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#5 出発

「出港準備完了! 機関始動しました!」

「両舷微速、上昇! 駆逐艦〇〇〇一号艦、発進!」

「船体ロック解除、〇〇〇一号艦、発進!」

 第二艦隊、前線旗艦である〇〇〇一号艦のバルリング艦長が号令を発する。航海長の復唱と共に、船体が浮き始める。

 地球(アース)一〇七を守備する防衛艦隊より一千隻を引き抜き、新たに第二遠征艦隊が編成された。この艦も、つい三日ほど前にここに着いたばかり。なのに、たった三日間で出撃を命令され、乗員らはなじみのないこの地球(アース)一〇四五を離れようとしている。

小惑星帯(アステロイドベルト)軌道上にて全艦集結した後、直ちに第二一〇五中性子星域へと向かいます。該当宙域への到着は、およそ二十五時間後の予定です」

「了解した。では二十三時間後には作戦を伝達する」

「はっ!」

 ヒンメル少佐……じゃない、彼も昇進して中佐だったな。この艦隊の事実上の参謀長であるヒンメル中佐が、次の作戦場までの行程を説明する。

「作戦案の最終検討を行う。ヒンメル中佐、第二会議室へ司令部全員を集合させよ」

「はっ!」

 僕はそう命じると、軍帽を被り直して席を立ち、艦橋を出る。

 艦橋出口から通路沿いを歩き、緩やかな下り坂を抜けた先に、ドアがいくつか並ぶ場所に出る。会議室の並ぶこのエリアの、手前から二つ目のドアを開けて中に入る。

「あ……」

 と、そこには女性士官が一人、弁当を広げていた。僕の姿を見るなり、そそくさと弁当を隠す。

「ヴァルター中尉、ここで何を?」

「ええとですねぇ、この艦に転属になったばかりなので、一緒にご飯を食べる人がいなくてぇ……」

 ヴァルター中尉は、数少ない司令部の一員だ。元々は防衛艦隊所属だが、地上勤務がほとんどだったという。それがいきなり、この近世文化が色濃く残る星に飛ばされて、しかも三日とたたずに前線に駆り出された。友達がいないのは当然だ、気の毒としか言いようがない。

「この部屋はこれから司令部の案件を話し合う。続きをして構わない」

「はっ! ありがとうございます、提督! でわでわ……」

 といいつつ、ヴァルター中尉は一度閉じた弁当箱を広げる。中には、サンドイッチがずらりと並ぶ。

 それを見ていたら、僕も何か腹に入れた方がいいなと思い始めた。そういえば昨日から、あまり食べていないなぁ。そう思った僕も、ポケットから栄養ゼリーを取り出し、それをチューッと口にし始める。

「あの……ここは食堂でしたか?」

 そこに、ヒンメル中佐が現れた。いきなり食事をする二人を前に、戸惑う中佐。うん、こうなったら中佐もここで何か食べることをお勧めしたい。

 ということで、お食事会……じゃない、作戦会議が始まった。なお、司令部全員といっても、我が司令部は今のところ、この三人。つまり、これで全員だ。

 司令官が僕で、事実上の我が艦隊の参謀長となる、作戦参謀のヒンメル中佐、そして兵站を担当するヴァルター中尉だ。

 で、ヒンメル中佐が、作戦宙域の説明を始める。

「我々、連合側支配域と、連盟側支配域とを隔てるこのワームホール帯周辺には、およそ三千の浮遊砲台が点在しております。これをすべて破壊することが、今回の作戦任務であります」

「それは承知している。が、ふと思ったのだが、高々三千程度の砲台なら一個艦隊でどうにかできなかったのか?」

「それがですね、どうにもできなかったんです」

「どういうことだ、たったの三千基の無人兵器が相手だろう?」

「それが、砲台自体は分散配置しており、どこにあるのか分からない状態なんです。そこに一個艦隊が突入すると、どこからともなく狙い撃ちを食らい、被害が増える一方なのです」

 それが浮遊砲台の恐ろしさだという。分散配置されているうえに、小型で探知しにくい上に電波吸収物質で覆われているようで、攻撃を仕掛る直前まで見えない。まるで地雷のようなもので、損害を受けつつもじわじわと攻めるしかない。だが、足止めを食らいながらの前進であるため、いずれ敵の艦隊が到着し、撤退する羽目になる……

「つまり、その浮遊砲台に足止めされてる間に、敵の主力が到着する、と」

「はい、過去の戦いではそうです。で、次の戦闘までにはせっかく破壊した浮遊砲台も修復されるため、結局元の木阿弥で、それゆえに攻めあぐねているというのが実態です」

 この浮遊砲台というものだが、実態は駆逐艦の主砲部分と簡易な探知機器、姿勢制御装置を搭載しただけの簡易な代物で、全長も百五十メートルほどと、駆逐艦の半分以下のサイズだ。これが三千基もばらまかれている。まるでブービートラップだな。

「そんな厄介なトラップの処分を、たった一千隻でやれと?」

「はっ、そういうことになります」

 簡単に言ってくれるものだな。引き受けてしまった僕にも問題があるだろうが、それを押し付けたディーステル大将にも悪意を感じる。

「そういえば、我が艦隊には二隻の戦艦が配備される予定だったな」

「そうですね。現在、小惑星帯(アステロイドベルト)に展開中です」

「その二隻のスペックを教えてもらえるか?」

「はっ、ではまず旗艦である戦艦ハンブルグですが……」

 ヒンメル中佐が、我が艦隊に配属された戦艦二隻の紹介をする。艦名は、旗艦がハンブルグ、もう一隻がゼイラギン。いずれも全長五千メートル級の大型艦で、収容艦艇数は共に四十五隻づつ。

 戦艦といっても、その役目は要するに移動式の補給基地だ。駆逐艦による砲撃戦が主流の時代に、この大きさはかえって足手まといと言わざるを得ない。

 しかも防衛艦隊にあった老朽艦を回されたため、いずれも船歴二百年を超える。昔の思想で作られた艦であるため、どちらも今どき珍しい百メートル口径の超大型砲を二門、搭載している。

「大口径砲の特徴としては射程がわずかに長くて三十一万キロ、かつ広範囲の対象を一気に殲滅できる、というものがあります」

「とはいえ、今回の三千基の浮遊砲台の攻撃に対して、その特徴は使い物になるのか?」

「ダメですね。そもそもどこにあるかが分からない上に、大口径砲の射程範囲以上に分布しているため、この二隻の砲だけで浮遊砲台を壊滅させることは不可能と考えます」

「そうか……」

 うーん、やっぱりうまくいかないものだなぁ。結局は、一千隻の砲でちょっとづつ叩くしかないか。だがそれでは、今まで通りのやり方だ。

「厄介ですねぇ、いっそのこと、一箇所に集められないんですかねぇ」

 と、これまでサンドイッチ片手に聞いていただけのヴァルター中尉が、突然口を開く。

「いや、集めたらトラップとしての意味がなくなるだろう。当然、分散する方が有利な以上、集合させるわけがない」

「そうなのですかねぇ、兵站を担う側としては、集めてくれた方が何かと都合がいいですけどねぇ。バラバラだと、メンテナンスが大変ではないですかぁ?」

「メンテナンスのことだけ考えて、兵器を配置するわけがないだろう」

 サンドイッチを頬張りながら呑気に話すヴァルター中尉に、苦々しく応えるヒンメル中佐。その会話を聞きながら、ふと僕の頭の中にある考えが浮かんだ。

「そうか……ばらばらで攻撃しづらいのなら、集めればいいのではないか!?」

 そう呟く僕を、ヒンメル中佐が怪訝な表情で見つめてくる。


◇◇◇


「えっ、強襲艦隊の再編が遅れるんですか!?」

 私は突如、パザロフ大将からそう告げられる。

「そうだな、あと二週間ほど、休暇を伸ばさざるを得ないな」

「あの……理由をお聞かせ願えますか?」

「強襲艦自体は、すでに補充可能との回答をもらっている。が、問題は人型重機のパイロットだ」

「やはり、パイロットが確保できないと?」

「率直に言えば、貴官の要求が高過ぎるんだ」

 いきなり総司令官から、憮然と現実をつい詰められてしまった。そうなのか、私の要求はそれほど高いのか?

「たった十メートルほどのロボット兵器で、三百メートルもある駆逐艦を強襲するという性格上、かなりの技量を要求されることは確かではある。しかしだ、ベテランばかりを求められてもなぁ……」

 パザロフ大将のこの一言は、人材確保の難しさを浮き彫りにさせてくれる。やはりここは、妥協せざるを得ないのか?

「承知しました。では、基準を考えなおします」

「うむ、すまないな。強襲艦隊ばかりを優遇するわけにもいかぬゆえ、頼んだ」

 私は敬礼し、司令官室を出る。なかなか自身の部隊の再編が進まず、焦りを感じ始めた。考えてみれば、再編するのは五分の一、五百隻中の百隻分だ。ならば多少は練度の低い人材でもやむを得ないか。

 我が地球(アース)三一五は、それほど大きな星ではない。人口は二十億人足らずであり、平均よりは多い星ではあるものの、決して潤沢とは言えない人口規模だ。その人口の中で、軍と民間で人材の取り合いをしている。こと軍事は生命の保証がなさ過ぎるため、敬遠される傾向が強い。その分、給与を引き上げて確保するしかないが、それでも人材確保に苦労しているという。

 強襲艦隊だからといって、給料が上がるわけではない。それどころか、死亡率が高い危険部隊だ。それは前回の戦いが如実に示してしまった。ゆえにますます人の確保が難しくなっている。

 敵にも人員補充の悩みはあるのだろうか? ただでさえ、我々の連盟側よりも、連合の方に所属する星の数が多い。しかも、あちらの方が技術レベルも高い。数も技も不利な中、我々はどうこの劣勢を覆すのか? 長年の課題でもある。


◇◇◇


「ワームホール帯、探知! 距離五十万キロ!」

 ついに、作戦宙域に到着した。目前には、例のワームホール帯がある。

 が、事前情報通り、浮遊砲台らしきものは見当たらない。高いステルス性を使って、その姿を秘匿していることは分かっている。ここはまさしく、地雷原のような場所だ。

「司令官のアルトマイヤーだ。全艦に告ぐ、これより予め展開した作戦を決行する。カウントダウン、開始!」

「はっ! 作戦開始、十秒前、九、八、七……」

 ヒンメル中佐が、カウントダウンを始める。作戦宙域には、ずらりと並んだ一千隻の駆逐艦。

 その一千隻の艦隊が、初めての作戦に臨む。

「三、二、一、今! 作戦開始!」

「両舷前進いっぱい! 全速前進!」

 その一千隻は、号令と同時に一斉に加速を開始した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なるほど、バラバラなら集めればいいと。 …それが出来れば苦労しねーよー!(笑) 実際、どうするのだろう… [気になる点] 練度が基準値以下なら再訓練すればいいのさ!(脳筋思考)
[一言] 主人公がどちらも少将なので、時々連合側か、同盟側か判らなくなります。
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