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254話 シンビオーシス公国首都開発開始

 あれやこれやと会議をし、リエルが戻って来て10日、決戦の日から1カ月経って8月初め、ようやく、首都と選定した地へとやって来た。

 現在の人員だが、各国軍で生き残った10分の1、総勢6千人の軍勢を率いての遷都である。

 因みにこの人数、そっくりそのまま、我が軍への編入が決まっている。

 全員が元の職場()にその場で退職願を出して、受理された形だ。

 当然だが、その中には、あの履歴書の紹介状を出された者達の合格者もいる。

 その人物たちは、役職付き法衣貴族になる事も確定しており、現在は野生動物の駆除を含めた巡回と護衛任務が主だ。

 そして、そんな軍を取り仕切るのは、暫定隊長のウォルドである。


『げっ、なんで俺が』


『人手不足だからさ、頼むよ。ちゃんと、ウォルドの配置換えは行うからさ』


『絶対だからな!』


 出発前に話をして、どうにか請け負って貰った感じだ。

 他にも文官が百数十名に、西側獣人族からの先発隊が百名程。

 我が国に移住希望で、建築関連が得意な亜人に、各ギルドからの派遣者と、総数だけで見れば万に近い人間がいる。

 そんな軍人以外を取り仕切るのがブラガスであり、現在は補佐に老亜人を起用している状態だ。

 いやね、本当に人手が足りんのよ。


「陛下、源泉についてですが」


「街中には入れるなって話だろ? 一部を直轄領にして、法衣貴族に警備を任せる方向で良いんだな?」


「はい。それと、その他の直轄領の候補地ですが」


「茶葉や農耕地だろうな。他にも考えがあるから、少し確保してくれ」


「わかりました」


 遷都しても、まずは書類関連とか……。

 俺、書類に呪われているんじゃね?


「開墾に近い開発ですからな。各国も、援助は惜しまないと聞いていますが?」


「流石に、金回りで借りは作んない。物資は、経済を回すためにも、国内でなるべくだな」


 大規模戦争から僅か一ヶ月、国内の経済は回っているとは言い難い。

 八木に調べさせて分かった事だが、完全に停滞しているわけではないが、地方同士での連携しか取れていない状況だったりする。

 ブラガス曰く、本拠地が稼働していないのが一つの要因と言われてしまい、今も頑張って仕事をしている。

 そう、首都となる土地の中心部分で、書類片手に。


「片手で書類を持って、片目で確認しながら処理して、もう片方の目で土地の確認は流石に……」


「出来なくはないのですよね?」


「……出来なくはない」


「では、やりましょう。経済を回すだけではなく、時間も無いのですし、多少は形にしませんと」


 ブラガスからの死刑宣告(面倒臭がらずにやれ)に対して文句も言えず、素直に頑張ることになった。

 文句が言えない理由としては、経済よりも更に大事な時間制限があるから。

 この時間制限についてはこちら側だけではなく、各国にも同じことが言える。

 それは、例年の収穫祭と直ぐにやってくる冬だ。

 現在は夏真盛りではあるが、二ヶ月ちょっとで秋に変わり収穫祭である。

 そんなわけで、王国、帝国、皇国は大慌てで帰路についた。

 この三国は、ダグレストに勝った勝利国として凱旋せねばならない。

 ぶんどった国土の新たな貴族達にも、ダグレストは滅びたと喧伝せねばならないので、ゲートで帰国という訳には行かなかったのだ。

 対して、表立って兵を動かせなかった神聖国、傭兵国、竜王国の者達と王は、ゲートで速やかに帰国している。

 ただ、竜王国を除く二国も、色々とやらなければならない事が多く、収穫祭迄は慌ただしい時間を送る事が確定済みだ。

 神聖国は、新たな公国が定めた国教として、司教や司祭の選抜に加え、聖騎士達の懇願に対する対処。

 傭兵国は、旧ダグレスト時代の冒険者ギルド運営の監査に加え、首都に建てるギルドの手配やクランについて。

 ついでに言うと、クッキーさん公国出向なんかもある。

 どこもかしこも、戦後の方が大変なのだ。

 もう一回言うが、竜王国を除いて――だ。

 今回の戦での一番の勝利国は、竜王国なのかもしれない。

 そんなわけで、婚約者達にも手伝って貰っている。


「ミリア様、リリィ様、リーゼ様、ラナ様、ミナ様、リュール様が、出身国との外交担当ですか……嫌がらせですか?」


「色々と思惑はあるんだろうと思ってね。厄介なのは、拒否ってくれるだろうし」


「ヴィオレ様とリア様が護衛は良いとして、ヴェルグ様をウォルド様の補佐には意外でした」


「ヴェルグは賢いからな。応用もきくし、視野も広い。後、腕ずくでもどうにかできるから」


「まぁ、軍では必要ですか。ナユ様とシア様は救護所で、イーファ様、スノラ様、リジア様が、庇護下に入った獣人族と同胞の取り纏め。オウカ様、ユウカ様、ホタル様が炊き出し部隊。残る方々は?」


「とりあえずは、冒険者として動いてるな。各臨時ギルドは出来上がってるから、依頼を出して周辺領域の調査だな」


「ああ、そっちもありましたね。暫くは囲いですか?」


「そのつもり」


 世界の理を一部改変してしまったせいで、魔物の領域に対する理が変わってしまったからな。

 今の魔物の領域は、マナ溜まりから魔物を生み出す場所だけに変えてしまったから。

 今までは領域から出てこれずにいた魔物たちだが、現在、その楔は無い。

 故に、領域に対しても何らかの処置がいるわけだが、首都周辺の領域に関しては、一方向だけに出口を作って、後は壁を作って囲ってしまう予定だ。

 しかし、急務ではないので、冬が来る直前か明ける直前に行う予定である。

 そしてもう一つ、確認の必要性が出ている物があり、ゼロ、ツクヨ、神喰、八木でパーティーを組ませて、神造ダンジョン――旧ダグレスト首都跡地――の攻略へと出向いてもらっている。


『鬼ぃ! 悪魔っ! このヒトデェッ!』


『斥候役に専念させようと思ってたけど、戦闘も込みな。後で三人に話し聞いて、不甲斐ないと判定したら、メナトとセブリーによる、|女神のお導き《Go To Heaven》コースな』


『鬼でも悪魔でもないぃぃぃ!? すんませんっ、許してください!』


『ダ・メ♪ 死に物狂いで頑張ってこい』


この上司(ラフィさん)にして、この部下(ブラガスさん)アリかぁぁぁ! このブラック上司共!』


 なんてやり取りがあった後、喜々とした三人に首根っこ掴まれて連れて行かれてたと、ふと思い出す。

 今頃、泣きごと言ってんだろうなぁ。


「泣き言を言いたいのは、こちらも同じなのですが? はぁ、話を戻しても?」


「悪い。で、源泉は外部って話だったよな?」


「それは済みました。経済の話も、開発が進めば改善できるでしょう」


「あれ? じゃあ、何の話だ?」


「次に行っても良いかと聞いているのです。それで?」


「サーセン。次、おなしゃす」


 次の話は、首都の中心地が決まった後の測量に関して。

 いや、普通にすれば良いんじゃね? 確認する必要性が……いや、まさか?


「陛下にお願いします。あ、きちんと、建設ギルドに依頼として出して、陛下が受ける形を取っておりますので」


「待て。色々とツッコミたいが、その前に待て。俺は建設ギルドに登録してないぞ」


「手続きはこちらで済ませました。現在の陛下は、メイドと執事ギルド以外、全てのギルドに登録済みです」


「意思っ! 俺の意思を確認しようなっ! なっ!」


「時間が無いので」


「ちくしょうがっ!」


 八木よ、俺も同じだったよ。

 もうさ、ブラガスが治めたら良いんじゃね?


「自分では誰も付いてきませんし、そもそもの話、資金が無いです」


「援助するよ?」


「援助して頂いたとしても、カリスマ性が無いですから。自分では、国の顔になれません」


「俺も無いと思うが?」


「面白い冗談ですね。さてと、無駄話はこの位にしましょう。陛下、測量をお願いします」


 二も言わさないブラガスに負け、渋々、測量をしていく。

 ……あれ? 測量した結果って、口頭伝達で良いのか? 今の状態で清書とか無理なんですが?


「リエル様がおられるでは無いですか。頼んでください」


「ア、ハイ」


 リエルに頼んで清書して貰った資料を渡す。

 因みに測量方法だが、【探査(サーチ)】を応用して行っている。

 まぁ、そこは良いとして、測量した結果に関してだが、広すぎね?


「温泉、引きたいのですよね?」


「……引きたい」


「でしたら、上下水道の他にも整備が必要ですので、広めに取っておきませんと」


「あー、任せた」


 ブラガスの頭の中には、いくつかのビジョンが出来上がっているのだろう。

 そうなると、こっちの計画も早めに伝えておいた方が無難っぽいな。


「ブラガス」


「なんでしょうか?」


「少し、考えている事があるんだが?」


 俺はブラガスに、前から思いついてた内容を話す。

 そして、めっちゃ怒られた。


「そういう事は、もっと早くに仰ってくださいっ。こちらにも開発計画というものがですね――」


「いや、悪かったって」


「いいえ、陛下は何も分かっていません。そもそもですね、測量する理由ですが――」


 時間が無いのに、30分のお説教。

 いや、護衛込みで来ているナリアが止めてくれなかったら、もっと続いていたわ。

 ナリア、たすか……え? あ、はい、報連相は早目にですね? 次から気を付けます。


「全く……これですから陛下は。……ですが、面白いとは思います」


「そ、そうか。それでだな、これはその後の話になるんだが――」


 ブラガスと二人で話を詰めて行くと、先程までと違いにこやかな顔に。

 うん、めっちゃ怖いわ……色んな意味で。


「貴族に金を吐き出させると同時に、栄誉をもたらせられる可能性の示唆。製紙技術をより発展させられたら、新しい娯楽と商売。そうなると……今のうちに確保でしょうか? それとも育成? ……両方でも良いかもしれませんね」


「ブラガスぅ、戻ってこーい」


「はっ! ……申し訳ありませんでした。しかし、陛下のお考えも含めますと――いえ、更に何か出す予定も考えれば、もっと広めでも良いかもしれません」


 ブラガス君、戻ってきた傍から、また思案の海に潜るの止めようか。

 端から見てたら、すっげぇ怖いからさ。


「これまた失礼を。ですが、思案した結果、中心地を変えましょう」


「……マジで言ってる?」


「大マジですが? この際です。どの国よりも大きな首都にしましょう。相手が拡張しても、追い付けない程に!」


「あーうん、もう、好きにして」


「ふは……ふはははははっ!」


 悲報――ブラガス、激務のせいで壊れる。


「壊れていませんが?」


「……夢想?」


「夢で終わらせるつもりは無いです」


「妄想」


「実現可能ですが?」


 あれ? マジで壊れた? 回復魔法が必要かしらん?


「壊れてませんが。少し、興奮はしましたが」


「あ、そう」


「それよりもです、中心地と源泉の兼ね合いも考えて、もう少し南下させたいのですが、良いでしょうか?」


「もう、好きにやってくれ。ある程度は何も言わんから、本当に必要な部分だけ、許可を取りに来てくれ」


「言質、頂きましたよ?」


「言っておくが、共生に損なう事は許さんからな」


「御意。ですが、貴族街は必要です」


「共生出来るなら、好きにやれば良いさ。結局、王政以外には出来ないんだから」


 実は俺、前世と同じく民主主義にしようとしたのだが、リエルから止められた。

 この世界での民主主義は、時期尚早だと。

 やるにしても、五百年以上は先にしないと、色々と不都合が生じてしまうらしい。

 もし強硬したら? と聞いたら、我が国は10年を待たずして内乱になると言われたので、諦めた。

 リエル曰く、地盤が弱いのだから当たり前だろうとも怒られた。

 現状、旧ダグレスト貴族達の半数は、力によって渋々従っているのが大きいのだから、忠臣が少ない状況でやるのはアホだろうとも言われる。

 俺に対して、リエルが毒を吐くのはかなり稀有なので、本当にヤバいのだろう。

 なので、頑張って王政で行くが、ブラガスに任せられる部分は任せてしまう。

 独裁にならないかって? ブラガスは忠臣だからな。

 裏切られたのなら、それは人を見る目が無かっただけの話だし、きっちりと制裁は加える。

 まぁ、無いとわかって言ってるけど。

 当然だが、ブラガスにも今の話はしていたりする。

 その時のブラガスは、涙を流していたよ。

 だから好きにやらせてるって話だな。


「それで城ですが……陛下、聞いてますか?」


「聞いてるよ。その辺も任せる。区画割に関しては、話を持ってきてくれ」


「御意。では、粗方決まりましたので、陛下には次の依頼です」


「は?」


「は? ではありません。次は、首都となる土地を整地しませんと、工事にすら入れません」


「ちょっと待て。それこそ、建設ギルドの仕事だろうが」


「時間が無いので。収穫祭迄には、ある程度は終わらせませんと」


「ぐぬぬ……」


 時間という人質を出されては、抗う術無し。

 ただな、広大な土地を一人で整地とか、どれだけ時間と魔力が必要か、分かって言ってんのかね?

 他貴族にバレたら、依頼で引っ切り無しになるんだが?


「手は打ってあります。陛下の登録は、首都完成後に抹消されますので」


「抹消前に来たら?」


「受領せずに、抹消したら良いのでは?」


「反感買わね?」


「文句があるなら、直訴すれば良いだけの話でしょうから。まぁ、そういった貴族ほど、領地の開発を疎かにしてる者ですから。陛下が必要だと思う箇所だけ、何かしらの援助をするという手もありますし」


「あーなるほど。ようは、やりようね」


 なんか納得……丸め込まれてねぇよな? 無いと信じたいので、納得しておこう。

 で、問題は――だ、どうやって整地するかだが。


「面倒だな。精霊魔法を使うか」


 土の大精霊を呼び出し、整地に必要な精霊達を聞いて行き、次々と呼びだして、一気に整地していく。

 目には見えていないが、予定場所まで次々と整地されて行ってるようなので、これでお役御免に……。


「次は、主要街道を作り、自然な小高い丘が出来ればと」


「おい、ブラガス。前者は容認できるが、後者は容認しかねるぞ」


 精霊に頼めば、自然な小高い丘くらい、余裕で出来るだろう。

 でもな、良いように使うなと言いたい。

 俺が今回、精霊魔法に頼ったのは、目に見えない場所があるのと、時間的な問題が解決されてないからだ。

 主要街道の整備に関しても、上記二つが関係しているから容認しただけで、普通は建設ギルドの仕事であり、こちらが仕事を奪っていると言われても反論できない立場だ。

 なのに、自然な小高い丘? 流石に、怒らないと駄目……あ、ナリアのチョップが、ブラガスの脳天に決まった。


「ブラガス様、流石にやり過ぎです」


「っつ~……ナリア殿、物理は勘弁とあれほど」


「や・り・す・ぎ・です」


「……すみませんでした。小高い丘は無しにして、後で盛土をしましょう」


「という事みたいですが、陛下、宜しいでしょうか?」


「あ、うん。今回はちょっとスッキリしたわ」


「恐悦至極」


 ナリアの圧――物理込み――により、主要街道と大通りの道だけの整地をして夕刻を迎えたので、その日の作業は終了となった。

 因みにだが、朝から始めた作業が、丸一日掛かりだったのには理由がある。

 リエルが戻ってきたその日に、原初化を解除しているからだ。

 色々な制限が復活している為、時間が掛かったという訳だ。

 そして翌日、ブラガスからの質問に、俺は敗北を喫した。


「陛下、宝物庫と食糧庫、それに武器庫と訓練場はどうするおつもりで?」


「どうするって、作るに決まってるだろう。宝物庫に入れるようなもん、ねぇけど」


「それって、何処に作られるので?」


「どこって……武器庫と訓練場は一階で、宝物庫は上階で良いだろう。食糧庫は地下――あ」


「ですよね。なのに、盛土するんですか? いや、した後に地下は作れますよ。でも、建築費が……」


「……もっぺん、頼んでみるか」


「お手数おかけして、申し訳ありません。前日の内に気付ければ……」


 結局、城を建てられるほどの自然な小高い丘……丘? を精霊魔法で作る羽目に。

 いや、正論だからさ、間違ってはいないのよ。

 じゃあ、何で敗北かって? ブラガスが謝罪した時にな、ほんの一瞬だけ笑いやがったんだよ。

 ほれ見た事かと――ってな感じでな。

 なんかさ、負けた気分にならねぇ? 後さ、戦闘以外は常に敗北してんのよ。

 ブラガスとか、ナリアとか、ノーバスとかさ。

 ……勝負してる訳じゃ無いけど、やっぱ敗北だろ、これ。

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