9 魔王5
「逃げるべきでしょう」
こいつはまた言いにくいことを易々と言ってくれる・・・。ウォーレンはそう思いながら親友の声を聞く。
グレンは陛下を柔らかい瞳で見据え、続ける。
「まず勝ち目はありません。何故なら勇者がいるからです。それは魔王陛下も重々承知のことと存じます、正直な事を言わせてもらいますが・・・陛下は何故迷っておられるのですか?」
グレンの声はいつに無く真剣だった。ウォーレンは付き合いこそ長くは無いが、この男の人柄はかなりのところ理解しているつもりだ。
こういう声を出すとき、グレンは少なからず苛ついている。
「迷っている・・・?まぁ、こうして君たちの意見を聞いているんだ。迷っているのは当たり前の話だろう。迷っていなければこんな会議は開かないさ」
陛下は少し面白くなさそうに肘をつき、前髪をうざったそうに撫でる。
「私が言いたいのは、この様に会議を開いている時間さえ惜しいということです。勇者が刻一刻と迫っている以上すぐにでもこの街を離れ、より安全な場所を目指すべきです」
「・・・・」
魔王はさらに面白くなさそうに髪を撫で上げる。
このあたりでグレンと陛下以外の者は一段と怪しくなって来た空気に冷や汗をかいたが、誰もグレンを止めようとはしなかった。
(あんまり陛下を刺激するのはよしてくれよ・・・)
そんな思いで見るウォーレンを知ってか知らずか、グレンは続ける。
「まさかとは思いますが・・・。父上の敵を討ちたいのですか?」
グレンは一瞬探るような色を出し、魔王の返事を待つ。
魔王は気だるそうに溜息をつくと、グレンを軽く見下すように目を向けた。
「仇?笑わせてくれるね、さすがに人間らしい発想だ。だがそんな事で迷ったりしないよ。君とは違って僕は魔王だからね。僕が考えていたのはどうすればこの大軍で勇者から逃げられるか、最初からそれだけさ。お前はずいぶん自信がありそうだから聞くけど、一体どうする気何だ?」
それを聞いたグレンは、ははは。と小さな笑いを漏らした。
「何か可笑しかったか?」
魔王が苛立たしそうに訊く。
「いえ。ただ魔王陛下にしては随分お優しい考えだと思いまして」
「・・・・・」
「お分かりになられていない様ですので言わせてもらいますが、全軍で逃げる必要など無いのです。むしろ疲弊した兵士などただのお荷物でしかありません。捨て置くべきなのです。それにこの城に兵士の大半を残しておくことで、一種のカムフラージュになるやも知れません。向こうは念話機の存在を知らないはずなので、まだこちらが事態を把握していないと思い込んでくれるかもしれません」
グレンは早口でまくし立てると、魔王に決断を促した。
「さぁ。陛下はどうなさいますか?」
なんか面倒くさい編成になっちまったね。
一応今やってる勇者編が過去編なせいです。
話の途中で違う話を始めるのは駄目だね。