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5ワン目 ホームと呼ばれる場所

 傭兵部隊は入った時とは違う門から街を出た。こっちでも門番のチェックを受けはしたが、それほど厳しいものではないようですんなりと解放される。それが終われば、どこか浮かれた男達は馬のスピードを少し上げて走らせる。地獄の時間再スタートだ。馬酔いに苦しむオレが連れて行かれたのは、街から右の方角にある森だった。


 あの灰色の砂漠を目にしていると、生い茂る緑葉に驚くしかない。どうしてこんなに差があるんだ? そこには、元の世界には存在しない理由が隠されている気がした。考えに意識を向けていると、馬が森を抜けた。その先には緩やかな丘があり、どこからか水音もしている。ということは、近くに川があるのだろう。もしかしたら、逃げる時に使えるかもしれない。


 オレはさらに使える情報がないかと目を凝らす。丘の上には灰色の壁があり、その中に点在する建物が見えた。馬の足音に反応したのか、大木を繋げて作られた家から人々が顔を出している。が、冷静さを装っても、オレの限界は近かった。……いい加減に馬の速度を緩めてくれ。吐き気がっ。


 ぐぐぐと湧き上がる吐き気に全身に脂汗が滲み、ほの暗い怒りがメラメラと吐き気と共にオレの腹を焼く。いっそ、ここで吐いてやろうか……? 苛立ちがピークに達すると、人間はこうも愚かなことを思いつくものらしい。 


 半ばやけっぱちになっていると、ようやく馬のスピードが落ちてきた。重い頭を死にかけな気分で上げると、一番大きな家から女が出てくるのが見えた。


 長い金髪を高い位置で縛り上げた気の強そうな女だ。腰に両手を当てる女の前で馬が止まった。まだふわふわ揺れている感じがする。最悪な体調のオレをよそに男が憎たらしいほど快活な声で帰還を叫ぶ。


「帰ったぞ、アディア! ホームはいつも通りか?」


「お帰り。ええ、こちらはいたって平和ね。……で? その子はどこから攫ってきたのよ?」


「酷でぇ疑いをかけられてるな。こいつとそのワンコロは砂漠に落ちてたのを拾ったんだよ」


「う……っ」


 男に乱雑な仕草で馬から下されて、オレは思わず口元を抑える。不覚にも涙ぐんだ目でよろよろと近づく女を見上げると、猫みたいな青い目が驚いたように見開かれた。なにを言われるのかと思えば、オレと女の間にもふっとした感触が割り込んできた。


「ハッ、ハッ、ワフッ」


 ようやく追いついたダイキチが息を弾ませながらそこにいた。オレの様子を心配したのか、鼻先で太腿をつつきながら回りをうろうろし出す。オレもだけど、お前も落ち着け! ちょっと待て、まだ気持ち悪くて余裕がないんだわ。すぅー、はぁー。


「ちょっとあなたっ、本当に無理やり連れて来られたの!? こんなに真っ青になっちゃって、具合が悪いのね?」


 顔をぐいっと持ち上げられて、額を触られたオレは慌てて距離を取る。な、なんのつもりだ、この女!? 


「熱はないようね。喉は渇いてない? それとも奥で横になる?」


「いらない! いらないから、べたべた触んなって」


「なぁに照れてんだ? 素直に世話してもらえ。そいつはオレの恋人で同じ傭兵仲間のアディアだ。アディア、こいつは今日からオレ達のとこに入る。名前は──……そういえば、まだ聞いてなかったなぁ!」


「名前も聞かずに連れ回していたの? 困った人ね。坊やはなんて名前なのかしら?」


「五山総司だ。で、こいつはダイキチ。オレは総司の方が名前なんだけど、こっちはやっぱり家名が後になるのか?」


「ええ、そうよ。顔も私達とは少し違うようだし、坊やは異国から来たの?」


「異国っていうか、異国よりももっと遠いところだな……」


 思わず視線を遠くに飛ばす。周りにこれだけ人がいるんだ。余所者のオレに視線が集まる中で、異世界なんて言葉を軽々しく口には出来ない。


 とはいえ、この男はなにか勘づいていそうではある。オレは馬を家の前に縛りつけている頭と呼ばれた男を盗み見た。そんなオレに、女が笑いかけてくる。


「そうなの? じゃあ今度、あなたの国の話を聞かせてくれると嬉しいわ。私はアディア・リムテッドよ。今日からよろしくね、ソージ、ダイ」


「オレはガオス・クロウな。そんじゃ、あんなところにいた訳を詳しく聞くとするか。お~い、ゴズバル、ちょっと来てくれ」


「なんだ、お頭?」


「この報酬を皆に分けておいてくれ。オレの分は後で届けてくれりゃあいい」


「ああ、わかった。だが、そのガキを正式に傭兵団に入れるつもりならオレは反対だからな。そんなひょろい身体で仕事がこなせるとは思えん」


「そりゃあ、今の話だろ? うちはもうガキを二人も抱えてるんだ。いまさら一人と一匹が増えたところで変わりゃあしねぇよ。そいつらと一緒に鍛えてやれ。入れるかどうかは身体が出来あがって、ここに慣れてから決めればいいさ。指導は得意だろ、お前?」


「やれやれ、ガキの面倒を見るのは副頭の仕事じゃないだろう」


「そう言うなって。元魔法騎士のお前が一番の適任だ。任せたぜ、相棒!」


「ったく、あんたの酔狂にも困ったもんだぜ」


 肩をすくめるハゲ頭の背中をべしっと叩いて男、ガオスが歯を見せて笑う。なんだかんだといいながらもこの男は頭として認められているようだ。仲間意識が強く、面倒見が良いことだけはわかる。こんななんの役にも立たないオレ(ガキ)を拾うくらいだからな。


 その時、場違いにもオレの腹からグゥーッという音が響いた。あんな果物一個でたべざかりの中二の腹が満たされるはずもない。空腹のせいで、いつもより乗り物酔いが酷かったのだ。


「腹の虫は元気みたいだな。ソージとダイには約束通りに飯を食わせてやるよ」


「ワフッ」


 耳をピンと立ててこっちを見上げるダイキチの目が輝いている。お前も腹が減ってるんだな。それはわかるけど、オレより返事が早いってのはどうなんだ? 


「この食いしん坊が。飯にすぐ反応するなよ」


「ふふっ。素直な子のようね。さぁ、二人とも中にいらっしゃい」


 アディアが優しく微笑んで、オレの両肩を掴んで家の中へと押していく。疑う気持ちがまったくないわけじゃないが、これまで得た情報を頼りにおそらくは悪人ではないと判断を下す。それに、逃げるにしても留まるにしても、今のオレには知らないことが多い。


──今動きを決めるのは危険だ。それなら─……。


 オレは真っ直ぐに顔を上げて、室内に足を踏み入れる前に覚悟を決めた。さぁて、運命を相手に一勝負だ!

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