5 勇者2
「そうか、君には治癒の能力があるんだね」
勇者は納得したようにつぶやいた。
二人は今小さな切り株を挟んで向かい合って座っている。ちなみにこの切り株は今まであったものではなく、勇者が持っていた短剣で新しく作ったものだ。彼女は勇者の馬鹿力に呆れたが、第一印象が頼りなかったので、ちゃんと強いところが見えてほっとしていた。
「それで、僕が倒れているのを見つけて治療してくれた。と」
「はい、出血があまりにも酷かったので正直助かるかどうかは分かりませんでしたが・・・」
それは嘘ではない。必ず助ける気ではいたが、勇者の傷は彼女が考えていたよりずっと酷かった。
「ところで、君はどうしてまた森のこんな深いところに来たんだい?」
勇者が探るような目をして聞いてくる。まずい、疑いを持たれたら終わり。
少し焦りながらも事前に考えておいた理由を話す。
「あ、あの私・・・勇者様にお仕えしたいのです。」
「え?ってことは僕に会いに来たって訳かい?」
勇者は不思議そうに聞く。
「そうです。南の街の方々に聞けば、北の街に向かっているという話を聞いて、北の街に行ってみると勇者様の知人だという占い師にこの森にいるだろうと・・・」
「はぁ、それでなんでまた僕に会いたかったんだい?しかも君・・・魔族だよね?」
その占い師に何か嫌な心当たりがあるらしく顔をしかめながらなおも訊いてくる。
「・・・実は私の父は、魔王の横暴な政治に反発し、魔王に立ち向かうべく人族の味方をしていたのです。けれども父は戦に負け、処刑されてしまいました」
早すぎず、遅すぎず、けれどどこか寂しそうな口調で話すよう心がける。
すると勇者も信用したのか、同情的な表情を浮かべはじめた。
「母も父を失った後、後を追うように病死してしまいました。・・・心労が原因だったそうです。だから私は父、そして母を奪った魔王が許せません。しかし私の力では魔王を倒すことは出来ないでしょう。けれど、父の遺志を継ぎ皆様の・・・勇者様のお手伝いが出来るかもしれない。そう考えたのです・・・っ」
最後は少し感情を高ぶらせてみる。我ながら大した演技が出来たと思う。これなら疑われる心配もないだろう。
すると思ったとおりで、勇者は優しく手を握ってきた。
「両親を失って・・・さぞ辛かった事だろう。君は立派だ。そんな目に合いながらも誰かのことを考えることができるんだね。いいだろう。君を僕の仲間として迎え入れよう。これから先、君みたいな人が生まれないよう一緒に努力していこう」
どうやら勇者は妙に涙もろいらしい。手を握る手はかすかに震え、目は少し赤くなっている。
(扱いやすそうで結構なことだわ・・・)
そんなことを考えながら、彼女はこれからのことを思考する。勇者を助け、取り入ることは出来た。後は弟を・・・今の魔王であるベイルを勇者に殺させ、油断した勇者を私が殺せば全てが手に入る・・・・・。
「そういえば名前を聞いていなかったね、なんて言うんだい?」
気がついたら勇者の端正な顔が近づいていた。いけない、思考に没頭しかけていたようだ。妙なことを口走ったら勇者を助けた意味が無くなってしまう。危ない危ない。
「あ、えっと!私はイリーナです」
「僕はレンブラント。それじゃ早速だけど僕の仲間たちのところへ案内するよ。ここからだと結構歩くけど大丈夫。疲れたら僕が背負ってあげよう!」
立ち上がりにこやかな顔で話すレンブラント。勇者がちょっと暑苦しいのは我慢しよう。
「そうですね。私も早く勇者様のお仲間に会って見たいです」
そしてイリーナは立ち上がり、勇者とともに歩き出した。
(ねぇ愛しい愛しいベイル。あなたはいつも私を優しいといっていたわね。でもね、優しい私にも野心があったのよ。愛しいあなたが邪魔な障害物にしか見えなくなるほど強い強い野心が。血を分けたあなたと同じように、私も魔王になりたいの)
やっと魔王の名前が決まりました(笑
ちょっと飽きてきたのは秘密だ。