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6ワン目 リュヴァルク傭兵部隊

 ホットケーキを思わせる平べったいパンに、肉と野菜の炒め物。でっかい鳥の丸焼きにしたものと、ジャガイモとキュウリのサラダ。さらに、デザートのつもりなのかオレンンジを輪切りにしたものがテーブルに並べられていく。


 オレはリビングの椅子に座らせられて、その様子を込み上げる唾液を堪えて眺めていた。


「いつもより多いな? オレの分をソージにやろうと思ってたんだが、これなら二人で食えそうだな」


「半月振りだから、お腹を空かせて帰ってくると思って多めに準備していたのよ。だから、ソージも遠慮しないで温かいうちに食べなさい」


「……おう」


「ありがとな、アディア。まずは腹を満たそう。優しいアディアに、エイローク!」


「はいはい、エイローク」


「エイローク? なんだそりゃ?」


「お前は知らないか。食事の時には祝福よあれ(エイローク)と口に出していう習慣があるんだ」


「へぇ? じゃあ……アディアだっけ? あんたにエイローク」


「うふふっ、私への部分はこの人がふざけただけだから本当はいらないのよ?」


「わかってるよ。けど、作ってくれたのはあんたなんだ。だったら、食事の作り手の祝福を祈ったっていいだろ?」


 おかしそうにコロコロと笑われたので、オレはそう答える。家じゃ飯の時にいただきますを言わない奴は母さんにしばかれたものだ。


 今頃は、兄貴と誠也(せいや)も心配して……いや、どこでフラフラしてるんだって思われてそうだ。何日も帰らないとなれば、さすがにオレとダイキチの身になにか遭ったってわかってくれるとは思うけど。


 自分より厳つい顔とぽっちゃりした顔を思い出して即座に打ち消す。今ここで心配したところでどうにかなるわけでもない。


 フォークとナイフなんていう使いなれないものに苦労しながら、鶏肉を削るように食事を進めていると、目を丸くしたアディアと視線が合う。


「……まだ幼さがあるのに、ソージはいい男ね。どうしようかしら、今ドキッとしちゃったわ」


「ぶっ!? げほっ、いきなりなんだよ?」


「おいおい、素でそれなのか? とんでもねぇ人たらしを拾っちまったもんだぜ。女慣れしてねぇのに、ガキの頃からこれじゃあ成長が怖ぇな。セージに惚れるなよ、アディア」


「それはあなたの努力次第じゃない?」


「こいつは参ったな」


「いや、だからあんた達はさっきからなにを言ってんだ?」


 平べったいパンを手でちぎって食べながら、オレはおかしな会話と続ける二人に動揺が抑えられなかった。顔が熱い。からかわれてるのか?


 その時、つんとなにかが膝に当たった。テーブルの下を見ると、空の木の器をくわえたダイキチが物欲しそうに見上げている。よっぽど腹が減っていたらしい。盛られていた生肉が綺麗に消えてた。


「キュンッ、キュヒン」


「そんな狭いとこからおねだりするなよ。出て来い、ダイキチ。なぁ、この肉を少しこいつにも分けてやっていいか?」


「おお、いいぞ」


「ありがとう。ダイキチ、お座り!」


「ワフッ」


「くれるってよ。お礼は?」


「ワフッ」


「あら、可愛いわねぇ」


「芸達者なワンコロだな」


 右前脚を上げてかしかしと動かすダイキチに、二人が笑う。オレはお礼をしっかりしたダイキチに、削った肉を器に落としてやる。


「まだ待てだぞ。……よしっ」


 オレがそう言うと、ダイキチは尻尾をぶん回しながら喰いつく。表面を削って味のしみてない部分をやったから大丈夫だろう。動物に人間と同じものをやるのは動物の身体に悪いからな。


 あっという間に食べて、満足そうに口の周りを舐めるダイキチの頭をぽんと叩いてテーブルから出るように促すと、オレは再び料理を手にする。どれもこれも美味い。空腹がスパイスになっているってのもあるが、それとは別にアディアが料理上手なのだろう。


 出された料理をすっかり平らげてしまうと、皿に残っていたプチトマトを摘んで口に放り込んだ男は満足した様子でコップの水を一気に飲む。


「はぁっ、腹もいっぱいになったことだし、本題に入るか。……ソージ、お前はどこから来たんだ? なぜ、あの砂漠にダイと一緒にいた?」


 コップをテーブルに置いた途端、男は食えない目をして穿つようにオレを見ている。嘘や誤魔化しは通じそうにない。そして、今のオレには選択肢がない。だから、男の目を真っ直ぐに見つめて口端を皮肉に歪めて笑う。 


「こことは違う世界から来た」


「……なるほどなぁ、随分と遠いとこから来たもんだ!」


「以外と簡単に信じるんだな。異世界の知り合いでも?」


「そんな愉快な知り合いはいないさ。だからと言って、オレは別にお前の言葉を鵜呑みにして信じたわけじゃないぜ。総合的に判断しただけだ。お前、頭は悪くねぇだろ。だから、今の状況と立場を理解しているはずだ。ここで嘘をつけば自分の首をしめるとわかっている奴が、嘘をつくメリットがない。今のお前にはオレを信じるしか生き伸びる術がない。そう思ったから、ホームにつくまでオレ達のことを信頼出来る相手か見極めようとしたんだろう?」


「バレてたか。こっそり見てたつもりなのに、あんた目ざといな」


「わかるさ。オレもお前を観察していたからな。仮にお前が嘘をついていたとしても、その常識知らずは異常の域だ。ソージ、お前はあの砂漠で青い果実を食っただろう? あれはな、リボーンという果実で砂漠の秘宝と呼ばれる貴重なものなんだ。数年に一度見つかるかどうかという果物は全て王族に献上する決まりとなっていて、食えば重罪で処刑される。その代わり、差し出せば高い報酬が入るから誰も食わないんだよ。それをお前は食っちまったわけ。そんなことはこの国の人間なら子供でもしないぜ」


復活(リボーン)とは大層な名前だな。簡単に見つかったから、そんなに貴重なものだとは思わなかったよ」


「どうやって見つけた?」


「ダイキチの鼻。食いしん坊な奴だから、微かな匂いをかぎ取ったんだろ。……まだあの砂漠にあるかもしれない。もしまた取れたら、売るのはあんたに頼んでもいいか? 仲介してもらえるなら、取り分はオレが四、あんたが六でいい。」


「さて、どうするかね。オレがダイを奪っちまえば、取分は全部オレのもんになるからなぁ?」


 顎を擦りながらにやりとする男に、オレは鼻で笑って返す。しかし、本当は緊張に喉が干上がりそうになっていた。これは賭けだ。もし、この男が欲深いのなら迷わず奪うだろう。オレは切られて死ぬか、生きたまま外にでも放り出してくれれば恩の字ってとこだな。こういう時は、どうするのがベストだ?


『余裕がない時ほど、余裕がある振りをしろ。舐められたら死ぬと思え』


 ふと、いるはずのない兄貴の口癖が聞こえた。……わかってるよ、兄貴。ここでは誰も助けてはくれない。父さんも母さんも兄貴も弟もいない、そんなオレの味方はダイキチだけなんだ。なら、そのダイキチと一緒に生き延びてやる!


 オレは頬杖をついて口端を上げると、胡乱な視線をわざと男に向けた。


「あんたは最初からそんな気なんてないだろ? それにどっちにしても無理だぞ。ダイキチを奪ったところで、こいつはあんたの命令には絶対に従わない。さっきの芸を見ただろ? そう訓練してあるんだよ」


 マジでそうだったらいいけどな。内心は冷や汗でダラダラだ。これはまったくの出まかせだからだ。ダイキチが絶対に従わないという根拠はない。ただ、今までダイキチがオレの許可なく他人の命令に従ったことはないってだけだ。


 男はオレの態度を見て、それまでの空気を笑顔で霧散させる。


「賢い奴だな! 安心しろ、ただの冗談だ。ダイをお前から奪ったりしないよ。金の価値がわかっていないお前が売れば、買い叩かれるかもしれないし、下手なとこで何度も売れば足がつく。そう考えれば、オレを使うのが一番いい。お前のその賢さに免じて、もし見つけたら取り分は二で手を打ってやるよ」


「いいのか? あんたにはそうするメリットがないだろ?」


「お前の肝の太さが気に入ったのさ」


「男に気に入られても嬉しくないな」


「ははっ、仲良くしようぜ。まぁ、今はまだ信用しなくてもいいさ。リュヴァルクでは『仲間には寛容な許しを、敵には容赦なき死を』が掟だ。こっちの常識と生きるための方法をオレ達が教えてやる」


 幸運なのか不運なのかはわからないが、異世界に落っこちたオレとダイキチは、リュヴァルク傭兵部隊の頭ガオス・クロウに拾われてホームで暮らすことになったのである。

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