第189話 ダグレスト王国へ……
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八木と約束を交わし、情報を搾り取った後、出立までの間は特別室で待機して貰う事になった。
こればかりはどうしようもないので、八木にも納得してもらい、次はダグレスト以外の奴らの尋問状況をウォーキンス殿に聞いて情報を得ようとしたのだが、あまり上手く行ってないと聞かされる。
「裏の仕事をするだけあって、口が堅いですな。あまりやりたくはないのですが、最悪の場合は……」
口を噤んだが、恐らく拷問するのであろう。
ただ、肉体的な拷問で口を割るのかね?
そう聞くと、苦笑いで返された。
多分、厳しいと思っているのだろう。
それならば!と、とある提案をしてみる。
「俺がやりましょうか? 肉体的にも、精神的にも耐性のある人物が、トラウマになるほどの方法を持っていますが」
「聞いても……いや、聞くのが怖いですな……。ただ、死んでしまわないですかね?」
「その辺は加減しますから。何人かは発狂するかもしれませんが」
「聞くんじゃなかった……」
大きなため息を吐くウォーキンス殿だったが、有効な手が無いのも事実なので、こちらの提案に乗った。
ただ、最終勧告は行いたいらしく、少しだけ待ってくれと言われ、応接室で待機する事十数分――ウォーキンス殿が疲れた顔でやって来た。
どうやら、最終勧告は失敗に終わった様だ。
「あいつら、本当に馬鹿ですな。素直に吐いていれば良かったのに……」
「まぁ、そんなもんでしょ。じゃ、さっさと終わらせましょうか。陛下も待っている事ですし」
ウォーキンス殿の言葉に同意してから、八木を除く三人で一つの牢の前に立つ。
中には、もう一人の暗殺者が収容されていた。
その暗殺者を見て、マジか……と思ってしまった。
もう一人の暗殺者は女性だったのだ。
いや、まぁ、だからどうだって話なんだが……。
かなり手荒くはしていたので、ちょっとだけ罪悪感が……あるような、ないような?
そんな事を考えていると、女性暗殺者の方から話しかけてきた。
「何の用ですか? 私は、何も知りません。仮に知っていたとしても、話しませんけど」
敵意マシマシの女性暗殺者。
ウォーキンス殿は能面みたいな表情で対抗している。
そんな彼だが、俺に質問をしてきたので答える。
「失礼ですが、何故、彼女を? リーダーが別に居る事は確認していますが」
「暗殺者って事は、その国の闇に触れてるって事でしょう? 後でリーダーと言った人物にも尋問はしますが、より良い情報なら彼女の方が持っているかな? とね」
「なるほど。理由は分かりましたが、多分喋りませんよ?」
「そこを喋らせるのが、仕事なので」
と言う訳で、男女関わらず、生理的嫌悪感満載の幻影で尋問開始。
まずは、外に漏れないように空間を固定し、遮音結界も強化する。
続けて、幻視と幻痛の魔法を行使。
そして、カサカサ動く、黒い物体を、女性暗殺者の周囲に見せる。
そう、俺も大嫌いな例のアレだ。
「ひっ」
女性暗殺者も、例に漏れず苦手な模様。
ただ、これだけでは喋りはしないだろう。
なので……数を増やしていって襲われる幻影を視せる。
付け加えて、襲われた場所から喰われていき、痛みも感じるようにしていく。
どこぞの魔王様が使っていた方法と同じやり方である。
確か、魔王流嫌がらせ百八式だったっけか?
「ふ、服の中にっ。痛っ! え? 噛まれた? に、肉が喰われて……。い、いやぁぁぁああああ!!」
女性暗殺者の叫び声が響くが、外には全く漏れてない。
聞こえているのは、女性暗殺者の前にいる俺達三人だけ。
ただ、ウォーキンス殿と書記官殿も何が起こっているのかは理解してなかったりする。
彼らからすれば、牢の中で急に叫び声を上げて、痛みに悶え苦しみ始めた様にしか見えてないのだ。
尚、女性暗殺者は、大量のアレGに襲われ、喰われている最中である。
襲っている奴らは、幻で存在していない。
だが、生理的嫌悪としては最強格だと思う。
そして、その幻に食われて、痛みが伴っているのは、神喰君にも使用した【ペインプリズン】だ。
嫌悪と痛みの両方で、相手の心を折りにいったのだ。
ただ、一つだけ問題がある。
先に心が折れるか、発狂するか。
見極めが非常に重要なのだ。
なので、とりあえず1分は静観して、そこから段階的に声を掛けて行こうと思う。
「さて、1分経ったが、喋る気になったかな?」
「喋る! 喋りますから! もうやめてぇぇぇえええ!!」
女性暗殺者、既に心が折れていた模様。
落ちる速さが女騎士を超えたのではないだろうか?
……いや、この考えは捨てよう。
何か悪寒が走ったからな。
「じゃ、さっさと吐いて楽になろうか。あ、吐くまで、こいつらは待機だから」
「なんでも喋りますぅぅぅぅ!」
その後、女性暗殺者は本当に知っていることを全て話した。
こちらが聞いてもいない事まで全て話した。
あいつらは、やっぱり最強だったな。
世界が変わっても、あいつらの嫌悪感は変わらないとは……。
恐るべし、G共。
その後は、リーダーと言った男にも同じことをして、情報を吐かせた。
「これで全部ですかね? しかし、素直に吐いたなぁ」
「何をしたのかと思いましたが、納得ですよ。絶対にされたくは無いですな」
ウォーキンス殿はドン引きしながら、絶対に遠慮する!と確固たる意志を見せた。
苦笑いではなくドン引きだったのは、ガチで容赦ないと思われたからだろう。
これもきっと、陛下に報告が行くんだろ……陛下に報告?もしかして、しくった?
ちょっと冷汗が出たような気がしたが、既に後の祭りなので、弁明を考えておくことにする。
陛下からツッコまれないと良いなぁ……。
あ、詰め所から出たら昼回ってたので、昼食を取ってから登城しました。
「で、何か言い分はあるか?」
「えー……特には」
そして現在、会議室で報告書を読み上げた陛下に、睨まれている俺。
何か言いたいが、望外の情報を引き出してきた俺に文句も言えず。
とは言え、その手段はどうなんだ?と、問いたださずにはいられない陛下と同席者達。
報告書を読み終えるまでに30分以上掛かっており、情報量の多さに眉間を指で摘み、ため息を吐く陛下。
しかし、詰め所で会った書記官は優秀な人物の様だ。
たった数十分で清書までして、城に報告書を上げたのだから。
文官として食って行けるのではないだろうか?
「そんなわけあるか! 詰め所の兵士総動員で作ったに決まってるだろうが!」
ファスクラ軍務卿からの声に、それもそうかと納得する。
ただ、先導していたのはあの書記官らしく、清書された報告書の3分の1は彼が必死に纏め上げたものらしい。
やっぱり優秀ではあったようだ。
「はぁ……。しかし、これが事実だとすると、割と頭の痛い問題なのだが」
「仮想敵国が出来るからですか?」
陛下の言葉に質問で返すと、無言で返された。
周りも同じような考えだが、それは考えが甘いと思う。
「あくまで、仮定の話をするぞ。仮に、ジルドーラ嬢が亡き者にされていた場合、お主はリュンヌからの申し出など、確実に受けないであろう。そうなると、奥の序列が変わり、第五王女であるリリィが正妻となる」
「…………そうですね」
「怒るな。仮定の話と言ったであろう。でだ、リュンヌとしては吞めぬ話であろう? そうなると、次に狙われるのは我が娘だ」
「その前に、リュンヌを潰しますけど?」
「大言壮語を……いや、お主なら可能か」
「まぁ、どっちにしても、自分はリュンヌに対し、譲歩する気は無いです。敵国として対処します」
ランシェスがどうするか――と言う話ではない。
自分の優先順位一位である、家族が狙われたのだ。
仮想敵国とか、生温い事は言ってられない。
ダグレストもリュンヌも、等しく俺の敵である。
「それに、ミリアが狙われた後は、他の婚約者も狙われた可能性があります。ランシェスも仮想ではなく、敵国として認知されるべきなのでは?」
「怒る気持ちは分かるが、事はそう簡単な話でもない」
「同盟の件がありますからな」
ザイーブ財務卿の言葉で、少しだけ考えてみる。
俺は同盟の盟主で、一部国家の内部は狂信的な部分がある。
そんな状態で俺が『リュンヌは敵国』等と言えば、明らかに敵国認定する国家は出るだろう。
特に、神聖国とか竜王国は乗ってくる。
傭兵国もリュンヌとは折り合いが悪いので、こちらに乗って来るだろう。
帝国は隣接してる国家なので、間違いなく、国境警備を厚くする。
なるほど……俺の一言で、いろんな国が動きかねない状況か。
確かに、軽挙妄動は慎むべきだとは思う。
だけどな……こればっかりは引けんのだよ!
「ランシェスが表明するわけにはいかぬの。とは言え、お主の気持ちを組んでもやりたいとは思う。余とて、腸が煮えくり返っとるからの」
「陛下、軽挙妄動は慎んで頂かないと」
「外務卿の言いたい事は分かっておる。とりあえず、書簡で抗議文と苦言を送れ。向こうの出方次第では、輸出入の規制を行う」
「ぬるいですね」
「クロノアス卿?」
陛下の言葉に、真っ向から対立する。
外務卿を初め、他の大臣達も驚いていた。
国家間のやり取りに口を挟んだことは一度も無い俺が、初めて口を挟んだからだ。
それも、かなり怒気を含んで。
陛下にしても意外だったのであろう。
驚いた顔をしていたが、直ぐに為政者の顏に戻り、こちらを睨んで来た。
「ぬるい――とな?」
「ええ。こちらは証拠を押さえています。流通と人の規制は初めから盛り込んだうえで抗議文を出し、向こうの返答によっては断交も視野に入れるべきです」
「…………それは出来んな」
「何故ですか?」
「さっきも言ったが、同盟関連がある。それに、手順も必要だ。ただ、お主の気持ちを組んでやるとすれば、公式に謝罪が無かった場合に、流通と人の規制をする程度だ」
「それがぬるいと――」
「話を聞け。同盟関連を忘れておらぬか? 我が国が規制を行えば、何故そうしたかの書簡が必ず届く。その時に説明をしてやれば?」
「同盟国も乗る可能性が――いや、神聖国と傭兵国は必ず乗ってくる?」
「真綿で首を絞め始めるのも一興であろう?」
何とも悪辣な事を考える陛下。
為政者として、表立っての制裁が不可能なので、搦手で制裁しようと言う訳か。
これ、絶対に激おこだな。
正式な謝罪だと、他国の貴族暗殺を指示したとして、国の威信に関わるような問題になるので、多分だが突っぱねる。
そこまで想定しての、規制処置か。
初めて、陛下が怖いと思ったわ。
やっぱ領地運営とかはしたくないと、改めて思った。
「その事に気付けるだけで、素質はあるんだがな」
ザイーブ財務卿の独り言に反応せず、敢えてスルーを決め込む。
下手に反応したら、余計な事態を招きかねないから。
「はぁ……。わかりました。陛下のご指示に従います。但し、もう一つの方は譲れませんが」
「何人か引き取る件と、ダグレスト王国行きか」
「こっちとしては、波風立てないで欲しいんだがな」
もう一つの要望である、八木以下数名の引き取りに加え、約束を果たすためにダグレスト行きを提示する。
陛下は考え込むが軍務卿は渋い顔だ。
まぁ、納得させる内容は考えて来てるけどな。
「引き取りの件は、まぁ条件付きで良しとしよう。問題は、ダグレスト行きの件だ」
「何か問題でも?」
「ダグレストに狙われた貴族が、狙って来た国に行くのに問題無いと思うのか?」
「思いますね。だって、貴族としてではなく、冒険者として行くのですから」
俺の屁理屈に、大きなため息を吐く陛下。
周りの大臣達も、同じく大きなため息を吐いた。
何かおかしなことでも言ったかな?
問題無いと思うのだが。
「冒険者として行くのならば、余らに報告などせんでも良いだろうに」
「そこはほら、誠意ですよ」
「どの口で! とは言え、引かぬのだろう?」
陛下の言葉に、無言で頷く。
八木は選択をした。
苦渋の選択を。
その選択の結果は、俺への助力だった。
ならば、その選択の果てに約束したことを、俺は守らないといけない。
俺が俺であるために。
「わかった。但し、お主らに何かあっても、ランシェスは何も表明できんことは分かっているな?」
「全て承知の上です」
「……婚約者達は納得しているのか?」
「詳細については、帰ってから説明しますが、ある程度は話してきているので納得しています」
「ならば、余からは何も言わん。いや、一つだけ言うならば、無事に戻って来るようにだな」
「お土産を持って帰ってきます――と約束しますよ」
「…………爆弾の間違いじゃないだろうな?」
陛下の冗談を最後に、会議はお開きとなった。
八木以下数名の引き渡しに関しては、八木のみ当日釈放。
残りの数名に関しては、ダグレストから帰国してから釈放と言う形になった。
そして、残りの人物たちだが、取り調べして分かったのだが、三勢力が襲撃してきたことが判明している。
ダグレスト、リュンヌ、そして闇ギルド。
闇ギルドの人物に関しては、全員が犯罪奴隷落ちとして処分された。
処刑との声もあったが、俺の一言に陛下が乗って来たのが大きな理由だ。
『処刑だと生温いですよ。鉱山奴隷にして、懲役は30年で飼い殺しましょう。どうせ、生きて帰れはしないでしょうし』
『法務大臣。30年の生存確率は?』
『0%でございます。実質、死刑と同義かと』
『ならば、その方向で進めよ。それと……』
『大掃除ですな。そちらは、軍にお任せを』
『任せたぞ、軍務卿』
てな感じで、軍による闇ギルド一斉摘発が敢行された。
尚、闇ギルドに依頼した黒幕も逮捕されている。
黒幕は、例の潰したクランの元クラマス三名に加え、貴族派閥のバカ二名。
こちらに関しては、流石に処刑となった。
黒幕の家族に関してだが、貴族は、お家お取り潰しの上、資産の没収と家族の国外追放処分。
元クラマス三人の家族も、同様の処分となった。
連座の死刑は違法となるが、貴族が別家の者の命を狙うのはご法度であり、特例法が適用される案件でもあった。
なので、命だけは助けて、神聖国の教会送りとしたのだ。
ある意味、牢獄と同義の教会送りなので、何か画策した時点でDeadEnd確定となるがな。
そして、ダグレストとリュンヌの残りは、犯罪奴隷として奴隷商へ払い下げとなった。
こちらは終身刑扱いなので、死ぬまで奴隷解放はされない、厳しい処罰である。
逃げ出そうとすれば、隷属の首輪が締まって首チョンパとなるので、こちらも生き地獄だな。
それを聞いた後、八木を引き取って家へと帰宅し、皆を交えて、再度、話し合いとなった。
正確には、家族会議with八木だが。
「ラフィ様の意思は分かりました。何を言っても無駄でしょう」
「酷くね?」
ミリアの呆れた感じが、ちょっと悲しい。
だけど、婚約者達の反応はミリアと同じだった。
俺、泣いて良いかな。
「ラフィ様は一先ず置いておきます。八木様、あなたに聞くべきことがあります」
「はいっ」
「あなたは、事を成した後、どうするおつもりですか?」
「ミリア、今それを聞かなくても……」
「ラフィ様は黙っていてくださいね」
「はい……」
ミリアの八木に対する詰問に対し、間に入って口を挟んだが、敢え無く撃沈する。
そんな姿を見た八木が、こちらへと視線を送って来た。
(グラフィエルさんもですか……)
(女性って、いざとなったら強いよな……)
八木にも覚えがあるのだろう。
明らかに同情の視線を送って来ていたのだから。
八木の場合は、両親か姫埼と春宮かな?
「お二人で、何をわかり合っているのでしょうか?」
「「なんでもないですっ」」
ミリアの詰問に、二人でハモって答える。
妙な親近感と連帯感が生まれた瞬間であった。
「それで、どうされるのですか?」
「えーと……先の事はまだ考えていなくて。二人を助け出した後で相談し合おうかな……なんて」
「そうですか。それで、相談し合った結果、敵に回る可能性もあるとの認識で良いでしょうか?」
「それだけはないですっ! と言うか、俺達に死ねと仰る!?」
八木の必死の言葉に、ミリアは笑顔を絶やさずに相対。
これは……もしや、黒ミリアモードに入っていらっしゃる?
だとしたら……八木!言葉一つでGameOverが確定しかねんぞ!
「では、何を相談し合うのでしょうか?」
「えーと、冒険者として生計を立てるのか、どっかに仕えるのかとか。ただ、グラフィエルさんの敵に回る事は無いです。あ、でも……」
「でも?」
「あー、うー、……その、二人を助けてから、本人に聞いてください。今はそれしか……」
「…………皆さん、どうやら、私達の懸念は大当たりの様です」
言い淀んだ八木に対して、ミリアは何かの確証を得たようだった。
婚約者全員の懸念が大当たり……何となく察したわ。
そして、八木はと言うと……。
「(二人共、すまんっ)」
小声で姫埼と春宮に謝っていた。
八木、今後も胃痛に悩まされそうな男であった……。
「とりあえず、今は良いでしょう。ですが、八木様はラフィ様に報告義務がある事を忘れないでください。それと、ラフィ様からも八木様にありますよね?」
「あ、ああ。えーっとな、八木達は暫くの間、俺の監視下に置かれるのは決定事項だから、そこは了承してくれ」
「問題無いっす。一つ質問なんですが、監視下に置かれるって言うのは、保護観察とかそんな感じになるんですか?」
聞きなれない言葉に、首を傾げるミリア達。
説明は後にして、八木の質問に答える。
「似てるけど、違うかな。屋敷内は一部を除いて出入りは自由だけど、外に行く場合は、必ず監視役が必須になる。それと、王都から離れるのは禁止。期限は未定」
「それって、冒険者の仕事とか出来ないっすよね?」
「士官とかも無理だな。暫くは屋敷内で適当に過ごしてもらう。仕事があれば、頼むけど」
こればかりはどうしようもないんだよな。
陛下からの条件だったし。
「問題無いっす。二人も仕方ないと思うでしょうし。仕事があれば、何でも言って下さい」
「まぁ、暫くの間は、あの二人に関しては客人扱いにするから。八木が出来ない理由は、分かってくれるよな」
「事情があったとはいえ、暗殺者ですからね。仕方ないっすよ」
「物分かりが良くて助かる。まぁ、俺達も納得はしてるから、形式上って事で頼むわ」
「了解っす」
そして、家族会議はとりあえず終わり、出立の準備とかもそこまで必要でもないので、全員で夕食を取って就寝となった。
翌朝、少し早めの出立としてあったのだが、屋敷内の全員が見送りに来た。
「ご武運を」
「ああ」
「なぁ、神喰さん」
「なんだ?」
「ああやってみると、グラフィエルさんってやっぱ旦那さんって感じっスよね」
「俺には良くわかんねぇな」
「あはは。まぁ、無事に帰ってきましょう。最悪の場合、殿は俺が務めるんで」
「残念だったな。ラフィの命令で、殿は俺が担当だ」
家族と話を終えると、八木と神喰が話し合ってた。
何と言うか、不良と好青年の幼馴染に見えなくもない。
「何を話してたんだ?」
「殿担当の話だよ」
「それか。八木には索敵を任せるから、第一殿は神喰。第二殿は俺が担当だな」
「いや、流石にグラフィエルさんはマズいでしょう」
「生き残れる可能性が高い奴が、殿を務めた方が良いんだよ。憂いなく後を任せられるからな」
「な、なるほど?」
「それとな、別にラフィで良いぞ? フルネームで呼ぶの疲れるだろ」
「じゃあ、お言葉に甘えます」
「おら、さっさと出発すんぞ」
「せっかちなやつだ」
「あ! ちょ、待って!」
こうして、俺、神喰、八木の三人で、ダグレスト王国へと向かった。
さて、どんな旅になるのやら……。




