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第196話 さすミリ

GW29日~7日まで可能な限り毎日投稿中!

 八木達との待ち合わせ場所に指定した国境砦にゲートを繋ぎ、俺と神喰はランシェス国内へと帰還した。


 ゲートから出ると、八木達が駆け寄って来て、心配そうな声を上げようとして――止めた。


 何故かって?それは自分でもわかっている。


 誰が見ても、すっげぇ不機嫌だったから。


 後ろから神喰も続いて出てくるが、男と戦闘した時よりもズタボロになっていたりする。




「あの……ラフィさん?




「あ”?」




「な、なんでもないっす」




 意を決して話しかけた八木だったが、あっさりと撃沈。


 それを見ていた姫埼と春宮が、そそくさと神喰に接近して事情を聞きだし始めた。


 勿論、小声で。




「(何があったんですか?)」




「(聞かない方が身の為だぞ?)」




「(無理ですよ。見て下さいよ、あのラフィさん。今にも人を殺しそうじゃないですか)」




「(実際、殺してきたからなぁ。いや、手を下したのは俺だったな)」




「(神喰さんの情報よりも、ラフィさんの方です)」




「(さっさと吐いた方が楽になりますよ。あ、回復魔法いります?)」




 春宮の微妙な気遣いに、神喰は無言で頷く。


 俺を止めて、宥めてと、精神的に疲れているらしい。


 まぁ、俺も悪いとは思ってるよ。


 完全に八つ当たりだったし。




「ほんと、何があったんすか?」




 八木が再度聞いてくる。


 しかし、今、この場で話す気は無い。


 家に帰ってから、ミリア達を交えて話す予定だからだ。


 何故ここでミリア達の名前が出てくるのかと言うと、俺が不機嫌な理由の一旦だからである。


 ミリア達が悪いのではなく、寧ろ、申し訳ない気持ちの方が大きい。


 だから不機嫌なわけだが。




「……屋敷に帰ったら、八木達も交えて話す。今は何も聞かないでくれ」




「はぁ、わかったっす」




 そのやり取りの後、小休止を挟んでからゲートを開き、屋敷へと帰る。


 予定では、少しだけ寄り道をして帰る予定だったのだが、そういう気分じゃないので直帰したのだ。


 そして、帰ってきた俺を出迎えたナリア達だったが、初めて見る本気の不機嫌顔に何も言えない様だ。


 あの完璧超人であるナリアですら声を掛けられないのだから、他の使用人たちが声を掛けられるはずもない。


 だが、ナリアは直ぐに対処法を決行した。


 鎮静剤の役割もある婚約者達を呼んで来たのだ。


 ぶっちゃけ、丸投げしたとも言う。




「ラフィ様、お顔」




「うん、わかってる。でもな、今日一日は元に戻せそうにない」




「これでは、外には出せませんね」




「リリィ、心配するところが違くない?」




「リリィもティアも、全く心配してないでしょう?」




「そう言うリアも、心配してない」




「リュールさんもですわ。まぁ、私もですけど」




「皆、人間らしい感情を見せた旦那様を好いておるのじゃな」




「まぁ、滅多にああいう顔はしないからねぇ」




「ヴェルグさんも見た事が無いんですね。一番付き合いが長いナユさんもですか?」




「私も初めて見ましたね。怒った所は何度か見てますけど、不機嫌ってわかるようなのは初めてです。ミナさんは怒った顔は――見てましたね」




「ええ。内乱の時に。……あれ? 結構希少な状況では?」




「希少ですけど、癒してあげましょうよ」




「スノラさんの言う通りですわね。さぁ! リジアさんの出番ですわよ!」




「ちょっ! ヴィオレ! 尻尾を掴まないで! あっ! やめっ!」




「相変わらず、リジアはヴィオレのお気に入りなのですね」




「はわわ……大人の情事なのです!」




「え? なんっすか? このカオスは……」




 八木の一言に尽きる状況なのだが、ミリア達は一斉に笑顔で八木を見た。


 そう、15人が一斉に――だ。


 案の定、ビクッ!となる八木。


 うん、気持ちはわかる。


 俺だって今の笑顔は怖いからな。


 そして、ダグレストからの亡命組と神は空気だった。


 まぁ、その方が安全だから、暫くは我慢してくれ。


 とは言え、このままでは埒が明かないので、メイドを呼び止めて部屋とお茶を用意させる。


 呼び止めたメイドもビクッ!ってなりながら、お辞儀をして用意に向かった。


 今日はビクッ!となる日なのだろう。


 ビクッ!ビクッ!は置いといて、とりあえず用意された部屋に全員で入る。


 総勢22名、いつもは広い部屋が少し狭く感じるが、気にしない方向で行く。


 全員に座る様に促して、お茶が来るまでのんびり待つ。


 今日の給仕もナリアが担当だ。


 本人は相当嫌そうな雰囲気を出していたけど、当主命令でさせた。


 給仕でわざわざ当主命令を出す事などない俺なので、ナリアも驚いた顔をしていたが、直ぐに訳ありだと判断して、仕事に取り掛かった。


 この辺りの察しの良さは、流石ナリアと言える。


 その後、ナリアは一礼してから壁の方へと下がったので、早速、本題へと入る。


 そう、俺が不機嫌な理由の説明についてだ。




「それで、何があったのですか?」




「話す前に、そっちの2人には誓約を吞んで貰う。それから、八木、春宮、姫埼の処置だな」




「わかった」




「わ、わかりました」




「そんないに脅えなくても良い。他言しなければ、平穏無事に過ごせるから」




「は、はい」




 二人の許可を得てから誓約魔法を行使。


 その後、八木達にかけられた魂縛の解呪へと移る。




「八木、春宮、姫埼はこっちへ。後、ミリア達は怒るなよ?」




「何かあるの?」




「今回の解呪は、いつもの方法とちょっと違うんだ。直接、相手の身体に触れないといけないんだが……」




「何が問題なの?」




「……触れる場所が左胸辺りになる」




 触れる箇所を聞いた途端、ミリア達の表情が凍り付く。


 逆に、春宮と姫埼は恥ずかしそうではあるが、どこか嬉しそうにも見える。


 訳が分からん。




「ラフィ様、絶対に触れないと駄目なのですか?」




 ミリアからの質問。


 声色は普段と変わらないが、目が笑ってない。


 全員がミリアの質問に対する返答を待っていた。


 いや、そんな前のめりに並んでもと言いたいが、言ったら大変な事になりそうなので、スルーして、ミリアの質問に答えた。




「今回の解呪は、ちょっと強力なんだ。8割方大丈夫だとは思うんだが、念には念を入れたい」




「入れたら、10割なのですか?」




「そう。それだけ強力な呪いなんだ。後、神喰も出来なくはないが、成功確率が1割落ちる。ヴェルグでも同じだな」




「ゼロ様はどうなんですか?」




「ゼロねぇ……。絶対やらんと思うぞ」




 最後の言葉に、なんで?って顔をしていたので、簡単な理由を教える。


 実はツクヨって結構やきもち焼きなのだ。


 人助けとは言え、女性の胸に触れたとなったら、後でゼロがぶっ飛ばされるのは間違いない。


 最悪、指示した俺もぶっ飛ばされかねない。


 だから、ミリア達の見てる前で行うと言った。


 その言葉に、渋々だが了承するミリア。


 他の皆は、ミリアの答えに対し、意外そうな顔をしていた。




「良いの?」




「仕方ありません。私達の前で行うのは、ラフィ様なりの誠意でしょうし」




「ミリアが納得してるなら、ボクは何も言わないけど、皆は納得してるの?」




「ミリアさんが納得してるなら、仕方ないと言うか……」




「人助けだしねぇ……」




 とまぁ、どうにか全員が渋々と言った形で納得した。


 そう、納得させたのに、ここで爆弾を落とす奴がいたのだ。




「私は、触られて嬉しいけどなぁ」




「春宮さん!?」




「まぁ、優華はそうでしょうね」




「桜花ちゃんもだよね?」




「……まぁ、嫌じゃないわね」




「姫埼さん!?」




 何故かさん付けで、何言ってんの!?と問いかける俺。


 そんな二人の言葉を聞いたミリア達はと言うと……あ、すっげぇ笑顔だわ。


 これはギルティ判定出てますわ。


 何とも言えない空気が、この場に流れ始めた。




「ラフィさん?」




「とりあえず、先に八木の魂縛を解呪するわ」




「なんか、すいません」




「謝るな! 俺が悪いことしてるみたいだろうが!」




 不機嫌様は何処かに行ってしまった模様。


 いや、シリアス様も裸足で逃げ出した様だ。


 だって、空気が凍り付いてるんだもん。


 マジで泣きてぇ……。




「あの、ミリアさん?」




「ラフィ様、一つ質問良いですか?」




「ア、ハイ」




 今のミリアに逆らってはいけない。


 本能が告げているので、迷わずに答える。




「解呪ですが、全員一斉にしなくても大丈夫なのですか?」




「出来るなら、一斉にやりたいかな。だからこそ、触れるわけだが……」




「もしかして、刻印解呪ですか?」




「あれ? ミリアは知ってるんだ」




「はい。神聖国でも習いますから。ですが、刻印解呪なら、私が刻んでも良いのでは?」




 ミリアの意見はごもっともなので、その辺りも説明する。


 と言うか、ミリアの手の甲に刻印を刻んで実践して見せる。


 その刻印と魔力量を感じたミリアは、直ぐに納得の表情を見せた。


 尚、ヴェルグと神喰も、納得の表情をしていた。


 他の皆は首を傾げているので、ミリアとヴェルグが代わりに説明してくれた。




「この刻印解呪ですが、高位呪術の解呪に良く用いられます」




「だね。そして、刻印の複雑さが込める魔力量に比例してるんだけど、ラフィが刻んだ印を見たら納得できるよ」




 俺が実際に刻む印を見た皆は、全員が同じ声を出した。


 どうやら、納得して貰えたみたいだ。




「これは複雑過ぎですね」




「でも、ここまでしないといけないって事だよね?」




「改めて、ラフィさんの強さに感服ですわ」




「いや、強さは関係なくない?」




「ですが、複雑にも拘らず、綺麗ですよね」




「ラフィ様、すごい」




 納得してもらえたので、いざ解呪!と動こうとして、ミリアに止められる。


 え、まだなにかあんの?




「解呪に関してはわかりました。私でもここまで複雑なのは無理なので、そこは納得してます。で・す・が、先程のお言葉は別です」




「そうだね。嬉しいって、好意ではあるけど、この場では邪な感情だよね」




「ヴェルグさんの言う通りです。なので、姫埼さんと春宮さんでしたか? 別室でお話があります」




 強めの言い方をしたミリアに対し、二人揃って「「は、はい!」」と返事をする、春宮と姫埼。


 どうやら、いつもの嫁会議らしい。


 そうなると、地味に長いんだよなぁ。


 最低でも30分は掛かるだろう。




「あの、ミリアさん?」




「何でしょうか?」




 とっても良い笑顔で、俺に返事を返すミリア。


 あ、これ、何を言っても無駄なやつだ。


 だが、今回はちょっと引けない。


 なので、珍しく食い下がる俺。




「嫁会議は良いんだけど、本題がまだなんですよ。出来れば、先にそっちの話を終わらせてからにして欲しいなぁ……と」




「直ぐに済みますので、少しだけ待っていてくださいね」




 そう言って、別室へと移るミリア達と、連行されていく春宮と姫埼。


 直ぐに済むからと待たされる訳だが、直ぐに済むはずも無く、戻って来るまでに相応の時間を要した。


 尚、時間は既に日が傾きかける時間になろうとしている。


 今から本題を話すのって、時間的に大丈夫なんかね?




「お待たせしました。遅くなってすみません」




「いや、納得できるだけ話せたんなら良いよ」




「はい。そえはもう、根掘り葉掘り聞いて、お話しをしました」




「それはなによりで……」




 ミリアの圧にちょっとだけ口角を引き攣らせる。


 怒ってると言うよりも、またですか……って雰囲気っぽい。


 だが、次のミリアの言葉で、俺は敵わないなぁと思ってしまった。




「さて、ラフィ様の機嫌もそれなりに戻った様ですし、続きを聞きましょう」




「えーと、ミリアさん? まさかそのために、わざとあんな態度を取ったとか?」




 俺の質問に、ミリアは笑顔で答えた。


 どうやら間違って無いらしい。


 全く、俺には過ぎた正妻様だな。




「それで、お話しは長くなりそうですか?」




「ミリア達は何処から聞きたい?」




 そう訊ねると、最初からと言われてしまった。


 ふむ……ミリア達が望むなら、出立後からの話をするか。


 こうして、最初から話をし始め、夕食を挟んでから本題の話へと移る。


 今日の夜は長くなりそうだな……。

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