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244話 災厄と呪いを振りまきし人影形――ドッペル・カースド――

 艦から放たれた光は、寸分違わず、狙い通りと言った感じで、喰邪神に命中した。

 一際大きな轟音と眩い光で詳細の確認は大変だが、魔素が荒れ狂っているのは確認できたので、喰う速度を上回っているのは確実だろう。


「よしっ! これは効いてると断言できる!」


「ソダネー……キイテルネー……」


 なんかメナトが片言になって、更にいつもの喋り方では無かったが、とりあえず放置しておこう。

 触れたら厄介そうだしな。


「いや、触れてやれよ」


 相変わらずツクヨに膝枕して貰ってるゼロが何か言ってるが知らん。

 それよりも、あの野郎の核である邪神格はどーこっかなぁ?


「ラフィ、その考えはね、フラグって言うらしいわよ」


「なんでツクヨが知ってんの? てか、フラグとか言うのやめろよっ。言葉って強烈な魔力を込めたりしてるんだからな」


 所謂、言霊と言うやつである。

 そしてこの言霊ってのは、良い結果よりも悪い結果の方に影響されやすかったりする――と、俺は思っている。

 前世含め、言葉にした悪い結果は、全てやってきたからなぁ。

 この考えは、今回も見事に的中した。

 思わず、頬をひくつかせてしまう程に。


「いやホントマジで勘弁してくれよ。フラグ回収ってのは、確かに物語上でのお家芸だけどさ、現実でやられたら笑えんのだけど」


「その言葉、そっくりそのまま返したい気分だけど、確かに逃避したくなるね」


 いつの間にか復活していたメナトだったが、荒れ狂う魔素も落ち着いて、ロマン砲の結果を確認した故の言葉であった。


「ないわぁ……ホントないわぁ……」


「効いてないわけではなさそうだけどね」


 メナトの言う通り、確かにダメージは与えてはいる。

 但し、そのダメージ量が、想定よりも下だったという事で落胆しているのだ。

 喰われて、体積が膨張するのは織り込み済みだったわけだが、それでも、核の特定ぐらいは出来ると踏んでいた。

 だが実際に蓋を開けてみれば、特定どころか、少しだけ体積が増えた感じだ。


「喰って増やして、喰う速度が間に合わなかったから消し飛ばして、を繰り返したっぽいね」


「それってつまり、上限が存在してるって事か?」


 もしそうなら、希望はある。

 上限を超えたのなら、自壊していくだろう。

 しかしメナトの考えは違ったようで、ゼロもメナトの意見を肯定していた。


「まぁ、半分は正解なんだよ。私と元原初様は、繰り返した点と体積に比重を置いたんだよ」


「俺達の意見ってのは、経験則も含むからな。だからそうむくれるなって。間違ってはいねぇんだからよ」


「じゃあ、何位が大正解なんだよ」


 二人の言い方に、思わず子供っぽい言い方をしてしまったが、そういやちょっと懐かしいかもしれん。

 神界と幼少期、修練していた頃を思い出してしまった。

 二人も似たような思いだったらしく、少し笑って……笑って? いや、あの顔は……。


「おい……まさか……?」


「少し、スパルタ気味に教えとくか」


「そうだね。あれも動いてない今だからこそ、詰め込ませておこうか」


「い、いやああぁぁぁぁああああ!!」


 大人になる前の恐怖ってさ、心の傷(トラウマ)にまでなってはいなくても覚えてるもんなんだぜ……とか考えながら、現実逃避気味にお勉強タイムに突入中。

 戦場でやる事じゃなぇ! とかツッコミたいが、無知な部分は確かにあって悪いので、大人しく聞いてはいる。

 半分も分かっちゃいねぇがな!

 そして、短い勉強を終えた後、答え合わせをする事に。


「えーっと……つまりあれには上限と下限が合って、上手くバランスを保っていると」


「他への影響が絶大な分、バランスは最悪なんだろうね。だから、攻撃してくる分しか喰ってない」


「更にだ、わざわざ繰り返してたって事は、排出できるってわけだからな」


「それが攻撃に転じられる力ってわけか。……あれ? だとすると、非常にマズい状況なのでは?」


 多分だけど、今の喰邪神は上限に近い状態だと思う。

 そうなると、攻撃が来る可能性は高いわけで……。


「ちっ、動き出しやがった」


「非常にマズい雰囲気がするんだけど?」


「新旧揃って焦って無いように見えるのは、私だけなのかい?」


 メナトが何か言ってるが、とりあえず無視して敵の方を注視する。

 そして、甲高い雄たけびを上げて止んだ後、地面から黒い液体が湧き出してきた。


「っ!? くそがっ!」


「ちっ! 耳に響かせやがって」


「悪態つく気持ちは分かるけどね、本当に新旧そっくりだよ」


 またもメナトが何か言ってるので、ご期待に応えて新旧揃って無視しておく。

 しかし、警戒は怠っていない。

 先程から湧き出ている黒い液体に警戒していると、灰色のヘドロを全身に纏わせた人っぽい何かが出来上がっていた。

 それも無数に、だ。


「なんだ、これ?」


「泥人形、か?」


「感じ的にはゴーレムの亜種に見えるけど、違うだろうね」


 ツクヨに膝枕されていたゼロが起き上がり、二人揃って警戒度最大の先頭態勢に移行――したと同時に、本陣の方がざわつき始める。


「まさか……」


「ちぃっ! まさかこの戦場全域か!」


「ラフィっ!」


「神達は!?」


 断絶結界の破壊は、こちら側の戦いに大きく影響してしまうと考え、直ぐに現状を確認する。

 すると、やはりと言うか、結界構築組へと群がり始めている灰色ヘドロ人形(ゴーレム)っぽい何か達。


(完全に形勢逆転されてんじゃねぇか! ……ちっ、仕方ない)


 リエルにこの先の戦況を演算させて、直ぐに指示を飛ばす。


「メナト、何人行ける?」


「距離的に一人だね」


「ゼロは?」


「同じだ」


 二人の答えを聞いてから、神喰達にも確認。

 やはり距離的な関係があって、1柱しか防衛に向かえないらしい。


(本当は取りたくない手段だけど、ここは――)


 帝国内乱時のとある事が、地味に心の棘になってはいるが決断する。

 本人は心の傷(トラウマ)になっていることに気付いていないのだが、周りから見れば丸分かりなのに、決断した事を心の中で褒めながら、万が一は――という気持ちでいる事を知らないまま号令を下す。


「ツクヨは万が一に備えて、俺と共に行動。他は各神達を援護。ランシェスに一番近い神は俺が向かう」


「了解だ。俺は獣神に向かうとする」


「こちらも問題無いよ。私はセブリーに向かうとするよ」


「んじゃ俺は、レーネスに向かうとするか」


「クソ親父がそっちなら、ボクはシーエンに向かうよ。一番近いしね」


「よし。出向組は各国本陣に戻って、現状の報告と対応策を伝えてくれ。それと、ミナと詩音にはこれを渡しておく」


「これは?」


「インカム? いつの間に……」


 詩音が何か言いたそうだったが、そこは押さえて貰った。

 次に、何故二人なのかと言う質問に関してだが、リーダーシップが取れる、もしくは取れそうな人物だからと伝えた。

 ランシェス側に何も無いのは、ツクヨにその役をして貰う為だ。

 ぶっちゃけると、二個しか製作が間に合わなかったってのもあるが。

 全員がその話に納得して、作戦開始だ。


「行くぞ!」


 号令と共にゲートを使える者は各々に、使えない者は俺がゲートを開いて送る。

 最前列よりも前に出ていたランシェス側の同盟主力は本陣へと下がり、陛下への報告と対応策に防衛行動を取る。

 死ぬことは絶対に許されないとも伝えてあるので、多少の無茶はしても、無理と無謀はしないだろう……しねぇよな?

 ちょっとだけ不安が残ったが、救援に向かう事にする。

 ゲートでリュラの傍まで行き、即座に魔法を乱発して一掃。


「ほぅ……中々にやる」


「救援第一声がそれかよ」


 尊大な物言いだが、その内心を直ぐに見抜く。


(これ、ただの強がりだな。笑ってない事を見るに、相当ヤバかったな?)


 神の一柱がヤバいと感じた敵。

 つまりは、そういうことなのだろう。


「雑魚でも、流石は喰邪神の尖兵ってことか」


「ぬぅ、バレたか。彼奴等、我の神力を貪りおって」


「で、結界に影響は?」


「ラフィよ、我の心配はしてくれぬのか?」


 ちょっと強面の龍神が何か言ってるが、全然可愛くねぇからな?

 初めの方で、まだ可愛げのある言い方なら、心配くらいはしてやったけどな。

 だから、こう返してやる。


「心配する必要性があるとでも?」


「ぬぐぅ……」


 流石に嫌味とわかったらしい龍神リュラ。

 だが流石に気付いたらしく、普通に謝って来て、本当にきつかったと泣き言を言い始める。

 もの凄く珍しい光景に、思わず笑ってから心配の言葉をかけた。

 その間も、魔法でひたすら応戦しているのだが、正直、埒が明かない。


「こいつら、不死身かよ……」


「ラフィ、どうするの?」


「……リュラの見立ては?」


「我か? 一定量のダメージを与えると修復しているのだから、不死身では無いのかもしれん。だが、喰っている部分を考えるならば、魔法では倒しきれんのかもしれんな」


 俺の考察とリュラの考察から考えると、喰う上限と下限はあって、一定量のダメージは修復し、その間は活動停止。

 後は無限に湧き出ている事くらいか。

 ……あれ? 普通にヤバくね?


「形勢逆転されたって話しどころじゃないな。一気に不利まで持ってかれるとか」


 そう愚痴りながら、魔法を乱発して足を止め、修復中のやつから順番にツクヨが斬り伏せて行くのだが、斬り伏せられたやつはバシャッ! って音を立て、一定時間は灰色の水溜まりになるのだが、時間が経つとまた復活して襲ってくるというエンドレスループ。

 ツクヨが水溜まりに攻撃を仕掛けるも手ごたえ皆無で、魔法で攻撃を仕掛けたら復活時間が早くなりもした。

 マジで突破口が見えねぇ。

 そんな中、遂に1体の接近を許してしまった。


「げっ!」


「我、喰われるのは嫌だからな」


「わかってるわいっ! 早々喰わせてたまるか!」


 流石に神剣は抜かずに、普通のミスリルの剣で斬り伏せたのだが、その一回で剣は錆びてあちこち欠けて、最後にはポロポロと粉の様に朽ちていった。

 うん……ツクヨの刀は、なんで朽ちないのかね?


「朽ちない理由? 言っとくけど、もう何本も取り換えてるわよ。流石に1回では取り替えてないけど」


「何故だっ!」


 ミスリル剣って、クッソお高いんだぞ!

 まぁ今回は、経費で落とせるから……いや待て、ツクヨはさっき、なんて言った?


「ツクヨさんや、何の剣を何本ダメにしたか覚えてるかい?」


「なによいきなり。えーと……ミスリル刀が5本、アダマンタイト刀が3本、オリハルコン刀が13本、普通の刀が31本かしら」


 オワタ……。

 どんなに裕福な男爵家でも、借金濡れになる金額の刀が駄目になっていた。

 これ、経費で落ちるんか?


「今考えるのはそこではないだろう」


 リュラの言い分はごもっともなのだが、今後の生活が侘しいとか、真っ平ごめんである。


(つうか、神側の不手際込だよなぁ、今回の)


 その考えに至り、リュラの方を向いて、すんごい笑顔を見せてみる。

 リュラ、震えた後に顔背けて目を合わせない。

 うん、逃げるんなら、最後通告しておくことにした。


「分かってるよね?」


「な、なにがだ?」


「今回の件、神側にも責任あるよね?」


「ぬ、ぬぅ……」


「あるの? 無いの?」


 威圧は出していないのに笑顔で詰め寄っただけで、ひたすらに顔を背けて、目を合わせようとしないリュラだったが、遂に観念して腹を括った様だ。


「ジェ、ジェネス様と話をしてくれ!」


「唯一神に押し付けやがったよ、この駄女神」


 まぁ、賠償責任は取ってくれるだろうから、とりあえず突破口を見つけることに専念する。

 もし負けたら、責任追及とか言ってられんしな。

 とまぁ、それが油断だった。

 普通の人間でも余裕で対応できる速さの敵が1体、更に接近してきた。

 流石にこれ以上の損失は……とか考えて、魔力と神力を纏わせた手刀で斬るのだが、斬った時に飛び散った灰色のヘドロが腕に付着してしまった。


「が、があぁあぁぁぁ!」


「な、何!?」


「ラフィ!?」


 ほんのちょっと付着した灰色のヘドロに、思わず絶叫してしまったのだが、その付着したヘドロが問題だった。


 ――生への渇望、死への絶望、限りなき人の欲望に、怨嗟と怨念、そして……決して敵う事のない邪欲――


 その全てが、一つの呪いとなって身を貫き、苦痛を与えた。

 直ぐにヘドロを振り払ったが、付着していた時間はほんの一瞬、僅か数秒。

 しかし体感時間は、少なくとも数時間に及んでいる。

 そのヤバさを身をもって体感した俺は、絶叫と言うべき声でツクヨを呼んだ。


「ツクヨォォォォ!!」


「ひっ!」


 少し脅え、警戒度最大のツクヨが悲鳴を上げたが、ぶっちゃけ余裕が無い。

 もし、最悪の想定通りなら、殲滅されるどころの話ではない。


「良いか? 今から本陣に戻って、情報と対処法を伝えてくれ! そして決して、この泥に触れるなと厳命してくれ! どんな手段を用いても良いから、絶対に陛下経由で浸透させてくれ! さもないと――」


「さもないと?」


「精神汚染なら可愛いもので、精神浸食されたり、最悪はあれと同じになるぞ」


「うわぁ……それは絶対に遠慮したいわね」


「俺だってそうだ。だから、頼んだぞ?」


「任せなさい!」


 豊満な胸をドンっと叩いて、敵の中を突破していくツクヨ。

 邪魔をさせないように魔法で援護もして、ある程度まで進んだら自分の先頭に戻る――のだが、リュラから一言。


「ゲートを使ってやれば良かったのでは?」


「あっ……」


 沈黙、そして敵に八つ当たり。

 魔法を乱発しまくって、近づけさせないようにする為なのは当たり前なのだが、わざわざ威力を上げる必要性はない。

 だから、八つ当たりなのだよ。

 それと、八つ当たりしながらも、ミナと詩音にも連絡して、ツクヨに言った事と同じことを説明して、対処して貰う事に。

 その間にリエルが分析と解析を行って、こいつらが何なのかは分かった。

 リエルからの分析で分かった、こいつらの種族とも言えるか怪しい種族名。


 ――|災厄と呪いを振りまきし人影形ドッペル・カースド――


 魂無き人の影であり、呪いの人形。

 それが、敵の尖兵の正体。

 喰われた直後の、負の感情だけを煮詰めたような存在だ。

 普通であれば生まれる事無き存在。

 人の尊厳など皆無なそれは、ただひたすらに災厄を撒き散らす。

 故に、鍵が出来上がる。

 喰邪神と人影形、2つの存在が引き金(トリガー)となって、一つ目の条件を満たしてしまった。

 故に、無意識の中、次の鍵を作る準備へと入ってしまう。


「こ、れは……!?」


「っ!? ラフィ!」


「ぐっ!」


 朦朧とする意識の中、手を休めずにいたが、やがて意識は薄れていき、深層領域へと沈んで行った……。

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