8ワン目 ソージの作戦
「好き勝手言いやがって……後で全員血祭りに上げてやらぁ……っ!」
怒りの唸り声を上げたのは白金頭こと、ジュライ・アギリだ。オレ達三人の中で一番背が小さいが聞けば同い年だった。短い付き合いでもわかるほど負けん気が強い奴なので、紫の三白眼を尖らせ歯をむき出して激怒している。あっちに聞こえるものは当然こっちにも丸聞こえなのだ。
にやつく男達の様子にふと思いつく。あいつら、わざと煽ってないか? 疑問に一瞬気を取られたのが悪かったらしい。腹に強烈な蹴りが飛んできた。
「ぐ……っ」
「ソージ!」
「余所見してんな、馬鹿カナン!」
「そらそらぁっ、仲間の心配をしている暇はないぞ」
悲鳴のような声でオレの名前を呼んだのは、あざやかな青い色の髪を持つカナン・イーシャ。柔らかな言葉使い同様に顔立ちも優しいもので、兄と一緒に傭兵部隊に入ったらしい。その黄緑の瞳はつねに状況把握に動き回っている。好戦的なジュライとは逆の慎重派だ。その顔を狙うゴルバスの拳を、ジュライが庇いに入って蹴り技で防ぐ。
オレは内臓ごと吐きそうな痛みを堪えて、前屈みの姿勢から歯を食いしばり背筋を伸ばす。すると今度はオレの顔面に拳が迫っていた。両腕を交差させて顔を庇う。そんなオレを助けるように、今度はダイキチが大きく口を開けて飛び込んでくる。
「ガゥッ!」
「主を守る気概はいいが、お前も甘い!」
「キャヒンッ」
鼻っ柱を手の平で叩かれてダイキチが悲鳴を上げて吹っ飛ぶ。手加減はしてくれているのだろうが、このままでは賭けの通りに、オレが一番最初に沈むだろう。そして、賭けをしている誰かは金を手にするのだ。……冷静に考えたら、めちゃくちゃ腹が立つよな!
腹の痛みを呼吸で逃がしながら考える。力で圧倒的に不利なオレ達がこの状況を打開する方法はなんだ? 副頭よりオレ達が勝っているものがあるとしたら、それは──……?
「……二人とも体制を立て直すぞ。戻ってくれ!」
「なにか考えがあるのっ?」
「ああ。今のオレ達にはこの手しかないだろうな」
「絶対に勝てるのかよ!? オレは負けたくねぇ!」
「オレもそうだって。……いいか、よく聞いてくれ。今のオレ達がゴズバルより勝っているものが一つだけある。それは数だ。オレ達三人の息を合わせよう。勝気はそこにしかない」
「わかった! 息が大事なんだな!?」
「しぃーっ、声が大きいよ。いいから、ソージのところに行こう」
ジュライのよく通る声が聞こえたのか、ゴズバルが面白そうに腕を組んで攻撃の手を止めた。作戦を立てる時間のハンデはくれるようだ。随分と舐められてるな。けど、今はそれでいい。存分に油断しておいてくれ。それがオレ達にチャンスを運ぶ!
「ぶっははっ、全部聞こえちまってるぞ~」
「面白いじゃねぇか! 一発逆転を狙っていけよぉ」
「仲間ならありだろ。協力して副頭に一発入れちまえ!」
はやし立てる男達に、オレはいいことを思いつく。そこで声を大きくして、ある提案を持ちかけてみる。
「……なぁ、あんた達! どうせなら、オレと賭けをしないか?」
「お前みたいな小僧がなにを賭けるって言うんだよ?」
オレは指を一本立てる。通貨単位はG。硬貨の種類は四つ。銅貨、銀貨、白銀貨、金貨で、それぞれ銅貨十枚で銀貨一枚、銀貨十枚で白銀貨一枚、白銀貨十枚で金貨一枚となっているようだ。
硬貨の価値は、銅貨一枚でパチンコ玉が一つ買える。金貨一枚では、飯付きの宿に十日程度は泊れるといったもので、予想していたよりも金貨を使う機会が多そうだ。初めてアディアに教えてもらった時はそのギャップに驚いた。高いイメージがあったからな。けど、おかげで金の価値はだいたい把握出来ている。だから、オレは迷わず話を続けた。
「あんた達の賭け金は金貨一枚でいい。オレには金がないから代わりとして、六か月分の労働力を賭けるぞ。洗濯とか掃除とか、面倒なことは全部オレに押しつけられるんだ。悪くない条件だろ?」
「ええーっ!? ソージ、君本気で言ってるの?」
「六か月もこき使われるのにいいのかよ!?」
「心配するな。万が一負けてもお前らに迷惑はかけないよ」
「そういうことを言ってるんじゃないんだってば!」
「お、おい、カナンの奴がこう言ってるぞ。止めといたほうがよくねぇか?」
「悪いな、二人とも。今回は目をつぶってくれ。──さぁ、どうするんだ?」
反対するカナンとどこか心配そうなジュライを尻目に、オレは男達を追い込むために迫る。
「いい度胸じゃねぇか、オレは乗った! 実はさ、家の中がゴミだらけで困ってたんだよ。女共には怒られるしよ、だからってオレ一人じゃあ、どうにも片付けられなくてなぁ」
「ここでは基本的に、自分のことは自分でやるのがルールだからな。六か月っていうなら、悪くない話ではある。お前達はどうするよ?」
「オレは賭けん。こういうことで、弟の友を使いたくはない」
「はいはい、良い兄ちゃんだもんな?」
「オレ達は悪い兄ちゃんだから乗るぜ。賭けの内容はどういうものにしたいんだ?」
「今から行うゴズバルとの勝敗について。オレは自分達が勝つ方に賭ける」
オレの宣言にヒューッとどこからか口笛が飛んでくる。
「こいつは大きく出たな! 副頭はお前達が全員で向かったところで絶対に勝てないぞ。勝敗がわかりきった無謀な賭けだ」
「やけくそになるのは止めとけって。お前らはまだまだこれから育つんだからよぉ」
「実力差があるのはわかるだろう?」
「へぇ? そう言うってことは、当然、あんた達は副頭が勝つ方に賭けるんだな?」
「どっちに賭けるかって言われたら、そりゃあなぁ」
顔を見合す男達には迷いが見える。ここはもうひと押しだ。なにがなんでもこの賭けにつき合ってもらうぞ! オレがその賭けに引きずり込もうとする前に、快活な声が入ってきた。