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#15 帰還

 やれやれ、軍司令部の兵站部門からはかなり怒られてしまった。高価な眩光弾の使い過ぎだ、と。

 しかしあれのおかげで我が連合は勝利し、そして第二艦隊は救われた。失われる命と比べたら安いものだと思う。

「しかし、あの『犬のお散歩』作戦は秀逸なアイデアであったな。あれは我が艦隊でも広く取り入れたいものだな」

 と、戦果に満足し上機嫌なディーステル大将は、あの品のないネーミングの作戦をひどく気に入られたようだ。

 だが、おそらくは同じ手はもう通用しないだろう。次の艦隊戦で、今回と同じようにワイヤー付きの人型重機隊を発進させつつ接近する手を使い続ければ、いずれなんらかの対策をされて反撃を受ける羽目になるかもしれない。こと軍事に関しては、成功体験にしがみつくと痛い目に遭うものだ。相手はすぐに対応策を練ってくるものだと考えてちょうどいいと思う。

 ともかく僕は怒られつつも変な褒められ方をした総司令部のある戦艦ヴュルテンベルクの艦橋を後にし、その艦の街に向かう。

「へぇ、この艦の街って見るからに新しいですよねぇ」

 ヴァルター中尉の言う通り、この艦は建造されてまだ十年と経たない新造艦だ。立ち並ぶビルの多くは白さ際立ち、劣化が進んでいないことを物語る。

 店もどことなくおしゃれだ。ヴァルター中尉好みな店も多く、さっきから落ち着かない。

「けっ、総司令部の司令官どもめ、自分たちだけ良い船に乗りやがって」

 一方、この街を見て文句を言うのは、エーベルス大尉、いや、ここではヨーナスでいいか。ともかくこの悪友は、要するにこの街が羨ましいらしい。

「そうか? 僕は戦艦ハンブルグの街の方が歴史感が漂っていて気に入ってるが」

「はぁ!? あんなカビ臭い街のどこがいいんだよ!」

 ところで、僕はどうしてこの二人に挟まれているのかといえば、つまり相手がおらず手持ち無沙汰なやつを、僕が引き受けてしまったからだ。

 そういえばヴァルター中尉は、〇〇〇一号艦に二人いる女性士官の一人である。もう一人の、主計科所属のブレッヒ准尉と仲がよかったはずなのに、どうして一緒にいないのかと尋ねる。

「あー、彼女はヒンメル中佐に取られちゃいましたからぁ」

 だそうだ。そういえばヒンメル中佐が妙に熱かったのは、彼女と付き合い始めたからのようだ。なんだ、ヒンメル中佐のやつ、浮かれていたのか。

 ならば、ここにいるヨーナスとヴァルター中尉を引っ付けてしまえばちょうどいいのではないか……と思うのだが、この二人、さっきから僕としか会話をしておらず、互いに話そうとしない。

 なんとなくだがこの二人、相性が悪そうだ。側から見ていても、水と油、おしゃれとガサツ。共通する話題もなければ、互いの容姿にも関心が無いようで、結局話すきっかけすら掴めない。まあ、敢えてわざわざ引き合わせるメリットもないし、僕は特に介入はしない。

 で、この交わろうとしない二人を伴い入った店は、新しいファーストフード店だ。

「いらっしゃいませ! こちらでお召し上がりですか!?」

 将官の飾緒付きの軍服を着た僕に、何ら物怖じせず接客する店員。ここは総司令部のある艦の街だから、当然と言えば当然……でもないな。ここの店員はそれだけ将官慣れしてるってことはつまり、ファーストフード好きな将官が多いということになるのか?

 と、店内を見れば、将官はいないが確かに佐官クラスの軍服は多いな。だが、将官は見当たらない。ふと思ったのだが、店員からすれば佐官も将官もたいした違いはないのだろうか。などといろいろ勘ぐってしまう。

 で、それぞれが各々のセットメニューを注文して、黙々と食べ始める。このまま静かに食事が終わるかと思っていたら、ヨーナスのこの一言がきっかけで、この静寂が打ち破られる。

「そういやあお前、あの婚約者とは今、どうなってるんだ?」

 この発言に、ヴァルター中尉まで食いついてきた。

「えっ、あのお嬢様と、何かあったんですか!?」

「何かっておめえ、俺はあの伯爵様冤罪事件の際に、こいつんところに転がり込んできたあの令嬢を司令部まで運んだんだぜ」

「えっ!? そんなことがあったんですか!」

 どうしてここで急に意気投合し出すのかなぁ、この二人は。

「いや、転がり込んだって、あれは屋敷にいたら足手まといだからと言うことで、仕方なくだなぁ……」

「おいフリッツよ、お前何言ってるんだ? あの時、俺が司令部にあのお嬢様を連れて行ったのは、足手まといだったからなのか?」

 あ、しまった。転がり込んだと言われたので、思わずその後日の方を話してしまった。時系列を誤った。誤魔化さなくては。

「えっ!? もしかしてあのお嬢様今は、提督のうちに転がり込んでるってことですかぁ!?」

「そうだよなぁ、明らかに今の話は、聞き捨てならねえな。おい、詳しく聞かせろ」

 なんか罠にかかってしまったみたいだな。いや、自業自得ではあるのだが、どうしようか、これ。

「そ、そういえばヒンメル中佐の相手って、誰だったっけ?」

「おい、参謀の話なんざぁどうでもいい。俺はお前と伯爵令嬢のことを聞いてるんだ」

「そうですよ。あんな堅物な士官と軟弱な准尉の話なんて、普通すぎて面白くないですよぉ。で、転がり込んできたその御令嬢とは、どうなったんですかぁ!?」

 ダメだ。話題の転進を図ろうと試みたが、無理だった。そもそも僕が時系列的に混乱したことを言い出したことが発端だ。それにこの二人はカタリーナのことを知っている。あの刺々しい性格の令嬢と、罵られ役だった僕が裏で急接近している。そっちの話の方がイメージとのギャップが大きいが故に関心が高くなるのは当然か。

 で、結局僕はこのファーストフード店の一角で、洗いざらいさらけ出されてしまった。

「へぇ〜っ、思った通り、同棲してるんですねぇ。信じられませんよぅ」

「ふうん、あの毒舌令嬢がねぇ。ベッドの中ではしおらしいとか、とても信じられねえな」

 なんでそんなことまで話させられてしまったのか、この二人の追及能力の高さに脱帽だ。

「と、とにかく、同棲についてはあのお嬢様がもっとも気にすることだから、他言無用で頼む」

「それは構わねえが、どだい無理じゃねえか?」

「どうして?」

「だって、あのお嬢様と住んでるのは、軍の宿舎のど真ん中だろ? 佐官クラス以上のやつには絶対見られてるだろう。それに、お前があの御令嬢と婚約関係にあることは、もうみんな知ってる話だしな。今さら関係を隠そうとしたって、無理じゃねえ?」

 うん、その通りだ。そう言われてみれば、すでにバレバレだな。これで同棲してませんって言い張るのは無理だ。

「しかしなんだ、フリッツお前、思ったより幸せそうじゃねえか。けっ、羨ましい限りだぜ」

「そうか? 自分では波乱含みのガタガタな人生だと思っているが」

「平坦でまっすぐな人生が、必ずしも心地よいとは限らねえよ。少しくらいカーブや坂がねえと、生きてる実感がえられねえだろう」

 こいつが人生を語る日が来るとは思ってもみなかったな。だが、ヨーナスよ。人生を語るなら、せめて伴侶くらい見つけてから言え。


◇◇◇


「やれやれ、連盟軍評議会の連中からはこっ酷く叱られたよ」

 パザロフ大将が淡々と、先ほどまで行われていた極秘会議を受けてこう一言、ため息混じりに言われた。

「あの、叱られただけで済んだのですか?」

「今日のところはな。もちろん、解任の話もほのめかされたよ」

 私は一瞬、ドキッとする。パザロフ大将の解任は即、私自身の進退にも関わる話だからだ。

「が、私はともかく、貴官をこの遠征艦隊から外すわけにはいかぬ。それだけは、最後まで主張するつもりだよ」

「はぁ……ですが、それはさすがに無理ではないかと思いますが」

「どうしてだね? 今度の戦いで、我が合同艦隊全体の戦果は二百五十隻ほど、そのうちの百隻余りは貴官の指揮する強襲艦隊のものだ。二万七千隻のなかの四百隻ほどの艦隊が、その半数近い戦果を挙げた。この結果を聞いて、どうして貴官を外そうなどと考えるかね?」

「ですが今回、危うく全滅するところでした」

「だが、結果的には未帰還機十八、強襲艦の損耗はゼロ。数の上では、どの艦隊よりも優秀だよ」

 パザロフ大将はそう語るが、私にとってはただの幸運でしかないと感じた。もし、味方の艦隊が後退を始めていなかったら、あの一千の機動艦隊は追撃戦に参加せず、確実に強襲艦隊を仕留めにきたことだろう。味方の撤退によって救われたなど、本来なら追及されて然るべきだ。

「この先の戦いは、さらに厳しいものになるだろう。だいたい、今までがぬる過ぎたのだよ。あんな無人の浮遊砲台を並べた程度で防げるなど、どれほどこの宙域が注目されておらなんだか、ということの裏返しだ。連合の奴らが本気を出せば、こんなものだ」

 このパザロフ大将の言葉に、私はハッとする。我々はあまりにも変わらなさ過ぎたのではないか? かくいう私も、強襲艦隊と人型重機による急襲という戦術のみに、こだわり過ぎたのではないか。だからあの一千隻の奇抜な戦術に、対応出来なかったのではなかろうか。

「この先の戦い、とおっしゃいましたが、この先どうなると思われますか?」

「うむ、そうだな。まずはあのワームホール帯を防衛するための要塞基地か何かを建造するはずだ。連合の奴らはそういうものをよく作っとるよ」

「要塞、ですか」

「その拠点建設を阻止する、しばらくはそういう戦いが続くのではないかな」

「はぁ……ですが、それにどう対処されるので?」

「私ならば、強襲艦隊を使って地道に破壊し続けるだろう。駆逐艦隊では待ち伏せを受けて阻止されてしまう可能性が高い。そこは隠密性が高い強襲艦隊を使うのが、もっとも効果的であろうな」

 つまりこの先は私の仕事が増えると、そう大将閣下はおっしゃっている。もっとも、私がパザロフ大将共々、解任されなければの話だが。

「ということで、私の話は以上だ。この先はどうなるか、よく分からんよ。まあ、それがはっきりするまで休むことだ」

「はっ! では、失礼致します!」

 私は敬礼すると、パザロフ大将のいるこの司令官室を出る。通路を歩きながら、私は思う。

 私自身、一つの成功体験にしがみつき過ぎたな。次の戦いまでには、新たな戦術を考えておかねば。さもなくば今度こそあの艦隊にやられてしまうな。


◇◇◇


 うう、なんだか疲れたな。頑張ったわりには、金の使い過ぎだと怒られるし、部下からは洗いざらい私生活を暴かれるし。この戦いで僕は、何を得られたのだろうか?

「まもなく、ヘテルニッツ港へ到着。三十分後の予定。管制塔より、高度三千で進入しつつ、第百二十一番ドックへの入港せよとのことです」

「了解した。進路そのまま、高度三千まで落とす」

「はっ! 微速下降、ヨーソロー!」

 横で艦長と航海科のやり取りが聞こえる。で、司令官である僕はと言えば、特にすることがない。このため、今この場にはヒンメル中佐もヴァルター中尉もいない。僕はとりあえず、軍司令部から何か緊急連絡が入ったときのために控えているだけだ。

 が、そうそう何かが起こるというわけでもなく、無事にヘテルニッツ港へ到着する。

 さて、ヘテルニッツ港のロビーにたどり着くと、またいつもの取り巻きを引き連れたお嬢様が現れる。

「アルトマイヤー様、今度の戦、お勝ちになられたようですわね」

 ……なんだか、いつもの口調に戻ってきた気がするな。取り巻きの手前、そうなるんだろうか?

「うん、勝利したにはしたよ。でも、三万隻の大艦隊での戦いだから、僕の艦隊がどれくらいの貢献をしたかどうかは……」

「アルトマイヤー様!」

「は、はい!」

 やっぱり、この五日間ほどのうちに、元の毒舌令嬢に戻ってしまったのではあるまいか? そう思うほどの威厳ある口調だ。おまけに服装も、あの貴族の威厳を示さんばかりの赤のワンピースドレス。うう、おっかないなぁ。

「勝利をもたらした将が、そのように自信なさげでは下々の者までが士気をなくしてしまわれますわ。もっと堂々と、ご自身の手柄を誇りなさい!」

「は、はぁ、そうします。あ、そうだ、これを渡さないと」

 と、僕は彼女のために買ってきたあるものを取り出す。

「あの……これは何ですか?」

「ええと、我が旗艦である戦艦ハンブルグにある老舗の紅茶店で買ってきた、マリアージュ・フレールという高級茶葉ですよ」

「えっ、これを、(わたくし)のために!?」

 その黒い箱に入った紅茶のセットを、カタリーナに手渡す。先ほどのあのきつい表情が、見る見るうちに崩れていく。

「ええ、ヴァルター中尉がおすすめする紅茶なので、間違いはないかと……」

 ところがだ、僕がこう付け加えた途端、その表情は再び険しくなる。

「ちょっと、アルトマイヤー様! まさかあの女と共に、その店に出向いたと申されるのですか!?」

 えっ? 僕、何か変なこと言っちゃいました? この豹変ぶりに、僕は戸惑いを隠せなくなる。

「いや、あの、別に店を教えてもらっただけで、特には……」

(わたくし)というものがありながら、どうしてあのような女を重用なさるのですか! (わたくし)、まだその戦艦ハンブルグにあるという街に、行ったことすらございませんのよ!」

 ああ、怒らせてしまったようだ。艦隊戦に勝利したというのに、僕は怒られてばかりじゃないか?

「いよお、派手に騒いでるな。だけど提督さんよ、今の話を聞く限りでは、この毒舌令嬢さんが怒るのも無理はないだろうなぁ」

 と、そんなところに現れたのはヨーナスだ。

「そ、そうか?」

「せっかくプレゼントを買ってきたというのに、他の女の名前を出せばそりゃあ怒るだろう。そんなことくらい、俺でも分かることだ」

 そういうものなのか? だが、僕はヴァルター中尉に対して、なんら特別な感情など湧かないけどなぁ。

「だがお嬢さんよ、安心してくれ。そのヴァルター中尉というのは、俺から見ても惹かれるものを感じない相手だ。その点は、この俺が保証するぜ」

「なんですか、あなたのような下品な方がそのように申されても、あなたの感性そのものが信頼に足るものであるという保証がどこにあるのかしら?」

 ヨーナスなりに僕を援護したつもりだが、このお嬢様には通用しない。特に、信頼に値しない相手に対しては辛辣だ。だが、ヨーナスはこう答える。

「なるほどねぇ、俺の感性が確かか、と。そうだなぁ……例えば俺なら、このお嬢さんかな?」

 と、ヨーナスは突然、カタリーナの取り巻きの一人を指差してこう言い出す。

「えっ!? あの、(わたくし)がその、なんでしょうか?」

 確かあのお嬢様は、ブリアン男爵家の次女のルイーゼ嬢だ。いつもカタリーナについて回る三人の中では小柄でおとなしい印象のお嬢様。あまり話したことはないが、ずけずけとした態度のカタリーナにどうしていつも同行しているのかが気になるほど、影の薄い人物だ。

 その人物に向かって、こんなことを言い出すヨーナス。

「このお嬢さん、おとなしい性格だが、見た目からは分からない芯の強い性格の持ち主、そして何か特技を一つ持っているはずだ。まさに俺の好みにジャストミートの相手だが、どうだ、違うか?」

 な、なんだ? 一度も話したことのない相手に向かって、とんでもない推論を述べ始めたぞ。だが、それを聞いたカタリーナは、こう答える。

「う……やるわね、確かにその通りよ」

 えっ? 当たりなの? どう見ても適当な物言いにしか聞こえなかったが、見事性格を言い当てたらしい。

「ついでに言うと、お嬢様も見た目はキツいが、中身は甘え願望が強い……」

「あーっ! (わたくし)はいいですわ! 分かりました、あなたの見る目があることはよーく分かりましたから!」

「どうだいお嬢様、こう見えても俺は、人相でだいたいの性格を言い当てるのが得意なんだ。それゆえ、こいつの艦隊で人型重機隊の隊長をやっている」

「そうなのですわね。で、そんなあなたは此度の戦で、どのような活躍をなされたのかしら?」

「こいつが無謀にも敵の艦隊スレスレに突っ込む作戦で、俺はそこで一番槍を務め、ワイヤー付きのままで人型重機を二機、駆逐艦一隻にダメージを与えたんだ。並の人型重機乗りじゃなしえねえ戦果だ。まあ例えるなら、騎士団長並みってとこかな?」

 よくまあ、ずけずけとここまで自慢げに自身の成果をアピールできるものだ。ある意味で羨ましい性格だ。僕にはとても無理だな。

「ふうん、下品な男の分際で、自信にまみれた物言い。この自信がアルトマイヤー様に少しでもあればよろしいのですが……」

 カタリーナもそう思ってるのか。だがそれは僕の性格上、無理なことだ。

 それにしても、ヨーナスからいきなり性格診断された上に、こいつの好みだとまで言われてしまったあの男爵令嬢は、顔を真っ赤にして立ち尽くしている。他の二人と比べると小柄で、華美なところもない。そんな彼女は、見ず知らずの男に自身をここまで評価されたのは、おそらく初めての経験じゃないだろうか。

「では、アルトマイヤー様、(わたくし)はこれにて失礼いたします」

「えっ? 行っちゃうの?」

「何か?」

「いえ、なんでもないです、はい」

 ところが、わざわざここまで来ておきながら、カタリーナはそのまま帰って行ってしまう。あれ、僕と一緒に帰るんじゃなくて? なんのためにここに来たのか分からないお嬢様を見送りつつ、僕は過ごすごと宇宙港ロビーを出る。

「そんじゃ、あとはお嬢様とうまくやれよ」

「いや、そのつもりだけど、帰っちゃったよ」

「そんなことはないだろう。さっさと家に帰ってやれ、多分そこにいるはずだ」

 えっ、わざわざ僕と一緒に帰らずに、宿舎にいるというのか? どうしてそんな回りくどいことをするかなぁ。そう思いながら僕は、家路を急ぐ。

 で、玄関をくぐると、確かに中に彼女はいた。

「おかえりなさいませ、アルトマイヤー様!」

 先ほどとは打って変わって、素直な笑顔で出迎えるカタリーナ。本当にさっきの彼女と同一人物なのか?

「あ、た、ただいま……」

「此度の戦の勝利、おめでとうございます! さすがは(わたくし)の婚約者、お父様が一目置かれた方ですわね! さ、お食事になさいますか? それとも、お風呂に? まさかいきなり、(わたくし)と……?」

「ちょ、ちょっと待って! さっき宇宙港で会った時、一緒に帰ればよかったじゃ」

「だって、(わたくし)とアルトマイヤー様が同じ屋根の下に住んでいると知れたら、何かと不都合がございませんこと?」

 えっ、そんなことを配慮して、別々に帰ったの? ほとんど無意味だけどなぁ。僕はこう告げる。

「あの、カタリーナ」

「なんでございましょう、アルトマイヤー様」

「申し訳ないけど、僕の宿舎にカタリーナがいること、おそらくこの周辺の人たちはもう知っているよ」

 それを聞いたカタリーナの顔色が、見る見る青ざめていく。

「ちょ、ちょっと、アルトマイヤー様! どうしましょう、婚姻前の女子(おなご)と共に暮らしたなどと知れたら、アルトマイヤー様の今後の障りになるのではありませんか!?」

「いや、大丈夫、大丈夫だから! そんなことくらいで出世に響いたりしないから!」

 この国の貴族って、どういう価値観、倫理観を持っているんだろうか。そんなに厳しいの? でもそれならどうしてアンドラーシ伯爵様は、わざわざ娘をこの家に送り出したりしたのだろうか。

 にしても、いつも家から堂々と二人で出て、ショッピングモールまで手を繋いで出かけていたじゃないか。あれで気づかれないとか、どうして思えるのだろう。案外このお嬢様、僕以上に鈍いところがあるのかも知れないな。僕はこの一件でそう思った。

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