#45 脱出
「はぁ、敵の宙域奥深くまで、ですか」
「そうだ」
僕は今、ディーステル大将に呼び出されて司令官室にいる。そこで僕は、ある命令を受ける。
「ということで、早速出撃準備に取り掛かってほしい」
「はっ! これより第二遠征艦隊は、地球三一五宙域への強行偵察任務に向けて、出撃準備に入ります!」
近頃、敵の動きが鈍い。あまりにも静かすぎる。ということで、こちらから向こうの宙域に乗り込んでちょっかいを出そうということになった。
前回の要塞戦では、かなりの犠牲を出しているはずだ。とても遠征などに出る余裕はないことは容易に想像がつく。が、あまり姿を現さないのも気味が悪い。だからその様子を探るというのがこの任務の目的なのだが、これってつまり、静かになったスズメバチの巣を突いてみろといってるのと同じくらい危ないことではないのか? しかもどうしてそういう危険な任務に、うちの艦隊を指名するかなぁ。
でも、軍人である以上は拒否できない。行けと言われれば行く。まあ、敵の艦隊と遭遇したらすぐに引き返せばいい。敵情偵察さえできれば、それで十分なのだから。
そんな軽い気持ちで僕は、出撃準備に取り掛かる。すぐに新婚真っ盛りのヒンメル中佐を呼び出して、その新婚生活をぶち壊しにかかる。もちろん、好きでやってるわけではない。命令だから仕方がない。
「なんと、敵地に乗り込むというのですか!」
興奮気味に答えるのは、エンペラータワーで一番分厚いステーキを提供する店で、肉厚マシマシの特上肉を食べるカタリーナだ。すでに二枚目に突入している。
「そうだ。だから次の任務ではカタリーナは……」
「無論、帝国貴族の一人として、そして皇帝陛下の代理人として、私はこの国で初の連盟という蛮族の地に足を踏み入れるというのですわね! 帰り道にアンドラーシ家に寄り、すぐにでもお父様にご報告せねば!」
ダメだ。もうカタリーナが行く前提で話が進んでいる。すっかりあの艦に馴染んでしまった。あまりいい傾向ではないな。なんとかして乗せない方向で進めないといけない。
◇◇◇
夜中に、玄関の呼びベルが鳴る。その音で私とエカチェリーナは目を覚ます。
「ちょっと、何よ。まだ午前一時じゃない」
はた迷惑なやつがいたものだ。私はモニターを確認する。が、そこに映っていたのはカナーエフ准将だ。
何事だ、こんな夜中に……私は憮然としながら、ドアホンに出る。
「スクリャロフ少将だ」
『少将閣下、緊急事態だ。直ちに艦隊を、発進させてほしい』
この准将の突然の言葉に、私にも緊張が走る。
「何が起きた!?」
『話はあとだ。今は、急いで軍港に向かいます』
それを聞いた私とエカチェリーナは、すぐに着替えて飛び出す。
夜中の一時だ、まだ肌寒い。布団のぬくもりが忘れられず震える身体を、やってきたタクシーに委ねる。
「で、何が起きている?」
「グザロフ准将が、捕まったのです」
「捕まったって、どこにだ」
「軍司令部に、ですよ。クーデター工作の疑いありと、プラートフ中将の命令で逮捕、拘禁された模様です」
グザロフ准将は、連盟離脱派として行動する将官の一人だ。兵站が担当で、その関係で交易業者とのつながりが深い。
そのグザロフ准将が捕まったということは、我々のこれまでの行動記録が筒抜けになる、ということでもあるのだ。
「ともかく、何らかの理由をつけて艦隊を出撃させ、一旦宇宙に出ます。そこで交易業者との接触を続けることになるかと思います」
「いや待て、艦隊司令部の命令なく強襲艦隊を出撃させることは、それ自体が軍規違反ということになる」
「いえ、連盟軍規の第八十二条には、緊急時の場合、例えば敵の艦隊侵入の恐れある場合は艦隊司令独自の判断で発進させることは可能とされています。その規約を盾に動かせば、問題はありません」
などとこの准将は気軽に言うが、これは明確に軍規に反する行為には変わりない。法の拡大解釈を一介の准将が唱えたところで、何の言い訳にもならない。
が、差し迫った状況を考えると、迷ってもいられないな。准将麾下の艦隊は、今は総司令官代理であるヴィボルノフ中将の麾下にあって、勝手に発進することはできない。が、強襲艦隊のみは私の直接指揮下にある独立した艦隊であり、この規約に則り発進することは可能ではある。
だからこそパザロフ大将はカナーエフ准将に、私を頼るよう進言したのかもしれない。独立した艦隊として私にその指揮権を一任してくれたのは、まさにパザロフ大将ご自身だからだ。
そんなパザロフ大将の遺産を、こんなところで使うことになろうとは思わなかったな。などと考えている間に、チェザレスクの軍港に到着する。
すでに私はドルジエフ大佐を通じて、五百隻の艦隊に発進命令を出していた。旗艦である〇〇一番艦は、私の到着時にはすでに発進体制に入っていた。何と頼もしい乗員たちだ。
「閣下! すでに我が艦は発進準備整いました!」
「そうか。ではこれより発進する。各艦も発進準備整い次第、発艦せよと伝えよ」
「はっ!」
「両舷、微速上昇! 強襲艦〇〇一番艦、発進!」
強襲艦隊旗艦はドックを離れ、発進する。同時に十隻ほどが並行してこれに追従する。徐々に高度を上げる強襲艦の一団。
私はチラッと地上を見る。まだ夜明け前だというのに、チェザレスクの街にはあちこちに灯りが点っており、煌びやかな夜景を見せる。もしかすると、私はこの光景をもう二度と見ることができないかもしれないな。そんなことを考えながら、艦橋の窓際に立つ。
「ところで、スクリャロフ提督」
と、そこにドルジエフ大佐が私のところへくる。
「なんだ?」
「はっ、提督にお尋ねします。今回の発進は、どのような作戦任務のためでしょうか?」
緊急発進のため、その目的を伝達していない。が、いずれはその目的を全艦に伝えなくてはならない。大佐はそれを伝える役割を担っており、当然、それを知りたがっている。
しかも今、我が艦には私の他にカナーエフ准将、チュラノフ少将、そしてアレクサシェンコ中将まで乗り込んでいる。カナーエフ准将に至っては小隊指揮官だというのに、我が強襲艦隊に乗り込んでいるからますます不自然だ。
「全艦集結し次第、伝達する。とりあえず、第四惑星ソラリスの軌道上へ集結するよう、全艦に伝えよ」
「はっ、了解しました!」
なんだか、大佐を欺いているような、そんな気分だ。これが軍務ではなく、政治的活動の一環であると知ったらどう思うだろうか? いずれどこかでそれを、明かさねばならないだろうな。それにしても、今は極秘ということにして進むより他ない。心が痛む。
ともかく今は艦隊を集結させよう。一度、地球三一五星域を出て、八光年離れた暗黒星雲ウーゴリ星域へ向かい、そこで大型商船と接触し説得活動を続ける、そういう手筈になっているとカナーエフ准将は言っていた。が、その話、本当に信用できるのか?
「まもなく、規定高度に到達。大気圏離脱シーケンスに入ります」
「了解。僚艦にも連絡、同時に離脱を開始せよ」
「はっ!」
艦長が大気圏離脱を指示する段階に入った。まもなく、この星を離れる。
窓からは、うっすらと青く輝く弧状の地平線が見える。夜明けが近づいてきている。ここは宇宙の入り口、あの光の線の上は、昼間でも真っ暗な宇宙だ。
別によく見る光景だが、なぜか今回だけは特別だ。あの光の線の下の未来を変えるために、我々は今ここを離れる。宇宙との境界線は明瞭だが、我々の先にある未来はあまりに不明瞭だ。そんなギャップを、この光景に感じていたのかもしれない。
ついさっきまであの星にいたのに、もう郷愁な感情に襲われている。が、そんな感情を一気にかき消すような通信が、旗艦に飛び込んでくる。
「総司令部より入電!」
この言葉に、私を含む将官四人の顔に、一気に緊張が走る。
「読み上げよ」
「はっ! 強襲艦隊、全艦に告ぐ。発進を中止し直ちに帰還せよ、以上です!」
しまった。総司令部直々の命令だ。このタイミングで来るとは、本当に運がない。我々の行動も、ここまでか。
しかし艦長が通信士に向かってこう指示する。
「現在、大気圏離脱シーケンス中だ。命令実行は不可能、一旦宇宙空間に出て対応する、と返信せよ」
「はっ!」
「両舷前進いっぱい、大気圏離脱を開始する!」
「両舷前進いっぱーい!」
総司令部の命令を、艦長は大気圏離脱シーケンスにあることを理由にかわした。いや、今ならまだ命令実行は可能だったのではないか? などと思うが、ともかくこの艦長の機転によって救われる。
やがてこの艦は宇宙に出る。それから三十分後には第四惑星ソラリスの軌道上に達し、我が艦隊五百隻が集結する。
「全艦、集結いたしました!」
「そうか」
ドルジエフ大佐が、私に報告する。そこで私はいよいよ、覚悟を決める時が来たと、そう自身に言い聞かせながら一呼吸する。
「全艦に、直接通信をつないでくれ。それから、マイクを」
「はっ!」
私のこの指示に、ドルジエフ大佐はマイクを手渡してくれる。通信士が手を上げ、全艦につながったことを知らせる。
「達する。指揮官のスクリャロフ少将だ」
いきなり始まった直接通信に、私のすぐ後ろに立つ三人の将官らの表情がすぐれない。おそらく、何が始まるのかと気が気ではないのだろう。
だが、彼らにかまわず私は続ける。
「我が強襲艦隊はこれより、八光年先のウーゴリ星域へと向かう。だが、これは総司令部からの命令によるものではない」
この言葉を聞いて、真っ先に顔の表情に出たのは、カナーエフ准将だ。しかし今、横やりを入れるわけにはいかない。この艦隊の指揮官はあくまでも私であり、彼らはただの客人だ。今ここで私の通信を止めるとどうなるか、それくらいは理解しているはずだ。
「我々はパザロフ大将を失った。そのパザロフ大将を死に追いやることとなり、我が地球三一五を危機に陥れた連盟という組織から離脱するため、司令部内の一部の将官がその離脱工作を行っている。私も、その一員である」
このカミングアウトに、残りの二人も顔色を変え始めた。当然それは、自身を追いやることになりかねないからだ。それは当然、私とて同じことだ。
が、このまま強襲艦隊の全員を、私の思惑に付き合わせるわけにはいかない。彼らは私の持ち物ではない。だから私はここで事実を伝え、彼らに機会を与えようと考えた。
「ゆえに、この先へ進むことは、重大なる軍規違反となる。今から、十分間の猶予を与える。その間に残る者は残り、帰還する者は帰還せよ。後は追わない。以上だ」
そう話を終えると、私はマイクをドルジエフ大佐に渡す。その大佐には、こう告げる。
「司令部内も同様だ。そしてこの旗艦に乗る者も、私のわがままにつき合わせるわけにはいかない。帰還を望むならば、私は止めない」
さすがにこの一言には、カナーエフ准将が黙っていられなくなる。
「ちょっと待てスクリャロフ提督。そんなことをすれば我々は……」
が、それを遮って切り出したのは、ドルジエフ大佐だ。
「提督、まさか我々、強襲艦隊全員が、あなたの思惑や行動に気づいていないと、そうお思いでしたか?」
この一言に、私自身も驚く。つまりそれは、私が連盟離脱を画策していたことを、すでに知っていたと言わんばかりだ。
「大佐、つまり私が艦隊を発進させた理由も、最初から知っていたと?」
「それはそうでしょう。なにせ我が艦隊とは無関係な将官を、三人も乗せているのです。気づくなというのが、無理な話です」
なんてことだ。ドルジエフ大佐は、いや、強襲艦隊全員は、私が軍規違反を承知で艦隊を動かしていると、そのことを承知していたというのか。
発進時に大佐は私に、艦隊出撃の理由を尋ねてきたが、あの時点で彼はすでに私の意図を知っていた。その上で、艦隊を出撃させた。そして今、四人の将官には逃げ場がない。つまり私は大佐にまんまとはめられていたことになる。
「では……この先、どうするつもりか」
「決まってますよ、提督」
冷静で実直な人物だが、この時ばかりはその冷静さが恐怖に感じる。が、大佐は私に向かって、こう答える。
「賽は投げられたのです!」
一瞬、大佐が何を言っているのか、理解できなかった。彼は我々に向かって敬礼し、続ける。
「我々は、スクリャロフ提督の指揮下にあります。提督が行くと言われるところには、どこまでもお供いたします。これは五百隻の乗員、パイロット全員の意思です」
ドルジエフ大佐のこの一言を合図に、艦長を始め艦橋内の乗員皆が私に向かって一斉に敬礼する。エカチェリーナに至っては、敬礼しつつ私にウインクを送ってきた。それを見た私は、察する。
なんだ、私の思惑はすでにこの艦隊全員にバレていたのか。しかもその上で彼らは皆、こうすることを最初から決めていたようだ。当然、エカチェリーナもそれを知っていて、私に黙っていたということになる。
そんなやり取りをしているうちに、約束の十分が経過する。転進する艦は、一隻もいない。
それを受けて私は、大佐に指示を出す。
「ではこれより、ウーゴリ星系に向かう。進路そのまま! 全艦、前進半速」
「はっ! 進路そのまま! 全艦、前進半速!」
私の命令を、ドルジエフ大佐が復唱する。やがて強襲艦隊は一斉に、この星系外縁部にあるワームホール帯を目指す。
「しかし、大佐よ」
「はっ、なんでしょうか?」
「もしかすると我々は、敵と味方に挟み撃ちにされて、全滅するかもしれないんだぞ。本当に良かったのか?」
「スクリャロフ提督が指揮官でなければ、我々は先の戦いですでに三度全滅しておりました。それが遅くなるだけのことですから、たいして変わりません。どちらかといえば、提督についていった方がまだ生き残る確率が高いと、我々は考えています」
しゃあしゃあと言ってのける大佐だが、言われてみればその通りかもしれないな。最近だと、あの要塞攻略戦か。もし私があの時、味方の大損害に激高して突撃を決めていれば、アルトマイヤー少将の機動艦隊によって殲滅させられていたかもしれない。その時に生きながらえた命を、私に預けようというのか。
いや、そうではないだろう。おそらく彼らもまた、連盟離脱を望んでいる。あの無茶な戦いに身を投じたからこその理不尽さを、肌で感じているはずだ。その後の総司令部や、連盟本部の対応にも納得していない。つまり彼らは今、自身の選んだ道を進んでいるということか。
言い換えれば、私は彼らの意思を受け止めて、それを具現化しなければならない責任を負ってしまったことになる。なんだ、かえって重責じゃないか。自分を含むこの四人の将官の独断でやってた時の方が、まだ気楽だったと言わんばかりだな。
「ウーゴリ星域では、スモレンスキー商事の大型商船コスモグラードが待機している。そこで我々は補給を受けつつ、説得工作を続けることになっている」
カナーエフ准将が、ようやく具体的な行き先を明かす。もう大丈夫だと踏んでのことだろう。私とドルジエフ大佐は頷く。
そして強襲艦隊五百隻は地球三一五を離れ、八光年先にある暗黒星雲へと進路を向けた。
◇◇◇
うーん、気まずいな。
ここは、旗艦〇〇〇一号艦の食堂。そこには僕とカタリーナ、ヨーナスにルイーゼさん、それにハインリヒ上等兵と、あのガブリエーレさんがいる。
実に二週間ぶりに顔を合わせるこの二人。が、ガブリエーレさんは何も話さず無言でうつむいている。
どうして彼らが顔を合わせることになったかといえば、ハインリヒ上等兵は我が艦の所属だし、ガブリエーレさんはカタリーナの取り巻きとして同行した。だから同じ艦に乗り合わせてしまうのは必然である。
しかしなぁ、よりにもよってこの食堂で鉢合わせるとは運がない。いや、誰しも食事をする以上、ここに来ることは避けられないから、同じ艦に乗る限りはこうなることは当然ではある。
で、ハインリヒ上等兵は何か声をかけようとするも、なんと声をかけてよいのか分からない様子だ。それを見たルイーゼさんが、ガブリエーレさんに声をかける。
「あ、あのね、ガブリエーレ、ハインリヒ様は今、ヨーナスと同じ陸戦隊員としてここにいるの。なんでも、あの鉄騎兵を操る腕が凄いんだって……」
と言うも、ガブリエーレさんはうつむいたまま動かない。その態度を見てしびれを切らしたカタリーナが、ついに口を開く。
「ガブリエーレ、いつまで意地を張っているのかしら? ごらんのとおりハインリヒ殿は、あなたに振り向いてもらうために努力し、こうして騎士見習いとしての称号を得るまでに至ったのです。その間、あなたは何をしていたのですか? せめてあなたのために努力した婚約者に対し、何か答えるのは帝国貴族の令嬢として当然でしょう」
このカタリーナの一言に、ついにガブリエーレさんは顔を上げる。
「ハインリヒ様」
「はいっ!」
「……なぜ、鉄騎兵の一員などになろうと、そうお考えになられたのですか?」
いきなり質問だ。僕とカタリーナ、いや、この食堂にいる二十人ほどの乗員も含め、皆がかたずをのんで見守る。
「それは当然、ガブリエーレを守るためだ。僕には、力がない。その力を手に入れて、今度こそ一人でガブリエーレを守れるだけの男になろう、そう思ったんだよ」
うん、いい回答だ。これ以上の回答はないだろう。冷徹なイメージのガブリエーレさんとて、さすがに心揺さぶられたのではないか。が、ハインリヒさんのこの回答に対して、ガブリエーレさんはこう続ける。
「ですが私は、あなた様に守っていただく価値のない娘でございます。ハインリヒ様の生涯を狂わせるようなことをさせてしまい、申し訳ない限りですわ」
「何を言ってるんだ。そんなことないよ、私はこうして今、充実しているし、なによりも良い道を見つけることができたんだ。だから何も後悔などしていないし、むしろ父上も喜んでくれている。だから私はガブリエーレに、感謝しているんだ」
と言いつつ、ハインリヒ上等兵はガブリエーレさんの手を握る。それを聞いて吹っ切れたのか、ぼろぼろと涙を流すガブリエーレさん。
が、そこにちゃちゃを入れる連中が割り込んできた。
「はいはーい、ごめんよ。ほれ、お嬢様、これはあんたの分」
現れたのは、陸戦隊員だ。グラスに入れたブドウジュースをどかどかと並べ始め、さらにピザやサラダをその横に置き始める。
「あ、あの、これは……」
「あー、お嬢様よ、俺らそういう湿っぽいのが苦手なんよ。せっかくこいつと仲直りできたんなら、明るくやろうぜ」
「はぁ!?」
突然やって来たこの無神経野郎どもに、ガブリエーレさんは驚く。それはハインリヒ上等兵も同じだ。
「あの、ちょっとエーベルス少佐殿、いくらなんでもこれは……」
「おいハインリヒ上等兵、お前、今、彼女を守るために陸戦隊員になったと、今そう言ったよな?」
「はい、言いましたが」
「なら、もうちょっとそのひ弱さをなんとかしろ。それがお前の当面の任務だ」
「ええーっ?」
「てことでほら、ハインリヒとお嬢様も、ピザを食べてもっと肉をつけろ」
「あの、私、他の殿方とご一緒は……」
「じゃあ、女の私がお相手しましょうかぁ?」
「げっ! あなた確か、カタリーナ様をたぶらかしてはいろいろな食べ物を食べさせているという……」
「ヴァルター中尉っていいますぅ。ほら早く食べないと、せっかくのピザが冷めちゃいますよぉ」
急に騒がしくなってきたな。ハインリヒ上等兵もガブリエーレさんも、周りの雰囲気に飲み込まれていく。
「おい、ハインリヒよ。お前、今夜からこのお嬢様と一緒の部屋で過ごすんだよなぁ」
「えっ? いえあの、それは……」
「何言ってるんだ。婚約者だろう。だったら強引にでも部屋に連れ込んで、 ※ピー なことや ※ピー なこともやれて当然じゃないか?」
「ええーっ!? ちょ、ちょっとヴィステマン兵曹長、なんてことを……」
「何を恥ずかしがってるんだ、ハインリヒよ。俺とルイーゼだって自室で ※ピー くらい……いてっ!」
「ちょっとヨーナス、なんてこと言うのよ!」
「だって事実だろう。それを言ったら、そこの司令官と伯爵令嬢様だって、艦内の個室で ※ピー くらいしてるだろう」
「まあ、なんという品のない男なのかしら、まったく! そりゃあ確かに、私とフリッツも ※ピー くらいは……」
「ちょ、ちょっとカタリーナ様! なんてことをおっしゃるんですか!」
「そういえばテレーゼ、あなたくらいですわよ、お相手の殿方がいないのは。さっさと見つけるのですわ」
「ええーっ!? ちょ、ちょっとカタリーナ様、なんということを……」
「何言ってるんですかぁ。私にだっていませんよぉ」
「えっ、ヴァルター中尉って昨日、誰かと一緒に食事に行ってなかったか?」
「あれはヒンメル中佐ですねぇ。なんでも、奥さんを喜ばせたいから、いい店を教えてくれとせがまれちゃってですねぇ」
「おい、ヴァルター中尉! 余計なことを言うんじゃない!」
「そういやあ中佐殿。もちろん中佐殿も、夜になれば奥さんのブレッヒ准尉と ※ピー や ※ピー ってことをしてるんですよね?」
「そんなこと言えるわけないだろう! 個人情報だぞ!」
「言えないって、つまり否定はしないんですか」
「このピザ、美味しいですよねぇ」
「おうおう、盛り上がっておるではないか。妾もまぜてはくれぬか?」
「なんだ、魔王かよ。お前はピザが食いたいだけじゃねえのか?」
「そんなことないぞ。妾は人が己の欲に溺れていく姿が、何よりも好物なのじゃよ。食欲、色欲、強欲……ここはなんと、欲望に塗れたところなのじゃ」
ピザとブドウジュースを手にしながら、何を話しているんだこいつらは。にしても、アルコールもないのによくここまで盛り上がれるものだ。しかも、聞くに堪えない単語が飛び交い、ガブリエーレさんもハインリヒ上等兵も顔を真っ赤にして硬直している。
それにしても酷いやつらだな。僕まで巻き込んだ下ネタを武器に、あの二人に奇襲攻撃をかけやがった。そのおかげで、あの二人の間にわだかまっていた分厚い壁のようなものが、すっかりなくなってしまったようだ。奇策をもって相手を攻略する、我が艦隊らしいといえばそれまでだな。下品極まりない奇襲ではあるが。
なおその日の夜、ガブリエーレさんがどこで寝たのかは、よく分かっていないことになっている。




