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104 新パーティー結成(戦闘狂一名)

 リンと共に〇番隊待機に身を潜めていた景吾だったが、長くは続かなかった。

 外での戦闘がぴたりと止まってから、リンの様子が変わったのだ。


「どうかしたか?」

「大変なことになっちゃう」

 

 リンが両手を景吾に向けて伸ばす。躊躇いなく抱え上げた景吾は、リンの頼みによって外へ出ることになった。

 同じ一九番隊に見つかれば厄介だが、周辺に霊力の気配は感じない。いや、気配を消している可能性もある。

 曲がり角を通過するたびに慎重になる。そんな景吾を急かすリンは、しきりに空を気にしていた。


「空になにかあるのか」

「うん。あるの。だから空に戻りたいの」

 

 階段を駆け下り、ようやく本部から外へ出ることができた。色濃く残る戦闘の跡から目を逸らす。


「景吾、こっちです」

 

 物陰に引っ張り込まれる。

 振り返ると、まつりと湧がいた。


「二人とも、無事でよかった」

「そのコスプレ少女はどこで攫ってきたのですか?」

「人聞き悪いな。この子は、創世の会にいた子だ。殺せなかったから連れてきた」

 

 誤魔化すこともできたはずだが、仲間に対してそれはできなかった。

 驚く二人の表情はすぐに和らいだ。


「可愛いお洋服ですねえ。私は景吾の仲間のまつりと申します」

「僕は湧。同じく景吾の仲間だよ」

 

 リンは景吾の腕の中から飛び降りると、礼儀正しくお辞儀をした。


「私はリン。景吾お兄さんに助けて貰ったの。だから今度は私が助ける番なんだよ」


 背伸びをしても到底届かない快晴の空に手を伸ばしたリンは、何の混じり気もない目で訴えかけた。


「どこかに善二さんがいるはずなの。善二さんにお願いして、この戦いを止めてもらおうよ。私、いっぱいお願いする。そしたらもう、みんな誰のことも殺さなくていいんだよ。私、頑張るからね」

 

 リンが意気込む。景吾たちは揃って首を傾げた


「善二さんって誰だ?」

「敵側のボスってことでしょうか。戸田冬至ではなく」

 

 ハテナを掻き消すようにリンが腕を振り回す。


「違う違う、創世の会のボスは冬至さんだよ」

 

 ぷくりと頬を膨らますリンの頭に、か細く白い手が乗っかった。いきなり出現したその存在に、驚きで心臓がドクドクと脈打つ。


「多喜田善二は元〇番隊隊員だよ。で、私の親友だ」

 

 戸井未散がそこにいた。

 その傍らには不貞腐れた顔の誠太郎と、目がいってしまっている地原。そして、五人分の距離を開けて、関係者ではございませんとしらを切っている石火矢陽炎がいた。

 いつも通りの一定のテンションで、今にも欠伸をしそうな未散が口を開いた。 


「よう。だいぶヤバイことになってるんだけどさ、どうにかしたいから君たちも手伝って」

 

 未だに頭に乗っかるそれが未散の手だと認識したリンは、ぱあっと花が咲くように笑った。


「お姉さん、元気になったね」

「本調子ではないけどね」

 

 はん、と馬鹿にしたような笑いが起きた。いらっとした未散が振り返った先は誠太郎だ。


「何か言いたいことでも?」

「言いたいことしかないよね。俺も行きたいっていったのに置いて行くし、かと思えば地原と陽炎を連れて帰って来るしさ。その上、まだ本調子じゃないのは師匠もじゃんかよ。ウケる。じゃあ俺も連れて行けばよかったじゃん。地原もそう思うっしょ?」

 

 誠太郎にしては珍しく不機嫌そうにつらつらと嫌味を並べているし、未散の表情もだんだん険しくなっていく。

 唐突に話しを振られた地原はと言えば、楽しそうを通り越した、狂気じみたハイテンションになっていてそもそも話にならない有様である。


「次の敵はどこだ。つえーやつじゃねえとやる気でねえからよう、ちゃんと殺し甲斐のあるやつ連れて来いよ。あひゃひゃ!」

 

 断末魔のような笑い声が轟く。

 景吾をはじめ三人の目は、自ずと陽炎の方へ向いた。


「お疲れ様」

「まあね。それにしても大変なことになった。僕らは戸井さんのおかげで何とか巻き込まれずに済んだけれど、今ほとんどの動ける隊員は足止めを食らっている」

 

 桜木春生の指示語によってまき散らされた花粉には、麻痺の症状を誘発する成分が含まれているらしい。おまけに目に入って視界を妨げる。


「桜木副隊長が敵って、かなりマズイよな」

「だね。業火様ですら倒せなかった。あのままじゃ誰も太刀打ちできないんじゃないかな」

 

 陽炎の弱音を鼓舞するように、膝のあたりにとすんと何かが当たった。視線を下げると、リンが力いっぱい陽炎の足に巻き付いていた。


「大丈夫だよ。お姉さんに探してもらうから。善二さんは絶対空のどこかで待機しているもの。私、ちゃんと知ってるんだよ」

 

 誠太郎とつまらない言い争いを続けていた未散がその発言に反応を示した。

 眩しい快晴の空を見上げる。


「ふうん、空か」

 

 未散の霊力は未だに不安定だ。しかし、ここで使わないわけにはいかない。上手く空間を把握しきれるかは分からないが、やってみるしかないと高を括る。


「あのね、無囲姉さんが綺麗に隠していたから探すのはとっても難しいと思うの。でも、頑張ってね。お願い」

「おう、任せろ」

 

 未散は指示語を発した。

 冬至を探した時と同じように、逆に把握できない空間を探す。空は広いが、障害物が少ない分、空白の空間はかなり分かりやすかった。


「分かったぞ。みんなも飛行船へ連れて行く。戦闘準備はできているか?」

「俺はさっき師匠に置き去りにされたからね、誰よりも温まってるよ」

 

 全体のボルテージが上がる。そんな中、ぽつんと離れた場所に立つ景吾は一人で迷っていた。また殺さねばならないのか。戦いは嫌だ、と。

 地面に付けた足が重い。


「大丈夫だよ。殺しに行くんじゃない、私が善二さんにお願いしに行くの」

 

 そう言ってリンが景吾の手を引っ張る。続けざまに、誠太郎が無遠慮に肩を組んでくる。


「待ってくれていてもいいよ。景吾の分、俺がしっかりリンちゃんのこと守るから」

 

 これから敵陣に入るのだ。リンはああ言っているが、戦闘になる可能性は高い。人殺しは嫌だ。気が重い。しかし、ここで仲間が戦っているのをただ待っているだけでいられるはずがなかった。

 景吾は自分に言い訳をする。守るために戦うのだと。それだけで足は少しだけ軽くなった。

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