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211話 修練中だぜヒャッハー!

「おら、そこ! もっとキビキビ走れ!」


「ひぃぃぃぃ!」


「し、しぬ……」


「…………」


「無駄口で体力を削るな! 八木を見習え!」


 今日も今日とて、ヒャッハーしているセブリー。

 修練相手が出来たのが、たまらなく嬉しいらしい。

 さて、なんでこんな状況になっているのか、疑問に思う事だろう。

 実は、あの濃い夜から、既に3日が経過している。

 一夜明けた翌朝、皆で朝食を摂った後、メナト主体の【この世界における基本講座】が開かれることになった。

 補佐にはシルとエステスが付き、生きて行くために必要な一般教養も込みで教えていく予定だった――のだが、何を考えたのか知らんが、基本講座を開く前に、何故か、八木VSウォルドの模擬戦を行う事になってしまったのだ。


『まだ早くね?』


『ラフィの言いたい事も分かるが、見せた方が手っ取り早いのさ。特に、命の危機的な事に関してはね』


 と言う事で、模擬戦は決定事項となった訳だが、この後の言葉に、八木とウォルドは引けない戦いへと望む事に。


『あ、言っとくけど、負けた方は修練参加だからね。特にウォルド。負けたら、私自らマンツーマンで叩き込むから。覚悟しておく様に』


『じゃ、八木は俺達に任せてくれよな。鍛えがいがありそうだと思ってたんだ』


 戦闘三柱の言葉を聞いた八木とウォルドは、死地へと赴くような顔をして、準備運動へと入った。

 そして、俺にも理不尽の刃は降り注いだ。


『ラフィはどっちが勝つと思う? 外れたら、トラーシャの修練(お守り)受けて(して)もらうよ』


『理不尽過ぎね?』


 そう言って、他の転生者と召喚者組まで、賭けに巻き込みやがったんだよな。

 尚、この時の景品だが、的中なら、メナト、シル、エステスからの、少し優しめの修練。

 外したら、セブリー、トラーシャからの、地獄の方が100倍生温いよね! コースへのご招待である。

 不参加は問答無用で、後者のコースへご招待だ。

 そして、見事に分かれる票。

 事前情報として、戦闘能力の一部やこれまでの実績に加え、現在の職やお給金、嫁や彼女の有無まで公開した。

 結果、ウォルドは男性2名から嫉妬の眼差しを受け、女性陣は冷静に判断して出た結果がこれだ。


 八木2票

 ウォルド7票


 圧倒的! ウォルド人気であった。

 しかも、女性全員がウォルドに投票。

 八木は目から、静かに塩水が流れてしまった。

 ガンバレ八木! いつか良い人が現れるさ!


『そろそろ良いね? 勝敗だけど、戦闘の神である我々が勝負ありと判断。もしくは、命に関わる攻撃が当たりそうな場合。反則負けは《《開始合図前に攻撃した》》時のみ。何か質問は?』


『はい』


『八木か。なんだい?』


『命に関わる攻撃をして止められた場合、攻撃した側が負けっすか?』


『避けれそうにないから止めるんだ。無論、止められた側の勝ちだ』


 メナトの答えに、二人とも了承する。

 ただ、二人はわかっているようなので口を出さないが、賭けている方はメナトの真意に気付いているのかね?

 わざわざ、分かるように説明していたのだが。

 そんな考えを見抜いたのか?

 メナトが小声で話しかけて来た。


『ラフィはちゃんと、気付いたみたいだね』


『まぁな。後は……対決する本人達と、姫埼に春宮も気付いてるかな?』


『この四名は、気付かなかったら大問題だよ』


『違いない』


 そんな話をしている内に、準備運動を終えた二人が所定の位置で合図を待っていた。

 どうやら、準備も万端らしい。

 そう……わざわざメナトが、反則負けを明確にしたのには理由がある。

 現代社会でも同じことが言えるのだが、事前の準備は必須だと言いたかったのだ。

 この世界だと、依頼に関する情報収集なんかもあるが、戦闘面においては、どれだけ仕込めるかで勝負が決まる事もある。

 今回の場合だと何でもありなので、事前の仕込みは必須とも言える。

 尤も、仕込めない者もいるが。

 ウォルドなんかは、仕込めない側の人間だ。

 だから代わりに、仲間が仕込みをして、ウォルドを戦いやすくしたりする。

 所謂、連係プレーと言う奴だ。

 逆に八木は、手数と仕込みが得意な人間と言える。

 相手に悟られず、いくつかは仕込んだ様だ。

 そして、新米覚醒者VS覚醒者一歩手前の戦いでもあり、戦略VS戦術の戦いでもある。

 少しは違うかもしれないが、戦略がウォルド、戦術が八木と、俺は見立てて観戦している。

 総合能力はウォルドに軍配が上がるが、八木には突出した部分がある。

 順当にいけばウォルドの勝ちで間違いないだろうが、果たしてどうなるのか?


『はじめ!』


 メナトが合図を出し、試合が開始された。

 結果だけ先に言うと、ウォルドの勝ちである。

 と言うか、圧勝。

 八木だって何も出来なかったわけでは無いが、戦闘経験値の差があり過ぎた。

 八木が仕込んだ搦手を、悉く正攻法で叩き潰して、主導権を渡さなかったのが大きい。

 最後はガチンコ勝負になったが、八木は粘るも敗北――と言った形だ。

 地力はあるが、ウォルドの方が高かっただけの話とも言える。

 そして、負けた八木は、同じく賭けに負けた男二人と共に、セブリー監修の元、修練に至ってるわけだ。


「もう、むり……」


「はぁ……はぁ……ごほっ」


「なっさけねぇなぁ。八木は……あれ?」


「…………」


 八木、ちょっとだけ灰になっていた。

 因みに、走り込みを終えた男共だが、潤は四つん這いでプルプル震えている。

 輝明は、とある戦士が自爆攻撃を受けた後みたいな格好だ。

 思わず、◯ムチャー! って言いたくなってくる。

 そして八木は、段差のある場所に座って、燃え尽きていた。

 そんな状況を見たセブリーの肩に、手が置かれる。


「流石にやり過ぎだろう」


「そうか?」


 メナトが責めるも、この位は出来て当然と言うセブリー。

 お互いの価値観が違い過ぎるが、俺はメナトに1票かな。


「この後の事も考えろよ」


「ラフィまで言うか。なんなら、参加するか?」


「謹んで辞退させてもらおう」


 何て軽口の後、次の修練へ。

 尚、女性陣も走り込みには参加している。

 但し、女性陣の監督はメナトなので、男共ほど酷い状態ではない。

 酷い状態じゃないだけで、走り込み自体は厳しめだけどな。

 姫埼だけは、涼しい顔をしているが。


「鈍ってるわね。息が乱れてるわ」


「はぁ、はぁ。言っとく……けど、桜花ちゃん……が、おかしい……だけ、だからね」


「そ……そうね。うぷっ」


「ちょ、っと……やめて、よ……はぁはぁ。わたし、まで……つられそう」


 ……前言撤回。

 女性陣も割と酷い有様だった。

 流石にこの状況だと、次の修練に身が入らなそうなので、軽い休憩を取らせることに。


「皆さん、こちらで水分補給しましょうね」


「ミリアさん、頂きます。……ふぅ、美味しい」


「桜花ちゃん、やっぱりおかしいよ」


「優華も十分おかしいわよ。もう息切れしてないじゃない」


「ふたりとも……はぁはぁ、おかしいの、よ……ぜぇぜぇ」


 とまぁ、なんだかんだ言いながら、30分の休憩を取ったらしい。

 何故らしいのかって?

 俺は見てないからな。


「お館様、30分は時間が空きましたね? さぁ、お仕事です」


「まてブラガス。俺は1週間は修練に付きっきりだと言っただろう」


「修練に――ですよね? 今は修練中では無いので」


「休憩も立派な修練だろうが!」


「それはそれです。さぁ、お仕事です」


「……せめて、青空の元でやらせてくれ」


「重要書類ばかりですので。休憩が終わったら、誰か呼びに来させますから」


「鬼! 悪魔! ヒトデ!」


「何と言われても結構。お仕事はなくなりません」


 って感じで、執務室までドナドナされたからな。

 だから、詳しい時間はおよそやらしいになってる。

 休憩中の会話とかも知らんから、余計な事になって無ければ良いんだが。

 そう思いながら戻って来るのだが、何故かミリアを除く女性陣が真剣な表情になっていた。

 え? なにがあった!?


「何もありませんよ。明後日の夜に、少しお話し致しましょうって伝えただけです」


「あ、そういう」


「はい」


 にこやかに笑うミリアだが、要は明後日の夜に嫁会議が開催される訳ね。

 嫁会議に関しては、ミリアの領分なので口を出す気は無いけど、その事に気を取られて修練に身が入らないのは困る。

 今後どうなるのかはまだ不明だが――いや、ある意味決まってはいるんだろうが――とりあえず、一人でも生きて行けるだけの力と知識は身に着けて貰わないといけない。


「はいはい。色々と考える事はあるだろうけどね、まずは修練が先だよ」


 メナトが手を叩き、何やら思案しっぱなしの女性陣を現実に引き戻す。

 そんな中、セブリーとトラーシャが、肩に手を置いてきて一言。


「全員嫁だろ?」


「よ、剛毅な漢」


 こっちの気も知らず、無責任に言い放つ二柱。

 だから当然、報復しておいた。


「うっせぇ、このヒャッハー共が」


 そう言ってから即座に立ち上がり、次の修練の準備に移る。

 かなり不服だったらしい脳筋共が、後ろで何か騒いでるが無視。

 そして、メナトも準備を手伝いにやって来たのだが。


「あながち間違いじゃないと思うんだけどねぇ。特にさ、あの二人は」


「現実逃避って言葉、知ってるか? 何も考えたくねぇ」


「確定未来って言葉、知ってるかい?」


 否定と肯定の言葉を応酬し合いながら、次の準備を進めて行く。

 はぁ……マジで嫁多すぎ問題になりそう。

 政略結婚が全く無いわけでは無いが、一応は恋愛結婚……あれ?  俺って、こんな節操無しだっけ?

 硬派なつもりだったんだけどなぁ……。


「ほら、考え込んでないで始めるよ」


 メナトに急かされて、考える事を一旦止め、次の修練へ。

 体力づくりの後は、魔法の修練だ。

 今から教えるのは、屋敷の庭でも出来る簡単な初級魔法講座と体内循環が出来ているか。

 初日に教えたのだが、毎日欠かさずに体内循環を行っているかどうかを見る。

 魔力量においては、この場にいる全員がチートクラスなので、やって無ければ一発でバレる。

 もし、サボってたら、脳筋行きと伝えてあるので、全員がサボってはいなかったのだが、やはりと言うか、輝明だけは進捗が悪かった。


「やっぱり輝明か」


「魔力との相性が悪い訳では無いと思うよ。そうでないと、あんな桁外れな数値にはならないだろうし」


「じゃあ、何が問題なんだ?」


「感受性が一つだけど、他にもあると思うね」


 メナトと輝明の状態を確認して行く。

 感受性に関しては、ぶっちゃけると慣れも必要ではある。

 寧ろ、慣れてしまえば、他よりも伸びしろは高くなる筈。


「彼って、覚えが悪かったりするかい?」


「いや、勉強は出来る方だったかな?」


「ふーん。なら、応用が悪いとか?」


「普通だと思うぞ。強いて言えば、鈍感系?」


「何気に酷くないか?」


 輝明が文句を言ってくるが、事実なのだからしょうがない。

 と言うのも、澄沢がそれとなく輝明が好きだって態度をしているのに、こいつは気付かなかったからな。

 周りは気付いてたのに――だ。

 そこからは、更にわかりやすく、時には大胆に行動しても気付かなかったんだ。

 で、周りが、直接言って来い! と背中を押して、ようやくと言った感じだったからな。

 今後の糸口となるかもと、メナトに話してみたが、その感想は人間と変わらない――いや、同級生たちと変わらない反応だった。


「鈍感だね」


「だろ?」


「実際に見てない人物にまで言われてしまった……。俺って鈍感なのか?」


 輝明の言葉に、この場にいる全員が肯定の頷きで返す。

 輝明は酷く落ち込んだ。

 そして、澄沢が慰め、八木が遠い目になる。


「俺の春はいずこ……」


「八木ー。戻ってこーい」


 なんてやり取りをしながら、一通りの修練を終わらせ、初級魔法講座は転生体組だけが受け、召喚者組は俺との修練に移る。

 尚、講座の講師はシルである。

 補佐にメナトとエステス。

 俺の方は、セブリーとトラーシャが補佐に着いた。


「はじめるぞー」


「なんか気が抜ける掛け声っすね」


「油断しちゃダメよ。修練でも、相手はラフィさんなんだから」


「だね。じゃ、いつものやり方で行くよ」


 八木と姫埼が前衛に立ち、春宮は後衛に徹して、更に補助魔法をガン積みして行く。

 速さは中々のものだが、無駄も多いな。

 同属性の補助なら、単一発動よりも同時発動の方が楽で速いのに。


「行くっす!」


「せぇい!」


 補助魔法に関して考察していたら、八木と姫埼が同時攻撃してきていた。

 が、難なく躱して、右手に持っていた、小さく丸めた紙を指弾。

 それなりに痛みが出る様に撃っているので、額に喰らった二人は「ふげっ!」「いたっ!」と声を出していた。

 修練だからって、気が抜けてるなぁ。


「声を出す余裕はあるのか。なら、もう少しギアを上げるぞ?」


 俺の言葉を聞いた三人は、顔色を悪くさせた。

 その後はお察しである。

 どれだけ補助魔法を掛けて、どんな攻撃をしようが、全て躱された挙句、丸めた紙を指弾されていく始末。

 少しずつ、身体に被弾後の赤みが増えて行くが、気にせず続行して行く。

 そして、遂には春宮まで被弾し始める。

 流石に後衛まで攻撃が通るのはマズくないか?


「お前らさぁ、本気でやってる?」


「やってるっすよ! ラフィさんが強すぎるんですって!」


「私の剣が通じない……いえ、届かない……ふふ、ふふふふふ」


「いったいよぉ。ラフィさん、手加減してぇ」


「「「はぁ……」」」


 セブリーも、トラーシャも、俺も呆れてため息を吐いてしまった。

 そんな状況であったのだが、何故かメナトがこちらへと歩み寄ってくる。

 向こうでも、何かあったのだろうか?


「ラフィ、悪いんだけど、あっちを頼めるかい?」


「何かあったのか?」


「向こうが――じゃなく、こっちがだね。とにかく、向こうを任せたいんだけど?」


 メナトが何を言いたいのか分からないが、言う通りにする。

 そして、講座を開いてる方へ向かう途中、とても良い音が響いて来た。

 音の方を振り向くと、脳筋二柱が頭を押さえて転げ回っている。

 どうやら、メナトからガチ拳骨を貰った模様。

 そして、セブリーが俺に気付き、何やらメナトに抗議しているも、再度、メナトからの拳骨によって強制沈黙させれていた。

 本来なら聞きとれるはずの距離だったのだが、多分、メナトが何かした様で、セブリーの言葉はわからなかったが、大体察しはつく。


 ――なんで俺達だけなんだよ!? ラフィも同罪だろうが!――


 とか、そんな感じの類だろう。

 だから、メナトのご厚意に感謝して、スルーしておこう。

 そして俺は、シルとエステスの元へ向かい、合流した。


「何やら大変だったようですね」


「まぁ……な。ところで、こっちはこっちで問題があったのか?」


「問題などあるはずも「あなたは黙っていてください」」


 エステスの言葉を遮ったシルは、現状を説明。

 どうやら、魔法のコント―ロールや想像力(イメージ)について、言葉にしても理解が難しかったそうだ。

 で、実演してみようとなったのだが、そう言った分野は魔法神の十八番(おはこ)らしく、俺に白羽の矢が立ったそうだ。


「なるほどね。あくまでも実演か」


「説明はしていきますので、魔法だけ使って貰えれば」


「そうなると、ちょっとしたお遊び感覚の方が良いかもな」


 お遊び感覚魔法で制御しやすく、失敗しても被害が軽微なら、やっぱり水魔法だろう。

 幸いにして、五大属性は全員が持っているから、教えるのも楽だしな。


「まずは第一段階。水を指先に集めます」


 どの様にしていくかを、一から説明して実演して行く。

 先ずは指先に、小さい水球を作って見せた。

 ただ、この小さな水球は、割と難易度が高い魔法だったりする。

 制御が出来ているならば、それほど難しくは無いけど。

 まぁ、だからこそ、6人には難しい訳だ。

 俺は高圧縮した水球を作って見せたが、転生体組の6人は良くてドッジボールやバレーボール位の水球。

 制御が駄目なやつは、水球にすらなっていないが、要修練だと割り切って次に進む。


「集めたら、頭の中でこの水球をどんな形にするかイメージして、形を成していく」


 集めた水球が形を変え、鯉のぼりの形に変わって行く。

 ただ、前世での美術は、可もなく不可もなくな俺であった。

 絵に関しては、常に頑張りましょうである。

 だから、辛うじて鯉のぼりと判断できるものになってしまった。

 そして、それにツッコむ蛍。


「鯉のぼり? 辛うじて魚なのは理解できるけど、鯉のぼり?」


「うっさい。ピカソを煮詰めた何かしか出来ない女」


 俺と蛍の間で一触即発の空気が出来る。

 と言うのもだ……蛍の美術は壊滅的だからである。

 中学の頃、デッサンや粘土細工の授業があったのだが、蛍が作った物は、地球外生命体、若しくは、物体Xとしか言い表せない物だった。

 結果、美術の時だけついたあだ名が、ピカソを煮詰めた女――である。


「今更、不名誉なあだ名を持ってくるな! 私だって、好きであんなのを作って無いわよ!」


「どうどう」


 潤が宥めながら、俺と同じ様に水の形を変えて行く。

 そして出来上がったのが、箒の水着フィギュア――水魔法Ver――であった。

 それを見た蛍が、ジト目を送る。


「良いわよねぇ、潤は。美術の才能があってさ」


「ふっふっふ。美羽の水着姿は何度も見て来たからな。見よ! この精巧な作りを!」


「恥ずかしいのよ! こんなもの、こうしてやる!」


「あ、やめて! 俺の最高傑作がぁぁぁぁ!!」


 潤が作ったフィギュアは、美羽の水球――ドッジ―ボール並――によって、潰されてしまう。

 とここで、ふと思い出した。

 そういや、蛍の弁当は普通に盛り付けされていたな――と。

 そして、衝撃の事実を思い出してしまった。


「そういや、蛍って美術はからっきしなのに、料理の盛り付けは良かったよな?」


 俺の言葉に、ちょっと凹んでいた潤が復活して応える。


「そういやそうだな。七不思議の一つとか言われてたっけ?」


「え? 私、知らないんだけど?」


「そりゃ、蛍にはバレない様に……あ」


「このバカ……」


 潤、うっかり口を滑らせてしまう。

 蛍は肩を震わせながら、ニッコリと笑顔に。

 あ、これ、マジでキレてる時の奴だわ。


「あんたら……ちょっと話があるから」


「その前に、修練だろ」


「後で反復練習するから、問題無いわ」


 蛍の心の内を表すかのように、水球は形を変え、見事な魚を作り出し……なんでコ◯キ◯グ?

 だが、そんな疑問を確かめる間も無く、放たれるコ◯キ◯グ。

 流石に直撃は勘弁と、結界魔法で凌ぐ俺に対し、魔法をまだ満足に使えない潤は、俺に怨嗟の声を吐きながら直撃を食らっていた。

 まぁ、死にはしない魔法なので大丈夫だろう。

 俺がもし喰らったら、メイド達の仕事が増えるから、ノーダメージにしただけだしな。

 だが、そんな蛍の魔法を見て、褒めちぎる者達が。

 そう、シルとエステスである。


「素晴らしい造形です!」


「魚の鱗やヒレが、完全再現されていましたわ。素晴らしいですわー」


「何の種類かは分かりませんでしたが、攻撃魔法としてなら、大きさは問題無いですね」


「攻撃力に関しては、今後の課題ですわね、ですが、彼女なら問題無いと思いますわ」


 シルとエステス、蛍の魔法に大絶賛である。

 まぁ、確かに見事ではあったが。

 そういや、なんでこんなにもイメージ出来たんだろうか?

 ふと考え、昔の事を思い出した。

 あれは確か、寿司にハマっていて、職人が魚を捌くのをテレビで見ていた時だっけ。

 俺が、魚を捌けるのかっけー! って言って、毎日寿司が喰えるじゃん! とか言った後、詳しい日数は忘れたけど、蛍が捌いて一生懸命に寿司を握ってご馳走してくれたっけ。

 思えばあの頃から、蛍が料理し始めた……ん?


(あれ? なんとなく嫌な予感が……)


 変な悪寒を感じながらも、修練は続いて行く。

 そして、食材を模した蛍の水魔法は、シルとエステスから第一段階の合格を出すのに十分であった。

 ついでに、潤も合格を貰っていた。

 そして、翌日からも修練は続いて行くのであった。













「なぁ」


「潤も分かったのか?」


「蒼夜の奴、ちょっと気付いたよな?」


「多分な。温かく見守ろうじゃないか、親友として」


「そうだな。親友として温かく、面白おかしく見守ろう」


「潤、本音駄々洩れ」


「おっと」


 とまぁ、こんなやり取りも、きちんと聞こえてるからな。

 余計なお世話だわ!

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