも留めない。つまりあれは、日常茶飯事ということか。そして五皿目が運び込まれ、それに手を付けるご令嬢。

「うーん、美味しいけど、ちょっと今の僕にはくどいなぁ。ここ数日は、こればかりだったからねぇ」

 アルトマイヤー少将が、何やらぶつぶつと言い出して、ポケットから何かを取り出す。それは、栄養ゼリーだ。その蓋を開けて中身を吸い始める少将。

「旦那様、いけませんわ! そのように粗末な食事をなさるなんて!」

「いやあ、カタリーナ。今の僕にはこれくらいがちょうどいいんだけど……」

「このところ、旦那様はろくなものを召し上がっていらっしゃらないのですよ。それでは、身体を壊してしまいますわ」

 と、その少将を説教するご令嬢。そういえば彼は、栄養ゼリーの提督とか言われていたんだよな。初めて見るな、それを手にする光景を。

「おうおう、実に醜い姿じゃのう。たかが食事に、上も下もなかろうに。にしてもこのポテトは美味いではないか。まさに悪魔的美味じゃな」

 などと、この魔王も意味不明なマウントをとりながら、ぼりぼりとポテトを頬張りつつ不気味な笑みを浮かべている。この魔王も少し、我々とはどこか感性がずれている気がする。

 そんな変な光景の食事会……ではなく会議で、我々はいくつかの軍事上の事柄を引き継ぐ。すなわちこの後、確実に起こるであろう連盟側の報復行動への備えである。

 そんな激動の時代の訪れを前にしながら、我々はその晩も食事に付き合わされる。この艦の老舗の一つとやらに連れていかれる。

 そこで私は、再び料理の味に驚愕する。と同時に、あの令嬢の異常なまでの食欲と底なしの胃袋の力を知ることとなる。


◇◇◇


「哨戒艦より定時連絡。未だ艦影を認めず、以上です」

 すでに僕らの艦隊は、地球(アース)三一五を通り過ぎて、その向こうにあるワームホール帯の手前まで進出している。

 我が第二遠征艦隊が先行し、続いて地球(アース)三一五、そして我が地球(アース)一〇七の艦隊主力が到着することになっている。

 なお、強襲艦隊もこの宙域にいる。が、隠密行動のため、こちらからは察知できない。それを察知するための固有振動数がまだ知らされていないから、我々はあの強襲艦隊を捕捉することができない。

 まあ、今回は敵じゃないから、それほど神経質になる必要はないのだが、味方とはいえ、その位置が分からないというのはあまり気持ちの良いものではないな。

「本当に、敵は現れるのでありますか?」

 すでにこの宙域に到着して三日。あまりにも静かすぎる漆黒の闇を前に、手持ち無沙汰な伯爵令嬢が姿を現す。

「なんだ、部屋で待っていてくれればよかったのに」

「嫌ですわ、することがなくて退屈ですもの」

「だったら、食堂にでも……」

「あまり食べすぎては、(わたくし)の身体の形に悪さをいたしますわ」

 なんだ、カタリーナでも食べ過ぎは気にするんだ。って、すでに普段が食べすぎな気がするけど、どの辺りまでは大丈夫だと認識しているのか、逆に聞いてみたい気がする。

「おう、なんじゃ、まだ敵は来ないのか?」

 そこに、魔王までやってきた。悪いがお前の出番はもうないだろう。さすがに今度現れる敵とは接点はないはずだから、例の憑依の能力は役に立たない。以前のようにエカチェリーナ少尉に憑依することで、強襲艦隊へこちらのメッセージを伝達するという役目は可能ではあるが、そんなことしなくったって、今はあちらと無線で連絡が取り合える。今となっては、この魔王は役に立たない。

「なんじゃ、役立たずはここにおってはならぬと言いたいのか?」

 そんな僕の心を読み、文句を垂れる魔王。

「そうは言わないが、邪魔をされるなら話は別だ」

「なんじゃ、世知辛いのう」

「だいたい、どうしてここにいる必要があるんだ。魔王が戦いを見物したって、ただビームの応酬を眺めるしかないんだぞ」

「そんなことはない。そのビームとやらの光の先に、奪われる命があるんじゃろ。その命の灯火が消える瞬間を感じるのが、(わらわ)は最高に心地よいのじゃよ」

 やっぱりこいつ、悪魔だな。碌なことを口にしない。連れてくるんじゃなかったな。

「まさか、その自身の快楽のために、今度は味方をたぶらかして死に追いやろうなどとは考えてはいないだろうな?」

「そんなことはせんよ。ほっといても、そなたらは妾より先に死ぬ。せいぜいその寿命を全うし、そなたが乾涸びて死んでいく様を、とくと見届けてやろうぞ」

 ますます嫌なことを言い出す魔王だ。それはそれで不快だな。なんとしても、こいつが先に死んでくれるように祈るしかない。

 まあ、今はそんなことを考えている場合ではないな。確実に現れるはずの敵を、ここで食い止めなければならない。

 と構えて過ごした三日間は、何事もなく暮れていった。今日もまた、何事もなく終わるのかな。と、そう思った矢先だ。

 通信士が突然、叫ぶ。

「哨戒艦より恒星間通信! 敵艦隊、見ゆ! 艦影多数、およそ二万二千隻! 地球(アース)三一五方面へ進行中! 当宙域に到達まで、五時間後と推定!」

 いきなり入ってきた通信に、艦橋内はざわめく。あと五時間とは、思ったよりも近いな。僕はすぐに指示を出す。

「直ちに味方艦隊に連絡。敵艦隊発見、急ぎ会敵予定宙域に急行されたし、だ」

「はっ!」

「それから、強襲艦隊にも連絡。我が艦隊前方十万キロ地点にて待機せよ、と」

 いよいよ、連盟軍が現れる。と同時に、強襲艦隊との初めての共闘となる。

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