215話 第二試験、盗賊達を召っしてみよう!
年末年始投稿初日です
第一試験である魔物の討伐から2日後、今日はギルドに貼り出されていた賊退治の依頼を受けておいた。
尚、ギルマスには事情を話してあるので、試験官二名も選抜済みである。
(と言うか、これが出来ないとクッキー試験も受けれんからなぁ……)
実はクッキーさんからの指示で、協力はしても良いが、せめてB以上の実力にはなってこい――と言われていたりする。
そうなると、Cに上がる必須条件の賊の討伐試験が必要と言う事だ。
こちらの事情がある事もギルマスには話しているので、俺達の付き添いも許可はして貰っている。
但し、試験の合否に関しては関与できないが。
「まさか、二つ名持ちの関係者とは……」
「ツイているのか、いないのか……」
「まぁ、EXランカーと行動できるのは、役得だな」
「ああ。どんな鍛錬させて、試験に望ませているのか分かるしな」
なんて話をしていたが、まさか神の手ほどきを受けてるとは思うまい。
勿論、全員に他言無用と言ってあるので、俺が鍛えた事にはなってるが、ギルマスなどにはバレてるだろうな。
神の手ほどきはバレていないだろうが、俺じゃない事はバレてるはず。
(後でゼロと打ち合わせておくか……)
そんな考えをしながら、ギルドを後にして目的地に向かう。
目的地は馬車で二日ほど走り、そこから徒歩で半日の場所にある盗賊の隠れ家だ。
ただ、あくまでもDの昇格試験で受ける場合は――と言う注釈が付くが。
「さぁて、走るとしますか」
「俺達は大丈夫だけど、受講者は厳しくないか?」
「そうだよな。馬車の手配をしてくるべきだろう」
「大丈夫。そんな柔に鍛えてないから」
俺が最後に言った言葉に、受講者である8人は身震いした。
当然、それを見た試験官二人は、何かを察した。
結果、走って行くのだが、試験官の方が遅れることになったのは、なんとも悲しい話である。
いや、二人共、マジでちょっと泣きそうだったからな。
帰りはもう少しだけ、速度を落として帰ろう。
そんなこんなで、朝一から出発して、昼過ぎには目的地に到着した。
「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ……」
「ほん、と……ぜぇぜぇ、どんな、鍛え方したら、はぁはぁ、息も、切らさな、ぜぇぜぇ、い走りが、はぁはぁ、出来るん、だ」
「あー……地獄を見れば?」
八木の答えに、何とも言えない表情になる二人。
それも仕方ないとは言えるか。
だって、息を切らしてるの、試験官だけなんだから。
この中で、一番戦闘能力が低い春宮ですら、息切れを起こしていないからな。
まぁ、受講者+八木が、遠い目にはなっているが。
「ほら。さっさと休憩取るぞ」
ウォルドの言葉を聞いて、各自昼食の準備に入る。
食い過ぎてもいけないから、軽食を軽めに摂っていく。
試験官と受講者たちは各自で昼食を取るが、俺と護衛に今回の同行婚約者達は、俺の空間収納内から出した物で食事だ。
試験中は、各自で用意した物のみ――と言う事にもなっているので、仕方ないのだ。
だから当然、昼飯に格差が生まれるわけで……。
「ラフィさんの所、良いなぁ……」
「仕方ないでしょ優華。ルールなんだし」
「姫埼さんの言う通りなんだけど、あれはないわ」
「夕凪さんの言う通りですね。格差ありすぎですよ」
「今日は我慢、今日は我慢……」
「ねぇ、潤。後でラフィに文句言っといてね」
「美羽、俺に死ねと?」
「諦めろ潤」
「輝明も、俺に死ねと?」
まぁ、受講者たちの文句はごもっともである。
俺達の昼飯は、ハンバーガー、フライドポテト、チキンナゲット、サラダ、自家製フルーツジュースと言う、最強の布陣なのに対して、受講者たちの昼飯はおにぎりとお茶のみ。
試験官たちに至っては、干し肉と水である。
うん……流石に、試験官たちの昼飯は可哀想過ぎるな。
「二人共、こっちで食う?」
「マジで!?」
「ありがたやぁ~、ありがたやぁ~……」
「「「「「「「「不公平だ!」」」」」」」」
「受講者と試験官の違いがあるから仕方ないな。……あ、試験で一番高評価だった人には、帰りながら食べられる、マ◯クに寄せたアップルパイを進呈しよう」
「「「「「「「死ぬ気でやろう!」」」」」」」」
「いや、死なれたら困るんだが?」
なんて軽口を言いながら、休憩を取っていく。
尚この間も、警戒と索敵は全員が行っているので、試験官たちからは何も言われなかった。
1時間程休憩を取ってから、盗賊共のアジトへと近付いて行く。
警戒線ギリギリまで近づき、アジトを確認するが、全員の顏に残念そうな表情が浮かんだ。
それも仕方ないのかもしれない。
見つけたアジトだが、ゴブリンの巣みたいな洞窟に加え、近くにはみすぼらしい小屋が二つ。
見張りは4人で、ぶっちゃけゴブリン顔。
テンションが下がってしまうのも、無理は無いのかもしれない。
「(あのなぁ……大規模な賊退治とか、任せられるわけないだろうが)」
「(暴れられると思ったのに)」
「(箒……頼むから、狂戦士化はしないでくれよ?)」
「(ラフィ様。いざとなったら、私が止める)」
「(リュールが止める事態を避けたいんだけどなぁ)」
小声で懸念事項と、いざと言う時の話し合いをしていく。
しかし、今日行う試験は対人戦で、人殺しをする可能性が高いのに、妙に落ち着いてるような……。
「(お前ら、落ち着きすぎじゃ――)」
声を掛けようとして、気付いた。
テンションが低かったり、軽口を叩いてはいたが、春宮と姫埼以外は震えていた。
そうだな……それが普通の反応だわな。
……少しだけ、発破をかけてやるか。
「(6人共、良く聞け)」
「(何?)」
「(この世界では、命は軽い。賊に殺される、魔物に殺される、病に殺される、飢饉に殺される、戦争に殺される。そして、無能に殺される世界だ)」
「(…………)」
「(生き抜いて、叶えたい夢、迎えたい未来、仲間を死なせたくないと思うなら、迷うな。迷ったら、死ぬのは自分だけじゃなく、仲間もだと思え。仲間を、友を、大切な者を守りたいと思うなら、手を汚すことを躊躇うな。この世界は、そう言う世界だ)」
「(わかってるわ……)」
俺の言葉を聞いて、震えはまだあるが、手に持つ武器に力が篭る。
そして、全員が一つ頷く。
後は、注意事項くらいかな?
「(良いか? 力を振るうのは、守るために使え。想い無き力は虚しいし、力無き想いなど、ただの幻想だ。そして、この世界の悪人に、温情は無い)」
「(捕えた場合は?)」
「(然るべき法によって裁かれるが、生き残れる確率は1割にも満たない。ここで介錯してやるのも、言ってみれば温情なんだ)」
「(私からも一つ。更生させられはしないの?)」
「(そう言った機関は無い。施設も無い。あるのは、犯罪奴隷か鉱山奴隷。それか死罪だ)」
「(今まで更生した人は?)」
「(いるかもしれないが、生かして捕えられるのか? それで自分だけじゃなく、仲間も危険にさらしてしまったら? 優先順位を間違えるな。清濁併せ呑め。今も昔も、俺達は成人しているのだから)」
難しい事を言ってる自覚はある。
でも、それが出来ないと、たった一つのミスから、死んでしまう確率が高くなってしまう。
一人でも生き抜く術を教える為に、敢えて、冒険者と言う仕事を仕込んでいるのだから。
考え込んではいるが、何かを吹っ切った様に、6人共首を振って頷いた。
前世には前世の、今世には今世のルールがある。
その辺りも勉強してはいたが、実際に当事者になるのとは違ってくる。
全員が、当事者だと、ようやくだが認識してくれたようでもあった。
だから最後に、もう一言だけ。
「(逃がすな。殲滅しろ。隙を見せたら殺される。甘えを見せたら殺される。もし逃がしたら、明日には大事な人が殺されているかもしれない。だから――徹底的に殺れ)」
最後の言葉に、またも全員が頷き、余計な事は考えないと答えた。
ただ、俺の考えは伝えていない。
因みに俺の考えは、完全敵対ならば徹底的に潰すだ。
賊共は、完全敵対者の枠に入っている。
こいつらは、悲しみしか生みださないからな。
だが、蛍と潤だけは、俺の考え方を理解した様で、小声で話しかけて来た。
「(あんたって昔から、敵と定めたら容赦がなかったわね)」
「(そうそう。俺が不良に絡まれてボッコボコにされてたら、敵認定して逆にフルボッコにしてたよな。お巡りさんが来たから一緒に逃げようと思ってたのに、フルボッコタイム継続して逆に補導されてたし)」
「(確か、潤が証言したんだっけ?)」
「(おう。しかもな、そんとき中学生だったんだけど、相手は高校生でさ。更に周辺を仕切ってた暴走族の頭だったらしいんだよ。そんで、蛍とか家族に手を出そうとした事を察知した蒼が、一人一人葬って、手出し出来ないようにしたんだよな)」
「(あー……納得。道すがらお辞儀されてたのは、そう言う経緯があったからなのね)」
「(中身は変わって無いんだよ。昔も今も)」
「(喜ぶべきか、悲しむべきか)」
「(人の過去をベラベラと……。おまえら後でお仕置きな)」
「(3人共、おしゃべりはそこまでだ。夕凪と常磐は戦闘準備)」
「「(はーい))」」
ウォルドの合図で話は一旦終了。
ただ、聞き耳を立てていたのだろう。
残る4人が別の意味で震えていた。
いや、何もしねぇから。
「(騒がれると厄介だから、表は俺達が殺る。試験はその後だ)」
「(オーケーだ。)……行くぞ!」
ウォルドが声を上げた瞬間、見張りの4人が気付くも、高ランカーである俺達の手により瞬殺される。
しかし全く物音がしないわけもなく、両小屋から新手が出てくる。
出てくるのだが……。
「邪魔」
「はいはい。さっさと死んでね」
「賊に情けは無用です!」
「これは騎士っぽいお仕事ですね」
「皆さん、怪我をしたら直ぐに言って下さい」
とまぁ、あっという間に片付けてしまった。
毎度の事ではあるが、婚約者達も同行中である。
面子は、冒険者ランクがそれなりにあり、経験豊富で戦闘能力に問題が無いメンバーで構成されている。
メンバーは、リュール、リア、リジア、ヴィオレ、ナユの5人。
と言う訳で、カップ麺が出来上がる時間にすら届かず、外にいる賊は全滅した。
しかし、こっからが試験の本番……。
「おぇ!」
「こんな……」
潤と輝明の顏が真っ青である。
潤に至っては、今にも吐きそうである。
対する女性陣だが……姫埼と春宮は慣れもあるのか、顔色は悪くない。
残る4人は顔色は悪くはあるが、潤や輝明ほどではない。
そして、女性陣は全員、手を合わせて拝んでいた。
まぁ、区切りは必要だから何も言わん。
少しだけ時間を作って、全員の気持ちが落ち着くの待つ。
その間に、俺は【探査】を使って、内部の状況を把握しておく。
それと、俺が教わった様に、賊の情報を持ち帰る為のやり方を教わっていた。
初めは尻込みしていたが、女性陣は順応力が高いのか、直ぐに作業に慣れて行ったな。
対する潤と輝明だが、未だに慣れない模様。
……やっぱ、女性の方が強いよな。
「ラフィ、終わったぞ」
「ご苦労さん。で、どうだ?」
「試験官は二人共、顔馴染みだから話していたんだけどよ、あの二人はヤバくないかって話だ」
「あー、やっぱそうかぁ」
「どうする?」
「続行で」
「良いのか?」
「多分、大丈夫だろ」
「……最悪の想定はしてるんだよな?」
「勿論」
「なら良い」
さて、ウォルドには大丈夫と言ったが、正直な話、潤と輝明には再度、話をするべきかな? と、考えてはいた。
ただ、俺がそう考えているのを見越したのか、リュールが二人に近付いて行く。
続いて、リアとナユも近づいて行く。
ヴィオレとリジアは傍観するようだ。
「二人共、情けない」
「いや、だって……」
「だっても何もないんだよねぇ。殺らなきゃ殺られるんだよ」
「それでも、人殺しなんだぞ」
「そうですね。でも、私達がそうしなければ、更なる犠牲者が出てしまいますよ」
「捕らえれば――」
「それだけの余裕と力がある? ラフィ様も言った。優先順位を間違えるなと」
「そうだね。後もう一つだけ言っておくとね、これが出来なきゃ、ラフィ君の傍にいる資格は無いよ」
「それはどういう――」
「ラフィには味方もいますが、敵の方が多いです。自分の身と、大切な人を守るだけの覚悟は必要なんです」
「私達は、全員が覚悟を持っている。二人には、それが足りない」
「別にさ、人殺しを推奨してる訳じゃ無いんだよ。でも、討伐依頼に上がってるって事は、罪も無い人を殺しているって証拠が挙がってるんだよ」
「だから、誰かがやらないといけません。二人は、自分の手を汚すのが嫌なんですね」
「…………」
「私は傭兵もやってたから、リアやナユよりも恨まれてる人の数は多いと思う。でも、そうしなければ守れない物は沢山あった」
「リュールの言う通りだね。だからさ、無理なら辞退しなよ。そして、冒険者を辞めたら良いと思うよ」
「きつい言い方にはなりますが、その後で、大切な人が依頼失敗で死んでも、後の祭りです。あの時、覚悟してれば。後悔だけが残ります。私もありましたから」
リュール、リア、ナユは、それだけ話すと、二人の元から離れて行った。
この先は、二人の判断に委ねるらしい。
続けるも良し、辞退するも良し。
但し、この先で不幸が待っていたとしても、それが選んだ選択の果てなのだと。
誰かに縋るような表情を見せるが、誰も何も言わない。
いや……一人だけ、八木が二人に語り掛けた。
「俺もさ、友達を見捨てたんだ。俺じゃ全員は助けられなくて。でも、ラフィさんの助けがあれば、いけると思ってた」
「「…………」」
「でもさ、ラフィさんはその見捨てた友達を敵認定してた。だから、一人で行動を起こして不確かな未来を掴みに行くか、確実に助けられる未来を掴みに行くか。そう、選択を迫られた」
「どっちを選んだんだ?」
潤の質問に、少しだけ罪悪感のある表情を見せた八木が、ちょっと辛そうな笑顔で、でも、今ある繋がりを確かに感じて、その答えを話す。
「確実な未来を選んだ。勿論、最悪の場合は、俺が友達の息の根を止める覚悟を持って」
「…………」
「それが、俺の選んだ選択だ。まだ何処かで、説得できたんじゃないかって後悔はある。でも、時間が無かった。だから俺は、この選択も優先順位を取った結果だと思ってる。ま、その友達にムカついてたのはあるけどな」
「はは……本当に、覚悟の問題ってか」
「はぁ……俺ってチキンだな」
「いや、別にチキンは悪くないぞ?」
俺の声に、潤と輝明はバッ! と振り返った。
あれ? そんな驚く事か?
「冒険者なんて、チキンで良いんだよ。生き残るために正確な判断を下すなら、尚更な」
「そうなんか?」
「蛮勇で仲間を死なせるより、チキンで撤退の方が遥かにマシだな。まぁ、なんでもチキンは困るけど」
「今回は?」
「輝明の質問の答えだが、チキンじゃなく、他人頼りなだけだろ? 自分が殺らなくても、誰かが殺ってくれるって言う」
「うっ」
「別に悪くは無いぞ? ただ、澄沢とは同じ場所に立てなくなるし、知らない場所で死んだりする可能性もあるだろうな。でも、輝明がここで踏ん張れば、最悪の未来が待ち受けていたとしても変わるかもしれない」
「そっ……か」
「因みに一つだけ言っておく。説得は不可能だからな」
俺の言葉に、潤と輝明は女性陣を見渡す。
箒も澄沢も、ただ頷いただけだったが、男二人にはそれで伝わった模様。
付き合いも長いし、伝わって当然か。
「で、どうすんの? 続ける? 辞退する?」
「はっ! やってやんよ! まだ足はガクブルだけどなぁ!」
「彼女だけに、手は汚させたくないから、俺もやる。吐くかもだけど……」
涙目でまだ足もガクブルな潤が、虚勢を張りながら続行を伝え、同時に輝明も続行を伝えた……今にも吐きそうだけど。
そんな二人に、ニヤッと笑い、改めて言葉を贈る。
「ようこそ、命の軽い世界へ」
「「言い方! もっとオブラートに包め!」」
「儚い世界?」
「「俺達も儚くなりそうだから却下!」」
「えぇい、注文が多い! 行くぞ、腰抜けブラザーズ!」
「「変化球無しのド直球じゃないか! オブラート何処行った!?」」
「オブラートは死にました」
「「オブラートさぁぁん!!」」
このやり取りに意味があるのか? と思った、そこの貴方! 実はあるんです。
お馬鹿なやり取りではあったが、潤の涙目とガクブルは解消してるし、輝明の顔色も若干だが回復してるから。
気持ちの切り替えには役に立ってるんです!
だからそこ! そんな残念な人を見る目で見ない! 特に蛍、お前だよ!
「全く……あのお馬鹿どもは……」
「まぁまぁ。良い結果には繋がったし……ね?」
「まぁ、リアがそう言うなら」
「流石ラフィ様。やる気を出させるのが上手い」
「リュールちゃん、それって扇動家とも言わない?」
「詩音の言い分も合ってる。でも、必要な時はあるから」
「さっすが傭兵ね。言葉が深いわ……」
女性陣が何か言ってるが、一旦はスルー。
後で尋問するのは……藪蛇になりそうだから止めておこう。
それよりも――だ。
洞窟内にいる賊共が、外の異変に気付き始めてこっちに向かってきている。
取り逃がすのは問題外なので、外で殺るか、突撃して殺るのかを、試験官二人に決定して貰おう。
「入り口前で撃破だな」
「隠し通路の類は?」
「さぁ?」
「探せるのか?」
「探せますよ」
「じゃ、探して潰してくれ」
「りょ」
この後は、まぁ……ただの作業に近いな。
吹っ切れた人間と言うのは、こうまで変わるのかと驚いたくらいだ。
『俺の幸せの為に逝けえぇぇぇぇ!!』
『た、たすけてくれっ!』
『そう言って、何人の人間を殺してきたんだ? 次はお前の番なだけだろう?』
『ぎゃぁぁぁぁ!』
全員が少しだけ引いたのは言うまでもないだろう。
まぁ、一番引いたのは、やっぱり彼女だったけど……。
『うふふ。殺人者に慈悲は無いです。し・ん・で♪』
『ひぎゃっ』
『ごふっ』
『しにたくねぇよぉ……』
『あはっ……あはははは!』
言わずもなが、箒さんである。
どうやら彼女、戦闘時と通常時では人格が変わるらしい。
暴走ではなく、二重人格だったわけだ。
だって、冷静に戦闘してたからな。
前回の戦闘を合わせて考えると、三段階に分かれてるっぽい。
通常時→戦闘時→プッツン時、と。
「プッツン時だけ、要注意だな」
「それでもサポートがいるか?」
「致命傷は無意識に避けてるようだけど、失血死の可能性はあるからなぁ……」
ウォルドと冷静に話しているが、試験官二人はガクブルしてらっしゃったよ。
二人曰く、戦闘時に変わる冒険者は見て来たけど、あそこまで変わるのは初めて――との事だ。
余談ではあるが、この時の試験官から噂が流れて、箒に二つ名が付いた。
その名は【鮮血の処刑人】
箒がプッツンしそうになって、全力で止めて、当時試験官だった二人が土下座しに来る未来は、直ぐに訪れる事に。
斯くして、第二試験も突破し、数日後に残る最終試験へと挑むことになった。
あ、マッ◯に寄せたアップルパイは、箒が手に入れたぞ。
試験官二人からの評価が高かったからな。
怖かったのもあるだろうけど。
帰り道、幸せそうに食べる箒に、やっぱ二重人格だと全員が思ったのだった。




