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#26 破壊

「人型重機隊、全機発進させる! 命令書ナンバー三を開示するよう、全艦に伝達せよ!」

「はっ!」

 私のこの号令と同時に、ドルジエフ大佐の指示で発光信号が放たれる。〇〇一番艦から放たれるこの信号を受けて、各艦のハッチが開く。ちょうど直前を行く〇一一番艦、〇一四番艦のハッチの奥には、連盟側であることを示す赤褐色に染められた人型重機が何機も見える。

 その重機だが、各々の背中には大きな円筒状の物体を二つ、背負っている。それは小型の時限式核融合弾であり、もちろんあの要塞を破壊するためのものだ。

 この核融合弾を爆装した重機を、あの要塞の表面に取りつかせる。そしてこの物騒な機材を放って離脱し、時限破壊を行う。これが、事前に配布された命令書のナンバー三に書かれた作戦の概要だ。

「まさか、この命令書が実行されることになるとは……」

 ドルジエフ大佐が半ば、ぼやき気味に呟くのが聞こえる。が、私はこの参謀に構うことなく号令する。

「全機、発進!」

 私の号令と同時に、発進を告げる発光信号が放たれる。次々に強襲艦を離れていく無数の人型重機。その背中には、大きな二つの筒。あのハリボテに引導を渡すべく、九千機以上の人型重機が一斉に向かう。

「あれだけの数だ。おそらくあの偽要塞に取りつく前に、敵に察知されるだろう。重機隊の速やかな回収を行うため、我が艦隊も偽装要塞に接近する」

「はっ!」

 全ての重機を放ち、身軽になった強襲艦隊五百隻は、直径百キロのハリボテに向けて進む。私はちらっと、時計に目をやる。

 作戦に要する時間は、およそ三十分。その間、可能な限り敵に察知されないように行動する。とはいえ、こればかりは運だ。

「敵艦隊の動きは?」

「はっ、現在、敵艦隊主力は後方6万キロの地点に展開しつつあり」

「そうか」

 実は本作戦に先立ち、味方の別働隊がこの要塞に向けて接近していた。数はおよそ六千隻。連合側の四千隻の艦隊を上回る艦隊で接近し、牽制する。そうでなければ、我々のような強襲艦隊が接近することなどできない。

 その別働隊による陽動に助けられて、我々は今、あのハリボテ要塞に接近することができる。

 我が艦隊が放った人型重機隊は、目の前に広がる直径百キロの巨大な黒い物体に向けて発進、虚空の暗闇へと消えていく。

 極力発見されぬよう、我々は無線封鎖を行なっているため、放った味方と連絡を取ることができない。いつものことではあるのだが、この真っ暗闇の中で強襲艦五百隻は、ただひたすら人型重機隊の帰還を待つしかない。

 わずか三十分。しかし、この時間が無限に感じられるほど長い。前方にはハリボテながらも、多数の敵が常駐しているであろう要塞。そして後方には、四千隻の艦隊。前門の虎、後門の狼。どちらも相手にしたくはない。できればこのまま察知されず、やり過ごしたいところだ。

 しかし、そうは問屋が卸さない。予想以上に早く、敵は動いた。

「重力子反応、多数! 要塞表面、数、およそ七千!」

 やはり来たな。遅かれ早かれ、察知されるであろうことは想定していた。

「その反応の源を特定できるか!?」

「速力から航空機だと思われます! 味方の人型重機隊に向けて進撃中!」

「まずいな……重機隊を援護する。強襲艦隊、前進だ」

「はっ! 強襲艦隊、前進!」

 ドルジエフ大佐が、私の命令を復唱する。直後に、機関が鳴り響く音がこの戦闘指揮所にもこだまし始める。駆逐艦と比べたら軽い船体のこの艦は、一気に加速を始める。

 私はモニターに目を移す。要塞表面にはあらかじめ、多数の航空機が控えていたようだ。その速力からはおそらく「複座機」と呼ばれる空戦性能重視の機体と思われる。そんな機体が七千機、真っ直ぐこちらの人型重機隊に向かっているのが分かる。

 あれを我が重機隊にたどりつかせるわけにはいかない。なんとしても阻止しなければ。七千機の敵機群に、我が強襲艦隊が向かう。

「敵機群までの距離は!?」

「はっ! あと七十!」

 徐々に接近し、ついに対空機銃の射程にとらえた。私は戦闘開始の指示を出すべく、決断を迫られる。

 今ならまだ、あの航空機隊は我々強襲艦隊をとらえていない。奇襲を仕掛けるとすれば、今しかないだろう。だが攻撃と同時に、我々強襲艦隊の位置を敵に知らせることにもなる。しかし人型重機隊の援護、そして作戦成功のためにはやむを得ない。私は、決断する。

「対空戦闘、用意!」

「はっ、対空戦闘用意!」

 発光信号により、対空戦闘の命令が伝達される。電波によるデータリンクと比べると、発光信号というやつは送信できる情報が極めて少ないため、どうしても反応が遅い。

 指揮官としては、このタイムラグが実にまどろこしい。なかなか始まらない発砲に、苛立ちを募らせる。攻撃前に敵航空隊に察知されてしまえば、我々の方が危うくなる。この一瞬の差が命取りだ。

「対空戦闘、攻撃始め!」

「攻撃始め、撃てーっ!」

 ようやく、味方の足並みが揃い始める。一斉に放たれる対空機銃、まるでゲリラ豪雨のように降り注がれる青白い光の筋は、敵航空隊が潜む闇に向かって一斉に注がれる。と、同時に、幾つもの白い光の球、すなわち爆発光が目に飛び込む。

「電波管制解除! データリンク接続、戦果を知らせ!」

 もはや位置がバレてしまっては、無電封鎖する意味がない。レーダーや無線、および強襲艦や人型重機とのネットワーク接続を確保し、先の一撃で得られた戦果をモニターにて可視化させる。

「七千機のうち、およそ一千機が消滅、被害甚大の模様」

「そうか」

 ドルジエフ大佐が私に報告する。たった一撃で七分の一を消滅、戦果としては決して悪くはない。が、まだ六千機もいる。この際は戦果よりも、生き残った数の方が重要だ。なにせ我々はこれから、この六千機もの航空機隊を相手にしなくてはならないのだから。

「航空機隊の動きは、どうか?」

「はっ、一部がこちらに向かって転進しました」

「やはりな……で、どれくらいこの艦隊に引き寄せたか?」

「およそ二千。残り四千機が、人型重機隊めがけて進軍中です」

 たかが五百隻なら、二千機で十分と考えたのだろう。その判断は間違ってはいない。こちらはほとんど護衛機のいない強襲艦五百隻。一隻あたり四機もいれば、十分すぎる相手だ。

 だから私は、すぐに指示を出す。

「強襲艦隊、全速離脱、急げ!」

 まともに当たれば勝ち目はない。ならばあの航空機を上回る強襲艦の機動力で逃げるしかない。機関を全開にして、この宙域を離れる。

 が、敵もこの動きをただ指をくわえて見ているわけではない。要塞表面近くでの異変を察知して、今度は敵の艦隊主力が動き出す。

「敵艦隊主力四千、転舵反転、こちらに向かってきます!」

 艦艇の持つ機動力に対抗できるのは艦艇しかない。だから敵も艦隊をもってこちらに対抗しようとしている。距離は五万キロ、射程内にいる我々は当然、このままでは狙い撃ちにされる。

「忙しいことだ。このままでは、艦砲から狙い撃ちだな」

「はっ!」

「仕方がない、あの要塞に取りつくぞ」

 このまま大きく弧を描きつつ左旋回して、私は自身の指揮する五百隻を要塞へと向かわせる。直後、駆逐艦からの砲撃がすぐ脇をかすめ始める。

 高速に移動する強襲艦隊を狙い撃ちにできるわけがないが、まぐれ当たりもありうる。恐怖と隣り合わせのまま、自艦隊をあの直径百キロの物体へと差し向ける。私はこの修羅場の最中、チラッと時計に目をやる。

「……そろそろか」

 すでに作戦開始から二十五分が経っていた。予定通りならば、我が重機隊があのハリボテの表面に核融合弾を仕掛け終えた頃だ。

「全艦に指令、人型重機隊を全機回収する」

「はっ!」

「で、重機隊の位置は?」

「当艦隊前方、三百キロ。要塞表面にて現在、航空機隊と交戦中の模様」

「くそっ、交戦中か……しかたあるまい、すぐに救援に向かうぞ」

 そういえば四千機の航空機隊が我が重機隊に向かっていた。あれが追いつき、重機隊と交戦しているようだ。後方からは駆逐艦の砲撃、前方には航空機隊。こんなところで、味方の重機隊を回収しなきゃならない。無理難題すぎるだろう、これは。

「陽動中の艦隊司令官、レオーノフ中将に連絡だ。援護を乞う、と」

「はっ!」

 こうなったら、陽動だのなんだのと言ってられない。牽制のために配置されたあの六千の艦隊にも動いてもらう。ドルジエフ大佐が通信士に指示を出し、私の救援要請を伝えている。

 が、モニターを見れば、我々の動きに連動してレオーノフ中将は動き始めていた。敵の艦隊が背を見せたため、艦隊を前進させたようだ。この動きにより、あの四千隻の敵艦隊主力も動かざるを得ない。再び転舵し、陽動艦隊と対峙する。

 後方の恐怖が失せたものの、依然として航空機隊という厄介な存在は残る。乱戦状態にある人型重機隊を速やかに回収し、この宙域から離脱する。普通に考えれば、至難の業だ。

 だが、こんな時のための秘策が、私にはある。

 私は、アルトマイヤー少将のあの作戦、すなわち停船無しに人型重機を回収する方法を、自分なりに考えてみた。一度発進させた人型重機や航空機を、いかに速やかに回収するか。特に今度のように敵施設の懐深くに潜入した場合は、それは切実な課題だ。

 で、今回、私は停船することなく人型重機隊を回収する技を編み出した。ただそれは、正直あまりやりたくない手ではあるのだが。

「例の作戦で重機隊を回収する。重機隊に連絡、全機、離脱準備!」

「はっ! 全機に離脱準備を伝達します!」

 すでに人型重機隊まで四十キロまで迫っていた。そこには我が重機隊九千機だけでなく、敵の航空機隊もいる。当初、我々を追っていたあの二千機も合流し、その数は六千機。偽装要塞表面のこの狭い宙域に、一万五千機の機体と五百隻の強襲艦がひしめき合っていることになる。

「対空戦闘、始め!」

 当然、対空機銃にて応戦するしかない。バリバリと響き渡る対空機銃の発射音とともに、窓の外には青白い無数の光の筋が通り過ぎる。パッパッと、白い光の球が時折光る。

「味方の重機隊、要塞表面を離れます。接触まで、あと一分」

「よし、このまま相対速度を合わせつつ、回収作業に入るぞ。急げ!」

 敵航空機隊が迫る中、離脱を試みる重機隊。しかしまだ戦闘は続いている。こちらも機銃で対抗するが、あちらも強襲艦隊に向けて撃ってくる。これほど危険な戦場は、この間の大会戦でのアルトマイヤー艦隊に追い詰められた時以来だな。

「敵航空機隊、接近!」

「構うな! シールド展開、強行突入する!」

 ビシビシと、シールドに敵航空機の放つビームが着弾する。たかが航空機の放つビームとはいえ、当たれば強襲艦といえど、無事では済まない。だから、生きた心地がしない。

 だがそんな乱戦の中、我が艦隊は人型重機隊へと接近を試みる。そして接近した重機からは、あるものが放たれる。

 大型の繋留用フックのついたワイヤーだ。それを次々に強襲艦に向けて放ち、引っ掛ける。ガツンガツンと、船体にフックの刺さる音が響く。当然だがこれは、強襲艦そのものを傷つける。

 だが一旦それが引っかかってしまえば、あとは引っ張るだけでいい。あとは強襲艦の持つ機動力でもってこの宙域を離脱できる。いちいちハッチの中に回収していたら、外にいる航空機隊に狙い撃ちされてしまう。それならばまだ、艦が傷だらけになる方がマシだ。

 自身に所属する重機が回収できた艦から順に、この宙域を離脱する。その際には、以前にも使ったあの雑電波弾を発動させる。敵航空機隊も執拗に追いかけてくるが、銃器を回収した五百隻は次々に離脱し、やがて全艦、その宙域を離れることに成功した。

 そして作戦開始から四十分後。我々は要塞から三十万キロの地点まで離れていた。そこで一旦停船して、人型重機隊の回収作業に入る。

「撃沈十一、未帰還機七十五、損傷艦は七、損傷機多数。以上です」

 で、その間にドルジエフ大佐が我が艦隊の損害報告を私にしてきた。それを黙って聞きながらうなずくしかない。やはり、無傷とはいかなかったか。

 その回収作業中に、あの偽装要塞の方向から強い光が放たれる。設置した核融合弾の炸裂により放たれたその光は、あの要塞の大部分を吹き飛ばした。陽動艦隊と交戦中だった敵四千隻の主力艦隊はそれを見て動揺し、後退に転じる。

 結果的に、この宙域には巨大な鉄屑と、戦意を喪失した敵の艦隊が残る。とはいえ、多大な損害を出しつつも踏ん張り続けたあの四千隻の敵艦隊のおかげで、我々はこの宙域を奪還することは叶わなかった。

 まあいい、要塞建設阻止という、当初の目的は果たされた。本来ならば我々の任務は偵察であったが、結果的に要塞を破壊してしまったのだから仕方がない。パザロフ大将も、その結果を受けていちいち咎めることはしないだろう。


◇◇◇


「へぇ、なるほど、そんな手があったんですね」

 僕が思わず呟いたこの一言は、この部会に参加する将官らの険しい視線を集めることになる。特にバーナー中将からのそれは、まるでナイフのように鋭く僕の頬の辺りをえぐり取らんとする勢いだ。

 ちなみに僕が感心してしまったのは、あの強襲艦隊の人型重機隊の回収方法だ。僕のやったあのナノチューブワイヤー式に近いとはいえ、なかなかうまく考えたものだ。船体に傷がつくのが難点だろうが、もたついて艦艇ごと消滅することを思えばその程度、大したことではない。

「……というわけで、偽装した要塞も、建築機材の大半も、ほとんどが使い物にならなくなってしまった。現在、ユルゲルス中将の三千隻を加えた六千の艦隊が、あの宙域の防衛任務に就いている」

 元々はバーナー中将の四千隻がいたあの宙域に、先日手痛い敗北を経験したユルゲルス中将麾下の三千隻が加わって防衛任務に就いているのだが、バーナー中将の艦隊はこの戦いにて五百隻近くを失い、さらに五百隻近くの艦艇が損傷したため後退し、稼働できる艦艇が三千隻まで減ってしまった。とてつもない損害である。

 そんな重苦しい雰囲気の中で、僕は敵の重機隊回収手段を聞いて感心してしまったというわけだ。そりゃあ恨まれるだろうな。

「と、いうことだが、要塞建設を諦めるわけにはいかない。よって、この先どのような手段を取るべきか、貴官らの意見を聞きたい」

 と、並いる将官に尋ねるディーステル大将だが、今度ばかりは誰からも意見が出てこない。ほぼ完璧と言えるほどの偽装ぶりを見破られた上に、そのほとんどが破壊されてしまった。見知らぬ間に接近して破壊、颯爽と去っていくあの強襲艦隊の活躍ぶりを前に、その対抗手段を言い出せるものがいないのだろう。

 だから僕は、この沈黙する部会の中で挙手する。

「アルトマイヤー少将、何か妙案でもあるのか?」

 ディーステル大将が、この時を待っていたかのようにこう言い放つ。それに僕は、こう答える。

「総司令官閣下、小官にもっと安上がりで効果的な案があるのですが、いかがでしょうか?」

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[良い点] 長射程砲撃の時代に至近距離での殴り合い。 …燃えました。 [気になる点] どんな方法なんだろう? 次回が楽しみです。
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