幕間 クロノアス家のお家騒動
武芸大会終了後
戦神メナトがご降臨とか、色々バレていたり、暴露したり
その後、ウォルドが天に召されかけるなどがあった
そんな日々から2週間が過ぎた頃、とある問題が表面化した
ウォルドに祝福という名の地獄を見せたメナトは
『一度神界に帰らないといけない。また来るから、二人とも鍛錬を怠らないように』
そう言って、神界に帰っていった
問題が表面化したのはその翌日
我が姉ルナエラの婚約者問題だった
いや、ある意味婚約者が決まっていなかったのが幸いした部分もある
事はそれくらい重大であった
問題とは武術大会前に父が話した爵位にあった
現在、長男は元のクロノアス領を治めており、独立した辺境伯家を起こした形になっている
次男も新クロノアス領の領主で、独立した伯爵家になる
そして俺も、独立した法衣侯爵家の当主(成人後)だ
そう!父グラキオスの侯爵家を継ぐ者がいないのだ!
これは陛下の大失態であった
父を任命してから数か月経つまでこの問題に気付かなかったのだ
そして、気付いてからが問題だ
後継者をどうするか?
ランシェスでは女性当主は認められていない
前世なら時代錯誤とか女性団体が抗議しそうなものだが、この世界にそんなものはなく、男尊女卑な世界である
但し、一部領地では運営のために女性に役職をつけている地域もあるが、そんなものは極一部だけだ
我がクロノアス家も例外ではない
そして、問題へと直面する
一番簡単な解決方法は、弟ができることだが
「私も、もう40だ。今更な」
弟が仮に出来たとしても成人する頃には父は55を超す
母達も40手前
子供は出来るだろうが、超高齢出産である
前世でも40手前だと高齢出産だ
この世界なら超高齢出産と言われても仕方ない
では次の解決策
弟を作るために、新しい嫁を父が娶る
しかしこれは、父の年齢により却下
いや、正確には出来るのだが、父が乗り気じゃないので却下が正解なのだが
そうなると、残る解決策は3つ
しかし、1つは陛下により許可されなかった
その解決策が養子を取ることだ
陛下曰く
「クロノアス家の血を引いて無い者を認めるわけにはいかん」
だそうだ
昔からの約定で〝必ず血縁者が継ぐ〟とされているらしい
陛下の失態もあるのだから認めろよとは思う
しかし陛下の言葉は
「グラキオスが新しく娶ると言うなら、王家は全力で支援しよう」
と返され、養子案は消え去った
尚、後継者でないなら養子はとっても良いと言われている
残る解決策は2つ
いや、まだ3つあるんだけど一つは誰も賛成しないんだよな
誰も賛成しない解決策
それは、ルナエラ姉が婿を取って家督を譲ること
これには王家含め、全員が猛反対
厳正な審査をして婿を探すが、将来のお家騒動率が高すぎる為だ
婿側の家が干渉してくると物凄く面倒だし、最悪の場合、改易もあり得るからだ
では、孫に継がせてはどうか?
そうなると、婿になるメリットがほぼない
家同士の繋がりは出来るが、その派閥までとなると怪しい
婚姻と利権も絡んだりする
柵一杯なのが貴族の婚姻なのだ
そうなると最後の案
俺の子供が父の侯爵家を継ぐ
これには俺を含めた男兄弟が反発
何が悲しゅうて将来の火種を作らにゃならん
間違いなく兄二人の子供達が怒る
兄達は諫めるだろうが、死後までは責任が持てない
結果、問題は暗礁に乗り上げた
父が新しい嫁を娶るか、母達に産ませるかすれば話は簡単なのに
俺が【転生者】で神とタメで話せるから、産まれてくる子供を男の子にするくらいはできるのに
解決策が出ないまま数日が経ち、遂に他貴族にバレる
他貴族にバレると何が問題なのか?
それは次の通りだ
「クロノアス卿!ルナエラ嬢の婿には我が子爵の次男を!」
「クロノアス卿!我がマジデン子爵家とクロノアス家発展の為に是非とも三男との婚姻を推薦して戴きたく!」
「子爵家はどきたまえ。クロノアス卿よ。我がビスタンデ伯爵家五男との婚姻が正解ですぞ」
「どいつもこいつも。久しぶりですな、クロノアス卿。ゼンガル侯爵家です。御父上とそれなりの付き合いがある我が家こそふさわしいと思うのだが。どうかね?」
朝から絶えず、このような状況になるわけだ
我が家はまだ父の分家に当たる為、影響力が強いと思われているのもこの状況を作り出している
秘密裏に問題を解決しようとしてたのに、何故か他貴族は嗅ぎつける
貴族とはとことん業の深い生き物である
ただ、貴族ならまだ良い
問題は各貴族の家臣団にある
従士長の家はそうでもないが、陪臣の方は警戒が必要だ
従士長は武芸の家臣な為、重宝されやすく暴発者は出にくい
絶対ではないが、極めて低い
対して陪臣の方は文系の家柄で当主によって重宝される者が変わったりする
先代の時は重宝されていたのに、今代の当主は蔑ろにするなんてのは珍しくない
故に、貴族家のご令嬢を無理矢理手籠めにし、婿に入るなんて者もいる
但し、当然ながら針の筵だし、大抵は秘密裏に処分される
しかし、被害にあった令嬢が元の状態に戻るわけもなく、大体は条件の悪い家に嫁ぐか教会でその生涯を終える
財政的に余裕のある家は行かず後家なんてのもあるらしいが
で、現在のルナエラ姉だが
外に買い物へ行くことすら儘ままならず、家の庭にすら容易に出ることすらできない
このままでは健康上良くないと、どうにかして街にお忍びで出かけることにした
護衛は俺とリアのみ
ただ俺は陰からの護衛だ
何故って?俺って有名人なので、顔が知れ渡ってるんだよね
そう!歩く貴族ホイホイとは俺の事だ!
・・・・・すみません、真面目にやります
ってなボケを心の中でやってるうちに、出るわ出るわ、貴族のボンボン共が
あの手この手で誘いを入れ、その都度リアが排除し、危険と判断した者は俺が処理
処分ではなく処理なので、殺やってませんよ?
それを繰り返し、数時間したところで帰宅
護衛任務は、見事完遂した
そして1週間後、事態は更に悪化する
遂に、兄達の領地まで人が押し寄せる事態に!
これは流石にまずくね?
父と相談した結果、陛下へ相談しに行くことに
「こちらでお待ちください」
城に着き、謁見を求めると、応接室へ案内される
待つこと10分、陛下と王妃が姿を現す
「臣下の礼は良い。・・にしても、少しまずいな」
陛下はソファに座り、直ぐに開口
王妃はジト目で陛下を睨み
「元はあなたが招いたことでしょう。流石に何か対応せねば示しがつきませんよ?」
王妃の容赦ない口撃が陛下の心に直撃する!
とは言え、対策の立てようがないのも事実
そして、陛下からの提案は
「やはりグラキオスが新しく娶って、子供を為すのが確実だと思うんだが」
「四十歳になる男に嫁ぐ若い子が可哀想ですよ」
父は正論で陛下に断りを入れた
では他に妙案があるのか?と聞かれたら、無い!と答えるしかない状況
結果、振出しに戻る
ただ、一つだけ状況を改善する手を陛下にお願いする
「陛下。お触れを出していただけませんか?内容は『クロノアス領の領地運営を阻害した者には、王家が許可を出さない』と。恐らくこれで、兄達への被害は少なくなるはずです」
「そこまでになっておるか。・・・分かった。全貴族家に、直接的に触れを出そう。流石に領地運営に支障が出るのは見過ごせん」
「ありがとうございます。・・それで王妃様。例の件はどうですか?」
「グラフィエル?例の件とは?」
「私が説明しましょう。実はグラフィエル君に頼まれて、各貴族家の子弟調査をしていたのですよ。一つの判断材料にはなるでしょう」
「と言う事です。父上」
「お前は・・私に断りもなく」
「父上は父上で大変そうでしたから。あれ以降、自重も止めましたし」
「少しは自重してくれ・・・」
てなことがあり、兄達への被害は瞬く間に減った
代わりに俺への被害が5割増し、父に至っては6割増しになった
そして、事態は何も解決していないという
この件に俺が口出しする権利はない
父上はどうやって収拾するのだろうか?
更に数日後、事態は思わぬ方向に進む
とある貴族家の五男がとても優秀で、婿養子として白羽の矢が立った
父にこの話を聞いたときは「ようやく終わるのですね・・」と安堵したが、やはり問題が浮上する
実は婿養子候補の実家に問題があった
とは言え、実家が悪いとかではない
相手側の問題とは、実家の爵位だ
クロノアス家は侯爵家
相手側は騎士爵家
爵位に開きがありすぎてお話にならないレベルだった
しかし、解決策がないわけではない
相手側の実家の爵位が低いなら、爵位が高く貴族として付き合える家へ養子に出してから婚姻すれば良い
そこで次の問題が浮上
それは、何処の貴族家の派閥に属しているかだ
相手側の実家は、ランシェスにモザイク状に存在する小領主混合地域内の一つで、複数の騎士爵家の領地を足してもクロノアス領の広さには足元にも及ばない
そう言った領主達は、必ず大貴族の派閥に属し、便宜を図ってもらったり、色々と融通し合う
クロノアス家も大貴族なので、近隣にある小領主混合地域の領主達はクロノアス派閥である
では、今回白羽の矢が立った家はどうなのか?
実はこれが最大の問題であった
相手側の実家はクロノアス家と二分する北の辺境伯家派閥
クロノアス家と対立こそしてないが貴族派閥であった
貴族家としての対立はないが、王族派対貴族派と別の対立がある
相手側の実家はその貴族派閥の家でもあった
少し話を脱線させて付け加えると、ランシェスの辺境伯家は全部で6家
北に2家、西に3家、南に1家である
派閥分けすると、北は王族派と貴族派が1家ずつ
西はダグレスト王国に隣接する2家が王族派で1家が貴族派
南は中立派となっている
各辺境伯家が近くにある小領主混合地域の領主達はその辺境伯家の派閥になるわけだ
尚、小領主の爵位は大体が騎士爵家、準男爵家、男爵家になる
稀に子爵家もいるが、全体の1%以下とも付け加えておこう
話を戻すが、貴族家の色々な柵のせいで話は進まなかった
「とても良い青年なんだがなぁ」
父の溜息交じりの呟きが今の現状を如実に語っていた
父に迷惑ばかりかけていたので、何とかしたいとは思う
そこで俺は、中立派閥筆頭で裏では王族派のドバイクス侯爵家将来のお義父さんへ相談を持ち掛けた
「将来の義息子から頼られるのは悪くないな」
ドバイクス卿は嬉しそうにして話を聞いてくれた
そしてドバイクス卿は俺に、一つの情報を渡してくれた
「実はな、ベグヤザ辺境伯は王族派に移りたいという噂がある。ただ、あの辺境伯家は5代前に王族と一悶着あってな。降爵や改易もなければ、罰金もなしだったらしい。しかし、王家も辺境伯も未だ寄り添う素振りすらなくてな」
「では、それを解決すれば望みはあると?」
「そうでもない。今の辺境伯家の数に対して、各派閥のバランスが取れているからな。王族派に鞍替えは無理だ。子爵家までならば、今は影響力も少ないのだが」
どっちにしても難しいのか
では何故この情報を?
疑問に思った俺にドバイクス卿は続けて話をする
「王族派は無理でも、中立派ならばそこまでは崩れない。問題は、過去に何があったか?なのだが、これに関しては完全に秘匿されている」
そういうことか
つまり、過去のいざこざを解消し、ドバイクス卿が中立派閥へ鞍替えさせると
ドバイクス卿なら・・可能なんだろうな
同じ法衣侯爵家でありながら、うちより力を持つ家だしな
そうなると・・次の問題は王家か
役立つ情報をもらって、お礼を言ってから席を立つと
「もう一つ伝えておこう。かの辺境伯が貴族派閥から鞍替えしたいと言う話だが、真偽は定かではない。何かの役に立つだろう」
最後に重要な情報をくれた
再びドバイクス卿にお礼を言い、屋敷を後にする
午後になり、王城へと向かう
アポなしだが、姉の件でと伝えると王妃様が対応してくれた
陛下は執務中だったが
「余も話に参加するぞ!」
と言い、執務を後回しにしようとして臣下に阻まれ、現在は軟禁状態らしい
あまり聞きたくない内情だったが
「あなたには今更でしょう」
そう王妃に言われ「(確かに今更かも)」と思ってしまう辺り、俺も結構酷いなと思う
そんな軽い雑談の後、ドバイクス卿に聞いたことを王妃に話し、過去のいざこざは何なのか聞くと
「何とも恥ずかしい話なのですが。5代前のベグヤザ辺境伯に王家から降嫁がありましてね。その降嫁した王女が随分と勝ち気で。王女と言うのは何故か必ず、誰かが勝ち気になってしまうんですよ。リリィは勝ち気でなくて良かったと安堵しています」
「え~と・・王家と仲の悪い理由って・・・」
「察しの通りですよ。正妻に迎えたは良いが、勝ち気で夫婦仲は最悪。当時のベグヤザ辺境伯は王家からの嫌がらせと思ったでしょうね」
あほらしい理由・・とは言えない
一つ間違えば、俺にも同じ未来が待ち受けていたのだから
その辺りは、王妃に感謝しなければ
とは言え、この問題をどう解消するか?
こういう問題って、罰するのは難しいし、根に持っている可能性が非常に高い
過去の事とはいえ、王族も簡単に頭を下げれない
考えること暫し・・・・あ、これ手詰まりだ
王妃も俺と同じ考えに至ったらしく、二人とも諦めようとして・・陛下乱入!
そして陛下の口から意外な一言が
「ベグヤザ辺境伯家から謁見申請が来ておった。応接室でするからグラキオスを呼んでくるのだ」
他貴族の、それも同爵位家の謁見に同席して良いのだろうか?
しかし、陛下の言葉でもあるし、現状手詰まりなのも事実
俺は陛下に言われるがままに、父を呼びに行く
「直接話すのは初めてですな。グラキオス・フィン・クロノアスです」
「ボーゴイ・フィン・ベグヤザです。ご子息含め、クロノアス家のお噂は聞いております」
二人の挨拶から始まり、応接室は緊張感に包まれていた
そんな中、陛下が口を開く
「それでベグヤザ辺境伯よ。今日の謁見内容はなにようだ?」
陛下の言葉が応接室に響く
陛下の言葉に対し、ベグヤザ辺境伯は
「少し小耳に挟みまして。何でも、クロノアス卿が我が派閥の貴族家五男を婿養子に入れたいとか」
ベグヤザ辺境伯はド直球で用件を伝えてきた
さて、これはどっちなのかな?
ベグヤザ辺境伯の言葉の後、静寂が続く
そんな静寂を破ったのは、ベグヤザ辺境伯だった
「陛下。私は、クロノアス家に利益供与をしに来たわけではありません」
「では、何が目的だ?」
「単刀直入に言いましょう。5代前の争いなど、もう終えてしまっても良いと思っています。しかし、タダと言うわけにもいきません」
「・・・何を望む?」
「特には。・・いえ、一つ望むとすればそれはもう叶っていますので」
「・・クロノアス家との面通しか」
「正確にはクロノアス卿のご子息であり、将来独立貴族になるグラフィエル・フィン・クロノアス君との・・ですかね」
「娘でも押し付ける気か?」
「我が娘達は全員が婚約しておりますので。ただ、彼には少し頼みごとがありまして」
緊迫した状況が続く中、父も王妃も黙ったままだ
俺も黙ったままだが、頼みごとが気になったので
「自分にですか?その頼み事とは何でしょうか?」
この俺の問いにベグヤザ辺境伯は
「実はだね。うちの息子で末弟が君の大ファンでね。王都滞在中に是非、話をしに来てくれないかと」
何とも拍子抜けなお願いである
だが、陛下も、王妃も、父も、額面通りには受け取ってない様だ
また、しばしの沈黙が流れ
「いや、本当に話をしに来てほしいのだ。そして・・冒険者になる事を諦めさせてほしいのだ」
「「「はい?」」」
王妃以外の俺を含めた3人が間抜けな声を出した
あまりにも予想外な頼みごとに詳しく話を聞く
「一番下の子だが。2年後に学校を卒業するのだが、グラフィエル殿の英雄譚が好きでね。『将来は、自分も冒険者になる!』と言って聞かないんだよ」
俺に憧れてか・・ちょっと嬉しい
でも、親の心境としては複雑なんだろうな
「ま、まぁ、話は分かった。それでベグヤザ辺境伯はその対価にクロノアス家に手を貸すと?」
「それもありますが、貴族派閥から抜けようかと。5代前にあった降嫁の件でいつまでもいがみ合っていても仕方ありませんし。何より、息子が危険な道に進むのを止められるのなら、歩み寄っても良いのかな・・と」
陛下の言葉にベグヤザ辺境伯は少し疲れたように返した
多分、何度言っても言う事を聞かない息子をどうにしかして止めてもらいたくて必死なのだろう
でも、俺が言って聞くのかね?
そこでベグヤザ辺境伯に俺の考えを話してみる
「ベグヤザ辺境伯。多分口では理解してもらえないと思います。そこで提案なのですが、うちのクランへ修練に出してみませんか?」
「危険はないのかね?」
「冒険者になるには12歳以上という決まりがあります。勿論例外もありますが、ご子息はそれに該当していません。それに、一番下の依頼は王都内の者が多いです。一番多いのは街の掃除ですかね。まぁ、それすら受けれませんが」
「何か考えがあるのだね?危険がないなら許可しよう」
そう言ってお互い握手を交わす
そして密約へ
ベグヤザ辺境伯は貴族派閥から離脱
しかし、バランスもあるので王族派寄りの中立派へ
国が危機に陥った時は王族派側の意見を採用との形に決まった
同時に婿問題も終結に入る
「我が辺境伯派閥に小領主混合地域で子爵家の者がいます。そちらに養子縁組させてから婿養子に出しましょう」
「グラキオスの爵位は嫡孫に継がせることにすれば良いな」
「わかりました。ご協力感謝いたします」
ルナエラ姉の婚約問題とクロノアス家のお家騒動は、こうして幕を閉じた
ベグヤザ辺境伯の息子はクランで修練するも挫折し、無事ベグヤザ辺境伯の言う通りに、実家の分家を継ぐ決心をした




