9ワン目 ソージの作戦
「面白い話をしているなぁ。よ~し、オレはソージに賭けよう! さぁ、お前らもぐだぐだ言ってねぇで乗ってやれ」
上機嫌なガオスがなぜかおたまを片手にやってきた。いや、あんたな、なんでそんなものを持ってんだよ? 疑問に思ったのは周りも一緒だったらしい。
「お頭、おたまなんか持ってどうしたんです?」
「あっ、うっかり持って来ちまった。アディアと一緒に朝食を作ってたんだよ。オレがスープ担当でな? それで、準備が出来たからゴズバルと坊主達を呼びに来たんだが……決着をつけた後にしよう。その方がきっと飯が美味い! 待っててやるから早く勝負をつけちまえよ、ソージ」
「ああ、そうする。賭けの内容はオレの言った通りでいいか?」
「いいぜ。オレは人数×金貨一枚で賭けてやるよ。お前等もこれで文句はねぇな?」
「ありませんよ。あんたこそいいんですかい?」
「絶対にこっちが勝ちますよ!」
「無駄金になるぞ、頭ぁ~」
「オレは坊主達を買ってるからな。大穴狙いってとこだ。おい坊主達、遠慮はいらねぇぞ。お前達の底力を見せてみな!!」
鶴の一声ならぬ、お頭の一声で話がまとまると、オレはカナンとジュライに向き直って謝まる。
「心配してくれたんだよな。なのに、勝手言って悪い。でも、オレはお前達と一緒なら勝てると思ったんだ。これは嘘じゃないから」
「びっくりしたよ、いきなり賭けをするなんていうんだもん」
「オレは勝てるならそれでいいぜ!」
「ありがとな。じゃあ、作戦の説明をするぞ」
オレは繁みの側に落ちていた木の棒を拾い、三人で輪になってしゃがみこむ。そして、地面に図式を書きながら声を潜めて作戦の説明する。そこにズボッと顔を突っ込んで来たのはダイキチだ。叩かれていた鼻先を軽く撫でてやりながら、暇そうに待つゴズバルをちらりと見て、小さな声で二人に確認を取る。
「──って感じに動いてほしい。難しいか?」
「いや、出来る! オレとこいつは一年くらい前にここに来たからな」
「お互いに次はどう動くかがなんとなくわかるんだ」
「いいな、いけそうだ。じゃあ、作戦通りに頼むぞ」
「おうっ、任せろ! よぉし、ソージ、カナン、オレ達が勝つぞ。仕切り直しだ、ハゲ!」
「剃ってんだよ! 師匠と呼ばねぇか」
「ハゲ師匠!」
「この悪ガキめ。せっかく待ってやったんだ。それなりの攻撃をしてこい。もし出来なけりゃ、最後の素振りは三千回とする」
三倍だと!? 二人がぱっとオレを振り返った。ジュライは覚悟を決めたような顔をして、カナンは脅えを堪えて口元に力を入れている。言いたいことは十分伝わってるぞ。嫌だよな、なにがなんでも避けたい事態ってことだ。二人の視線に、オレは見せかけだけは余裕の笑みを浮かべて返す。ここで青くなって二人の士気を下げるわけにはいかないよな。
「オレ達ならやれる。──……行くぞっ、勝負だゴズバル!」
オレをまん中に挟んで、左はジュライ、右はカナンで固めて同時に突っ込む。左右の二人が同時に拳を振るうが、ゴズバルは腕を交差すると手の平で受けた拳を振り払う。──そこだ!
「取ってこぉぉい!」
「な、なんだっ!?」
オレは叫びながら木の棒をゴズバルの顔目がけて投げつけた。さすが元魔法騎士なだけある。不意を突いたはずなのに、素早い反射神経で木の枝を打ち払う。しかし、喜び勇んで飛び出したダイキチは止まらない。結果的に、ダイキチの体当たりをくらったゴズバルの身体が大きく傾く。オレがそこに駆け込んで足払いをくらわせると、大きな身体がドサッと地面に倒れた。
上手くはまったぞ! オレは作戦の成功を内心もろ手を上げながら、木の棒をくわえて戻ってきたダイキチの傍でへたり込む。くっそ、限界だ。最後の全力疾走でほとんど残っていなかった体力が底をついたのだ。膝がガクガク震えていて、自分でも笑ってしまう。
「……オレ達の勝ちで、いいよな?」
「ああ、オレの負けだ! まさかダイキチを使うとはなぁ。見事な連携だったぞ、お前ら!」
わっと男達から歓声が上がった。オレとジュライとカナンはもみくちゃにされてばしばしと背中やら頭やらを叩かれる。
「新入り! お前の作戦どんぴしゃじゃねぇか!」
「どこまで計算していたんだ!?」
「いやぁ、三人の連携が見事にはまってたぞ」
「突拍子もない作戦で度肝を抜かれたぜ」
「ダイだったな? お前もいい働きをした」
「ワフッ?」
カナンの兄貴にわしゃわしゃと首を掻かれて、ダイキチが不思議そうに木の枝を加えたまま首を傾げる。男達の手を借りて起き上がると、カナンが恐る恐る尋ねた。
「あの、じゃ、じゃあ、素振りは……?」
「千回で許してやる」
「よっしゃあ! おい、お前ら見たか! 二度とオレ達を馬鹿にすんじゃねぇぞ!」
「ははっ、からかって悪かったよ」
「けどよぉ、発破にはなっただろ?」
からりと笑う男達の言葉に、やはりと思う。挑発してやる気を引き出そうとしていたわけか。よくあるやり方だが、確かな効果は今まさに実証済みとなった。
負けたゴズバルが愉快そうに笑いながら、オレに聞いてくる。
「ソージが木の枝で地面に書いたのはフェイクだろう? あれで枝を上手く隠した。それに、相手がお前達三人だけだと誤認させたのもフェイク。どこまでが計算の内だった?」
「……オレが投げた木の枝をあんたが手で払うところだけは運に任せた。もし、あれを掴まれていたら、あんたは突っ込んでいったダキイチごと倒れていたはずだ。無邪気なじゃれつきに攻撃で応じるほどあんたは冷徹ではないから。そうなると、オレの足払いはなしになる。ダイキチに当たるかもしれないからな」
「なるほどなぁ。咄嗟によく考えついたもんだぜ」
「それに……狙いはもう一つ」
「なにっ!? まだあるのか?」
オレは含みのある視線で男達を見回して、それはもう悪い顔でにやりとしてやる。こういう顔は兄貴が得意だったんだ。これからは真似させてもらうかな!
「ご愁傷様。これでさっきの賭けはオレとガオスの総勝ちだ」
【ああああーっ!?】
男達の間で野太い悲鳴が上がった。