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#24 魔王

「強襲艦〇〇一番艦、発進いたします!」

 我が艦隊にも一応、強襲艦というものは存在する。ただしそれは、たった十隻しかない。その一隻を駆り出し、例の王国の侵略行為を阻止するべく発進する。

「なあ、フリッツよ」

「なんだ、ヨーナス」

「こんなこと、ほんとにやってもいいのかよ?」

「お前、まさか自信がないのか?」

「いや、そういうわけじゃないが、俺の良心が痛むというかだな……」

「何を今さら良心などと言い出すんだ。昔はあれだけやりたい放題だったというのに」

「いやあ、だけど俺は人を騙したりはしていないぞ。それだけは胸を張っていいきれるがな」

「別に騙すわけじゃない。ただ、一人の命も失わせず、穏便に事を運ぶための策だ。問題はない」

 すっかり弱気なこの人型重機隊長を消しかけて、僕はあのチェズレ山に向けて発進する。

「監視衛星による映像です。切り出された岩が、徐々に集められておりますね」

「そうだな。だが、まだ砦自体を作り始めてはいないようだな」

「そのようです。今ならまだ、大した損害とはならないでしょうね」

 ヒンメル中佐が、チェズレ山麓にあるボードメゼーヴァ王国の簡易砦周辺の動きを報告する。その映像を見ながら、僕はこれから行う作戦をもう一度、練り直していた。

「ねえ、フリッツ。ほんとに大丈夫なのかしら?」

 そんなところに、もう一人の心配性な人物が現れる。その人物は、手に扇子を持ち、口元を隠しながらそう言い出す。

「大丈夫だって、多分。まあ、なんとかなるよ」

「本当かしら? でも、神話では黒い雲が現れるのですわよ。外を見回しても、そんな雲は見当たりませんわ」

 カタリーナには、この艦に補佐役として乗ってもらった。この作戦には、あの神話が大きな鍵となる。だから、それをよく知る人物の参加が不可欠だ。

「雲なら大丈夫だ。もう準備できている」

「フリッツ、雲の準備って、何のことです?」

 何を言っているのか理解していないようだが、すでに作戦は動き出している。いちいち説明するより、それを見てもらった方が早いだろう。そう思った僕は、ただ笑って答えるにとどめた。


◇◇◇


「パザロフ大将、お話があります」

 私は司令官室へ乗り込む。あの要塞に関する提案を、直接パザロフ大将に進言するためだ。もちろん、大将閣下は私の訪問を拒んだものの、私が強く要望したため、渋々受けれる。

「で、なんだ、スクリャロフ少将。本来なら部会以外の場で私に直接、進言することは禁じられているはずだがな」

「いえ、閣下に進言は致しません。ただ、私の独り言を聞いていただくだけでございます」

「それを進言というのではないか?」

「この場にて判断は仰ぎません、ただ私の独り言を、聞いていただきます」

「無茶苦茶いうな、この男は……」

 私も、無茶苦茶だと思う。が、次の部会を待つ猶予がない。直ちに動かねば、おそらくあれを決定的に破壊する機会を逸すると思ったからこそ、あえてここに飛び込んだ。

「あの要塞ですが、やはりハリボテでしょう。私はそう、確信しています」

 私の言葉に聞き耳を立てながらも、一瞬その表情が曇る。何か言いたげだが、そこはあえて黙り続ける。

「そのハリボテを、我が艦隊ならば一瞬にして暴いて見せましょう。では」

 私は黙る大将閣下にそう言い残し、私は敬礼したのちにその部屋を出る。

 あとは、どう判断されるかは大将閣下次第だ。私は、これ以上のことは決められない。もっとも、我が軍は今、あの要塞に関して手詰まりな状態だ。私のあの言葉に興味を抱かないはずがない。絶対に、私の進言、じゃない、独り言を受け入れてくれる。その核心があるからこその「独り言」だ。

 さて、私はあのハリボテ要塞に挑むことになる。その時、私の艦隊の前に立ちはだかるのはあの男か、それとも他の凡将か。私としては後者を望みたいが、これがやつを叩く機会となるかもしれないと考えると、やはり前者をも望む。贅沢な悩みだ。


◇◇◇


「〇〇一番艦、よーいよーい! 降下降下降下ぁ!」

 いよいよ、作戦は開始される。二十機の人型重機が順次、射出される。その一機、「レモンサワー」に僕は乗り込んでいる。

 ここから先、僕は「虚言」を並べなくてはならない。いや、あながち嘘というわけでもないが、厳密に言えばそれは、真実ではない。

 その二十機の向かう先は、例の砦建設地だ。山の麓の、黒い石が積み上げられたその場所に、人型重機が次々と降り立つ。

 突如、空中から現れたこの体長九メートルの化け物を見て、その崩された岩の周りに群がる二、三十人ほどの職人と兵士らは慌ててその石の後ろに隠れる。

 兵士らは抜刀し、明らかにこちらに敵意を向ける。それはそうだろう。やつらは間違いなく、我々を敵と認識しただろうから。しかしこの二十機の人型重機は、彼らに背を向けながら降りる。唯一、この「レモンサワー」のみが彼らの方を向いて降りる。

 唖然とする彼らの前で、僕はハッチを開く。そしてこう叫ぶ。

「小官は、地球(アース)一〇七所属のフリッツ・アルトマイヤー少将だ! あなた方に告げる、直ちに逃げろっ!」

 いきなり、何を言い出すのかと思っただろう。襲いかかるはずの相手が、その相手に向かって逃げろという。非常識にも程があるだろう、と。

 だが、僕は続ける。

「時間がない、すぐに、できるだけ遠くに逃げるんだ! 早く!」

 僕の慌てた様子を見て、兵士の一人が叫ぶのが聞こえる。

「汝に尋ねる! 何から逃げろというのか!?」

 混乱しているようだな。それを察した僕は、こう答える。

「魔王だ!」

 ようやく彼らも、事態を把握したようだ。だが、ここにいる人型重機以外には、他に脅威となりうる何かが見えるわけではない。彼らが納得する何かが差し迫ってはいない。だから兵士の一人はこう答える。

「な、何をいうか! 魔王など、どこにも……」

 その兵士が言い終わるか終わらないかのうちに、事態は悪化する。兵士らの言葉が止まる。それはちょうど人型重機二十機の前に現れたものを目にしたからだろう。

 兵士ら、そして我が重機隊の目前に、巨大な黒い雲が現れた。

 それを見た兵士と職人らは、しばらく呆然と立ち尽くしていた。あまりにも突如現れたこの黒い雲に、もはや頭の理解が追いつかないと見える。

 そこで僕は、さらにダメ押しする。

「魔王は我々、重機隊が食い止める! 速やかに、この場を離れよ!」

 と、僕がそう言った直後のことだ。いきなり僕のすぐ脇、この「レモンサワー」の足元に、一発の稲妻が落ちる。

 同時に、ドドーンと鳴り響く雷鳴があたりをこだまする。落雷地点から、煙が上がる。それを見た数十人の王国人たちは、一目散に逃げ出した。

「うわーっ!」「に、逃げろ!」

 口々に叫びながらも、剣も道具もその場に投げ捨て、王国側に向かって走り始める。その集団はやがて、このチェズレ山の山麓に沿って走り続けて、山の向こうに消えた。

 それを見た僕は無線機を取り、こう告げる。

「作戦終了。各員、撤収準備に入る」

 武器を構えていた残り十九機の重機は、一斉にその銃を下ろす。「レモンサワー」もハッチを閉じて、彼らと同じ向きを向く。その「レモンサワー」を操るパイロットがこう僕に言う。

「やれやれ、随分と派手な演出だったなぁ、おい」

 それを聞いた僕は、こう答える。

「予想以上に効果があったな。まさかあれほど慌てて逃げるとは」

「そりゃあそうだろう。伝承通りの現象が目の前で起これば、この星の人間なら恐怖に襲われて当然だ」

 思いのほか、うまくいった。もうちょっと渋るかと思っていたが、ボードメゼーヴェ王国からの侵入者らがあっという間に逃げ出してくれたおかげで、我々は皇太子殿下からの依頼をさっさと片付けることができた。

「しっかしよ、ひでえもんだな」

「何がだ?」

「何がっておめえ、あんな雲まで作り出して、しかも魔王が現れたから逃げろとか、ひでえハッタリかましておいてよくその良心が痛まないものだなぁ」

「そんなことはない。考えてもみろ、誰も傷付かず、誰も恨まず、上手くことが運んだんだ。どこに良心が痛む要素があると言うんだ?」

「うわぁ、おめえやっぱり、悪辣な策士だなぁおい」

 ヨーナスのやつ、すっかりドン引きだ。だが、お前にだけは言われたくない。この手のことは、むしろ僕がこいつから習ったと思っている。今さら善人ぶるなど、図々しいにもほどがある。

 カタリーナから聞かされた、このチェズレ山に住むという黒き魔王の話。この山の岩肌を削り、山の平穏を崩そうとするものが現れると、山の向こうから真っ黒な雲が迫ってくると、その神話には謳われている。やがてその雲はその不届きものの上を覆い、やがて彼らを魔界へと誘うのだという。

 つまり、黒い雲がやってくれば、やつらはその伝承にある魔王が現れたと考えるわけだ。そう思った僕は、その黒い雲を作り出した。

 要するにだ、強襲艦にて山麓に接近し、その艦上で水蒸気発生装置と焚き火による黒い煙を起こす。するといかにも魔王が作り出した魔界へ誘う怪しげな雲が出来上がる。それを見れば、彼らは魔王が現れたと思って逃げるだろう、と。

 実際、その通りになった。あのボードメゼーヴェ王国でも同じ神話が語り継がれていると聞くが、この結果を見るにその通りだとわかる。カタリーナに長々と語られたあの神話通りの魔王を作り出すことで、僕はこの作戦を成功に導いた。

 帝国でも、我が軍のせいでもない。みんな魔王が悪い。そう言うことにしておけば、万事うまく収まる。

 だが、一つだけ僕には腑に落ちないことがある。

 確かに、黒い雲を起こし「魔王」を演出した。

 しかし、あの「落雷」はなんだったんだ?

 あんなもの、神話にも出てこなかったし、作り出してもいない。たかが水蒸気と黒い煙の雲が、雷など起こせるはずもない。

 この想定外の落雷、まさかとは思うが、魔王の仕業ではあるまいか。しかもあの雷は、この「レモンサワー」の足元に落っこちた。それってつまり、彼らではなく我々にも向けた「警告」なのではないか?

 なんだかちょっと、背筋が寒くなってきた。僕は後ろを振り返り、あの山の黒い岩肌を見る。

 別段、なんの変哲もない岩肌だ。だが、僕はそこに何か、臨在感のようなものを感じる。

 次はないぞ、と、あの黒い岩からはそう言われているような気がした。

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