6 勇者3
よく晴れた空の下、しっかりと整備された道を一組の男女が歩いている。
道は街と街をつなぐ街道であり、普段ならちらほらと行商人や旅人で賑わっている割と主要な街道なのだが、戦争中のためかそういった人たちには一度も出会わなかった。
「あの・・・こんな道通って良いのでしょうか」
女――イリーナが勇者を見上げながら尋ねる。彼女も背は高いほうだが男――レンブラントのほうが20センチほど高かった。
二人は勇者の仲間が集っているという街に行く途中である。イリーナは何度かどの街に向かっているのかと聞いたのだが、その度に「着いてからのお楽しみ」とレンブラントにはぐらかされていた。どうやら南へ向かっているらしいというのは分かるのだが。
「ん?良いって何が?」
レンブラントは不思議そうに聞き返す。
「いやあの、この辺りはすでに魔王軍の占領下になりつつあると聞いたもので、そうだとするとこんな大っぴらに歩くのは危ないんじゃ・・・」
「詳しいね」
レンブラントが微笑する。
「え!いや、これくらいの事なら、もう皆知ってます・・・」
レンブラントに他意はないのだろうが、ついつい自分を見透かされたような気がして焦ってしまう。怪しまれなければ良いのだが。
「心配しなくても平気だよ。魔王軍はもうこんな所じゃなくてさらに首都の近くまで迫っているからね。いたとしても小勢。大丈夫、僕の敵じゃない」
レンブラントは左右に広がる広大な草原に目を細めながら続ける。
「それに何故か今回の魔王はあまり略奪をしないようだからこの辺の治安もそこまで悪くないんじゃないかな?まぁそれでも盗賊なんかは増えてるみたいだけど」
5年前、先代の魔王ヴェスターは、いままで共存していた人類に対して暴虐の限りを尽くした。魔王が何故いきなりそんな行動に走ったのかは知られていないが、あの戦争、いや虐殺は人類の10分の1を殺傷したといわれている。
そんな過去があるからこそ、今回の魔王再攻は人々に多大な恐怖感を与えた。先代の魔王を葬った勇者が健在だった為、大きな混乱は起きなかったが、比較的魔王領に近かった地域や、魔族を奴隷として雇っていた地域では少なからず、流血を含む混乱が起きた。
しかし次第に今回の魔王は前回の魔王とは違うということに人々は気づいていった。
民間人の被害が極端に少ないのだ。勿論戦争に参加した兵士の死傷者は甚大だ。偶然戦場になってしまった街などでは民草に死者も出た。しかしそういったケースでは民間人を助けたという話まで聞く。一体何故そんなことをしているのかは不明だが、魔王軍が国の中枢近くまで攻めてきているというのに治安の悪化が深刻ではないのはそういう理由があった。
「あの魔王が何を考えてるのかは知らないけど、少なくともここはまだ安全だよ。問題は街に入ってからかな。流石に主要な都市には結構な押さえがいるだろうからね」
レンブラントは笑いながらそう言った。
「街・・・?ってもしかして私たちは街に向かっているのですか?」
イリーナが目を見張る。てっきり森や洞窟に拠点があると思っていた。第一この辺りの都市はすでに魔王軍によって占領されているのだ。そんなところに向かってどうするというのか、レンブラントの仲間だって生きているかどうか疑わしい。
不思議そうに、そして不安そうに見上げているイリーナに勇者は変わらぬ微笑を向ける。
「まぁ、着いてからのお楽しみって事で」
やべべべべ。話を広げすぎたようだ。設定固めないと話が訳分からなくなりそうだ。
まぁ行き当たりばったりと言った以上プロットは書きませんが舞台設定だけは固めとかないと。
ああもっと単純な構図にしときゃよかった。