あったかもしれないあの日
どうも、スタイリッシュ土下座という者です。
久々の投稿ですのでこれを投稿するに至った経緯を語らせてください(経緯なんざどうでもいいという方は本編へどうぞ)。
私は元々語彙力があるという訳でも無く、小説に関しては完全な初心者のまま今作を書き進めていったのですが、
「この設定面白いな」
と思えるようなそれを見つけてしまったので投稿する事に決めました(実際ありきたりな設定と言われてしまえばそこまでなのですが)
前作も含め失踪作が多い筆者ですがどうか生暖かい目で読んでくれると幸いです。
「わ……うわ……!」
その緑色に濁った瞳、蒼く輝く毛並み、尖った牙と爪。そう。その召喚された"蒼狼"はまさに強者の姿でした。
時は21XX年。米国が発射した核爆弾により人類は一回"修正"されました。その影響かは知りませんが、街には現世のものとは思えぬ魔物が住み着いています。
「ふぅ、今日もバイトがんばったー」
私の名前はリィハ。魔法都市『サティア』に住む16歳の人間です。この都市では働ける年齢が決まっておらず、私ぐらいの年齢の女の子でも平気で働きに行く。それが当たり前でした。
「何これ、魔術書……?」
私は古ぼけた家に転がっていた魔術書を手に取りました。『上級魔術』と書かれていましたが私だって召喚士の端くれです。本に書かれている魔術を実際に試してみる事にしました。
床に怪しげな魔法陣を描き、魔力を手に一点集中する……のですが、私はまだ駆け出しの召喚士。魔力が不安定で放出しそうになるそれを抑えるのが精一杯です。
「こんなの難し過ぎるよ……!」
魔力を天に掲げ、呪文を唱え始めたその時、ふらふらとよろめき魔法陣の方へ転倒してしまいました。
「あっ」
思わず受身を取った私は手が魔法陣に付いてしまったのに気付きます。眩い閃光が辺りを包み、部屋の隅まで吹き飛ばされてしまいました。
「痛てて……こんな事するんじゃなかった」
何年も着てボロボロになった黒いローブをパンパンと払いながら私は向こう側を見ました。光を放っただけで何も召喚されておらず、やはり上級魔術などと謳ったインチキ本だったか、と思い魔法陣を消そうとしたその時でした。
「汝、我を召喚せし者よ」
「うわぁ!?あなた誰!?」
後ろから野太い声に反応して思わず一歩身を引きました。装着したメガネ型のレベル測定器のボタンを押すと『レベル50』の文字とステータスが表示されています。
「嘘でしょ、やっぱ私の測定器は壊れているのかな」
「我を無視するな。若き召喚士よ」
そのワーウルフは鋭い目をギラつかせて私を睨んできました。まずいです。私にはこの獣を従える程の技量は持ち合わせていません。
「聞いているのか。汝は我を召喚したのだぞ?何か言うことでもあるだろう」
「無いです……一時の遊びで召喚しました」
彼の顔が一瞬で歪みました。
「マジで?」
「マジで」
この薄暗い部屋の中に静寂が流れ込みました。ワーウルフ君は状況を把握できないのか、鼻水を垂らして嘆いています。
「おい主人!冗談はよしてくれ!そもそもお前如き覇気を感じない召喚士がレベルの高い俺を召喚できる筈がない!」
「だだだだって……召喚しちゃったものはしょうがないじゃないですか!」
あんぐりと口を開けた獣は諦めがついたのか、分かったといった表情を浮かべました。
「今後は遊びで召喚しないでくれ。俺だってこんな事で召喚されたくないんだ」
「ごめんなさい……次からは気をつけます」
「じゃあ俺は帰らせてもらう。召喚士である以上、帰還魔法は知ってるんだよな?」
「知らないんです。あの本、本当に難しい魔術しか書いてなくて……魔力切れまで待つしか」
「えええええええええええええ!?」
こうして私がワーウルフを従える生活が始まったのでした。
「パンでも食べる?温かいスープもどうぞ」
「温かいものどうも。で主人、名前は?」
私はニッコリと彼に微笑みかけました。
「リィハです。この街に住んで5年にはなる落ちこぼれの召喚士です」
「落ちこぼれ……ねぇ」
そう言ってワーウルフはズズッとスープを飲み干しました。空になったそれに目線を合わせます。
「どうして落ちこぼれたんだ?」
「それは……ちょっと言うのが恥ずかしいですね」
「気になっただけだ」
私は胸の奥にある気持ちを少しだけ語りたくなりました。肩をすっと撫で下ろして答えました。
「私の家、元々はお金持ちの家系だったんですけど、ある日黒魔族としての才能を目覚めさせる為に私の両親からある特訓を受けてたんです」
「特訓って……お前」
「続けていいですか?」
「悪かった。続けろ」
「確かにそれで魔力は上がったんですけど、その内召喚士として召喚魔術を覚えるのが億劫になっちゃって。それで親元を離れてこの家に住みながら働く事にしたんです」
ワーウルフは目線を窓の向こうに移してため息を吐きました。
「結局お前の我儘って訳か。意外とヤンチャだな」
「えへへ。よく言われます」
「俺を召喚したのもその魔力があってこそだろうな。これが運命と言うなら皮肉な事だ」
「そうですね」
暫くの間、無言になった。吹き抜ける風が冷たく私の頬を掠めていきました。
「そういえば」
「どうしました?ワーウルフさん」
「まだお前に名前を貰ってないぞ。種族名じゃない奴を付けてくれ」
「そうですね……ワーウルフさんだからワーちゃんとか!」
「ネーミングセンス無さすぎだろお前!もっとマシな名前を頼む」
「そこまで言わなくてもいいじゃないですか!」
私はそう言って頬を膨らませた。
「まぁ良い。主人が俺をワーと呼ぶならそれでいい。好きにしろ」
「意外とツンデレさんですね。ワーちゃん」
「咬み殺すぞ。レベル差から考えて俺の方が格上だ。忘れるなよ」
「ヒッ……!ごめんなさい」
私はこの時確信した。いくら召喚したからと言ってあくまでもこの子は魔物。私が従えないと後々になって困るのは私自身だという事だ。
「しかし妙だな。あれから一時間近く経ったというのにまだ俺の召喚が時間切れになっていない。何か訳が──」
その時でした。まだ外は真昼間だと言うのに巨大な爆発音と衝撃を感じました。
「さっきのは!?一体……?」
「行きましょう!ワーちゃん!一緒に!」
「馬鹿!危ないに決まってんだろ!後ワーちゃんはやめろ!」
魔法都市の中心に黒煙が立ち昇り、新たな"世界の終わり"が迫っていました。