表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
218/318

第182話 ある程度は気楽な方が良いよね

 フェルとルラーナ姉の結婚式が終わり、翌日からは一部が休みとなっていた。


 その一部には学校と学院も含まれており、収穫祭も間近にある事から、例年よりも少しだけ長いお休みに突入している。


 そのお休みの間に、級友に加えて、とある方々も招いての結婚おめでとうパーティーを開くことになった。


 開催日は、式の日から5日後と急に思うだろうが、初めから収穫祭が始まる前に開こうと、ヴィオレが話を進めてくれていたおかげで、9割方の準備は終わっている。


 そして今は、そのパーティーで使う肉を狩りに来ていた。


 勿論フェルとルラーナ姉も一緒だが、パーティーの事は内緒にしているので、単なる趣味の狩猟と思っている様だ。


 バレていなくて何よりである。




「そっちいったよー」




「任せて」




「へぇ。ラフィの婚約者で傭兵もしているから上手いね」




「フェル、そっちに行ったぞ」




「お! 任せてくれたまえ」




 リアが誘導した猪が、フェルが待つ方へと爆走してきた。


 こちらに来る猪に慌てることなく、矢を構えて放つフェル。


 風魔法で矢の早さを上げて貫通力を増幅させ、万が一の保険もかけて雷魔法の麻痺を付与させた矢が猪の眉間に命中する。


 一発必中とは中々。




「やるじゃん」




「まぁね。ただ、ラフィは意外だったよね」




「俺にだって、苦手な物はあるさ」




 城から数名と我が家から数名の護衛を出した狩猟であったが、実は俺、弓が下手だったりする。


 武器の中で一番扱えない武器だったりするのだ。


 基本、魔法で狩ってしまう事が多かった弊害とも言えるだろうか。




「他の貴族が聞いたら、喜ぶだろうね」




「俺は弓が扱えないってか? 攻撃材料になるのかね?」




「完全に敵対している貴族なら、些細な事でも攻撃材料にするからねぇ。僕だって、アホらしいとは思うけどさ」




「ホント、貴族って面倒で暇人が多いよなぁ」




「まともな貴族は、それなりに忙しいんだけどね」




 フェルの言葉に頷く王城の護衛達。


 彼らも思う所はあるらしい。


 王宮雀共は、兵士にも嫌われているのかねぇ。


 そんなこんなで、休みの1日を使って狩りを楽しんだ俺達。


 ルラーナ姉もミリア達と楽し気に話していた様で何よりである。




「そろそろお開きにしますか」




「そうだね。じゃ、よろしく」




「はいよ」




 フェルの言葉に応え、ゲートを開く。


 繋げた場所は、王城の庭。


 馬小屋近くに繋げたので、後は城の者達に任せて大丈夫だろう。




「あ、言い忘れてた」




 フェルがゲートを潜る直前になって立ち止まる。


 言い忘れたと言っていたが、何を忘れていたんだろうか?




「披露宴で言ってた依頼だけど、材料は何がいるんだい?」




「それは言い忘れじゃなくて、聞き忘れだろ」




「どっちでも良いじゃないか。で、何が必要なんだい?」




「精霊石だな。後は、武器の要望かな」




「わかったよ。後で届けさせるけど、核は二つ使えるかい?」




「出来なくは無いけど、形状変化に制限が出るぞ」




「うーん……どの程度になりそうかな?」




「こればかりは、製作過程でしかわからんなぁ。ただ、杖モードは無理とだけ言える」




「理由は?」




「複合魔法による耐久性の問題」




「単一でしか使わなくても?」




「核を二つ使うのに、単一発動のみとか効率悪すぎ」




「それもそうか。用途に合わせて使い分けたら良いだけだもんね」




「そゆこと。まぁ、やってみない事には分からんけどな。他に要望があったら聞いておくぞ? 出来るかはわからんけど」




「それじゃ、色々と言っておこうかな」




「……出来るかはわからんからな」




 この後、ゲートを発動させたままで少し話し込む。


 護衛達はそわそわしていたが、フェルが動かないのでどうしようもない。


 多分、帰還の時間とか決まっているのだろう。


 その考えは当たっていた様で、ゲートの向こうから少々お怒りの声が飛んできた。




「殿下! 時間は過ぎていますぞ!」




「もうそんな時間か。声の主は……はぁぁ。父上に報告されてしまうな」




「殿下!」




「わかった! 直ぐに帰る!」




 そう言ってフェルは、ゲートを潜って行く。


 続いてルラーナ姉が潜り、最後に護衛が続く。


 最後の護衛がお辞儀をしてからゲートを潜り、送迎業は完了。


 今日狩った獲物は、後日王城へと卸すとして、俺達も家に帰りますか。


 数日後には、学院でパーティーをするし、準備しなければ。






 数日後、俺達は学院の食堂を貸し切り状態にして、結婚おめでとうパーティーを開催した。


 勿論、学院側の許可は取ってある。


 参加者は級友と俺の婚約者全員に加え、各国の殿下が参加となった。


 尚、殿下3人を迎えに行った際、帝国のガザライズ殿下が結婚していた事を聞いた。




「何時、ご結婚を?」




「クロノアス卿にも連絡したんだけど、生憎と遠出中だと返事が来てね。こればかりは仕方が無かったんだよ」




「それは申し訳ありません。あ、何か贈り物をしないといけませんね」




「気にしないでくれ。もう既に貰っているも同然だしね」




「はあ」




 何を貰っているのだろうか?


 思い当たる事は無いが、余り強硬に出ても失礼なので引き下がる。


 それと、皇国のディライズ殿下も式を挙げていた。


 奥さんはランシェス王国の第一王女であるミズレール王女。


 あれ?こっちも何も聞いてないんだが……。




「クロノアス卿が傭兵国に出立した後に手紙が届いたみたいでね。帰国の日程がわからないと手紙で返事があったんだよ」




「それは申し訳ない事を。あ、贈り物を……」




「ガザライズ殿下と同じだよ。気にする必要はないさ」




「はあ」




 ディライズ殿下にも同じことを言われた。


 一体、何を貰ったのだろうか?


 そして最後に、竜王国のヨルムン殿下。


 こちらはまだ独身だそうだ。


 ただ、水面下では色々とあるらしく、詳細は誤魔化された。




「僕と釣り合う人だからねぇ。大変なのさ!」




「お兄様、その物言いはウザいです」




「ぐはっ!」




「ラナは相変わらず容赦ないなぁ」




 兄であるヨルムン殿下を迎えに行く際、一人だと大変だからと着いてきたラナであったが、兄へのあしらい方と言う点では適任であった。


 両殿下も苦笑いだったしな。




 二人を迎えに行って、学院の食堂へ案内すると、9割方準備が終わっていた。


 級友と婚約者達が準備を行いながら、ナリアと料理人たちが補佐をしていたようだ。


 それからほどなくして準備は終わり、フェルとルラーナ姉が食堂に姿を現した。




「殿下、先輩、ご結婚おめでとうございます!」




 級友達が祝辞を言葉にした後、婚約者達も祝辞を述べて、お気楽パーティーが開始される。




「フェルジュ殿下、ご結婚おめでとう」




「ありがとう、ガザライズ殿下」




「フェルジュ殿下、私からも」




「感謝する、ディライズ殿下」




「はっはー! めでたいねぇ!」




「貴殿は相変わらずですね。ヨルムン殿下」




 三者三様に祝辞を述べ、最後に俺の順番に。




「フェル、改めておめでとう」




「ありがとう、ラフィ。そういや、僕達って親戚になったよね?」




「そうだが……何か問題でも?」




「いや、僕の立場って義弟と義兄のどっちになるのかなってさ」




「誕生日で見るなら、俺が義兄になるんじゃね?」




「なるほど。それなら……これからよろしく。お義兄さん」




「おぇ。気色悪っ!」




「酷いなぁ……」




「これまで通りにしてくれ」




「そうするよ」




 そして、沸き起こる笑い声。


 やっぱ、こう言った気楽な方が性に合ってるわ。


 そういや、各殿下は奥さんを連れて来てないよな?


 こう言った席だと連れてくるはずなんだが……。




「姉上達の事かい?」




「そう……ん? 達?」




「あれ? 知らなかったっけ? 帝国のガザライズ殿下の奥さんってランシェス王国第四王女だよ」




「マジで!?」




「皇国は知ってるよね?」




「ミズレール第一王女様だろ? しかし、まさか第四王女様がねぇ」




 初耳だったのでちょっと驚いた。


 しかし、こうなると帝国と皇国はランシェスと親戚になる訳か。


 政略結婚ではあるだろうが、良く皇帝が認めたよなぁ。




「クロノアス卿は知らなかったんだね。あ、私の事は気軽にガライと呼んで欲しいな」




「良いんですか?」




「おめでたい席だし、気楽にしたいからね。ある程度は無礼講さ」




「では、自分の事もラフィと呼んで下さい」




「わかったよラフィ殿」




 ガライ殿下の言葉を皮切りに、皇国も竜王国も同じ対応になる事になった。


 本人達の意向もあったがな。


 ディライズ殿下はディズ殿下と呼び、ヨルムン殿下はヨルム殿下と呼ぶことに。


 超えてはいけない一線はあるが、基本は無礼講でパーティーは進む。




「しかし、料理も飲み物も素晴らしいよね」




「酒が無いのは残念だがな」




「それは仕方ないさー。だって、ここは学び舎なのだからー」




「お兄様、キモイです」




「ごほっ!」




 ラナの兄に対する毒舌は相変わらずのまま、パーティーは進み、個人での贈り物を渡す時間になる。


 級友達がフェル夫妻に贈り物を渡して行き、三殿下達も贈り物を渡していた。


 何を贈ったのか、ちょっと気になります!




「ラフィは何を贈るんだい?」




「ベガか。そう言うお前は、何を贈るんだ?」




「僕はもう贈ったから」




 話を聞くと、今日のパーティーの食材がベガの贈り物らしい。


 俺が手配した量よりも多いなと思ったら、ベガの方でも手配していたみたいだ。


 想定していた倍の量の料理が並んでいるからな。


 これ、喰い切れるのかね?




「無理なら、お持ち帰りとか?」




「四殿下は持って帰れないだろ」




「貴族も厳しいのかな?」




「うちは構わないが、他家はどうだろうな」




 なんて話をしてる内に、どうやら俺の番が回ってきた様だ。


 皆して手招きしているのだが、何を贈るのか気になるのだろう。


 まぁ、俺の贈り物はフェルからの依頼に合った品物に、もう一手間加えただけだがな。




「ほい」




「ほいって……。お気楽過ぎない?」




「お義兄さんだからな」




「まぁ良いけど……。あれ?」




 フェルが首を傾げた。


 そりゃそうだろう。


 渡された贈り物は、依頼した品だったのだから。




「実演しようか?」




「頼めるかな?」




「おけ」




 軽く返事をして実演を開始する。


 説明を交えながら実演していくと、周りから感嘆の声と大きな拍手が起こる。




「直剣と大剣と両手剣。これが限界だったな」




「そこは良いけど、これって依頼した品だよね?」




「俺の贈り物はここからさ」




 そう言ってから、柄頭にイメージを集中させる。


 俺の贈り物の真骨頂。


 それは、柄頭にあるのだ。




「これは!」




「凄い……」




「これが俺からの贈り物さ」




 実は、フェルから依頼された品にもう一つ精霊石を使っていたのだ。


 柄頭に埋め込んである精霊石の色は青。


 水の精霊石である。


 そして、柄頭の精霊石は直剣の刃に加えてもう一つ仕掛けがある。




「盾?」




「それもあるが、正確には包囲防御結界だな。部分的に厚くしたりも出来るぞ」




 厚くした結界を見せると、一層拍手が轟いた。


 うーむ……ちょっと照れくさいんだが。




「ラフィ、大丈夫なの?」




「値段の事? ルラーナ姉は心配性だなぁ。大した事は無いから安心して」




「そうじゃなくて! 三殿下もいらっしゃるから……」




「あ」




 ギギギッと、油を指し忘れた機械みたいに三殿下を見ると……お目目がキラキラしてらっしゃる。


 あ、これ、終わったわ。




「ラフィ殿!」




「ひゃい!」




「是非、私にも作って貰えないだろうか!」




「えーとですねぇ……。実は簡単に作るなと、陛下から言われてまして……」




「ならば、父上に報告して、国家としてのやり取りで依頼出来たら作って貰えるのかい!?」




「へ、陛下からの許可が降りれば……」




「わかった。帰ったら、父上に直訴するよ」




 ディス殿下の食い付きが半端なかった。


 ちょっと怖かったよ……。


 だが、俺の苦難はもう一つあった様だ。




「ラフィ殿。贈られた武器に関して、意見交換をしたいのだが良いだろうか!?」




「が、ガライ殿下!?」




「いや、これは凄い物だよ! 僕なりの考察を考えたんだけどね!」




「こ、今度、時間がある時にでも!」




「そうだね。今日はおめでたい席だった。今度、時間がある時に話そう!」




 ガライ殿下は知識的な部分で興味をひかれた様だ。


 そして、残るヨルム殿下はと言うと。




「はっはー! ラフィ殿はモテモテだね!」




 一人だけ別ベクトルで騒がしかった。


 尚、ラナの毒舌が飛んだのは言うまでもない。


 勿論、轟沈したヨルム殿下であった。




「で、これの真骨頂は?」




 フェルの言葉に本題へと返る事が出来たので、最後の実演へと移る。


 こいつの真骨頂は双刃。


 双剣ではなく双刃である。


 二刃一剣がこの武器の真の姿なのだ。




「風と雷の複合刃と柄頭からの水の刃。氷にもできるけど、二刃三属性同時発動がこの剣の真骨頂さ」




「凄いね。水の精霊石が贈り物って事なのか」




「ただ、可変は三つが限界だったけどな。耐久性もこれがギリギリだったな」




「そうなんだ。素晴らしい贈り物に感謝するよ」




 フェルは嬉しそうに受け取り、俺が実演したのと同じことをして見せる。


 帝王学を学んでいるだけあって、直ぐに扱えていたな。


 流石のフェルであった。


 一部、暴走気味になった人がいたが今は落ち着き、気楽なパーティーも終わりの時が近づいてきた。




「さて、そろそろ夕刻も近づいてきたので、お開きにしようと思います」




 最後に俺が締め括りの挨拶をする。


 だが、なんでフェルじゃなく俺なんだ?


 理由を聞いたが、フェルが締めて欲しいと言うのだから仕方ない。


 解せんがな!




「今日は楽しかったよ。今度は、ラフィ殿だな」




「そうだな。次はラフィ殿だろうな」




「そうなるだろうね。時間的に見ても……」




 そう言って、ヨルム殿下に顔を向ける三殿下。


 ヨルム殿下の結婚は、まだ当分先の様だ。




「あははは……」




 流石に下手な事は言えないので、笑って誤魔化しておく。


 こうして、気楽なパーティーは幕を閉じた。


 さて……次はギルドとクラン関連の話し合いだな。


 その後は収穫祭が来て、終わったら輿入れの馬車が到着する頃になるのか。


 まだもう少しだけ忙しそうだな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ