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40/54

#40 無惨

「そんな無茶な要求に、我が地球(アース)三一五の十七万三千八百七人もの人命を失う価値はあったのですか!」

 いつになく、司令部会議は紛糾する。パザロフ大将に向けられたこの非難ともいえる発言は、多くの将官にも響く。

 部会に出るはずの将官の中からも、三人が戦死した。三つの空席の上には、黒い布が被せられて花が添えられている。その席の一つの脇の席にいるカナーエフ准将が今、発言をしている。

 彼自身もまた、要塞砲に巻き込まれかけた。カナーエフ准将率いる第12小隊三百隻の内、百五十一隻が第二撃目で撃沈された。彼の乗艦する小艦隊旗艦三五一一号艦も、噴出口の一つが破壊されたというが、辛うじてあの宙域を離脱できたという。

「カナーエフ准将、貴官の発言は大将閣下への明確なる批判にあたる! これは懲罰案件になりかねないぞ!」

 参謀長のヴィボルノフ中将がこの発言に対して懲罰をちらつかせる。だが、この発言には他の将官、特に前線で戦った准将らをかえって刺激し、厳しい反論が投げかけられる羽目になる。

「何を言うか! 実際に十七万人以上も死んでるんだぞ! その事実に対して、軍司令部中枢はどう考えていると聞いているんだ!」

「そうです! 参謀長は遺族に対し、どう言い訳されるのですか!」

 こうなるともう、収拾がつかない。私はこの両者を制止すべきかと考えたが、どちらかというと私はあの決戦で「失敗した」側の指揮官である上に、戦場から「逃げた」と言われる立場にある。ここで何かを言ったところで、火に油を注ぐだけだ。

 参謀長ですらも止められないこの荒れた部会は、やがてとんでもない発言を引き起こす。

「そんな無茶な要求をする連中とは、たもとを分かつべき時が来たのではないか!?」

「おい、待て! 貴官の今の発言は、連盟から離脱せよという意味か! それは重大なる連盟憲章違反に当たる! 軍法会議ものだぞ!」

 とうとう軍内部で、政治的発言まで湧き起こってしまった。文民統制が基本の我々が、連盟離脱を言い出すのはかなり危険なことだ。これは当然、厳罰ものである。

 だが、この場はその程度の発言では収まらない。

「なにが軍法会議ですか! 救援軍を派遣しなかったやつらに従うなど、言語道断です!」

「おい、勘違いしてないか!? 今度の犠牲はすべて、連合側の攻撃によるものだぞ! これまでの戦いで、連合のやつらからどれほどの損害を受けてきたと思っているんだ!」

「その連合の矢面に立たされているからこそ、むしろ損害を招いているんじゃないのか! なぜ他の連盟艦隊が助けてくれないのか!?」

 酷い雰囲気になってきたぞ。一千隻単位の中艦隊司令官である少将、中将同士がつかみ合いの議論を始めだした。さすがにパザロフ大将が割って入る。

「諸君、まずは落ち着け。ここは政治闘争の場ではない。我々がすべきことはまず、艦隊の立て直しだ」

 これがまずかった。彼らの矛先が、今度はパザロフ大将へと向いてしまう。

「大将閣下! ではなぜあの時、艦隊前進を指示したのですか! あの時に後退していれば、これほどの犠牲はなかったはずでは!?」

「おい、ルジマートフ中将! 貴官は総司令官の作戦に対し、意見できる立場ではないだろう!」

「最初の砲撃で私の麾下の艦隊が、五百隻も沈められてしまったんだ! 意見できる立場にあると思うが!」

「なんだと貴様、今の言葉一つで軍法会議ものだぞ!」

「やれるものならやってみろ! 戦場から離れた場所でコマを動かすだけの腰抜け参謀が!」

「なんだと、もう一度言ってみろ!」

 幕僚と分艦隊司令官とが、この広い会議場の中で殴り合いを始めてしまった。その仲裁に入る他の将官たち。私もヴィボルノフ中将をかばい、結果、若い将官に一発、殴られてしまう。

 こんな部会が三時間ほど続いたが、体力切れにより閉会となる。

「へぇ、それで殴られてきたのね。いい気味だわ」

 で、待ち合わせの司令部のロビーで、その赤く腫れ上がった頬を見てほくそ笑むエカチェリーナ。

「とんでもない部会だった。連盟離脱まで口にする者が出始めたくらいだ。こんな荒れた会議を、未だかつて見たことがない」

「そうなんだ。でも、連盟離脱は正直、私も賛成よ。要塞攻撃をして、十七万人も戦死したのよ。それでありがとうとかご苦労様の電報一つもよこさない組織なんて、所属する意味なんてあるのかしら?」

 エカチェリーナまでがそんなことを言い出す始末だ。おい、ここは司令部の中だぞ。滅多なことを言うんじゃない。しかしこの星、地球(アース)三一五が連盟側に加わってからすでに二百年近く経つが、これまでにも連盟から離脱しようという議論はなかったわけではない。

 というのも、我が地球(アース)三一五は連盟内でも孤立気味の星であり、一番近い地球(アース)三三一ですら二百光年以上離れている。我々の星はちょうど連合の宙域に突き刺さるトゲのような存在だ。

 このため、過去にも救援が滞り、それがきっかけで離脱が決議されたことがある。が、その度に連盟本部より救援を確約されて、どうにか踏みとどまってきた。

 しかし、今やあの中性子星域の航路を一つ奪われたことで、さらに地政学的孤立が進む。それに加えて、あの要塞攻撃命令だ。今度という今度は、我々も腹に据えかねている。

 とはいえ、だ。私は軍属、政治的な主張をし始めては文民統制の原則に反する。強力な強襲艦隊を指揮する立場ゆえに、連盟離脱だのなんだのと、論じてはならない立場にあるわけだ。

 そんなことを承知の上で、エカチェリーナは私に絡んでくる。連盟離脱に賛同しろと言わんばかりだ。しかし、あの戦いが終わってからようやくエカチェリーナとの関係も元に戻りつつある。互いに生き残れたのだから、些末なことで行き違うのは死んだ者に申し訳ない。帰還直後、エカチェリーナはそう私に言った。

 だが、夫婦仲は改善したものの、司令部内の分裂は最悪な状況を迎えている。作戦のミスとばかりに片づけられない、ついに連盟離脱の議論まで起きてしまった。こんなことが統一政府の耳に入りでもすれば、軍組織そのものが崩壊するほどの制裁人事が起きるかもしれない。

 もっとも、近頃はテレビやネット記事を見ると、連盟離脱を指示する人が日を追うごとに増えている。普通に考えれば直接の敵である連合へ向けられるべき怒りの矛先が、この二百年近く同志として歩んできた連盟側へと向けられ始めていた。

「まあ、なんだ。我々は軍人である以上、命令には従わなくてはならない。それ以上でも、それ以下でもないな」

「えーっ、じゃあメレンチェさ、ちょっと聞くけど、司令官や連盟本部からまたあの要塞に突っ込めって言われたら、突っ込むの? いやよ、せっかく無事生きて帰ってきたのに」

 そんな命令、私も嫌だ。私だけの命ではない。我が強襲艦隊は、一隻当たりにパイロットが二十人、乗員が四十人、合計で六十人。それが五百隻で三万人もの人員を抱えている。それほどの人員を、無意味な戦いに投じて失いたくはない。

 指揮官とは、実に損な役回りだ。自身の意思表示が自由にできない。私の星は別に、自由意志を抑制しているようなそんな遅れた思想の星ではない。ただ、軍属だからという理由で自由がない、というだけだ。

 だから、エカチェリーナのこの質問には、不機嫌そうな顔で無言で返すしか方法がない。

「まあ、いいわ。とにかく、今を生きている以上、今を楽しむ権利はあるわ。ねえ、メレンチェ」

「なんだ」

「せっかくだから、夕飯は外で食べましょう。ほら、ビーフストロガノフの美味しい店、あそこに行くわよ」

「おい、あそこは高いだろう」

「なにケチ臭いことを言ってるのよ。明日、またあの要塞に行けって言われるかもしれないのよ。節約してお金なんて残したら、安全なところで身を潜めていた誰かの懐に入るだけよ。そんなのもったいないわ、私たちのお腹に入れて、あの世までもっていきましょう」

 無茶苦茶なことを言うやつだな。胃袋の中身だって、あの世には持っていけないだろう。そんな私の顔を、エカチェリーナは無邪気な笑顔でのぞき込む。

「……分かった、行こうか」

「そうよね、明日までの命、存分に楽しみましょう」

 腕に抱きつき、私を引っ張るエカチェリーナ。司令部のビルを出て、繁華街へと向かう二人。あの凄惨な戦いが起きた直後とは思えないほど穏やかな街中の風景の中を歩く。

 そして頭上の空には二つの月、ペルーンとヴォーロスが見える。今日はどちらも半月だ。伝説では追いかけ合う二つの神の姿というが、今は私とエカチェリーナのように仲良く並ぶ衛星同士といった具合だ。あの月のように皆、穏やかになれないものだろうか。


◇◇◇


(わたくし)、どうしても我慢ならないのです!」

 宿舎には珍しく来客があった。その客はこの狭い応接間で声をあげる。が、その人物のこれまでのイメージからは想像もつかない声だ。僕よりもさらに長い付き合いであるカタリーナですら、この彼女の変容ぶりに戸惑いを隠せない。

「ガブリエーレ、ですがそのお相手は、両家のご当主が定めた婚約者。令嬢であるあなたが拒むなど、叶うはずもありませんわ」

 そのいきりたつ令嬢に、貴族の現実を突きつけるカタリーナ。だが、ガブリエーレさんは引き下がらない。

「もはや、それまで手に届かなかった星の海にすら自由に渡り歩ける時代なのですよ! そんな自由の時代に、どうして(わたくし)には結婚相手を選ぶ権利がないとおっしゃるのですか!」

「う、それは……」

 珍しく、あのカタリーナが押されている。取り巻きの令嬢の一人で、どちらかというとおとなしいというか、陰に潜むタイプの令嬢だった彼女が、身分的に上のカタリーナを舌戦で押し切るなど、とてもそれまでは考えられなかった。

(わたくし)、やはりこの宇宙で大砲を並べて、迫り来る悪魔どもをその火力にて薙ぎ払う、そのように強い殿方の元に嫁ぎたいのです!」

「ガブリエーレ、そのような男は乱雑で粗暴なる者が多いですわよ。とてもあなたに合うとは……」

「何をおっしゃいます、カタリーナ様! 現にカタリーナ様の旦那様はその砲兵の将軍であり、ルイーゼも鉄騎兵団の隊長の元に嫁いでいるではありませんか!」

 これほど押されるカタリーナを見たのは初めてだな。てっきり取り巻き三人からは絶対的存在として崇められているものと思っていたから、その取り巻きからこれほどまで追い込まれるとは考えもしなかった。

「あの、ガブリエーレさん」

「何でしょうか、将軍様」

「軍人なんて、あまり勧められるような存在じゃないよ。それよりもその、ロートシルト男爵家のご子息の方が、格があっていい縁談じゃないかな」

「何をおっしゃいます、将軍様! ハインリヒ様は将軍様のような強靭な精神もなければ、賢明なる知能もございませんわ!」

 いやあ、買い被りすぎだろう。僕だって強靭でも賢明でもない。むしろあまり裕福でもない家で生まれ、仕方なく学費が免除される軍大学に進む道を選んだ。ただそれだけの理由で、軍人の道を歩んでいる。

 駆逐艦乗りには多かれ少なかれ、僕と似たような境遇の者がいる。学費免除に惹かれて、軍大学に進む者だ。それほどまでに軍にはなり手が少なく、人材の確保にひと苦労していると聞く。

 が、そんな軍も今は一時の人気を集めている。今年は軍大学への入学志望者が大幅に増えているらしい。その理由は——実に不純に満ちたものだ。すなわちこの星、地球(アース)一〇四五が発見されて、地球(アース)一〇七がその担当となったからだ。

 未開の星へ来たがる者は意外に多い。特に軍関係は、そのまま派遣先の星に残ることになる者が多いのが通例だ。そんな新天地を求める輩が軍に増えている。こう言ってはなんだが、未開の星の住人の前で得られる優越感のようなものを感じることが目的となっているやつが今の軍には多い。だから正直に言えば、この星の人々は無闇に我々と関わらない方がいい。

 そんな事情も知らず、我々に無防備なまでの憧れを抱くこのお嬢様にはもう少し現実を知ってもらいたいのだが、このお嬢様はどうにも譲らない。厄介なことだ。少し我々を美化しすぎじゃないか。

「ハインリヒ殿は、とても聡明な方と聞き及んでおりますわ。(わたくし)も何度かお会いしましたが、帝国の財務を任されるロートシルト男爵家を継ぐにふさわしいお方と感じます。あのお方のどこが不満だというのですか?」

 そんなお嬢様に、こちらのお嬢様が反論する。僕はそのハインリヒ殿を知らないのだが、ガブリエーレさんの話を聞く限りではどこかひょろっとしたひ弱なイメージなのだろう。それが、この内面が強気なお嬢様は気に入らない。そういうことのようだ。

 で、この男爵家のお嬢様は散々うちの応接間で、そのハインリヒ殿のことを散々愚痴った後に、タクシーで帰っていった。

「困ったものですわね。ご当主様がお決めになった婚約者をあれほどまでに罵るなど、なんと不誠実な娘なのでしょう」

 と、かつて婚約者だった頃の僕を散々罵っていた人物とは到底思えないコメントを放つこの伯爵令嬢様は、自身の取り巻きの一人のこの変貌ぶりを嘆いている。

「僕はあまり会話したことがないから知らないけど、ガブリエーレさんって勇ましい人が好みなの?」

「以前は、そうではありませんでしたわ。ですがおそらく二度の戦を経験し、あの力強い大砲の音で心揺さぶられたことによって、ガブリエーレの中で何かが目覚めたのかもしれません」

 ああ、そういえば彼女、この間の戦闘にも参加してたな。というかカタリーナが連れ回した結果、主砲の砲撃によってああいう過激な力への憧れを抱くようになった、ということか。なら原因は、カタリーナということになる。

「まったく、帝国貴族としての自身の役目を自覚しているのかしら? 先が思いやられますわ」

 そのカタリーナには自身を省みるところはないようで、ひたすらガブリエーレさんに憤慨していた。うーん、この清々しいまでの図々しさも、帝国貴族ゆえだろうか。それとも単にカタリーナの性格なのか?

 この日もエンペラータワーに出かけるつもりが、この突然の来客によってそれどころではなくなってしまった。レストラン巡りの機会を潰されたカタリーナは憤慨しながら、その勢いに任せて調理ロボットに三人前のオムライスを作らせている。まさか、あれを一人で食べるつもりか。いや、いつものことか。


◇◇◇


「ん?」

「どうしたの?」

「いや、メッセージが届いたのだが」

「メッセージって、まさか他の女!?」

「そんなわけ無いだろう。パザロフ大将からだ」

 繁華街にあるレストランでの夕食を終えて、私とエカチェリーナは宿舎に向かって歩いていた。その途上、私のスマホにメッセージが届く。

 二つの半月がやや西に傾きつつあり、我々と同様にどこかで夕食を済ませたであろうカップルの姿が多く見える。

 そんな時間に、なぜパザロフ大将はメッセージなど送って来たのか? 今までにはないことだ。まさか、敵襲か? そう思った私はすぐにそのメッセージを開く。

 が、考えてみれば、緊急事態ならばメッセージではなく警報が鳴るはずだ。それも大将閣下直々ではなく、司令部からの送信となる。

 で、開いてみたところ、特に緊急性のある内容ではない。

「ねぇ、なんて書いてあるの?」

「うむ……それが、私と我が艦隊に関する内容なのだが……」

 書いてあることは、普段からパザロフ大将が私に話している内容そのものだった。我が強襲艦隊五百隻の役割は今後さらに増すことになる、貴官の奮闘に期待する、そんな感じの文面だ。

「へぇ、期待されてんのね」

「うーん、ありがたいことではあるのだがな……」

 そのメッセージを呼んで嫌味っぽく返すエカチェリーナに、私はそう答えるにとどめる。が、何か腑に落ちない。いや、メッセージの中身にではない。どうして今、こんなメッセージを送る必要があるというのか?

 何か、意図があるように思えてくる。パザロフ大将は、一見すると飄々とした態度の凡将を装いつつも、決して無意味なことはなさらない。これまでのふるまいを間近で見てきたからこそ、よく分かっているつもりだ。

 が、そんな総司令官閣下が、こんな時間に唐突に、メッセージなど送るだろうか?

「司令部へ戻る」

 私がそう告げると、エカチェリーナがこう答える。

「まさか、別の女と出会うつもりじゃないでしょうね?」

「そんなわけないだろう。心配ならついてくればいい。少し、気になることがあるんだ」

 妙に嫉妬深いエカチェリーナに私はそう答えたのだが、そんなことよりも私は何か、引っ掛かることがある。

 上手くは言えない。が、何かあるような気がしてならない。パザロフ大将がこのメッセージに込めた意味を、無性に知りたくなる。

 急ぎ司令部へと戻る。私はロビーに入ると、受付の警備兵に尋ねる。

「パザロフ大将にお会いしたい。大将閣下はまだご在席でいらっしゃるか?」

「はっ、閣下はまだ司令官室にいらっしゃるはずです」

「そうか。ならば大将閣下にお会いしたい。すぐに取り次いではもらえないか?」

「少々お待ちください」

 警備兵はすぐに大将閣下を呼び出す。が、警備兵のコールに応答がない。

「おかしいですね……まだ帰宅されてはいないはずなのですが」

「つい先ほど、大将閣下からメッセージが届いたのだ。寝ているということはあるまい。もう一度、呼び出してはもらえないか?」

「承知しました。もう一度、お呼びします」

 再び警備兵がコールする。が、やはり応答がない。その様子を見たエカチェリーナが私に尋ねてくる。

「どうしたの?」

「いや、大将閣下からの応答がないんだ。まだ帰ってはいらっしゃらないようだが」

「そんなに気になるなら、直接司令官室へ行けばいいんじゃないかしら」

 エカチェリーナがそう話す。そこで私と警備兵は、司令官室へ向かうことにした。

 エレベーターに乗り込み、最上階にある司令官室へと向かう。もう何度も私は、あの部屋に独断で乗り込んでいった。ついこの間までの要塞破壊作戦でも、二度ほど私は司令官室へと乗り込んだ。

 その度に私は閣下から許可を引き出し、それを錦の御旗にして作戦を強行した。そんな無茶をしたあの時と同じ道を今、私はたどっている。

 が、今度ばかりは何か胸騒ぎがしてならない。根拠はないが、大将閣下が何かを企んでいらっしゃるような、あのメッセージからはそんな不穏な気配が読み取れるのだ。だから私は警備兵を伴って、司令官室へ乗り込む。

 最上階に到着し、通路の奥にある司令官室へと向かう。扉の前に立ち、ノックする。

「閣下! スクリャロフ少将です!」

 が、先ほどと同様、応答がない。いやに静かだ。本当に閣下はここにいらっしゃるのか?

「妙だな。本当に大将閣下はまだいらっしゃるのか?」

「閣下が出られたなら、そのような記録が受付の端末に表示されます。ですが今日はまだ帰宅されてはおりません」

 そう答える警備兵を見て、ますます私の中に不安がよぎる。そこで私は、扉を開いてみた。

 鍵はかかっていない。重厚な木製のその扉を開くと、中は真っ暗だ。が、なにやら妙な臭いがする。

「閣下、いらっしゃるのですか!?」

 返事はない。とても人がいる雰囲気がない。いや、それ以上にこの臭いの正体が何なのかが知りたい。私は壁際にあるスイッチを押す。

 そして私と警備兵の目に、衝撃的な光景が飛び込む。

 奥にある総司令官の机の上に、パザロフ大将がいる。その周囲は、鮮血で真っ赤に染まっている。そして大将閣下の手には、拳銃が握られていた。

 その拳銃は、閣下の頭部を撃ち抜いており、それがこのおびただしい量の血飛沫を生み出したことは明白だ。

 私と警備兵は、物言わぬパザロフ大将を前にしばらくの間、呆然と立ち尽くす。

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[良い点] 17万人(~_~;) 東京都中央区が丸々消えるようなものか… ゴ○ラでもそこまでの被害は出ないよな… そんな被害を出したら、…自決しても仕方ないかな(;´Д`) [気になる点] ガブリ…
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