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237話 なんで皆、俺に言うん!?

次回更新日は29日の予定です。

(GWが絡むので、もしかしたら少しずらすかもしれません)

 捨て駒部隊を降し、完全降伏した者達を捕虜にしていきながら、生き残った冒険者達の治療を行う事、数日――俺当てに一通の手紙が届いた。


「蝋封……嫌な予感しかしないんだけど?」


 俺の言葉を聞いて、そそくさと逃げようとするただのジャバとゼルクト。

 現在の2人は、何故か俺付きになっていたりする。


「陛下の意図だってのはわかるけど、なんで二人なのか」


「うふふ、それはね、知識不足だからですよ」


 すぐそばでミリア達と談笑していた、ただのイリュイアさんが、あららうふふしながら答えるのだが、知識不足?


「旦那様は、今はただの――ですけど、元に戻ればね」


「要人としての補佐って事ですか? いや、ついでに俺が護衛として機能してる?」


「うふふ」


 当たりではあるらしい。

 但し、色々とあるらしきそぶりも見せるイリュイアさん。

 お願いです、答え下さい。


「うふふ」


「あ、これ、答えない気だ。で、ただのゼルクトさん、答えは?」


「まぁ、色々だね。同盟盟主に補佐がいないってのも問題があるからだけど」


「ジャバは?」


「なんで俺だけ呼び捨てなんだよ。まぁ、今更だから怒んねぇが、俺の場合は傭兵国だからって事だろうな」


 ジャバが言うには戦争自体、早々起こるものでもないが、実の所、各国で紛争自体は割と起こるらしい。


「やれ、川の使用領域だとか、鉱山権利だとか。後は、仲の悪い貴族家の当主が代替わりしたら、権威を示すためにとかだな」


「傭兵を雇い入れると?」


「その時に、どうしたって捕虜返還の身代金とか出るからなぁ。そう言った知識、あるのか?」


「ないなぁ」


「酷い時だと、戦争もどきになるからな。色々と事後処理もあるぞ」


「確かに、知識不足だと思うわ。あ、ゼルクトさんもそっち関係?」


「ラフィ君も当事者だったじゃないか」


「…………ああ、傭兵国の」


「こっちに丸投げしたでしょ? 細々した部分、分かるかい?」


「分かりません! という訳で、お任せしても?」


「お任せできないから、補佐にいるんだよ?」


「……戦場でも、書類仕事から逃げられないとは……」


 因みにだが、陛下の場合は優秀な文官衆がいるからして、草案は彼らが作成してくれるとの事。

 なんて羨ましい。


「それよりも、手紙を開けなくて良いのかい?」


「……見なかった事には――」


「止めた方げ良いとだけ言っておくよ。決めるのは、ラフィ君だけどね」


「大人しく開けます……」


 見なかった事作戦はダメらしい。

 蝋封していなければそれもありらしいけど、正式な手順を踏んだ手紙を開けないという選択肢はないみたいだ。

 尤も、時期を見て開封する方法はあるらしいが、わざわざ戦場の、それも敵本陣に届けさせるほどの手紙となると、先の方法は悪手になる可能性が高いそうだ。

 ……あれ? なんで、敵貴族家から俺宛て?


「そう言えば、確かにそうだね。普通はテオブラム王宛てが正しいね」


「相手が間違えた?」


「それはないと断言できるよ。凄く失礼な事だし」


「恐らくだけどよ、ランシェス王じゃなくて同盟盟主殿に用事があるんだろ。ただ、内容が思いつかねぇんだよなぁ」


「そうだね。南部が降るなら、管轄はテオブラム殿になるだろうし」


「つまり?」


「「開けないとわからない」」


 二人同時にハモって、結論を突き付けられる。

 さっきは逃げようとしたくせに、なんか目がキラッキラしてるのはおかしいだろ。

 そんなに俺が困るのが楽しいのか?


「面倒そうだったんだけど、イリュイアが……ね」


「奥さんが怖かった――と」


「良く考えたらよ、最悪はランシェス王を巻き込めば良いと気付いたからだな」


「後で陛下にチクっとくわ。ジャバ、お疲れ」


「流れで脅すのはやめろっての!」


 最後はいつも通りに締めてから、手紙を開封する。

 手紙は三枚に別れているのだが、その三枚目を見た瞬間、この場にいる全員の顏が一気に微妙となった。


「南部の大物貴族の連盟捺印……」


「これは……かなり大事じゃねぇか?」


「と言うか、他国の貴族印を知ってるんですね」


 こちらの疑問に答えたのは、ミリアであった。

 そういやミリアも、補佐役に劣らない立場だったと思い出す。


「そうですね。他国でも伯爵以上の方の印は覚えますね。ただ数が……」


「流石に全部は無理っぽい?」


「出来る限りでしょうか? ですが、大貴族家の中でも、かなりの力を持つ貴族家は覚えます。今回は、正にその貴族家の連盟書になるのですが……」


「……どう見ます?」


「内容次第でしょうね。ただ、厄介事の匂いはしますけど」


「ゼルクト殿に同じだな。こんなもん、早々出ねぇぞ」


「……八木を呼ぶか」


 手紙を読む前に、まずは八木から情報収集と行く。

 理由は単純で、前情報を知った上で読んだ方が、精神衛生上良さそうだから。

 八木が来るまでの間は、一切手紙の話には触れず、書類の決裁をしながらお茶を飲んで過ごす。

 なんやかんや、八木も忙しいから仕方ないのだよ。

 そして待つ事小一時間、八木がやって来たので話を聞く事に。


「南部の貴族っすか? そこまで持ってないっすけど、良いっすか?」


「無いよりはマシだな。頼むよ」


 八木から話を聞いて行くのだが、あまり詳しくないとか言ってはいたが、その情報収集能力はこちらの想定以上だった。

 出るわ出るわ、こっちの知らない情報が。


「なんで話さなかったんだ?」


「聞かれなかったからっすけど? 後は、それほど重要な情報でもないかなぁって」


「……まぁ、南部の情報だからなぁ。今回の戦争にも日和見だと思ってた訳だし」


「でも、今の情報を聞くと、状況が変わって来るね」


「これよぉ、色んな人間巻き込んだ方が良くねぇか?」


 確かに、ジャバの言う通りだと、俺も思う。

 しかし、八木の情報を聞く限り、こちらへ敵対する旨の手紙では無いと予想した。

 でも、面倒事には変わらない気がする。

 そして巻き込むにしても、手紙の内容を読んでませんじゃ通りそうにないので、仕方なく内容を確認するのだが……やっぱり面倒事ではあった。


「巻き込もうそうしよう」


「判断が早ぇなぁ」


「じゃ、ジャバが解決という事で」


「巻き込もうそうしよう!」


 手の平くーるくるっなジャバであった。

 だが、そうしたい気持ちは痛いほどわかる。

 だって半分は……いや、全面的に俺達悪くねぇし。

 という訳で、手紙を持って陛下にレッツ突撃っ! ……したら、何故か俺が怒られた。

 なんで?


「これ以上、仕事を増やすなっ」


「いや、俺が悪い訳じゃ無いでしょう。根本は、戦争を嗾けたダグレスト王家でしょうに」


「南部地域を悪化させとるのに変わりなかろうがっ。 まぁ、敵に情けをかける道理も無いから、強くは言わんが」


「なら、なんで俺は怒鳴られたのでしょうか?」


「聞いてた話と違うからだっ、馬鹿者が!」


 またも雷が落ちる。

 つうか、俺はきちんと説明したはずなんだが?

 どっかで食い違った? 想定よりも上過ぎた? 報告はきちんと、詳細に上げた筈なんだが……。


「あの……」


「なんだ?」


「その、クロノアス卿の報告に関してなのですが……」


 とある文官からの報告……この場合、密告になるのか?

 文官からの話によると、報告を受け取った上司が勝手に過小評価して、陛下に報告書を上げていたらしい。

 しかも、その報告書を俺から直接受け取ったとして。


「俺、悪くないですよね?」


 誰もがうんうんと頷く中、陛下はわなわなと震えていた。

 まぁ、面子を潰されたのだし、仕方ないと思う。

 ただのゼルクトさんとイリュイアさんとジャバで良かったと思うわ。

 これがもし、ただのじゃ無かったら……。


「担当した者を直ぐに呼べっ!」


 流石の陛下も、今回は重罰を与えるつもりらしい。

 担当した文官は貴族籍の文官で、爵位もそこそこの人物であったのだが、ここでちょっとした弊害が分かってしまう。

 軍人と文官の見識の違いである。

 そもそもの話、同盟国家は俺の力を恐れている。

 同時に、敵対さえしなければ、頼もしくも思っているので、上層部と軍人の考えは似通っているわけだが、一部文官達は過大評価だと思っていたりする。

 問題の文官も過大評価だと思って、是正したとの事だ。

 過小評価ではなく、適性値、または多少の上方修正を加えた報告書で上げたという訳だ。

 これに関しては、情報共有を徹底しなかった陛下にも責はあるだろう。

 ただ、どの国でもある事らしく、ゼルクトさんとジャバは、陛下の肩にそっと手を置いた。

 その後、その文官はどうなったかと言うと、降爵は免除されたが、虚偽報告の責を問われて辞任する運びとなった。

 表向きには、体調不良による療養ではあるがな。

 当主も辞して、息子が継ぐらしい。

 無職貴族が出来上がった瞬間であった。


「あー、グラフィエル、すまなかった」


「いえ。しかし噂には聞いてましたが、あそこまで齟齬があったとは思いませんでした」


「文官ゆえの弊害だの。今後、どうしたものか……」


「恐怖を伝播する?」


「「「それだけはやめるようにっ!!」」」


 三人から全力で止められる。

 しかし、他に手があるのかね? ……早急に考えるらしい。

 まぁ、そっちは任せるとして、本題へと移ろう。


「それで、本題なわけですが……」


「話を聞くに、食糧援助で良いのか?」


「いえ。戦争状態になるまでは、なんだかんだ回せていたらしいので」


「しかし、海上戦力を引くわけにはいかんぞ?」


 手紙の内容、それは、我が海上戦力の圧力緩和であった。

 ついでに出来るなら、海蛇(シーサーペント)を含む、凶暴な海中生物の駆除も。

 後者は別の話になるので、まずは圧力関係の話から解決していく。


「まずは要点を纏めましょう。相手とこちら、双方の主張を確定させてからの方が」


「そうだな。ただ、仕事が増えるのはのぅ」


「俺も同じなんですが? 陛下はまだマシでしょうに」


 お互いに溜息を吐いてから、要点の纏め上げに入る。

 いや、その前に、南部の情勢からかな。

 まず大前提として、ダグレストの地方領主たちは、中央の貴族家と官僚との間に深い溝がある。

 各国にも似たような状況はあるが、ダグレストの根はそれよりも深い。

 東西南北の地方領主たちだが、南以外の地方領主たちは既に中央への見切りをつけていると言って良い。

 では、南は違うのかという点だが、実際の所は見切りをつけてはいるらしい。


「八木、説明」


「うっす。南に関して知ってる情報っすが、中央の扱いは他の地方領主たちと大差ないっす。一部を除いてっすが」


「その例外は?」


「漁業関連っす。作物に関してっすが、中央に近い領地から納入すれば良いだけっすから、地方への対応は最悪っす。まぁ、待叶えていないのが実情っすけど」


「だけど、魚だけはそうもいかない。だから中央は、南にだけはマシな対応をしていたって事だな?」


「そうなんっすけど、それはあくまでも漁業が出来る領地にだけっすね」


「南の領地でも、農業主体の領地は他と大差ない訳か」


「うっす。でもっすね、漁業関連の領地はっすね――」


「3つの辺境伯領と、2つの子爵領にしか、ないわけだ」


「そうっす。でも、大身の貴族家は下の面倒を見る必要があるっすから、自分達の要望に付け加える形で、中央へと申請していた訳っすね。まぁ、受理されるのはその内の一部だけっすが」


 大半は、却下してるのが実情らしいが、緊急性の高いものに関しては優先していたようだな。

 勿論、南の貴族領のみだが。

 ああ、だから軍が攻めて来た時に帰属したのか。

 あれ? でもそうすると、南はそこまでじゃないのでは?


「問題は冒険者達を引き込み始めた頃っすよ。南の要望を却下しまくり始めたのは」


「軍備増強に踏み切ったから?」


「それもあるっすね。でも、一番の要因は、商人の輸送に関してっす」


「…………そうか。冒険者達が少なくなったから、護衛できる相対数が減ったのか」


「そうっす。いくら領域から魔物が出ないって言っても、賊に関する備えは必要っすからね。特にダグレストは、他の国よりも治安が悪いっすから」


 八木と俺が話していく中、他の皆は思案に耽っている。

 一つ一つ洗い出しているので、相手の要求は何処が一番必要なのかを探っているのだろう。

 なので、八木との話は気にせずに進めることにした。

 疑問や質問があるなら、割り込んでくると見越しての判断だ。


「流通量が減ってはいるっすが、別に地方じゃ痛手でも無かったんすよね」


「中央との関りが薄いからだな。でも話を聞く限りだと、南だって回せそうなんだが?」


「問題点はこの先っすよ」


「……報告にあった、商人たちの避難と流出か」


 陛下が割って入って来た。

 という事は、何かしらの答えに行きついたと見て良いだろう。


「こちらの知る限りだと、中央に残っている商人は少ない筈だが……」


「現状はわからないっすよ。ただ、亡命前の情報っすけど、流出が3割っすね」


「……流出はわかったが、避難に関してどうなんだ?」


「うーん、予測っすけど、多分大多数は南っすね。飽和状態なんじゃないっすかね?」


 八木は、今の答えに行きついた根拠についても話すのだが、納得は出来る内容だった。

 その理由だが、時期を見誤った可能性が高いだ。


「宣戦布告と同時に、危ういと感じた筈っすよ。ラフィさんの武勇は有名っすし、冒険者として護衛任務を一度は頼みたいって商人も多かった筈っすから」


「だから逃げようとはした……でも、魔物軍が東西北に展開したから――」


「中央からの逃げ道が南にしか残って無かったって話っすね。流石に政商やお抱えは、動きづらいとは思うっすよ」


「立場があるもんなぁ。……あれ? という事は、逃げた商人は中店規模の商人?」


「大店もいるんじゃないっすかね? 今の感じだとっすけど」


「問題はそこでは無いと思うがの」


 陛下の言葉に、俺も八木も考えを改める。

 確かに、それだとこちらに話をする必要性は感じない。

 となると、やはり先の海上戦力だけ?


「良く考えてみよ。海上戦力が展開しておるのだぞ?」


「…………あ」


「気付いたか。そうだ。諸侯軍の動員だ」


「物資が湯水のように溶けているのか」


「もう、商人たちも運ぶ物資が無いのかもしれんな。事実上の廃業だの。それに加え、領地の経営破綻の可能性もあるか」


「現状が続くと、詰みなわけですか」


 納得できる内容だった。

 つまり、漁業が再開できて、漁獲量がそれなりにあれば、色んな人が詰んでる状態が解消できるわけか。

 でもそれは、同時にこちらのデメリットでもある訳か。


「罪なき民には悪いとは思うが、こちらには何の得も無いの。わざわざ敵諸侯軍の手助けをしてやる義理は無いからの」


「そうですよねぇ。だから、この手紙ですか」


 そう言ってから、手紙をヒラヒラさせてみる。

 誰も何も言わない。

 あっれぇ? 普通なら怒られる場面だと思うんだけど?


「お主の行動が全て物語っておるだろう? 吹けば飛ぶような話だからの。間違った行動でもない」


「じゃ、何もしない……ってわけにもいかないんですよねぇ」


 なんでかって? ミリア達の目が、どうにかならないかって訴えて来てるからだ。

 職業軍人や自らの選択で破滅に向かう者に同情はしないが、領民は違うのではないかと、訴えて来てるのが分かるから。

 なんだかんだ言って、優しんだよね、ミリアって。

 後はスノラの、亜人族も助けられたのだからって希望に満ちた目もある。

 正直、期待には答えてやりたいのが本音だ。

 だが、陛下達を納得させるには、利益が必要である。

 より正確には、助けても問題無いと思わせる必要がある。

 個人の感情と国家運営は別物なのだ。

 戦争中なわけだから、国家としては味方にならない以上は助ける義理は無いという事だ。

 なので、再度手紙に目を通す。

 抜け道は無いかなぁ?


「ん?」


「どうした?」


「陛下、この一文なのですが」


「どれ……」


 手紙に書いてあった一文――我々は何があっても異を唱えない。

 この一文に、深く考える陛下。

 俺としては、戦勝後のランシェスに大人しく帰属する――と解釈しているのだが、どうやら陛下は違うらしい。

 でも、他に意味の取り方がわからんしなぁ。


「ふむ……交渉次第では、飲めるかもしれんな」


「でも、誰が交渉に向かうんですか?」


 全員が俺を見る。

 でも、ぶっちゃけ無理だな。

 裏技を使えば行けるけど、表向きには行けない状態だからな。

 だって、行ったことねぇし。


「言っときますが、無理ですからね」


「理由は?」


「行ったことが無いので」


「確かに、それは無理だの」


「コキュラトにでも任せましょう。念話は使えますし、念の為にスマホもどきも持たせてますので」


「委細任せる」


「マジですか……」


 という訳で、コキュラトを仲介役にして交渉をするのだが、スマホもどきを介して話した結果、こちらの予想以上に詰んでいたことが発覚した。

 商人の話はこちらの想定通りではあったのだが、その実情はかなり無理ゲーと化していたのだ。

 運ぶ商品も無ければ、購入する商品も無い商人が数えきれないほどいるらしく、各貴族家が補助金を出して潰れない様に回しているとの事だった。

 一気に潰れたら、貧困者が急激に増えるので、どうにか回避させているとの事。

 但し、持ち出しばかりなので、かなり限界らしい。

 その追い打ちをかけたのが、漁業の停止。

 こちらの海上戦力によって、漁業が一切できなくなったことも挙げられた。


『はっきり言いましょう。この戦争に戦力を裂く余裕なんて、初めから無いです』


「そうは言っても、最悪を考えてこちらも行動したので、非難を受ける通りは無いですが?」


『わかっています。なので、この戦争に一切介入しないとの約定を取り付けたうえで、海上戦力をどうにかして貰いたく』


「帰属を明言しないのですか?」


『現状では不可能です。一切の介入をしない旨は、南の全貴族家が合意していますが、帰属となると話が変わってきますので』


「こちらが戦勝国となった場合には?」


『それに関しては帰属する方向で話が纏まっています。争いもしませんし、仮に新国家が樹立されたのなら、忠誠を誓いましょう。多少の家禄減少も受け入れます』


「その辺りの話は、戦争終結後に改めてとなるでしょう。とにかく、争う意思は皆無だとの認識で良いのですね?」


『その通りです。出来る事なら、ランシェスとフェリックの南部交易の許可が頂けたらと』


「流石に無理ですね。諜報員流入の可能性がありますので。それと、海上戦力に関して引くのは無理ですが、譲歩は出しましょう」


『具体的には?』


 その後も話しを詰めて行く。

 結論としては、漁業に関しての全面協力となった。

 それだけでも、今の詰みの状態からは脱却可能だったからだ。

 具体的には二つ。

 一つは、海上戦力の出現及び水竜と海龍の出現によって、生息域を大幅に変更してしまった凶悪な水性動物類及び海洋動物類の駆除に関して。

 もう一つは、漁業をする際の取り決めとして、漁船は必ず白旗を上げて漁業をする事である。

 白旗を掲げていない漁船は、戦闘の意思ありとして対処する旨を伝えた。

 それと万が一、白旗を上げているにも関わらず、戦闘行為に及んだ場合、即座に条約を破棄して臨戦体制に移行する旨も盛り込んだ。

 単純な話、何もしなければ、こちらからも何もしないとの条約にしたのだ。

 当然、この戦争には不介入である事も盛り込んである。

 戦力、物資問わずにだ。

 陛下からの許可も下りたので、現地にいるコキュラトが条約に署名する事でも同意。

 但し、条約書を先にこちらへ送って、確認が取れてからとなっているがな。

 ただ、時間が掛かるので、漁業だけは前倒しで許可を出した。

 ここまでは良い……そう、ここまでは。


「おーい。この書類はこっちだろ?」


「……これ、陛下行きのやつ」


「そうなんか? じゃ、回しておくわ」


「ラフィ君、こっちの書類に目を通して欲しいんだけど?」


「…………これも、陛下行きのやつ」


「そうなのかい? 仕方ない、持って行くかな」


「ラフィ様、こちらは合ってますよね?」


「………………これも」


「そうなのですか? ですが、南部に関わる書類ですよ」


「あのさぁ、全員勘違いしてない?」


 言っておくが、海上戦力の傭兵船団はランシェスが雇用しているのだ。

 交渉は俺が代表して行ってはいるが、運用に関する全権は陛下である。

 俺にそんな書類を持ってきても、何も出来んのだが?


「えっ? だって盟主ですよね?」


「軍事行動に当たるから、雇用系統の詳細は陛下が担当なんだけど」


「グラフィエル、手伝え」


「はぁ……」


 なんで皆、俺に言うん? 俺は便利屋じゃねぇんだけど? 盟主って、便利屋って意味じゃないはずなんだけどなぁ……。

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