5.5 勇者2.5
僕は嘘にまみれて育ってきた。
母も父も。村の皆も。国王すら僕に嘘を吐いた。
皆して僕が勇者だと嘘を吐いた。
本当は勇者だと思っていないくせに。
神の言う勇者なんて信じていなかったくせに。
ただ少し力の強かっただけの僕を、自分たちの都合で勇者に仕立て上げた。
嘘にまみれて育った僕は。次第に嘘に敏感になっていった。
だから彼女の吐いた嘘もすぐに分かった。
「実は私の父は、魔王の横暴な政治に反発し、魔王に立ち向かうべく人族の味方をしていたのです。けれども父は戦に負け、処刑されてしまいました」
嘘だ。
「母も父を失った後、後を追うように病死してしまいました。・・・心労が原因だったそうです。だから私は父、そして母を奪った魔王が許せません。しかし私の力では魔王を倒すことは出来ないでしょう。けれど、父の遺志を継ぎ皆様の・・・勇者様のお手伝いが出来るかもしれない。そう考えたのです・・・っ」
嘘だ。
しかし彼女の力はレンブラントにとって魅力的だった。治癒能力。どのくらい強い力なのかは分からないが、胸に開いた穴を塞ぎ、レンブラントを死の淵から救ったほどだ。強力なものに違いない。
だからレンブラントは彼女の嘘に騙されたふりをした。
「両親を失って・・・さぞ辛かった事だろう。君は立派だ。そんな目に合いながらも誰かのことを考えることができるんだね。いいだろう。君を僕の仲間として迎え入れよう。これから先、君みたいな人が生まれないよう一緒に努力していこう」
そう言い、涙を偽装する。皮肉なことに、色々な嘘や演技に触れるたび、その技術はレンブラントの物となっていっていた。
レンブラントはイリーナの手を取り握り締める。出来るだけ優しく。相手にあまり顔を見られないようにする為に。そして嘘を信じさせるために。
(それにしても最初に疑ってしまったのは失敗だっただろうか)
出来るなら彼女には僕の頭の回転が遅いと思わせておきたいが、最初に彼女の不意を衝いて質問してしまった。まぁ大した質問じゃないしちゃんと信用した素振りを見せれば平気か。
(質問するほうが自然な流れでもあったしな・・・)
「それじゃ早速だけど僕の仲間たちのところへ案内するよ。ここからだと結構歩くけど大丈夫。疲れたら僕が背負ってあげよう!」
彼女をここで殺さないということは、もしかしたら後々厄介なことになるかもしれない。
イリーナの目的が分からない以上手元に置いておくのは危険な事だ。
しかし彼女は僕を救った。理由は分からないが、彼女の「今のところ」の目的は僕の命ではないという事だ。
ならば。それが分かるまで手元に置いていても問題はないだろう。もしも僕の害になるような素振りを見せればすぐに殺せるようにするためにも・・・。
いいように使ってやるさ。死ぬまでな。
レンブラントはにこやかな笑顔を浮かべた。
ボロ雑巾と言わなかっただけまし(爆
死亡フラグに見えなくもない。
こうなると5.5っていうのもパクリのように見えるけどそれは仕方ない。6話にするのは抵抗があったので。