謎の黒い魔術師
黒煙が立ち昇る都市の中心広場。そこには私と同じ黒いローブで身を包んだ女性が立っていました。
「この世界も滅ぶべきだ。愚かな人間共を粛清せねば」
私達がそこに着く頃には既に野次馬達で溢れかえっていました。人の波を払い除けて私は彼女の方へ向かいます。
「おいリィハ、聞いているのか!?こんな所にいたらお前の方が危険だぞ!」
「ワーちゃん。私凄くワクワクしてるんだ」
「何がだ」
「あれだけの爆発を起こせる魔術師がいるんだ。只者ではないよ」
「呆れた。俺を召喚した時といい、命知らずにも程がある」
私は遂に彼女の元へ辿り着きました。その黒魔道士はこちらの様子を伺った途端、ローブの口元から微かに笑みが浮かび上がります。
「おいそこのお前!何が目的だ」
「初対面の相手に"お前"は失礼でしょ?」
「それもそうだな」
「納得しちゃうんだ……」
私がワーちゃんにツッコミを入れた所でその黒いローブの女の子は静かに笑いました。
「我の名はノネム。世界の破滅を望み、この呪われた地へ降り立った人類の敵……」
そう言って彼女はまた不敵に笑った。
「リィハ。気付いているか」
「うん。私のメガネ型測定器によると彼女はレベル60の大魔術使い。とてつもない魔力を感じる」
周囲が恐れ慄いている間に彼女は口を開いた。
「我の目的はただ一つ。『この世界の破壊』。本当にそれだけ」
「破壊した所で何になるの!?」
「リィハ……貴女は本当に何も分かってないな」
「どうして私の名前を!?」
私が狼狽えると彼女は不敵に笑いました。
「今はその理由を知る必要は無い。終わらせてやる……全てを!」
そう言って彼女は難解な呪文を唱え始めました。召喚士の端くれである私からしても高度な召喚呪文です。
「いでよ!"支配者"キマイラ!」
世界は一瞬で紫色に暗転し、雷が怒号のように鳴り響きます。空から降ってくる魔法陣の扉から究極の魔獣が転送されてきました。
「おいおい、マジかよ!?」
あまりの邪気にワーちゃんも怖気付いています。私も怖いですが、らあの魔物を野放しにはできません。
「一つだけ……言っておく事がある」
フーっと息を吐き、ノネムは呟きました。
「何だ!?このデカブツ召喚して世界を滅ぼそうとでもいうのか!」
ワーちゃんの叫びに彼女は首を縦に振りました。
「貴様らのその生き延びようとする心……その心を、"断つ"」
「くっ……!」
ノネムは邪悪な笑みを浮かべ私の方を向きました。
「リィハァ!何故君が召喚士見習いなのに、その屈強な"青狼"を召喚できたのか」
「え……」
「何故魔力が切れでも召喚獣が消えないのか、何故"青狼"がお前をマスターとして認めるのかァ!」
「それ以上言うな!」
呆然と立っている私を横目にワーちゃんが彼女の元へ走り出しました。
「その答えはただ一つ……!」
「やめろー!」
そう言って『サティア』に住む皆も飛び出していきます。
「君が世界で初めて"黒魔道"の力に目覚めた女の子だからだぁぁぁぁ!!!」
ノネムは高らかに笑い上げ、私を煽るように見つめました。ワーちゃんも街の皆も私を見つめ不思議そうな顔をしています。
そもそも私自身、黒魔導の力を解放できた試しがありません。
「私が……黒魔道の支配者?嘘だ、私を騙そうとしてる……!」
瞬間、眠っていた過去の記憶を呼び覚ましました。鋭く尖った注射針を腕に刺され、魔法が撃てなければ親からの暴力を受け、魔力が上がるにつれ自分が自分で無くなっていく様な恐怖を味わったあの少女時代を。
「おい……リィハ?」
「うわああああああああ!!!!!」
私は自我を失い、闇に呑まれようとしていました。内側からドス黒い魔力に支配されつつあります。
「これで邪魔者も制御不能になった!キマイラ!やれ!」
「ギャギャアアアア!!!」
山程の高さがあるその合成獣は『サティア』の街を破壊し始めました。その暗黒弾に飲まれた街の人はたちまち生命を奪われ消えていくのでした。
「おい、リィハ!しっかりしろ!」
「私は……私は」
目が虚ろになり虚無状態になっている私をワーちゃんがなだめる……はずでしたが、その黒いオーラに阻まれ近づく事すら困難な状態でした。
「くッ……主人は暴走状態か。なら仕方ねえ、あのデカブツを止めねぇと」
混乱状態になっている街で一人、ワーちゃんはキマイラに立ち向かいます。しかし身体の数倍もあるその合成獣に勝てる訳もなく、まともに暗黒弾を食らい、地面に叩きつけられました。
「くっ……!」
「所詮貴様らも協力しなければ他の雑魚と同じ。馬鹿らしいわね」
切り裂かれボロボロになったワーちゃんにノネムは不敵に笑いました。
「それが……どうしたァァァ!!!」
勢いに任せ彼女に攻撃を行う彼でしたが、キマイラに圧倒され、そのまま踏みにじられました。
「あらあら、青狼はピンチになってからが本領らしいが……本領は出さないのか?」
「俺の主人を守りながら戦わなきゃいけないからな。生憎、その線は消えた」
彼は地面に叩きつけられ、血塗れになりながらも私を守りながら戦っているのでした。
「ほう……ならば私のキマイラの攻撃を受けて死になさい!」
「くっ……リィハ!聞こえるか!」
私は闇の力に支配され、まともに口を開くことができませんでした。
「俺とお前は初対面だ……だが!お前の実力はこんなもんじゃないはずだ!俺の潜在能力とお前の潜在能力。二つ合わさればあの化け物すら倒せるかもしれない!」
「ワー……ちゃ……ん……?」
「だから俺に全部力を寄越せ!そしてお前の真の力を見せてくれぇぇぇ!!!」
「目障りだ!早くやれ!キマイラ!」
ノネムの一言で暗黒弾が放たれました。この一撃で彼は本当に終わってしまう。それだけは本当に嫌でした。
「リィハ!」
「ふぬぬぬぬ……!」
黒魔道の力。それは光の力である白魔道の力とは真逆に攻撃的な力です。しかし私はそれを目の前のワーちゃんを守る為の"防御の力"として応用させました。
溢れ出てくる魔力を全て杖の先に一点集中させながら暗黒弾を弾き返しました。
「はぁっ!」
「凄い……でかしたぞ!リィハ!」
「ここからは私達でキマイラを倒します!」
「勿論だ。主人」
荒廃した街中でキマイラ対ワーウルフの総力戦が始まろうとしていました。




