表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
220/318

第184話 ついに輿入れの時が来たか

章分けしました。

これで多少は読みやすくなると思います。

 クラン事件の後、試験を受けに来た冒険者達を元の国へと送り、色々と事情が出来て100人近い冒険者をクランに入れてスペシャルメニューを行い、少し落ち着いてきた11月半ば。


 ついにと言うべきか、ようやくと言うべきかはわからないが、輿入れの馬車が屋敷へと到着した。


 貴族の慣習があるので、馬車の第1陣はミリアの輿入れ馬車。


 その数、何と5台。


 荷物が入り切るのか、ちょっとだけ不安だったりする。




「……ミリアさん?」




「何故でしょう? 私が用意した時よりも2台増えてます」




 到着した5台の内、先頭と最後尾は護衛小隊の馬車らしい。


 つまり、ミリアが輿入れ用に用意した馬車は1台のはずなのに、何故か3台に増えていると……。


 二人して首を傾げていると、一人の騎士がこちらへ歩いてきた。


 と言うか、あれは……。




「お久しぶりですな、クロノアス卿」




「まさか、お義兄さんが護衛とは……」




 これにはミリアも驚いていた。


 改めて護衛の人数を数えてみると、まさかの小隊規模。


 神聖国の本気度が凄いな。




「お兄様、何故、馬車は3台なのでしょうか?」




 ミリアも驚きはしていたが、馬車の数の方が気になった様で、お義兄さんに質問をした。


 その答えは、予想外っちゃあ予想外の言葉であった。


 まぁ、ヴァルケノズさんが気を利かせた可能性はあるだろうけど。




「それはな、ついでにナユル殿の馬車も護衛してきたからだ」




 あっけらかんと言う兄に対して、ため息を吐くミリア。


 俺は相変わらず大雑把だなぁと思う。


 ミリアのお兄さんは優れた軍人であり、伊達に聖騎士副団長を務めあげてるわけではない。


 どうしても引けない戦い以外の場合は、旗色が悪ければさっさと撤退する判断が出来る器量の持ち主だ。


 ただ、欺瞞工作などには全く向いていない。


 命令も端的に伝える程の大雑把さがある。


 それを良い方向に動かせられるのが、ミリアのお兄さんなわけだが、流石に説明が大雑把過ぎて返答に困ってしまうな。




「隊長、今の説明じゃ分かりませんって」




「そうか? なら、任せた!」




「全く……。お初にお目にかかります。第二聖騎士団分隊長、フォーギスと申します。神子様、神聖騎士様、ご説明してもよろしいでしょうか?」




 フォーギスと名乗った分隊長は、恭しく一礼して、こちらの返事を待った。


 それに応えたのはミリアで、神子として振舞いながら説明を受けた。


 その説明によると、俺の考えは当たっていた様で、ヴァルケノズさんがナユの家族へ詫び代わりに、護衛対象として追加したそうだ。


 勿論、相手側ナユの両親に知らせずに。


 ナユの両親は大変驚き、恐縮して辞退したそうだが、教皇直筆の手紙を渡されて諦めたらしい。


 分隊長曰く、思考放棄だったそうだ。


 続いて、馬車の内訳の説明に移った。


 二台はミリアの輿入れ馬車で、一台はナユの輿入れ馬車。


 ただ、ここで二つ問題が起こる。




「ナユの輿入れって、大分後だよな?」




「10番目ですね。その間、馬車の荷物はどうしましょうか?」




 外に放置しておくわけにもいかないし、隊商だって次の仕事があるから、馬車ごと待機も難しいだろう。


 そうなると、手は一つしかないのだが使っても大丈夫だろうか?




「なぁ、ミリア」




「ええ。この際、仕方ないと思います。ラフィ様、お願いできますか?」




「問題は無いんだよな?」




「外に漏れなければ……」




「よし……箝口令を敷こう!」




「本当に、慣習は面倒です」




 二人で話し合った結果、リアの輿入れが終わるまで、ナユの輿入れ品は封印となった。


 ミリアも言っていたが、本当に面倒な慣習だと思うわ。


 そして次の問題。


 小隊の寝床だ。


 部屋はあるが、これからも隊商はやってくる。


 恐らく、小隊規模になるだろう。


 そうなると、部屋の数が足りない。


 仮に神聖国と同じ小隊人数だったとして、それが後、最低でも三国分は来る。


 それに加え、傭兵国と亜人族も来るわけで……どう考えても部屋数が足りない。




「部屋、どうする?」




「一人部屋ですしね」




「100人迄ならどうにかなったんだけどなぁ……」




「お義父様にご相談されてみては?」




「我が家の問題をか? 流石に不味くないか?」




 とは言え、解決策があるわけではない。


 仮に宿屋を抑えても、残りの人数が宿泊できる保証も無い。


 本気で困った……。




「とりあえず、聖騎士達の寝床を確保しましょう。私から、移動があるかもしれないと伝えておきますから」




「すまない。本当は駄目なんだろうが、父上に相談してくるよ」




 ミリアに後を任せ、父上の元に向かい相談をした。


 父上も仕方ないと言った感じで、宿泊用の部屋を貸してくれた。


 後は幾つかの宿屋を貸し切りにすれば、どうにかなるだろう。


 宿泊が重ならないのであれば、どうにか回せるだろうし。


 そして翌日から、順番に輿入れが始まった。




「そちらは壊れ物ですから丁寧に。そちらの箪笥はこちらに置いてください」




「リリィ、張り切ってますね」




「そうだな」




「待ちに待った日の一つですからね。張り切るのも仕方ないかな」




「ティアはもう少し先だもんな」




「順番が来たら張り切りますよ」




 とまぁ、こんな感じで、ミリアの馬車が来た翌日の輿入れは進んで行った。


 そこから数日空いて、竜王国の隊商が到着する。


 護衛は神聖国と同じで小隊規模。


 馬車の数もミリアと変わらなかった。




「やっと来ました!」




「ラナの輿入れ道具って普通なんだよな?」




「ラフィ様は何を言ってるのですか? 当り前じゃないですか」




 そうは言うがなぁ……準備に戻って、戻ってきたら格刀術を学んでいましただったしなぁ。


 どうしても疑ってしまうのは仕方ないと思うんだが?


 まぁ、荷下ろしの時に確認したら皆と変わらん……前言撤回。


 なんで嫁入り道具の中に刀が数本あるんだよ……。




「ラナさん?」




「な、なんでしょうか?」




「どうして刀が数本あるんでしょうかね?」




「訓練用です!」




「誇らしげに言ってるけどさ、これを嫁入り道具にするのはどうかと思うぞ?」




 俺の意見に頷く竜王国の護衛達。


 彼らも疑問符を浮かべてしまったらしい。


 ラナは笑いながら誤魔化して――逃亡した。




「部屋に戻って指示しないといけませんから!」




 尤もな理由で逃げたラナだったが、後で婚約者全員から苦言されたみたいだ。


 言い訳しまくってたと、後でヴェルグが教えてくれたわ。


 竜王国隊商の到着から1日空いて、次は皇国からの馬車が到着。


 護衛はやっぱり小隊規模だったよ……。




「リーゼの荷物も中々に多いな」




「これでも減らしたんですよ。お父様はこの倍を持たせようとしてましたから」




「そんなに持たせても、リーゼの部屋に収まりきらないだろうに」




「ええ。そう言って諦めさせました」




 お互いに皇王の顏を思い出し、軽くため息を吐く。


 あの皇王、結構派手好きだからなぁ。


 護衛に話を聞くと、隊商の護衛数も中隊規模にしようとして、大臣達から止められたらしい。


 国庫は無限では無いと言われたそうだ。


 渋々納得したそうだが、良くあの皇王に物申せたと思う。




「皇王陛下に物申した官僚は勇者扱いですよ。まぁ、理不尽な人事は行わない方なので、逆に重宝されそうですけど」




「皇王に気に入られちゃたか。今後の苦労が目に浮かぶな」




「大臣達からも気に入られましたからね。陛下への諫言係として昇進の話も上がっている程でした」




「お父様も、もう少し落ち着いて欲しいものです」




「皇女殿下様も気苦労が多いみたいですな。まぁ、こちらは気にせず、幸せに暮らして頂ければ」




「まぁ、その辺は大丈夫だと思うぞ」




「ええ。今でも充分幸せですからね」




 皇国の護衛と話をしてる内に、荷下ろしは済んだ様だ。


 今度は搬入と設置があるので、護衛とリーゼは部屋に向かった。


 とは言え、出迎え続きなので仕事が溜まって行くのは戴けない。


 ……ブラガス、ちょっとは処理しておいてくれよ。


 そんな思いが通じたのか、帝国の隊商は10日後に屋敷へと到着した。


 ただ、護衛はやっぱり小隊規模だったが。


 後、全部の護衛が騎士ってどうなんだ?




「お父様、頑張ったみたいです」




「そうなのか?」




「内乱から半年足らずですから。護衛の人数に関しては無理をしたと思います」




「そう言えばそうだな。なんか、結構経っている気がしたよ」




「私もです。でも、それだけ楽しい日々なのだと思います」




「楽しいのは認めるけど、忙しかったよなぁ」




「それは仕方ありませんよ。ラフィ様ですから」




「俺だから忙しいって言うのは勘弁だなぁ」




 なんて話をしながら荷下ろしを眺め、護衛と少しだけ話して、部屋に戻って行くミナ。


 家具などの配置指示を出すのだろう。


 荷物が届いた婚約者達は、メイドと共に服の選別をしてるからな。


 普段着とドレスの仕分けに加え礼服などもあるから、一番大変な作業らしい。


 皆、がんばれ!


 その翌日は、ティア、シア、ヴィオレ、リアとランシェス組が続き、屋敷の前がちょっと渋滞したりした。


 リアの搬入が終わると、空間収納からナユの嫁入り道具一式を出して運んで行く。


 神聖国の隊商と護衛は既に帰国中なので、使用人が頑張って配置しました。




「皆さん、大丈夫ですか?」




「大丈夫ですよ、ナユ様」




「申し訳ないです」




「これが私達のお仕事ですから」




「でも、申し訳ないので、疲労回復をしておきますね」




「ありがとうございます」




 やっぱりと言うか、中々貴族暮らしになれないナユであった。


 彼女は優しいので、慣れていても魔法は掛けたと思うのは俺だけではないはず。


 婚約者全員が温かい目で見ていたからな。


 そして、それに気づいて恥ずかしそうにする。


 全員がほっこりしたのは言うまでもない。


 そして、ヴェルグの嫁入り道具であるが、実は神喰が密かに用意していた。


 正確には、金だけ用意して、俺に丸投げしたんだがな。




『だってよ、俺がわかる訳ねぇだろ』




『あのなぁ、金だけ用意して丸投げは、流石にダメだろ』




『じゃあ、どうしろってんだよ?』




『9割方は俺が用意するけど、輿入れに大事な物は自分で買い行け』




『父親、借りて良いか?』




『仕方ない……。父上には俺から頼んでおく』




 そして神喰は、親が用意する物を父上同伴で買いに行って、俺に預けていた。


 ヴェルグには内緒にしていたので、順番が回って来たヴェルグは驚いていた。




「え? あいつが?」




「そう。俺に伝える必要はないと言ってたんだが、流石に伝えないのはどうかなと思ってさ」




「(……クソ親父、ちゃんと自分で言え)」




「ん?」




「何でもない。ね、ラフィが選んだのってどれ?」




「んー、主に家具だな。化粧台とかは神喰が選んだけど」




「服はどうしよう?」




「そこも考えているから、とりあえず家具だけ配置場所を決めてしまおうか」




 小声で何か言ってたヴェルグだが、敢えて聞こえないフリをして話を進めた。


 これがきっかけになって、せめてクソ親父と呼べるくらいにまでなれば良いなと思ったからな。


 それと、服に関しては全員の輿入れが終った後、皆で買い行く予定だ。


 ……俺の仕事の暇を見てにはなるけどな。


 ブラガスの優しさに期待だな。


 そして3日後、傭兵国からの隊商が到着。


 更に数十分後、リジア、スノラ、イーファの亜人隊商も到着して、またもプチ渋滞が起こる。




「まさか重なるとは……」




「これは予想外」




「予想外ではあるが、妾達の方は気にせずにゆっくりと荷下ろしと搬入をするのじゃ」




「良いの?」




「順番では、妾達が最後じゃからの。幸いじゃが、天気には恵まれたのじゃ。焦る必要はないじゃろう」




「イーファ、ありがとう」




「うむ!」




 そんなわけで、リュールの方を先に搬入して行く。


 尚、リュールの嫁入り道具の護衛は、ネデット傭兵団と傭兵国の兵士の混合で、やっぱり小隊規模。


 そして、護衛隊長は帝国内乱でリュールの副官だった胃薬傭兵だった。




「お久しぶりです」




「久しぶり。その後、胃はどうだい?」




「あの薬のおかげで、すこぶる元気になりました。その節はありがとうございます」




「いえいえ。それよりも、ちょっと予想外でした」




「私がですか? それとも、兵士がでしょうか?」




「両方ですね。リュールと話していたんですが、間違いなくお祖父さんが来ると思っていましたから」




「あはは……。その予想は当たりですよ。尤も、団長に止められてましたが」




「お父さん、ナイス判断」




 その後も少しだけ雑談してから、リュールは部屋に戻って行った。


 そして最後に、イーファ達の搬入と挨拶に。


 護衛はまさかの冒険者、聖騎士、亜人の混合であった。


 こちらも予想外だな。


 護衛隊長は亜人側に配慮しているのか、リジアとイーファと初めて会った時の熊亜人だった。




「ご無沙汰しております」




「あー、うん。久しぶり」




 そして沈黙。


 いやだってさ、何を話して良いかわかんねぇんだもん。


 そこまで接点ないしさ。


 ただ、俺の気持ちを察してかイーファが会話を引き継いでくれた。




「そう言えば、あやつは大丈夫なのか? 準備の時は元気に動いておったが、瘴気を浴びておるのでな。体調に変化が無ければ良いのじゃが……」




「元気にしておりますとも。お三方のお子を見るまでは死ねん!と言っておりましたから」




「そうか、それは何よりじゃ」




 イーファと熊亜人は話を終え、続いてリジア、スノラの順で軽く話をして行く。


 その間に、俺はイーファに質問をした。




「なぁ、本当に良いのか?」




「あやつにも矜持があるじゃろうて。本人が望まぬのだから、それで良いのじゃ」




 話しているのは老亜人の治療についてだ。


 前にも確認したのだが、イーファ経由で本人から辞退があったのだ。


 なんでも、名誉の負傷らしい。


 守ったからこそ出来た傷は誇らしいのだと。


 だが、今後の生活に支障が出るのは確実なので、偶にイーファ達に聞いているのだ。


 答えは変わんねぇけどな。




「さて、この話はここまでじゃ。妾達の荷下ろしも終わったのでな」




「この後は、搬入と設置か。何か手伝おうか?」




「当主たるもの、大きく構えておれば良いのじゃ。旦那様はちと、過保護過ぎじゃぞ?」




「いや、手伝いに関して過保護を適用するのは違くね?」




「対して違うとは思わぬがの。それよりも、ほれ」




 イーファが顔を向けた先を俺も見る。


 そこには、笑顔のブラガスが居た。




「お館様、これで輿入れ用の馬車は全てですね」




「そ、そうだな」




「では、今から仕事が出来ますね」




「待て! まだ、作業終了後の挨拶がある!」




「そうですか。では、今日はお休みとしますが、明日から二週間はお休み無しです」




「酷い! 横暴だ!」




「何が横暴ですか。良いですか? 隊商が来るまでの間、何日か空いてましたよね? その間に仕事をしなかったのは誰ですか?」




「仕事はしていただろう!?」




「本当に最低限だけですけどね。だからこそ、仕事が溜まっております。だから、お休み無しなのですよ」




「だが、断る!」




「そうですか。では、関係各所に連絡をしなければいけませんね」




「ひ、卑怯な!」




「それが嫌でしたら、しっかりと仕事をして下さい」




 こうして、ブラガスに敗れた俺は、執務室にドナドナされました。


 そして、マジで二週間お休み無しでした。


 とほほ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ