表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
293/318

253話 獣人族との和解

 いろんな人達――主に同盟の王達――にも手伝って貰い、どうにか、履歴書と言う名の書類を片付けた翌日、同盟会議の日を迎えた。

 正確には、現在の大所帯に関しての会議と、とある謁見について。

 両方とも厄介な議題ではあるが、どっちが面倒かと言われたら後者だ。

 同盟各国の王達も参加するのだが、謁見者の対象は俺。

 ちょっと問題が出そうだからと、各国の王も緊急参加となった訳だ。

 とりあえず、後者には触れないようにして、会議が始まった。


「さて、どの程度、駐留させるかだが」


「半数は、国に返してぇんだがなぁ」


「帰ってくれるかが問題ですよねぇ」


 ランシェス国王、皇王、竜王国王の三名は、少し疲れ切った顔で希望を話し、こちらを見て溜息を吐いた。

 というのも、各国の軍に、まぁ……信者が生まれてしまったのが原因だ。

 誰のって? 俺のだよ。


「そこは嘆いても仕方ないだろうに」


「そうですよ。我が国なんて……」


「教皇殿、そう落ち込むでない。どうにかなると思うしの」


 ジャバ、教皇の言葉に、皇帝が肯定し、励ましながら、こちらに期待の眼差しを向ける。

 はいはい、俺がどうにかすれば良いんでしょっ。


「とりあえず、軍の中にいる雇用確定組は、こちらに編入してしまいます。それと、帰国希望者は優先して帰せば良いでしょう」


「信者はどうするのだ?」


「ランシェス王、信者と言わないでください。次言ったら〆ます。それで、熱狂的な方々ですが、帰国しないといけない方々は、強制帰国で。それ以外は、そちらで調整すれば良いでしょう」


「大分マシにはなったの。そして、それが一番手っ取り早いかの」


 皇帝の言葉に全員が頷いて、調整する方向で話は終わる。

 同盟戦力に関しては、帰国しなければならない者達は少ないので、駐留する形となった。

 どこの国も、今の半分にはするらしい。

 そんなに必要かね?


「支持していると見せなければならないからね。ある程度の数は必要なのさ」


「そんなものなのですか、竜王国王」


 支持しているのに、協力的じゃないと見られるのは、大人しくなった反乱分子を増長させかねないと言われてしまう。

 まぁ、俺固有の戦力でどうにでも出来ると言われたので、本当に形だけの部分が半分らしい。

 では、もう半分は? 治安維持と野生動物から守る為だと言われた。

 これから来る者達の大半は、武力とは縁遠い者達だから、守りては多いぐらいが良いらしい。


「大工を始め、商人や移住者、その他諸々が来るけど、職業軍人と冒険者以外は、戦闘とは無縁ですからね」


「確かに、ヴァルケノズさんの言う通りかも」


 納得したからには、それを受け入れるしかないので、軍に関しての話は終わり、次は……やりたくねぇなぁ。


「諦めって、肝心だからな。ほらっ、さっさと席順変えっぞ」


 ジャバに言われて、各国の王達が左右に分かれて座り直し、中央の、所謂お誕生日席になる形で、中央の席に座に座り直す俺。

 いやぁ、慣れねぇわぁ。

 誰か、代わってくんねぇかなぁ……なんて思うが、諦めろという視線を受けながら、護衛に付いてた各国の親衛騎士団長も一人が、謁見の手順通りに、謁見者を通す。


「こちら、西側隠れ集落の取り纏めである、獣人族の長老殿です」


「お初にお目にかかります、公王陛下」


 獣人族の長老は、深々と頭を下げて、手順通りに挨拶していくが……うん、面倒。

 礼儀は大切かもしれんが、今はまだ国としても機能していないので、略式で良いだろう。


「長い挨拶は不要。用件を聞こう」


 かなり上から目線で言ってるが、これは皇帝の入れ知恵だったりする。

 国の頂点たるもの、公私の区別は、より分けて使うべきだと。

 そしてもう一つ、礼節は必要だが、頂点たる振舞いは別だとも言われている。

 その辺りは、ミナにでも教えて貰うと良いとも言われたな。

 うーん……慣れないから、早く終わりてぇ。


「申し訳ございませんでした。それでは、こちらの要望ですが、新しく出来るお国に、獣人族の移住を認めて頂きたく」


「実現可能だと? 我々は既に、武力による衝突を起こしているが?」


「その辺りを、詳しく説明させて頂けたらと」


「聞こう」


 獣人族の長と言ったが、あくまでも西側の隠れ集落に関してのみらしく、別に東側が存在しているとの事だった。

 そして、武力衝突を引き起こし、大敗したのも東側だけだという。


「西側と東側は、情報共有と少々の連絡だけ取っておりました」


「双方は違うと?」


「はい。武力衝突を起こす際、我々にも参戦要請はありましたが、断りました。そもそも、西側と東側では考え方が違うのです」


「どういう事だ?」


 俺の代わりに、皇帝が質問をしてくれた。

 皇帝、ナイスッ!

 そして、その答えだが、西側は安寧を求める獣人族で、東側が復権を求める獣人族だという事。

 簡単に言えば、西側が共生で東側が獣人至上の考えが集まった集落らしい。


「言われてみれば、西側で獣人達による挙兵騒動は一度も無かったの」


「そうなんですか?」


「うむ。厄介な火種は、いつも東側だの」


 皇帝の話によると、過去にはあった獣人の目撃例が、数十年の間、聞かなくなってしまったそうだ。

 故に、西側の獣人達は滅んだか、他国に移住したか、東の獣人族と合流したと考えていたらしい。

 その考えは間違っていないし、俺だって、当時に聞かされていればそう思う。

 だが実際には、西側で隠れ住んで生き残っていた。

 では、ここで疑問点が出てくる。


「西側の獣人族は、数が少ないのか?」


 率直に、疑問点を聞いてみる。

 この答え次第では、皇帝が頭を抱えることになりかねないし、こちらにも不都合が生じる可能性があるから。

 そして、獣人族長老の答えに、皇帝は頬を引くつかせ、俺は溜息を吐くことに……。


「西側獣人の数ですが、総数は丼ぶり勘定ですが、およそ3万。女子供、老人も加えての数となります」


「1集落でか?」


「いえ。西側にいくつも分けております。1集落辺り1千~3千程になります」


 詳しく聞いて行くが、集落に関してはほぼ村と言っても過言ではない人口だった。

 だからさ、皇帝、深いため息を吐かんでくれ。

 多分、こっからが本番だからさ。


「自給自足が出来なくない数ではあるが、交易は必要だろう?」


「勿論でございます」


「どうやってた?」


 1集落の数は少なくても、総数は約3万だ。

 痕跡を残さずに交易をしているのは、かなりの疑問が残る。

 だが、次の応答に、俺達は感心すると同時に、ちょっと呆れてしまった。

 誰に? 皇帝に。


「1集落を窓口として、そこから各集落に、一目がつかぬ夜に運搬を。窓口の集落は、老人たちを主体として、運搬業務に携わる者達を百名程加えた、小さな集落です。総数は、3百名程」


「人口を減らしてか……。しかしそれだけでは、痕跡など消せはせぬだろう」


 ランシェス王の疑問に、臆する事も無く応答する獣人長老。

 その答えに、逞しいなぁ……という感想しか出なかったわ。


「ランシェス、皇国の商人たちと取引をしておりました。夜の内に森内部に入って頂き、途中で合流して護衛を」


「なるほどの。商人たちも協力して、痕跡を消したわけか。しかし、密告される可能性もあったであろう?」


「だからこその、老人を主体とした小集落なのです。バレたとしても、逃げ遅れるのは老人のみ。運搬業務の者達は、儂らが時間を稼げば逃げられるでしょう」


「囮と切り捨てか。良くやるなぁ」


「覚悟の次第であります、公王陛下」


 さて、ここまでの話は、疑問点についての受け答えに過ぎないが、こっからが本番である。

 現在の帝国は、亜人奴隷の解放に注力している為、獣人奴隷を主体とした労働力となっている。

 まぁ、全部俺のせいだけど。

 そこはまぁ、置いといてだ――問題点は二つ。

 一つは、俺が獣人達を庇護して、移住を許可した場合に起こる、帝国との軋轢に関して。

 皇帝からしたら、絶対に面白くない話である。

 最悪、戦争に発展する可能性もあるが、まぁそこは、こちらが勝てるだろう。

 但し、同盟は破綻する可能性が大だ。

 それと、帝国内で小規模戦争が乱勃発もするだろうから、各国に難民が押し寄せる可能性も高い。

 各国の治安は確実に悪化するだろうな。

 次に、奴隷解放を願われた場合だ。

 了承してしまうと、帝国の労働力が著しく低下してしまう。

 高確率で、国家が機能不全を起こすだろう。

 そしてだ、一番厄介なのが、東側も含めた場合の話だ。

 武装蜂起した者達の庇護と奴隷解放とか、絶対に飲めない話である。

 今後は分からないが、今すぐには不可能。

 それが同盟での共通認識だと、頷きあって確かめた。

 そして、話を進めることに。


「先に一つ聞いておく。移住に関しては、東側も含めての話か?」


 西側だけとは聞いていないからな。

 獣人長老は、獣人達の移住としか言っていないから、確認は必要だ。

 それとこれは、選択と踏み絵でもある。

 何を優先して護りたいのか、罪を持つ覚悟はあるのか、こちらの意図を読み取ってくれることを願う次第だが。


「……そういうことですか。わかりました。罪はこの(わたくし)めが全て背負いましょう。ですので、西側獣人族の移住と庇護を懇願したく」


「もう一つ、奴隷たちに関してだが」


「その罪も背負いましょう。ですが、せめて次代の子供達には恩情を賜りたく」


 選択し、切り捨てた同胞たちからの憎しみを、一身に受けると言った獣人族長老であったが、奴隷に関しては、子供達への恩情を願い出て来たか。

 問題は、その恩情が、解放なのか、改善なのかだが。


「はぁ……。公王陛下に一つだけ聞きたいのだが」


「何でしょうか、皇帝陛下」


「内政干渉する気があるのかの? 亜人に関しては、同情する部分もあったから動いたがの、獣人に関しては引けぬと言っておく」


「恩情も?」


「内容によるの。解放は出来ぬ。だが、いくつかの改善ならばと言った所かの」


「少なくとも、劣悪な環境は改善すると?」


 最後の質問に、皇帝は首を振らなかった。

 いや、正確には、触れなかったが正しいのだろう。

 改善はするが、どう改善するかまでは、口出しするな――ということなのだろう。

 では、移住と庇護に関してはどう思っているのか聞いてみることにする。


「余は何も知らん。西側獣人達は、既に旧ダグレスト王国北部へと難を逃れていたのだがから、帝国は何も知らん。今回、移住を申し出て来たのは、国土の変更故の事だとしておこうかの」


「面白くは……ないのでしょうね」


「言ったであろう、余は何も知らん。故に、争う気も無ければ、面白い面白くないという気持ちもない。それで納得してくれんかの」


「ははっ、わかりました」


 なるほどね……同盟を抜ける気もないし、敵に回す気もない。

 多少の不利益は飲むけど、利益で還元よろしくね。

 後、借り一つ、返したから。

 そういう事なのだろう。

 仕方ない、飲んでおこう。

 アシスとの約束もあるし、この辺りが無難で、及第点だろうな。

 少なくとも、獣人族の滅亡は避けれたわけだし。

 ただ、移住に関して、一点だけ守って貰う。


「西側獣人族長老、そちらの懇願を承諾しよう。但し、一つだけ言っておく」


「なんでしょうか?」


「選民思想と至上主義思想は許さない。我が国で生きる以上、意思疎通できる種族は、全て同胞(はらから)である。同じ故郷を抱く者として生きる事を、切に願う」


「委細承知致しました。移住日程ですが、どの様にすれば?」


 まだ、何も出来てないんだよなぁ。

 どうしようか、思考加速して考えていると、頭の中でいきなり声が響いてきた。

 半月ぶりの、ちょっとやかましい声。

 久しぶりの声――ちょっとうるさい。


『うるさいとはなんですか! リエルちゃん、家出しちゃいますよ!?』


『今、悩み中だから、その辺りは後でな。それと、おかえり』


『ただいまですぅ! それで、何をお悩みで?』


 リエルに、今までの事を掻い摘んで説明していくと、簡単だと言われてしまった。

 うん、俺が馬鹿だと言いたいのね? 喧嘩売ってんなら買うよ。


『単純な話なので、怒らないでください、マスター』


『まぁ、良いや。それで、解決法は?』


 リエルの答えは至って簡単で、暫くの間、テント暮らしでも構わない者達で、尚且つ、基礎工事や建築が出来る者達を先発すれば良いというものだった。


『低賃金労働力、ゲットだぜ!』


『うん、それはなんかヤバそうなセリフだから、止めような』


 とは言え、方針は決まった。

 リエルに言われたことを伝えると、快く快諾はしてくれたが、逆に質問もされた。


「家族がいる者達は、一家でも構わないでしょうか?」


「構わないが、本当に、暫くの間はテント暮らしだぞ? 厳しくないか?」


「話し合いはするでしょうが、それでもいう家族はいるはずです」


「わかった。但し、子供達の中で手伝いができる年齢の者は、軽い手伝い。奥さんには、炊き出しなどを手伝ってもらう。働かざる者、喰うべからずだからな」


 少なくとも、移動に耐えられる年齢の子供たちが居る家族しか来ないであろうから、手伝いは出来るであろう。

 目を離せない年齢の子供達に関しては、年長者が面倒を見る事も追加しておく。


「そちらは大丈夫でしょう。なんせ、農作業を主にやっていましたので」


「わかった。それと、戦闘系はいるのか?」


「東ほど多くはおりませんが」


「ならば、警備兵として何名か先発させてくれ。種族差別など無いと喧伝するには、十分だろう?」


「ご配慮、痛み入ります」


 こうして、一応は、獣人族と和解した。

 和解と呼べるかは別だろうけど。

 後の話は、ブラガス達文官も交えて話を詰める方向にしたので、暫くは滞在してもらう事にした。

 ただ一点、皇帝が能面みたいな顔で終始参加していたのは、怖かったとだけ言っておく。

 こうして、同盟会議は幕を閉じ、兵達の中から帰国志願者を集め、軍の3分の1が帰国して行った。

 ……うん、なんで3分の2、残ってるのかな?


「聞いてくれますか、ラフィ君。聖騎士達がね、皆、帰ってくれないんです」


「あ、はい。なんかすみません」


 遠い目をしたヴァルケノズさん、急激に老けた気がしないでもない。

 今はまだフサフサな髪をしてるけど、明日になったら剥げてるとか、勘弁して欲しい。

 教皇ヴァルケノズさんの愚痴に付き合いながら、そう思った俺であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ