24ワン目 アジトを守る者達
「はやっ、もう二個目にいくの!? 落ち着いて食べないと喉につまるよ? エイローク。わぁっ、このスープもおいしい!」
ジュライは早口言葉のように食事の挨拶をして、さっそくかぶりつく。カナンは一口飲むと顔を綻ばせて口元を手で押さえている。
オレも白身魚や野菜が入った透明なスープを器から一口すする。シンプルな塩に具材の味がプラスされて、食べやすい。具合が悪い時に、もしこれが出てきたら嬉しい。そんな風に思うほっとする味わいだ。
腹が減っていたから、オレ達は貪るように差し入れの料理を食べた。空っぽになった食器をバスケットに戻すと、オルドラが大鍋と一緒に抱え上げる。
「腹が落ち着くまで、お前達は今から見る鍛錬だ」
「見る鍛錬?」
「オレとナターシャが今からやり合う。魔法もありの実力勝負みたいなもんだ。ただ説明するより実際に見た方がわかるだろ。オレ達の動きや防御の仕方、武器の振るい方を見て参考にすればいい」
「ナターシャは女だろ? てめぇと勝負して大丈夫なのかよ?」
「ジュライったら失礼なこと言わないの!」
「なにがだよ?」
カナンが注意しても、ジュライはいまいちわかっていない様子だ。オレ達はジュライの性格をわかっているから、その言葉は単純にナターシャを心配したから出たのだとわかる。だけど、このままじゃ、まずいよな。
オレがそう思った時、オルドラが唐突にこんな言葉をジュライに投げてきた。
「お前はまだ子供だからオーディスには勝てないよな?」
「はぁ!? なんで勝てないって決めつけてんだ! オレが勝つかもしれねぇだろうが」
「腹が立っただろ? でも、お前がナターシャに言ったことはこれと同じ意味になるんだぞ?」
言葉に詰まったジュライが、もどかしそうに手を拳にする。ダイキチが険悪な空気を察したようにおろおろとオレ達の顔を見上げてきた。オレは安心させるように頭を撫でてやりながら、オルドラに伝える。
「ジュライはナターシャを見下して言ったわけじゃない」
「わかってるよ。だけどな、無意識の中でこいつは女が男に勝てないもんだと思ってる。女だろうが子供だろうが、勝敗に絶対は存在しない。決めつけていると足元をすくわれるぞ」
落ち着いた声で諭されて、ジュライも冷静になったようだった。パチリと一つ瞬くと神妙な様子で立ち上がってナターシャに謝る。
「……ナターシャ、今の言葉は取り消す! よく考えずに言っちまった。そうだよな。オレが勝手に決めつけるのはおかしいよな」
「最初から怒っていないよ。悪気がなかったことは見てわかるからな。むしろ、柔軟に違う考え方を受け入れられることに感心したぞ。一般的には、女と男では腕力にも体格にも差が出る。これは事実だ。しかし、この世の女が全て繊細で弱いとは限らないのだよ。特にこのリュヴァルク傭兵部隊の人間はね。──それじゃあ、やろうか、オルドラ」
「お前達はあの柵の前まで下がっとけよ」
オレ達が言われた通りに移動すると、オルドラとナターシャが向かい合うように立ち、腰のベルトから剣を抜く。構える二人からぴりついた空気が広がり、肌を指すような殺気を感じた。オレ達は身体に力を込めて、思わず息をひそめる。
それは──なんの合図もないままに始まった。
「土魔法・岩時雨の弾丸」
「さっそくかっ、それならこっちも……風魔法・巨人の寝息!」
ナターシャが手を上にあげると、周りに石礫が何十個と現れて、それが弾丸のようにオルドラへと飛んでいく。オルドラは飛んできた石礫を剣で叩き落としながら、小さな竜巻を自分の周囲に起こして防ぎきれなかったものを跳ね除ける。
強い風に石礫が混じったものがオレ達にも吹きつけてくる。顔を庇いながら指の間から二人を見ていると、剣が交差した。ギィンッと鉄のこすれ合う重い音が鳴り響き、切り合いが続く。一進一退の攻防戦だ。
「なんていうか……目を離したくないな」
「ワフッ」
「リュヴァルクの人達の勝負って迫力があるからね」
「ナターシャが戦う姿は初めて見るけどよ、めちゃくちゃ強ぇな!」
「いい勝負だ。ナターシャの魔法は相手の妨害を優先してる。オルドラはそれを防ぎながら先読みして次の手を考えてるみたいだ。力が拮抗してるから、なにがきっかけで優劣がひっくり返るかわからない」
「ソージだったら、オルドラさんに攻撃を仕掛けるのはいつにする?」
「初手の振りをして実際は三手目を狙う。目隠し系の魔法を操れるなら自分を隠して死角から攻撃するのがいいかもな。そのくらいしなきゃ、オルドラには一撃も入れられないだろ」
「な、なるほど。いつも思うけど、考えながら戦うのって難しくない? 僕なら頭がこんがらがりそうだよ」
「身体が先に反応するタイプと、頭で考えるタイプの違いだな。前者はジュライ、後者はオレ。カナンは前者よりの後者ってとこか」
「じゃあ、どの戦い方が一番強いんだ? それともあれか! どっちも出来たら最強になんのか?」
「それは考えたことなかったわ。……どっちもか。それが出来ればたしかに強いな。けど、実際のところはどっちかに寄ると思うぞ」
「うべっ、ぺっぺっ、オルドラのおっさんが風魔法を連発してやがるな。口の中にまで飛んで来やがった」
オレ達は視線を二人に向けたまま、その戦い方をつぶさに観察する。瞬きで見逃すのが惜しい。二人は切り合いを続けながら煽り合っている。
「周囲に風が逃げているぞ。相変わらずコントロールは苦手のようだな、オルドラ!」
「魔法の精度はお前の方が上だ。それは認める。だけどな、剣ならこっちに分があるんだよ! 付加魔法・猛り狂う蛇!!」
オルドラが大きく剣を振るうと、白い風が剣に巻きつきながら、無数の小さな渦となってナターシャに飛んでいく。ナターシャは大きく後ろに飛びずりながら、剣で地面を突き刺した。土がぼこぼことうごめき出す。




