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20ワン目 悪縁の予感

「……オレはリュヴァルク傭兵部隊の者で、この子達はリュヴァルクの子だ。どういう事情からこの子達に嫌疑をかけている?」


「なっ、リュ、リュヴァルクだと……っ」


「モナイズ様、子爵様が依頼を頼むこともございます。ここは穏便に収めた方が……」


「な、なんでもない! 不愉快だ、帰るぞ!!」


 リュヴァルクの名前が出た途端にボンボンの顔色が変わって、慌てた様子で踵を返す。よっしゃ、作戦通りだ。ここでオレ達がリュヴァルクだと名乗るよりオーディスという大人の口から言ってもらった方が説得力がある。そのため、オレはわざと隊長と呼んだのだ。


「悪い、オーディス。変なのに絡まれて大ごとになりそうだったから、リュヴァルクの立場を使わせてもらったんだ」


「いや、いい判断だった。あれはどこの貴族と名乗った?」


「ハルビス子爵家とか言ってたぜ」


「聞き覚えがある。頭が注視していた人物だな。つい最近、依頼を断ったと聞いている。今回のことは一応報告しておくべきだろう。それにしても、嫌な縁だな。お前達も気をつけておけ。自分の身を守るためにも貴族にはあまり近づくな」


 オレ達はオーディスの言葉に深く頷いた。それにしてもまさか、リュヴァルクの名をさっそく使うことになるとは思わなかった。しかし、その名前がオレとジュライを守ってくれたことは間違いない。それだけ影響力と知名度のある傭兵部隊ということだ。頭のガオスの大らかさを見ていると、とてもそんな大物には見えないが。


「ジュライ、我慢させたのに結局オレが言うことになった。ごめんな」


「オレは気分がよかったぜ。とっさにあんな作戦を思いつくなんて、やっぱお前はすげぇ奴だ!」


「ちょっと目をはなした隙に騒ぎを起こすなんて、二人とも心配したよ。見ててハラハラしたし、もう心臓に悪いったら……もう絶対に離れないからね! ほら、本も見つけたから、こんなとこ早く出よう」


 よっほど心配させたらしい。カナンはまだ青い顔をしながら一刻も早くこの場を出たそうに急かしてくる。オレは手渡された本を受け取りながら、さっきの貴族の姿を思い出していた。オーディスが言ったように嫌な縁が出来た気がする。あのボンボンとまたどこかで会うようなそんな予感がした。出来るなら、二度と会いたくないけどな。





 カナンとジュライが選んでくれた本を手に入れると、オレ達は書店を後にした。子供むけの本だけど比較的読みやすそうなもののようだ。こう言う時の為に小遣いをせっせと貯めておいてよかった。やっぱり異世界でも金は必要なことに変わりはないからな。


 あれから、オレ達は貴重な休みを遊び倒すようにいろいろな店を回った。そりゃあもう香水屋から玩具屋まで様々だ。その中には武器屋もあったんだよな。まだオレには必要ないけど、見ているだけでも目移りするほど種類が豊富だった。女用の細身の剣から双剣に短剣、弓や槍もあれば、装飾重視のやたら派手な武器もみた。いつかオレも作るかもしれないと思えば、十分興味は引かれるし見てるだけでも飽きないかった。でも、いつまでも遊んでばかりはいられないわけで、留守番を守るダイキチのために、味がついてない肉を露店で焼いてもらって岐路についたわけだ。


「ただいま、ダイキチいい子にしてたか?」


「ワフゥッ」


 オレが居候先の家に戻ると、ダイキチが嬉しそうに駆け寄ってきた。尻尾をぶんぶん振りまわしながら、鼻先で足を押してくる。どうやらさっそくお土産の肉に気づいているらしい。まったく、鼻のいい奴だ。


「ちょっと待ってろよ。皿に出してやるからな」


 オレは魔法の力によって自動で明るくなっている家の中を移動すると、戸棚からダイキチ用の皿を取り出す。そして、大きな肉をごろりと落してやった。


「落ち着いてゆっくり食え」


 そう声をかけながら洗面所で手を洗う。本当は最初にこっちをしたかったんだが、ダイキチの催促に負けたな。オレ自身は夕飯も外で食べて来たので腹は減っていない。仮住まいとはいえ、人気のないこの家は少しばかり居心地が悪い。いつもは笑顔のアディアが出迎えてくれて、構いたがりのガオスがすぐにオレの肩に腕を回してくる。それがないだけで、まるで知らない家にいるかのような気分になった。


 別にさびしがるほど子供じゃないはずなのに、違和感が拭えない。オレはそれに知らぬ振りをしながら、ベッドに向かう。風呂は明日でもいい。なんだか今日は疲れてしまった。


 オレがベッドに横になると、食事を終えたダイキチがやってきて、腹に顔を乗せてくる。その鼻筋を撫でてやりながら響起きたことをゆっくりと考える。タトゥー兼もぐりの医者だと名乗ったフレイヤ。それにオレ自身に存在していた魔法。どんな魔法なのかはまだわからないが、きっと鉄属性の魔法はオレ自身の力になってくれるはずだ。


 絶品の肉を食べた後に、なんとなく嫌な予感を覚えたんだよな。あの貴族のボンボン、嫌な目つきをしていた。人を見下すことが当然だと思っている人間が持つ、高慢で奢った暗い瞳。別に自分から絡んでいくつもりはないが、最後にこちらを様子にあれで終わりにならないような気がしたのだ。矜持の高い人間ほど、その矜持が折れた時にこっちが想像つかないほど残酷になる。逆恨みでなにかしかけてくる可能性は十分にあるだろう。


 異世界で生きるってのは思っていたよりハードらしい。だけど、生き抜くと決めたからには、頭をフル活用して手段を見つけるべきだ。


「ったく、面倒なことにならなきゃいいが」

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