#32 対面
僕が作戦に参加してから四週間が経ち、ようやく要塞砲が機能し始めるまでには建設が進んだ。まだ完成とは言い難いが、機能的には拠点兵器として稼働を始める。このタイミングで僕は一時、地球一〇四五へ帰投する。
「もう帰るのですか? この戦艦ハンブルグというところは、なかなかにして趣きのよろしいお店が多くて、私、とても気に入っているのですが」
帰投する目的の一つに、カタリーナを帝都ヘテルニッツへ送り届けるというものもあるのだが、本人はここが気に入ったらしい。
「いや、気に入ったと言ってもだな、ここは戦場での後方支援を行うための船だから、カタリーナには危ないって」
「何をおっしゃいます、旦那様。私は武闘派として知られ、栄えある帝国砲兵隊の指揮官を務めるアンドラーシ伯爵家の娘でございます。これほど大きな砲を持つ船こそ、この私に相応しい船でございますわよ」
などと言ってきかないカタリーナを説得しつつ、どうにかヘテルニッツ港へと向かう。
「ところでフリッツ、その宝石を魔王様の元へ届けるのですか?」
「そういう約束だからね。またカタリーナに取りつかれても困るし」
「うふふ、私のことを心配していただけるとは、とても嬉しゅうございますわ」
目の前には、大小七つの赤い石が置かれている。苦労して回収したあの魔石だ。拳ほどのものから、ちょっとした彫像並みの大きさのものまであるが、いずれも宝石のように透き通った結晶体だ。
実際、成分分析を行うと、まさに宝石だった。つまるところこれは、ほぼルビーだという結論が出ている。しかし、どうしてこんなものをあの魔王が欲しがるのだろうか? 僕には、皆目見当もつかない。
「そういえば、古くからの言い伝えにも、赤い石には大いなる力が宿ると申しますわ。悪が用いれば災いを、善が用いれば幸福がもたらされる、奇跡の石だとか」
「でも、こっちで調べた限りでは奇跡の石と言えるほどのものではないようだよ。まあ、とにかくこれはさっさと魔王に渡してしまおう」
確かに宝石としての価値はあるものの、あの死闘をくぐり抜けて得るような代物でもない。どうしてこんなものを欲するのか、その魔王の真意は分からない。
へテルニッツ港に着くと、僕はスーツケースに納めたこの魔石を引いて、カタリーナと共に艦を降りる。すぐ前には、ヨーナスと共に歩くルイーゼさんが見える。
あの二人の姿を見てふと思ったのだが、そういえばカタリーナの取り巻きは全部で三人いる。ルイーゼさんはそのうちの一人だが、残りの二人にもパートナーとなるべき相手はいるんだろうか。
「えっ、あとの二人はどうしているかですって? まさかフリッツ、ご自身の側室にと考えているのではありませんわよね」
「いや、そうじゃなくて、単に気になったから聞いてみただけなんだが」
「ルイーゼ以外の二人ですが、一人はガブリエーレ・フォン・ローゼンミュラー。長らく帝国の財政を支えてきたローゼンミュラー男爵家の一人娘、あのすこし冷めた感じの彼女でございますわ」
「ああ、ちょっと暗い雰囲気の彼女か……それほどの家柄ということは、もしかしてもう婚約者がいるとか?」
「ええ、彼女はすでにロートシルト男爵家の次期当主であらせられる、ハインリヒ様とのご婚約が決まっておりますわ。もう二ヶ月もすれば、いよいよ輿入れだと申しておりましたわね」
すらすらと貴族家の名前が出てくるあたり、カタリーナの記憶力の高さに感心してしまう。三百家はあるといわれる帝国貴族の名をほぼ全て言えるというから恐れ入る。そういえば例の魔王の言い伝えの話も、参考書籍も見ないでスラスラと僕に話してくれたよな。このご令嬢の記憶力は尋常ではない。
「で、もう一人はテレーゼ・フォン・ノッヘンハウアー。宮廷内庭園の維持管理を任されているノッヘンハウアー子爵家の次女で、私よりも一つ年上の令嬢ですわ」
「へぇ、そうなんだ。あの背の高い、少しおとなしい感じの人のことだよね?」
「ええ、背が高いのはその通りですが、彼女は大人しくはありませんわ」
「そうなの?」
「ええ、表向きはお淑やかな雰囲気を貫いておりますが、口を開くとよく喋りますの。おかげで、輿入れすべき相手が見つからないと聞きますわ」
そうなんだ、いつも黙ってカタリーナの後ろにいるから、てっきりおとなしい人なのかと思っていた。見た目だけでは分からないものだな。
「そんなことよりも、フリッツ、そろそろ魔王アザトース様のところへ向かわれるのでは?」
「あ、ああ、そうだった。それじゃ、行こうか」
そうそう、危うくこのまま宿舎に帰ってしまうところだった。このところ、カタリーナと一緒に過ごしているから、別に欲求不満というわけではない。けれども、やっぱり地に足つく砲撃の心配のないところでショッピングモールや公園などに行って緩やかな時間を感じながらカタリーナと過ごす日常が、僕にとっては何ものにも変え難い幸福なひとときだ。だから早くこんな面倒なことは終わらせて、さっさと宿舎に戻りたい。
そんな願望を抑えつつ、僕は用意させた哨戒機に乗り込む。僕とカタリーナをのせた哨戒機はすぐに離陸し、チェズレ山へと飛び立つ。
◇◇◇
「ねえ、本当に私と一緒になってよかったの?」
急に妙なことを言い出すエカチェリーナに、私は聞き返す。
「なんだ、不満でもあるのか?」
「逆よ、あなたが不満じゃないかってこと」
「何を言っている。何の不満などない」
「でもほら、敵のアルトマイヤー少将さんには、貴族のご令嬢という奥さんがいたでしょう? 一方で私なんか、まだ少尉なのよ。やっぱり、あなたには身分相応な人がいいのかなぁって思ってさ」
どうしたというのか、何の脈絡もなく身分だの階級だのと気にし始めたようだ。私は答える。
「身分も階級も、この星では少なくとも結婚に関してなんら関係のないことだ。互いが惹かれ合えればそれでいいんじゃないか。私はそう思っている」
と、そう答えた途端、エカチェリーナの顔はみるみるうちに笑顔に変わる。
「ほんと? それじゃ私、あなたに愛されてるってことなのね?」
臆面もなくずけずけとよく言えるものだな。一応ここは、カフェの中だぞ。周りに人がいるというのに、将官服を着た私が愛してるだの何だのとあからさまに言ったり言われたりするのは、あまり良いことではないんじゃないか。
「ま、まあ、そういうことだ。だから別に身分など気にすることはない」
「ほんと?」
「当然だろう」
「それじゃさ! 愛の証ってことで私、あなたに買ってほしいものがあるの! ね、今からあの百貨店に行かない!?」
どうやら私は、エカチェリーナの術中にハマっていたようだ。なんだ、唐突に変なことを言い出すから何かと思えば、単におねだりをしたかっただけなのか。
「分かった分かった、だけど一度宿舎に戻って、着替えてからだなぁ……」
「何言ってんのよ、愛は熱いうちに打てっていうでしょう? そうと決まればほら、さっさとコーヒーを飲むっ!」
いや、それを言うなら「鉄は熱いうちに打て」だろ。何を言ってるんだ、こいつは。しかし、このところ作戦続きで、こうした穏やかな時間を過ごしている暇がなかったな。仕方がない、こいつのわがままにも少し、付き合ってやるか。
そう思い直した私は、コーヒーをぐっと飲み干す。で、それを皿の上に置くか置かないかのうちに腕を引っ張られ、店の外に連れ出されてしまった。おい、ちょっとせっかちすぎるんじゃないのか?
まあ、この図々しいところがまた魅力的なところでもある。普通の人ならば、私が少将というだけで萎縮してしまう。だからこそ私は、彼女を生涯の伴侶として選んだ。
そんな彼女と私は、このチェザレスクの市街中心部にあるその店へ、足早に向かった。
◇◇◇
僕とカタリーナを乗せた哨戒機は、チェズレ山の麓に降り立つ。
そういえば魔王とはどこで待ち合わせるかについてはまったく取り決めていなかったが、おそらくここにくれば察してくれるのではないか。そう思って、この場所に降り立った。
そう、そこは例のボードメゼーヴァ王国の連中が石砦を築こうとした場所。ここで僕は、あの晴天の落雷を見た。ということは、あの魔王には少なくとも、この場所にいるものが見えているんじゃないか。そう思ったからこそ、この場所に降り立つことを決めた。
にしてもこの場所は今、少し霧がかかっている。この辺りは今の季節、よく霧が出るという。それほど濃い霧というわけではないが、視界は百メートルほどだろうか。そこから向こうはぼんやりとしか見えない。もう少し、晴れた時を狙ってきたほうがよかったか?
「ところでフリッツ、一つ気になることがあるのですが」
「なんだい、気になることって?」
「魔王様とは、どのようなお姿なのです?」
「うーん、それは……あれ、そういえば、どういう姿なんだろう?」
そういえば、どんな姿なのだろうか。カタリーナを介して話はしたものの、その姿を直接見たわけではないからな。それもあの時、聞いておけばよかった。
「ところで、カタリーナの知る伝承には、魔王の姿はどう描かれているの?」
「いえ、それがですね、黒い魔王としか伝えられていないのです。それ以上のことは、さっぱりですわ」
そういえば、先日の石砦建設阻止の作戦を行う前に、カタリーナから聞かされた魔王はただ「黒い魔王」としか表現されていなかった。名前すらない。そこから察するに、黒いのは確かだろう。
しかしその言葉の意味するところ、単に黒い姿をしているのか、それとも黒い衣装をまとっているだけなのか。ただ、イメージ的に悪魔的なものの雰囲気を感じる。魔王というくらいだから、当然か。
でも、そんなものに直接会っていいものなのか? そういえば、悪魔の醸し出す雰囲気にのまれれば、人はその邪悪に染まると聞いたことがあるぞ。ましてやその王と名乗る存在だ。もしかして、直接触れてはいけない相手ではないのか?
などと考えていると、霧の向こうから何かが近づいてくるのが見える。真っ白な霧に、真っ黒なそれは、その名の通りのやつが現れたことを示していた。
僕は固唾を吞んで、その姿が顕になるのを待つ。徐々に近づいてくるその姿はしかし、僕の想像とはかなり違うものだった。
あれが、魔王なのか?
見た目はせいぜい子供より一回り大きい程度、百四十センチほどか。全身は炭のように黒く、そして黒光りする服を纏っている。そして、まるで矢じりのような先端を持つ尻尾がゆらゆらと揺れているのが見える。頭には水牛のようなツノが一対。
魔王というか、小悪魔と言った容貌か。だがそのツノの下の顔は、およそ悪魔と呼ぶには似つかわしくないものだ。
なんというか、その……可愛い顔してるな、こいつ。どう見ても、こいつは娘だ。本当にあれが魔王なのか?
いや待て、あれは魔王本人ではなく、その使いかもしれない。見たところサキュバスのようだから、もしかすると魔王の下僕なのかもしれない。
そのサキュバス風の娘は僕の前で立ち止まると、腕を組んでやや威丈高な態度で僕にこう言い放つ。
「うむ、そなたがフリッツ・アルトマイヤーであるか」
「そうですが、あなたは?」
「妾が魔王アザトースであるぞ」
えっ? ちょっと待って、このサキュバスみたいなのが本当に魔王なの? 僕は唖然としてしまった。が、カタリーナはまるで皇族に対するが如く、深々と礼をしつつ口上を述べる。
「これはこれは魔王アザトース様。私はグラーツェン帝国貴族のアンドラーシ家の次女、カタリーナと申します。猊下におかれましてはご機嫌麗しく、恐悦至極に存じ奉ります」
「うむ、カタリーナとやら、妾の願いのためにそなたの身体を使わせてもらったこと、まずは礼を申すぞ」
カタリーナは魔王に乗り移られていたことを当初、汚されたと騒いでいたはずだが、いざその魔王と対面するや、そこはやはり長年恐れられ語り継がれてきた伝説の存在を前に、最上の礼をもって迎える。で、それを受けて、ますます態度がでかくなる黒い魔王。
「で、アザトース様、これが約束の魔石です。ご確認ください」
が、僕はといえば、別段相手が貴族や皇族でなければ特に敬うつもりもないから、最短で用事を済ませるべくスーツケースを出す。そしてそれをガバッと開き、中にある赤い石を見せた。
「なんじゃ、そなたは。もうすこし妾を敬わぬか」
「我々の儀礼では、まどろこしい挨拶を持ちません。それよりも、本来の目的を速やかに完遂することを美徳としております。あなたとしても、目的のものを早く手に入れたいのではないですか?」
「うむむ、何とも食えぬ男じゃのう……おお、これじゃこれじゃ! まさしく妾の欲しておった魔石じゃ!」
どうやら僕があまりにサバサバとした態度を取るため、魔王としては少し気に入らない様子だが、しかし例の魔石を見るなり目を輝かせる。
「これで三百年ぶりに力を取り戻すことができる。さてさて、早速これを取り込ませてもらおうかの」
などとぶつぶつ話しながら、七つある魔石のうち、一番大きな魔石を抱え始める。
「あの、魔石をどうするんですか?」
「こうするんじゃ、まあ見ておれ」
といいながら、アザトースという魔王はそれを抱えたまま胸に当てる。するとその胴体ほどの大きさの赤い宝石はみるみるうちに魔王の中に取り込まれていく。やがてそれは乾いたスポンジに吸われたトマトジュースのように、見る見るうちにあの漆黒の身体の中に吸い込まれてしまった。
「えっ、魔石って、そうやって取り込むものなんですか?」
「そうじゃよ。残りもいただこうか」
と言いながら、それ以外の六個の石についても次々に胸に当てて、吸い込んでしまう。
「ふう、これでこの先三百年は困らぬであろう」
女子中学生か高校生程度の娘が振る舞う手品を見せつけられているような錯覚に襲われる。しかし今、目の前で起きた出来事は、確かに我々の人智を超えた現象であることは間違いない。
「さて、三百年ぶりに妾の力をみせてやろうかな」
と、魔石を取り込んだこの真っ黒な魔王は、何やら物騒なことを言い出す。
「あの、力を見せるとは、何をするつもりなので?」
「見ておればわかる。そりゃ!」
まさか、あの雷をバンバン落とすつもりじゃないだろうな? そう思い身構えた僕の前で魔王は、浮かび始める。
えっ、空中に浮遊できるのか、この魔王は。徐々に高さを増すが、僕の背丈の少し上の辺りで止まる。しかし空に浮かび上がって何をするつもりだ? 僕は起こりうる不測の事態に備え、カタリーナを抱き寄せる。
「どうじゃ!」
が、カタリーナを抱き寄せた僕に向かって、自慢げに叫ぶ魔王。だが、見たところ空に浮かんでいること以外には、特に変わった様子はない。僕は尋ねる。
「あの……何か仕掛けたのですか?」
「何かって、見ればわかるじゃろう」
「ええと、よく分かっていないのですが」
「何をいうておる! 妾はこうして浮かんでおるではないか!」
ちょっと待って、魔王の力って、空に浮かぶことだけ? てっきりもっとヤバい現象を見せられるのかと思っていたが、正直言って拍子抜けだ。
「あ、あの、てっきり雷でも落とすのかと思ってたので」
「なんじゃ、落としてほしいのか?」
「い、いえ、結構です!」
「それも妾の力ではあるが、ほれ、宙に浮くことはそれよりもさらに凄い力であるぞ。そなたには分からぬというのか?」
と、いちいち上から目線な物言いで僕に語りかける魔王だが、言われてみれば確かに、空中に浮かぶこと自体はとんでもないことだ。
雷なんてものは、ある一定以上の電気を溜め込んでやれば作り出せないことはない。それ自体はとんでもないことではあるのだが、宙に浮かぶというのは自然の摂理上、あり得ないことである。
我々が人型重機や哨戒機、駆逐艦を宙に浮かせることができるのは、重力子エンジンという機関のおかげだ。こいつが重力や反重力を生み出してくれるおかげで、それを船内の重力や加速度の相殺、船の動力として使うことができている。だが、その重力子エンジンは途轍もない量のエネルギーを消費する。それだけ重力子という、重力に逆らうことができる素粒子を制御する機関は莫大な力を必要としているのだ。
だから、身長百四十センチほどの娘が引力に逆らって空に浮かぶことなど、理論上はあり得ない事象だ。だから実はとんでもないことをしているのだが、落雷と比べると見た目があまりに地味であるため、つい過小に見てしまった。
「確かに、空に浮かぶというのはとんでもないことですね。しかしこれでは、ますますサキュバスにしか……」
「おい、そなた今、何か失礼なことを口走らなんだか!? その頭上に、雷を落としてやろうか!」
「ああ、いや、何でもありません!」
おっかないやつだ。滅多なことを口走るものじゃないな。このままここに長居をしては、本当に雷を落とされかねない。用事も済んだことだし、さっさと立ち去ろう。
「では、アザトース様。用事も済みましたので、我々はこれで引き上げます」
「おい、待たれよ。もう一つ、頼み事ができた」
「頼み事? なんでしょうか」
「うむ、妾はそのカタリーナとやらに乗り移って、それで分かったことがあるのじゃ」
「はあ、左様ですか。で、何が分かったんですか?」
「そなたらの生活じゃよ。そなたら人間のくせして、随分と贅を尽くした暮らしをしておるのじゃな」
なにやら見下した言い草だな。僕は少しムッとする。
「で、その願い事とは一体、なんなのですか?」
「うむ、妾をそなたらの街に、連れて行ってほしいのじゃ」
◇◇◇
「ねえ、ルビーに込められた意味って、知ってるかしら?」
結局、私はある宝石店でルビーの首飾りを買わされた。宿舎に戻り、私の横でそれを身につけて見せるエカチェリーナ。その胸元でひと際赤く光る赤い石を見せびらかしながら、私にこう尋ねる。
「さあな。宝石には興味がない」
「つまんないこと言うわね。でもルビーの持つ意味を知ったら、そうも言ってられないわ」
「じゃあ聞くが、どんな意味があるんだ?」
「昔から、勝利をもたらす石とされてるのよ」
たかが宝石の持つ縁起など、私はあまり興味はない。が、軍人であるからか、このエカチェリーナの言葉にはつい意識が向いてしまう。
「あらゆる困難から持ち主を守り、勝利をもたらす石、それがルビーなんですって。それを知って私、すぐに欲しくなっちゃったのよ」
「なるほど、宝石なんてあまり興味があるように見えなかったのに、急におねだりしてきたのはそういうことか」
「そうよ。でも、これを身につけるだけで勝利が転がり込んでくるのよ。決してあなたにとっても無関係な話ではないでしょう?」
こんな首飾りをつけただけで勝利が転がり込んでくるのならば、いくらでもつけてやる。が、実際にはただの装飾品にすぎない。たかが小指の先ほどの大きさの石が、我が艦隊に勝利をもたらしてくれるわけがないだろう。
「まあ、いいんじゃないか。信じる者は、その力を発揮できると言うし」
「なんなのよ。あなたはこの話、信じないっていうの?」
「信じられるほどの根拠が見当たらないな。あくまでも昔からの言い伝えに過ぎないんだろう?」
と、私のこの冷めた意見を聞いてややヘソを曲げ始めたエカチェリーナ。だが、私としてはその胸元の石よりも、その石がついたその周辺にこそ興味がある。で、結局、私はそのまま石などそっちのけで、エカチェリーナをベッドの上に押し倒す。その赤い石よりも深淵なるものに手を伸ばす。
とはいえ、まったく今の話に興味を抱いていないわけではない。縁起物とはいえ、ほんのわずかでもその力があるのであれば、あるいは次こそはあの機動艦隊に勝てるのではないか?
いつも紙一重のところでお互い、決定的な勝利を得られていない。ということは、ほんのわずか運が向いただけで、相手に勝利することができることになる。わずかでも勝利の兆しを得られると言うのであれば、こんな赤い石の一つや二つ、安いものだ。




