#30 憑依
で、あれから敵は一度、一個艦隊を繰り出して建設中の要塞へ総攻撃をかけてきた。もちろん、こちら側も応戦、我が第二遠征艦隊を含む一万一千隻でこれを迎え撃つ。結果、敵は引き上げていった。
しかし、今度の作戦にはあの強襲艦隊は出てこなかったな。こちらも機動力を使った作戦をせず、標準的な横陣形による正面決戦を行うにとどめた。敵が目的を果たすには、我々に大損害を与えて突破しなくてはならないが、我々は引き分け以上の戦いをすればいい。そんな戦いで、リスクの高い行動をする必然性はない。
そんな艦隊決戦を終えて、ちょうど補給のために我が艦隊の本来の旗艦である戦艦ハンブルグへと立ち寄ることになった。すでにコアが組み上がり、その外壁部分を組み始めた要塞の背後に移動し、そこで我が艦隊は順次補給を行っていた。
が、そこに意外な人物が訪れる。
「旦那様、陣中見舞いに参りましたわ」
なんと、カタリーナがいつもの取り巻き三人と共に、ここ戦艦ハンブルグに現れた。で、取り巻きの前だからだろうが、いつものお堅い貴族令嬢として振る舞う。
「な、長旅ご苦労。まだ少しやるべきことがあるから、ホテルで待っていてもらえるかな」
僕がそう答えると、カタリーナは一礼して、三人を引き連れたままこの司令官室を出る。突然の訪問を受けて驚いたが、一方で僕はカタリーナに再会できてちょっと嬉しかった。
が、なぜだろうか。今日のカタリーナは少し、堅すぎないか? あんな雰囲気だったか? いくら令嬢モードの時でも、もう少し言葉が多い気がするが、今日は言葉少なめ、無口すぎる。そのせいかいつもと雰囲気が違う。
「えーっ? いつも通りでしたよ。あんなものでしょう、カタリーナさんは」
直後のブリーフィングにて、僕はヴァルター中尉にカタリーナのことを尋ねてみた。が、特に変わりはないとこの士官は言う。うーん、やっぱり気のせいだったのだろうか。それとも長いこと離れていたから、少し不機嫌だったのかもしれない。
ならば、オフの時はうんと甘えさせてあげないといけないな。そう思いながら僕は、カタリーナが待つホテルの一室へと向かう。
「おかえりなさいませ、旦那様」
が、部屋に入っても、カタリーナは妙によそよそしいままだ。おかしいな、いつもならばもう少しデレッとした態度を取るべき雰囲気だが、何かあったのだろうか?
「あの、カタリーナさん、今日は一段とご機嫌が悪いようですね……」
何が機嫌を損ねたのか分からないが、これでは以前のあのツンツン状態に逆戻りだ。それは精神的に耐えられない。だから僕はやんわりと探るべく、こう尋ねてみた。
が、カタリーナはこう告げる。
「ふむ、こやつ、妾がすっかりカタリーナとやらだと思うておるようじゃな」
いつもとは違う口調で語り出したカタリーナ。いや、これは明らかにカタリーナではない。さすがの僕でも分かる。そういえば雰囲気も令嬢モードのカタリーナ以上の威圧感を醸し出している。
「誰だ!」
僕はそのカタリーナに叫ぶ。するとそいつはこう答える。
「身体は正真正銘の『カタリーナ』であるぞ。ただし、今は妾が乗り移っておるがな」
やはりカタリーナではないな。しかも、乗り移っているだと? いや、そんな非現実的なことがあるわけがない。僕は真っ先に、二重人格を疑う。
「まさかとは思うが、カタリーナの中にあるもう一つの人格、というのではないだろうな?」
「違うな。全く別の人格、いやそもそも妾は人ではない」
「えっ!? ひ、人じゃないって、まさか幽霊……」
「幽霊か、まあ、近いといえば近いが、ちょっと違うな」
焦らすように答えるこの人物、いや、化け物というべきか、ともかくカタリーナに乗り移った得体の知れないその憑依体は、なかなか正体を告げようとしない。
「あなたは一体、なんなのですか。そしてなぜカタリーナに取り憑いた? 察するに、僕に用事があるようですが、ことと次第によってはその要求を拒否、我々の科学力を結集して、あなたをカタリーナの身体から追い出しにかかりますよ」
業を煮やした僕がそう告げると、ようやく話が進展し始める。
「まあ、そう怒るな。妾の名はアザトース。そなたとは一度、ある場所で会っておる」
なんだと、アザトースなんて人、いや化け物なんて知らない。訝しげな僕に、このアザトースというやつは続ける。
「ほれ、あの黒光りした山での雷、あれを放った者じゃといえば、どうじゃ?」
それを聞いた僕は、即座にこう答える。
「えっ、まさかあなた、魔王!?」
「うむ、そうじゃ、妾こそ魔王アザトースじゃ」
なんてことだ、カタリーナに乗り移っているのは魔王だというのか。僕はさらに尋ねる。
「ちょっとまて、あの時、あの場所を我々が荒らしたから、その復讐に来たというんじゃないだろうな?」
「復讐? なぜ妾がそなたに復讐などせねばならぬのか」
「いやだって、あの場所って魔王の住処であり、あの黒い岩山を荒らす人間を容赦なく襲うと聞いたので」
「そんなわけなかろう。大体、妾に直接嫌がらせをするわけでもなければ、いちいち人間の相手などせぬわ」
「では一体、なんのためにカタリーナに乗り移っているのですか?」
「フリッツ・アルトマイヤー少将よ、そなたに頼み事があるからじゃ」
「えっ、頼み事?」
「うむ。そなたならばできると思うて、それでわざわざこの小娘に乗り移って来たというわけじゃよ」
魔王が僕に、頼み事があるらしい。しかし、僕は今のやりとりで一つ、気になることがある。
「ちょっと待ってください。その前にどうしてあなたは、僕の名をご存知なのですか?」
「そなたはあの石砦を作ろうとした者らを追い出そうとした際に、そなたは名乗っておったではないか」
ああ、そういえば名乗ったな。名乗らないままではボードメゼーヴェ王国の者たちに不信感を抱かせるのではないかと、ついフルネームで名乗ってしまった。まさかとは思うが、この魔王、僕の名を知ったことでここに現れたというのか?
しかし頼み事とは何だろうか。僕はそれを聞く前に尋ねた。
「あの、その頼み事を聞けば、あなたはカタリーナから出ていってくれるんですか?」
「それは約束しよう。妾もいつまでもこの小娘にしがみついておるわけにはいかぬ。そなたが妾の話を聞き入れてくれるというのであれば、すぐにでも抜け出そうぞ」
魔王相手に約束なんて、どれくらい信頼できるのかは分からない。が、ともかく今はカタリーナを助け出すことが優先だ。まずは話を聞くことにする。
「で、妾の頼み事とは、魔石を採って来てほしい、ただそれだけじゃ」
ところがである、突然この魔王とやらは、意味不明なことを言い出す。
「あの、一つ質問ですが、なんですか魔石って?」
「うむ、真っ赤な宝石じゃ。それもとびきり大きなやつを採って来てほしいのじゃよ」
「いや、採って来てほしいと言われても、魔石ってどこに行けば取れるのですか?」
「ちょうどこの辺りに、真っ白な奇妙な星があるじゃろう」
「真っ白って……もしかして、中性子星のことですか?」
「そう呼んでおるのか。ともかくじゃ、その星の周りをさらに小さな星が回っておる。その星の上には、その魔石が多量にあるのじゃよ」
「はぁ、つまりその魔石とやらを持ってくればよろしいのですね?」
「その通りじゃ。以前ならば妾自身で採りにいけたのじゃが、三百年もの間、封印されておったからの。その間に力をほとんど失ってしもうた。ゆえにそなたに頼むしかないのじゃよ」
なんだか妙なことになって来たな。なにゆえ僕はこいつのために、その魔石とやらを採りに行かなくてはならないのか。いや、それ以上にこの魔王、その魔石を手に入れてどうするつもりなのか?
「我々は、あの星の安全保障を担う軍組織です。まさかその魔石とやらを手に入れて、その後にあの星の上で災害や混乱を引き起こそうと企んでいるのではないでしょうね。だとすれば、我々はその要求を聞き入れるわけにはいかないのですが、いかがですか?」
「災害? 混乱? なぜ妾がそんなことをせねばならぬ」
「だって、魔王なのでしょう?」
「別に魔王だからといって、人間どものやることに妾はいちいち干渉などせぬ。妾はただ平穏に暮らせればそれで良い」
「しかし、あなたの住処であるチェズレ山の周辺を、我々はまさに開発しようとしてますよ。それを邪魔する意図があるんじゃないですか」
「だから言っとるじゃろうが。妾の邪魔をせねば、妾は何もせぬと」
「ですが、あの山にある黒い石、あれが我々の採掘するべき鉱石なのです。あれを採ろうとすれば魔王の怒りをかい、呪いを受けるという言い伝えがあるのだと僕は聞いてますよ」
「黒い石? あんなもの、妾はいらぬ。妾がほしいのは赤い石だけじゃ。だいたい誰じゃ、そんなくだらぬ話を作り出したのは」
なんだか随分と伝承とは違う魔王だな。しかしさっき、三百年封印されていたと言ってたぞ。ということはやっぱり、ヤバいやつじゃないのか? そんなやつの言うことを聞き入れても、本当に大丈夫なのだろうか。
「ともかくじゃ、妾の言が聞き入れられなければ、その山にくる連中へ片っ端から嫌がらせをするぞ」
「い、嫌がらせですか?」
「そなたも見ておろう。妾は雷を落とすことができる。それがどういうことか、そなたには分かるであろう」
えっ、まさか鉱山開発の人たちに向かって雷を落とすと言ってるのか? それは困る。僕は答える。
「わ、分かりました。それじゃあその魔石というのを採って来ます。ただし、これだけは約束してください」
「なんじゃ、約束とは」
「今後、我々に対して特に生命に関わるような干渉を行わないこと。もしそれが守られない場合は、我々は武力をもってあなたを排除することになりますよ」
「物騒なことを言うやつじゃな……分かった、その取引に応じよう。それじゃ、頼んだぞ」
魔王はそう言い残すと、ふとカタリーナの力が抜ける。急に倒れる彼女を慌てて抱き抱え、ベッドに寝かせる。するとカタリーナはゆっくりと目を覚ます。
「あ……あれ? どこなのですか、ここは?」
どうやら、元に戻ったらしい。それを見た僕は、カタリーナに言う。
「僕の元に陣中見舞いに来たって、そう言ってたよ」
「えっ、だんなさ……フリッツ!? なぜフリッツがここに?」
「いや、だからカタリーナが僕に会いに来てくれたんじゃないか」
「あ、会いに来たって……ちょっと待って下さい、ここは一体、どこなのです!?」
目が覚めたら、いきなり宇宙空間の真っ只中にいるだなんて想像すらしていないようだ。だから僕はカタリーナに、ここまでの話をする。
「と、言うことは私、その魔王アザトースとやらに乗っ取られて、ここまで来てしまったと?」
「そう言うことになるね」
「なんということでしょう……武闘派で名高いアンドラーシ伯爵家に生まれながら、まさか魔王様にその身を乗っ取られるなど、なんという恥晒しでしょう。私はどのような顔で父上に顔向けすればよろしいのですか……」
などと大袈裟なことを言い出すカタリーナ。
「いやあ、そんなに深刻に考えなくてもいいと思うよ。ともかく、その魔王は僕に頼み事をするために乗り移っただけのようだし、ほら、用件が済んだら帰っていったようだし」
「何をおっしゃるのです、フリッツ! 私はあろうことか、魔王様によって汚されてしまったのですわ! うう、なんてことをしてくれたのかしら……」
なかなか立ち直ろうとしないカタリーナだが、それを見ていた僕は、良からぬことを思いつく。
「うーん、そうだね。それじゃあ僕の色に染め直さないといけないよねぇ」
「えっ、フリッツ、今なんと……ふぎゃ!」
僕はそのままカタリーナをベッドに押し倒す。魔王によって汚されたと言うならば、汚し返せばいい。そう思った僕は、カタリーナの上にのしかかり、そして思うがままにしてしまった。
それで落ち着いたのか、その後はカタリーナと共に僕はこの戦艦ハンブルグの街へと繰り出して、そのまま老舗カフェ巡りをする。魔王に乗り移られていた分を、食欲で返すカタリーナ。それにしても、相変わらずよく食うなぁ。
◇◇◇
「哨戒任務、ですか?」
「そうだ」
突然私はパザロフ大将に呼び出され、いきなり任務を言い渡される。
「あの要塞に接近する必要はない。あくまでも哨戒任務だから、周囲にいる敵のおおよその位置が掴めればいい」
「はぁ、承知しました。ですが今のところ我が艦隊の多くが点検ドック入りとなっておりまして、稼働できる艦艇があまりないのですが」
「その程度の任務なら、五十隻もあれば十分だろう。ともかく、今回の任務は戦闘ではない。極力、戦闘は回避せよ」
「はっ、ではスクリャロフ少将麾下の強襲艦隊は、哨戒任務を行うべく発進いたします」
私は大将閣下に敬礼しつつ、この任務を受ける。とはいえ、納得はしていない。哨戒任務なんて、強襲艦よりも特装された駆逐艦の方が向いているだろう。わざわざ私の艦隊が出撃する必然性があるのだろうか?
しかし、私が腑に落ちないのを察したのだろう、パザロフ大将は司令官室を出ようとする私にこう付け加える。
「前回までの貴官への任務が、最初から要塞破壊を狙ったものではないかと疑う将官も少なからずいるのだよ。だから、ごく普通の哨戒、偵察任務もしてもらわねば、その連中の意見を封じ込められない。そういうわけで、この時期に不可解な任務を押し付けることとなった。だから、今回は普通の哨戒任務をこなすことが目的だ。それを忘れないでもらいたい」
このパザロフ大将の言葉を聞いて、私はいろいろと察した。私のやや出しゃばった軍事行動に苦言を並べる連中がいるということか。それを相手にせざるを得ないパザロフ大将の苦労が偲ばれる。私は改めて敬礼し、司令官室を出た。
奇妙な言い方になるが、今回の任務は手柄を立ててはいけない任務ということになる。組織としてのバランスを取るための任務。楽ではあるが、あまりに虚しい任務だな。
しかしだ、我々連盟軍は連合側の軍事力を削ぎ、その勢力拡大を防ぐことが本来の目的であるはずだ。にもかかわらず、敵よりも味方による邪魔の方が多い気がする。足を引っ張られてばかりだな。こんな調子で、我々連盟側は連合のやつらに勝てるとでもいうのだろうか?
そういえばアルトマイヤー少将も、身内による足の引っ張り合いに付き合わされている、なんてことはあるのだろうか? 彼の戦果は、我々から見ればとてつもなく大きい。前回、私の強襲艦隊の攻撃をかわせたのも、あの指揮官であったがゆえだろう。しかも、三、四千隻の艦隊では私の強襲艦隊の要塞破壊行動を阻止できなかったというのに、たった一千隻の機動艦隊の方が私の作戦を止めてしまった。先に二回分の教訓があるとはいえ、あの大胆で予想外の動きは、並みの指揮官には到底できない。
しかし、逆に言えば先の二回までは、あの指揮官がこの要塞建設に絡むことはなかった。最初からアルトマイヤー少将にやらせておけば、あれほどの失敗を二度も繰り返すことなく、今ごろはすんなりと要塞が完成していたことだろう。どうしてやつらは最初からそうしなかったのか?
と考えると、アルトマイヤー少将も決して味方に恵まれているというわけではなさそうだ。私と同様に、いろいろと苦労しているのだろうな。そう思うと、私はあの指揮官が共通の敵を持つ友のように思えてきた。
もっとも、再び戦場で出会ったのなら、そんな悠長なことはいってられないが。
◇◇◇
『なんだと、哨戒任務に行かせてほしいだと!?』
直接通信にて、ディーステル大将に進言したこの僕の急な提案を聞いて、やはり良い反応は見せてくれなかった。そりゃ普通、驚くわな。
「はっ、少々複雑な理由がありまして、それゆえに相談させていただいたのですが」
『複雑な理由か……といっても、どこをどうたどれば第二遠征艦隊が、敵戦力など存在しない中性子星近傍まで哨戒任務に行くことになるのか、飛躍しすぎて理解できない。少し分かりやすい説明を求める』
「はっ、実は……」
ダメもとで話してみるか。僕はそう思って、カタリーナに憑依して現れた魔王と名乗る存在のこと、さらに加えて、チェズレ山で起きた不可解な落雷についても付け加えた。それをじっと聞く大将閣下。
『……つまり貴官は、その魔王アザートスの依頼で、中性子星の唯一の惑星に着陸したい、と?』
「その通りです、総司令官閣下」
『だが、そんなことをしてどうなるというのだ? 別に無視しても構わない案件ではないか。軍事上、何の意味もない話だ』
「それはそうですが、民事上には二つの問題が起こりえます」
『なんだ、その問題とは』
「はっ、一つはあのチェズレ山での開発で、死傷者が出る恐れがあるということです。現に小官はあの場にて、その晴天時の落雷というものを経験しております。どう考えてもあれは、通常の物理現象ではあり得ないため、魔王と称する怪異による仕業であると考えられます。無論、直撃すれば間違いなく死者が出ます」
『む……で、二つ目とは?』
「二つ目は、我が妻、カタリーナの身体を再び乗っ取られる恐れがあるということです。場合によっては、そのまま乗り移ってしまう可能性もあります。仮にも帝国の名門であるアンドラーシ家の令嬢が、得体の知れない怪異にその身を乗っ取られたとなれば、宮廷をも巻き込む大騒動となりかねません」
『なるほど、分かった。住人の生命や宮廷の混乱が懸念されるとなれば、認めざるを得ないな。では貴官に、中性子星周辺の哨戒任務を命じることとする』
「はっ!」
こうして、総司令官の説得には成功した。あとは、この要塞建設予定宙域における総指揮官であるバーナー中将の許可をもらえれば、すぐにでも出発できる。
しかし、あのバーナー中将が易々と許可を出してくれるものだろうか? どうも僕はあのお方に毛嫌いされているようだから、却下はできないまでもぐちぐちと文句を言いながら許可を出し渋るかもしれないな。と思いきや、意外にもあっさりと許可が下りた。
『貴官はまだ、この宙域をよく知らぬようだからな。良い機会だ、哨戒ついでにこの星域をつぶさに見てくるといい。では、武運を祈る』
なんだか随分と先輩ヅラされてしまったが、これは裏を返せば、自身の背後にあまりいられたくないという意志も働いているのではないだろうか?なんせこの間の僕が発案した作戦で、あの強襲艦隊による要塞破壊を阻止してしまった。しかも、兵士の生死より節約の方が大事と公言しているようなお方よりも、さらに安上がりな作戦で成功させてしまったのだから、バーナー中将から見れば面白くないのかも知れないな。
僕としても、ずっとあのお方の背後に控えているのも気が滅入ってくる。気晴らしに外宇宙に出てみるのも悪くない。
で、バーナー中将の許可をもらってから六時間後には、我が第二遠征艦隊一千隻は中性子星方面に向けて進発する。
「今回の作戦は単純です。中性子星から約八億キロの距離にある第一惑星に向かい、その惑星表面に降り立つ。人型重機隊でその魔石とやらを回収したのちに、速やかに撤収する。以上です」
淡々と語るヒンメル中佐だが、あまりやる気が感じられない。これほど不毛な作戦もないだろう。作戦というより、作業だ。敵にさえ遭遇しなければ、難なくこなせる任務だ。やりがいなど感じるはずもない。
「とりあえずだ、その魔石とやらがすぐに見つかるかどうかが問題だな。赤い色の宝石、としか知らされていない」
「ですが、こういうことは我々ではなく、資源開発業者に委託すべきではなかったのですか?」
「そうもいかないだろう。あの宙域は一応、連盟側の支配域だ。民間船ではとても侵入できまい」
「はっ、それはその通りであります」
僕も可能なら業者に委託したかったが、こんなところを探索してくれるようなところは見つからなかった。幸い、我が艦隊には資源探索の経験を持つ重機パイロットが所属している。だから、魔石探索は彼らに任せることとした。
「第一惑星まで、あと三百万キロ! およそ三十分後に到着予定!」
で、このなんてことない資源探索を行うため、この中性子星域唯一の惑星に向けて艦隊を進める。
まさかそこが魔王を上回る、さらなる怪異が跋扈する星であることなど、この時は知る由もなかった。




