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7ワン目 ソージの作戦

 オレの朝は襲撃から始まる。


「おらぁーっ、起きろソージ!!」


「……──っ!?」


 はっと目覚めたオレは、腹を狙って打ち込まれた拳を寝返りでかわすと、咄嗟にベッドから身を起こして身構えた。


「ワッ、ワフッ!?」


「よしっ、お前も起きたな、ダイキチ」


 野郎の大声で叩き起こされたのは、オレだけじゃなかったようだ。ベッドの下で丸くなっていたダイキチは飛び起きたはずみで足を滑らせたのか、床の上に転がっている。なにが起きたのかわからないという顔だ。キョロキョロしているダイキチのを横目に、オレは大あくびをする。浅い眠りを叩き起こされて、頭が重い。爽やかな朝に似つかわしくないよなぁ。


「はっはっはっ、連敗記録に歯止めがかかったな。今のはいい動きだったぞ!」


 満足そうに笑っているのは、一週間立て続けの襲撃者こと、ハゲ頭の副頭ゴズバル・ジーニオである。さすがに、連日のように朝からのたうち回るのは嫌過ぎる。だから、寝る直前まで今日こそはと思っていたのだ。おかげで気配を感じた瞬間に目が覚めた。


「あんたの目覚ましは荒すぎるわ。朝から腹へ一発食らわされてみろよ、ろくに飯も食えやしねぇ」


「そんなもん、オレの拳を食らわなきゃいいだけの話だろ。だが、その甲斐あって(オレ)の気配を感じ取れるようになってきたじゃないか。この調子で、寝起きの襲撃から反撃まで叩き込んでやる」


 どうやら朝の襲撃はまだまだ終わりそうにない。ガオスの奴は最初からこうなることがわかっていたんだろうな。オレとダイキチを一緒の家に住まわせながらも、あいつとアディアの部屋からは一番遠い場所をオレ達に与えたんだから。野郎の目覚ましはオレだって嫌だわ。


「まだ続くのか……」


「当然だ! 今日もビシバシ扱くぞ」


「ワフゥ」


 ダイキチがぶるりと身震いして小さく鳴く。お前も眠いんだな。オレの足に身体を擦りつけるように寄ってくるので、柔らかな灰色の毛を撫でてやる。ゴズバルはしっかり覚醒しているオレ達を見て満足そうに頷く。


「眠りは深く、だがなにかを感じたら一瞬で覚醒しろ。いいか? オレの気配が近づいたら、どんな状況であっても起きるんだ。それが完璧に出来るようになるまで続けるからな」


「……わかった」


「あっさり諦めたな、つまらん。『そんなこと出来るわけない!』とか『無茶言うな!』 とか、お前は言わないのか?」


「あんたが教えてくれるのは、生きるのに必要なことなんだろ? だったら言わねぇよ。そこで居眠りしてるやつらも、オレと同じだと思うぞ」


 オレは廊下の壁に寄りかかる二人を視線で指した。そこには、器用にも額を壁に押しつけてたったまま寝ている青頭の癖毛と、完全に座り込んだままいびきをかく白に近い金の短髪頭が仲良く目を閉じている。


オレはさっさと寝間着を脱ぎ捨てて前日に棚の上に用意しておいた白いシャツと簡素な灰色のズボンに着替えていく。二人の状態にようやく気づいたらしいゴズバルがブルブルと震え出す。オレは素早く両耳を押さえて、ダイキチを廊下に逃がした。


「寝るなっ、バカたれ共ーっ!」


 朝一番の怒鳴り声が、ホーム中に響いた。





 白んだ空の下に連れ出されたオレ達三人は、ゴズバルによる扱きを受ける。柔軟から開始して、身体が温まったら体術へ進み、青あざを何個も負いながら、次は剣での素振り、手のマメがつぶれるほど振ったら、剣術を叩きこまれる。この繰り返しだ。ゴルバスは王国の元魔法騎士だったらしく、馬鹿みたいに強かった。最初にその話を聞いた時は、ここはゲームの世界かよっ、なんて思ったものだが、そんな考えは炎の玉が飛んできた瞬間に消え失せた。


 常識? 普通? 平凡? 喜々として炎の玉をぶっ放つハゲ頭を前に、そんな言葉が無意味であることを知った。異世界に来ている時点で、常識なんてトイレの紙より価値がない。初めて鍛錬と言う名の扱きを受けた夜、オレはダイキチの焦げた毛先をハサミで切ってやりながら、異世界という言葉の意味を噛みしめたわけだ。


 拳を打てば手で受け流され、代わりにきつい一発をもらい、蹴りを入れれば膝で防御されては、こっちの脛が痛むばかり。手加減はしてくれているのだろうが、体格差もあるために一発の重さが違う。一番の課題は──……。


「はぁ……はぁ……体力、か……」


「くっそっ、あのハゲッ、バケモンみたいな力しやがって……」


「ぜぇ、ぜぇ……ソージもジュライも、元気に見える……僕はもう、限界だよ……」


「どうしたどうした! こんな程度でくたばってんじゃねぇぞ! 若造共、もっと根性見せろ!!」


「……あんたはどこの鬼軍曹だ」


 初っ端はあんなにオレを鍛えることを渋っていたくせに、目に見えて生き生きしているのだから、文句の一つくらい言ってもいいだろう。体術も剣術もすべて実践用のもので、武術なんてやったことのない身にはかなりきつい。ここのところは毎日寝ても起きても筋肉痛で、日に日に痣と擦り傷が増えていた。


 空から眩い白さが薄れ青く変わる頃には傭兵達も外に出てきた。そうして、森の前で鍛錬するオレ達をやんややんやとはやし立ててくる。


「副頭に一発くれてやれ!」


「よぅよぅ、誰が一番最初に脱落するか賭けようぜ」


「オレはカナンにする。あいつは一番気が弱いからなぁ」


「弟を馬鹿にするなら許さんぞ」


「おっと、お兄様がお怒りだぞ」


「悪かったよ。馬鹿にしたわけじゃねぇんだって」


「ただの賭けだから大目に見てやれよ、な? お前は誰だと思う?」


「……一番不利なのは鍛錬を始めたばかりのソージだろう」


「でも見ろよ、ジュライの方が息は荒いぜ。何度も一人で突っ込むから一番副頭にボコられてやがる。オレは大穴を狙ってあいつにしとくわ」


「じゃあ、オレァやっぱりソージだな。一番動きが固い。慣れてねぇのが丸わかりだ」

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