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15ワン目 月の下が似合う女

 オレはジュライと、カナンはオーディスと共に馬に同乗して街へ向かうことになった。あの馬酔いの地獄を避けたくて手綱はオレが握っているが、オーディスと距離を離されないように追いかけていくのは至難の業だ。やっぱり慣れている人間にはまだ敵わないな。それでも、自分で馬を操ることには楽しさを感じた。


「馬の走らせ方がすげぇうまくなったじゃねぇか!」


「お前とカナンが練習に付き合ってくれたおかげだろうな」


 ジュライに褒められて、オレは口端を上げてそう返す。乗馬鍛錬の当初は馬を前に腰が引けていた自覚がある。馬は生き物だ。それに乗ろうというのだから、それなりに大変だってことには想像がついていたけど、まさか初日から馬に放り投げられるとは思わなかった。

オレが強引に手綱を引き過ぎたのが原因なんだけど、打ちつけた腰が痛いわ、太腿がパンパンになるわで、慣れるまでは本当に苦労したんだよなぁ。

それに、ただ走らせることと、馬を一定の速度で走らせることは違う。そこに技量が必要なのだ。

 二人でそんな会話をしていると門が現れる。今日もすぐに通れそうだ。馬の速度を落としたカーディスに従って、オレも馬の脚を緩めて門の前で止まる。門番がチェックに来るが、やる気がない様子で一瞥されただけですぐに通された。


「行っていいぞ」


「……ソージ、あの門番よ、まともに調べてないぞ? いいのか、あれで?」


「まずいだろうな。オレが見た感じでは、全ての門番があんないい加減な仕事をしてるわけじゃない。あの男が特にやる気がないだけだ。前に他の門番のチェックを受けた時はかなりしっかり調べていたからな」


「ふぅん。あれこそまさに職務怠慢って奴だな!」


「声を押さえとけよ。万が一聞こえたら、今度から厳しいチェックをされるようになる。オレ達にとって損はないんだから、好きにさせとけばいいさ。それに、ああいう男が必要な時があるかもしれない」


「そんなことあるかぁ?」


「もしかしたらって話だ。今のオレ達が気にする必要はないよ。それより、オレはこれから連れていかれるところが気になってるんだよ。ジュライはガオスの友人を知ってるか?」


「何回か会ってるぜ! なんつーか、一度見たら忘れないような、インパクト大のすげぇ女」


「……その説明に不穏なものを感じるのは、オレが慎重すぎるせいか?」


「なんも心配はいらねぇ! オレを信じとけ」


「よし、わかった。信じとく」


 自信満々に言われても不安しか感じないが、オレはそれ以上の言葉を避けた。せっかく不安を拭おうとしてくれたのに、疑われるのは気分がよくないだろう。ジュライは傲岸不遜に見えて以外と繊細なところがあるようだしな。


 オレ達がそんな話をしていると、オーディスが馬を中心街から外れた方角に進めていく。後を追いかけながら、オレは次第に人通りが少なくなっていく様子に警戒心を抱いた。どうにも治安が悪そうな雰囲気が見え隠れしている。路地影にしゃがみ込む男たちの目つきや人相に、罪の気配を感じた。


 その様子に気づいていないはずがないのに、オーディスは馬を奥へと進めていくと、一つの建物の前でその前を止める。そこには、黒い屋根の古くこぢんまりとした店が佇んでいた。扉には黒い薔薇と稲妻の模様が看板としてかけられている。オーディスは階段に繋がる手すりに馬の手綱を結ぶと、オレ達にも目でうながす。


「こんなところに馬を放置して大丈夫か?」


「ああ、それなら問題ないよ。馬の鞍にリュヴァルクの印が刻まれているからね」


「これを見て盗む度胸のある者はいないだろう」


 カナンが指刺した場所には、トライバル風の不思議な紋章と同じものが彫られていた。雷を模しているのだろうか? それと同じものが、リュヴァルクの傭兵達の身体に刻まれていたり、アクセサリーとして身に着けているのを見た覚えがあった。なるほどな、これがリュヴァルクの印となっているのか。


 オレも同じように馬を繋ぐと、オーディス達の後に続いて店の中に入っていく。中は薄暗く、診察室を思わせるベッドが二台と、棚には様々な色のついた瓶が置かれ、カウンターが設置されていた。壁には様々なイラストが描かれた紙が張り付けられており、廃墟を連想させるようなどこか廃退的な空気感がある。


「リュベルクのオーディスだ。レイヤ、いるか?」


オーディスの声にガタンッと音が返り、奥から女が現れる。


女は黒い髪に緑の瞳の持ち主で、唇を毒々しい紫色に染め、首筋には青い蝶のタトゥーが見えた。胸元が開いたスリット入りの黒のドレス調のワンピースを身に着けている。アディアが太陽の下が似合う女と例えるなら、この女は月の下が似合いそうな怪しい雰囲気があった。


「んふふ、今日は可愛い子達を連れているじゃないか。全員アタシのタトゥーをご所望かい?」


 甘ったるい囁き声と色気たっぷりの流し目に、オレは思わず固まった。思わず両側の二人を見れば、カナンは赤面しており、ジュライも身体をのけ反らして身を引いていた。インパクトって言葉が霞みそうな女だな。

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