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第179話 兄達への祝儀探し

 王家の依頼であるドリンクスライムの捕獲はとりあえず終了し、ギルドを経由して報告を上げた。


 そして、未だクランがゴタゴタしている中、王城へと呼ばれる。


 俺も暇じゃないんだけどなぁ……。


 と言うのも、上納金を納めた後、屋敷に戻るとブラガスが待ち構えていたのだ。




『遅いお帰りで』




『なんか棘のある言い方だな』




『そうですか? 依頼は完了したはずなのに、一向に戻ってこないので』




『ちょっとまて! 何処からの情報だ!』




 ブラガスは顔を神喰に向ける。


 神喰は後退りしており、既に逃亡体制に移行中だ。


 そんな神喰に笑顔を向ける俺。


 刹那、神喰逃亡。




『待てやごらぁ!』




『待つのはお館様です! さぁ! 書類が山ほど待っていますよ!』




 こうして、30分程の間、神喰、俺、ブラガスでの鬼ごっこが続き、ブラガスに首根っこを掴まれて、執務室へ連行されたのだ。


 それが、帰宅して直ぐの事。


 そして翌日になっても書類を片付けていると、王城から使者が来訪。


 現在に至る訳だ。




「呼びつけて悪いな」




「いえ。ですが口調が……」




「今日は砕けて話したい理由があってな。何か不満か?」




「滅相もありません。ですが、自分も少々忙しくなっておりまして。出来れば、詳しい話は日を改めて頂けないかと」




 丁寧に話してはいるが率直に言えば、忙しいから早く返して!と言っているのだ。


 陛下は眉をピクリとだけ動かしたが、どうせ陛下の事だ。


 全部知っているうえで、呼び出してるんだろう。




「まぁそう言うな。お前にとっても悪い話ではないのだから」




「悪い話では無いのですか。しかし時間が……」




「わかっている。まぁ、少しだけ愚痴に付き合え」




 そして始まる陛下の愚痴。


 だがその愚痴は、他人事では無かった。


 今まさに、俺が忙しい理由そのものだったのだから。




「息子に顔を覚えて貰おうと、必死な貴族が多過ぎる。おかげで、一部の流通に支障が出始めていてな」




「心中お察しします」




「他人事では無いだろう? お前だって、クランの仕事が増えたのは貴族達のせいだろうが」




「まぁ……」




「おかげで、こちらが出した依頼が終了したと言う報告も中々上がってこなかったしな」




「はぁ……」




 愚痴ではあるのだが、なんだろう?この要領を得ない感じは。


 陛下が何を言いたいのかがわからない。


 全部知っていると思ったのは、俺の勘違いか?


 しかし、次の陛下の一言で、俺の推測が大当たりだった事を確信。


 やっぱ陛下って地獄耳だわ。




「今、困っているのだろう?」




「どうしてそう思うのですか?」




「俺にまで警戒するな。困っているのはスライム達なのだろう?」




「……どうして知っているのですか?」




「噂になっておるからな。クロノアス邸でスライムが大量に飼われていると」




「マジですか……。飼ってるわけでは無いのですがね」




「真相なんて誰も知らんからな。でだ。お前の隣の土地だがな、王家が買い上げて褒美として渡すからな」




「はい?」




「依頼達成が困難だったと聞いている。追加報酬とでも思えば良い。ああ、土地は好きに使って良いぞ」




 陛下はニヤリと笑って告げた。


 なるほど、そう言う事ね。


 愚痴云々は半分口実だったわけだ。


 褒美だけで呼ぶと、面倒な王宮雀達がまた騒ぐから、敢えて今の形を取った訳か。


 因みに、王家が買い上げる土地の広さだが、わかりやすく伝えるなら前世の一軒屋4つ分。


 どっかの貴族が屋敷を立てられるような広さでもなく、申し訳程度に木が植えてある土地だ。


 そこをスライム達に開放してやれば良いと、遠回しに言っているのだ。


 王家の依頼を達成した結果、我が家の風聞が落ちないようにと気を使わせてしまったのだろう。




「お心遣いに、感謝します」




「うむ。まぁ、後は雑談に付き合え。直ぐに帰ったのでは怪しまれるからな」




「わかりました」




 そして、その日は陛下にお付き合いして1日潰れ、翌日からクラン関連の書類を片付けて行った。


 そして数日が経ち、今度はドバイクス卿からの使いの者が訪問してきた。


 以前に話していたお願いに関してなので、シアとスペランザ商会の当主を連れてドバイクス邸――シアの実家――へと向かう。


 あ、もちろん馬車でだぞ。


 最近、やたらと言われるからなぁ……。


 ドバイクス邸に着くと、家人が案内をしてくれる。


 シアもそれに従って付いて行く。


 勝手知ったる家ではあるが、俺の婚約者としての側面もあるので、勝手は出来ない。


 この辺が面倒だと思うんだよなぁ……。


 まぁ、今回は俺の用事で赴いているから仕方ない面もある訳だが。




「お父様! お母様!」




「おお! シア。元気にやっているようで安心したよ」




「魔物の領域は勉強になりましたか?」




「はい、お母様」




「それは何より。今度、時間がある時に話をしましょうね」




「はいです!」




 シアの元気な挨拶を皮切りに、本題へと移る。


 スペランザ商会では、これといった珍しい物は手に入らなかった。


 ドバイクス卿の方はどうだったのだろうか?




「結論から言うとな……見て確かめてくれ」




「こちらはそれで構いませんが、卿は良いので?」




「正直言うとな、クロノアス卿がどの程度の物を探しているか、皆目見当が付かなかったんだ。だから、我が家の政商が持参した物を見て貰った方が早いと思ってな」




「ご迷惑をかけます」




 頭を一つ下げてから、ドバイクス家の政商とのやり取りが始まる。


 スペランザ商会当主は、俺のアドバイザー的な立ち位置に着いた。


 あくまでも、決めるのは俺でないといけないからだ。


 そして始まる商品説明。


 色々な商品を見せてくれるのだが、今一つピンとこない。




「無理して買わなくても良いからね」




 ドバイクス卿が気遣いの言葉を言ってくれた。


 その言葉に反応してなのかは知らないが、ドバイクス家の政商をしている彼は、1つの箱を取り出して中を見せて来た。


 箱の中には、幾つかの石が丁重に扱われて入っている。




「これは魔石? いや、それにしては……」




「不思議な石なのです」




 俺とシアが不思議そうに石を見ていると、商機と見たのか政商から説明が入る。


 その説明を聞いた俺達だが、スペランザ商会の当主は本物ならもの凄く価値のある物だと俺に話してきた。


 そのも凄い物が納められている箱の中には、赤と青が一つずつに緑が二つの計四つの石が並べられいる。


 ただ、本物ならば凄い価値らしいので、手に取って鑑定しても良いか聞いてみた。




「構いません。全てに鑑定を行いますか?」




「そうだな。ドバイクス卿の政商をしているから騙すなんてことは無いだろうが、偽物を掴まされた――と言う可能性はあるだろうからな」




 俺が口にした言葉に、ピクリと反応する政商。


 だがそれも仕方ない。


 実は、見せられている石を加工し終えた商品を一回だけ見たことがあったからなのだが、その値段がクソ高いのを覚えていたからだ。


 一体、誰がこんなものを買うんだ?って位、高かった。


 その値段、大白金貨5枚。


 俺は即座に買う気が失せた。


 そして、この話には続きがある。


 その奥に、同じ商品が置いてあったのだが、値段がもの凄く安い――それでも白金貨クラスだが――のが置いてあったからだ。


 高い商品と安い商品には、中央に同じ石が組み込まれていたので、店主に理由を尋ねたことがあったのだ。




『店主、何故この剣は値段が違うんだ?』




『お客さん、お目が高い。そいつは精霊石を組み込んであるんだ』




『精霊石?』




『細かい説明は省くが、魔石よりも高価で希少性の高い石だ』




『へぇー。で、値段の違いは?』




『天然物と養殖……はっきり言えば、本物オリジナルと偽物イミテーションだな』




 たった一度の店主とのやり取りを思い出したので、政商の彼に偽物でも気にする必要は無いと告げたかったのだ。


 実際は、違う意味に捉えらてそうだけど。


 貴族の言い回しって難しいんだよ……。




「では失礼して……【鑑定】」




 鑑定を行うと、間違いなく精霊石であった。


 なるほど……確かに掘り出し物である。


 これは買いなのだが、問題は値段だ。


 加工品で大白金貨5枚となると、精霊石だけで大白金貨3枚位が妥当だろうか?


 それが4つ……黒金貨確定か。




「全て本物か。良く、これだけの数を揃えたものだ」




「お褒めに預かり、光栄です」




 いやほんと、脱帽ですわ。


 かなりの伝手を頼ったのではなかろうか?


 相当苦労したのだろうな。


 では、本題。


 この精霊石を買うか買わないか?


 答えは買う一択なのだが、値段が最低でも黒金貨確定で、上限は黒金貨数枚かな。


 時に政商も、儲けの為には貴族に高く売るつける事もある。


 珍しい物ならば猶更だ。


 今回は珍しい物なので吹っ掛けてくるだろうなぁ。




「問題は値段か」




「全部買われるので?」




「兄上達への祝儀だからな。ケチりたくはない」




「そうですか。出来る事なら、黒金貨2枚で売って頂きたいものですな」




 スペランザ商会の当主が、ドバイクス卿の政商に対して先制攻撃を仕掛ける。


 そのくらいが妥当だろう?と。


 対する政商側は黙したまま、もう一つ箱を見せて来た。


 もう一つの箱にも精霊石が入っていたが、先に見たものと少しだけ違っていた。


 何と言うか、色が薄い感じがする。




「やはり気付かれましたか。今お見せしたのが偽物と呼ばれる精霊石です」




「……なんで今になって見せた?」




「失礼ですが、鑑定以外の目利きを試させて頂きました」




「なるほど。で、結果は?」




「及第点ですな。ですが、こちらを買う資格はおありです」




「随分と上からの物言いだな」




 一気に険悪なムードになる。


 シアと政商を除く全員が息を呑む中、政商が突如笑い出した。


 全員が、は?っとなるのも無理はない。


 それは俺も例外ではなかった。




「いや失礼。しかし、なるほど。確かに、選ばれるだけはあると言う事ですか」




「どういう意味だ?」




 ここからは、政商である彼のネタ晴らしと伝承の話になった。


 そもそも、精霊石は然るべき人間の元に訪れると言う伝承があるらしい。


 加えて、この精霊石はとある人物から入手したそうだ。


 その人物と言うのが……。




「実はですね、この精霊石は神樹国産なのですよ」




「エルフの商人か!」




「はい。ですが、私が精霊石を入荷したと言う情報は直ぐに知れ渡りました。当然ですが売れ! と言う貴族もおりました」




「売らなかったのか?」




「本物と偽物を見せ、同じ値段を提示させて頂きましたとも」




「それで、偽物を買って行ったわけか。……あれ? 俺には先に見せたよな?」




「クロノアス卿の場合は、鑑定がおありだと聞いておりましたので。ならば駆け引きは無用です。ですが、両方を見てどのような判定を下すのかを見たかったのです」




「それが及第点の意味か」




「商人として及第点ですので、貴族視点なら合格です」




 なるほどね。


 鑑定を使わず、どれだけ本物と偽物の違いを見分けられるかを知りたかったわけか。


 そうなると、それに対する真意は……。




「なるほど。目利きの精度によって、値段を決めるつもりだったのか」




 俺の言葉に驚く政商。


 なんでわかったのか、不思議そうな顔をする。


 すると、俺に代わりドバイクス卿が説明をしてくれた。




「クロノアス卿は、そこらの雀共とは違うのだ。陛下と王妃を相手に啖呵を切れる人物だぞ? 結構抜けておる時もあるが、その本質は見抜くことにあるのだ」




「卿のお言葉、理解しました。なるほど……裏の意味を持たせたら見抜く才能をお持ちですか。商人には喉から手が出る才能ですな」




「だからこそ、私も偶に見抜かれとるよ。最初の出会いの頃とかな」




「ドバイクス卿、その節は……」




「みなまで言うな。こちらも試したのだから、おあいこだ」




 険悪なムードはなりを潜め、商談モードへと移る。


 多分、吹っ掛けられる事は無いだろう。




「では、商談ですが……」




「黒白金貨1枚大白金貨6枚でどうでしょうか?」




 俺の代わりに交渉をするスペランザ商会の当主。


 俺達ですか?優雅にお茶を飲み、雑談中です。


 雑務は任せるのが貴族らしいので。


 本音を言えば、値段が気になる所ではあるがな。




「なっ! それではほとんど儲けが無いのでは!?」




 いきなりの大声に、船員が交渉を行っていた方に顔を向ける。


 大声を上げたのは俺の方の交渉人。


 ドバイクス卿の政商がとんでもない事を言った様だ。




「どうしたのだ?」




「いえ。クロノアス卿に有利な条件を提示したら驚かれまして」




 ドバイクス卿の言葉に政商が返すと、驚いた顔をするドバイクス卿。


 実は俺もちょっと驚いている。


 儲け度外視の提示を、こちらではなく相手からしたのだ。


 驚くなと言う方が無理である。


 前世でもそんな話、聞いた事が無いからな。




「ほとんど経費しか賄えなくないか?」




「金銭よりも大きい報酬を得られますので」




「どういう事だ?」




 両商人の説明によると、問題は俺にあった。


 俺はほとんど決まった商人としか取引をしていない。


 その商人数もどちらかと言えば少ない。


 だが、新規で入り込むのは難しく、大きな要因はスペランザ商会が政商としてクロノアス家にいる事だった。


 スペランザ商会の監査は優秀らしく、俺に合った商会以外は、スペランザ商会の方でお断りを入れてるらしい。




「俺はそんな話、一度も聞いてないぞ?」




「お伝えするほどでもないと思ったので」




 いや、そこは話せよ!とツッコミたいが我慢。


 言ったら、書類仕事が増えそうだから。


 続いて聞くと、俺自身が選んだ商会に関しては、監査は入れるもこちらに対して不利益で無ければ取り込んでいるそうだ。


 スペランザ商会当主曰く、俺は人誑しらしい。


 取り込むのが上手いと言っているが、今更取り繕っても遅い。


 まぁ、その様な色々が合って、俺との新規直接取引が不可能になっている中、突如と湧いた機会チャンス。


 最悪、精霊石を無償で譲渡も覚悟して臨んだ商談らしいが、代わりに欲しい物があると言う。


 それが、クロノアス家俺との直接取引の許可。


 当然、ちょっと危なそうな商会は排除しての話だ。


 政商の傘下でも、ちょっと怪しい商会は山の様にあるらしいと聞かされる。


 傘下商会が多少目減りしてでも、俺との直接取引は魅力度が天元突破だそうだ。




「どこも出来ていませんからね。スペランザ商会とシャミット商会。この二つの商会だけが、直接取引……あ、貴金属店もありましたね」




「あそこは貴金属だけですし、婚約指輪の依頼がありましたから」




「次は結婚指輪でしょう? あそこの貴金属店、クロノアス卿のおかげでウハウハらしいですよ」




「そう言えば、今度接待したいと連絡が来ていましたね。接待内容の監査を婚約者の皆様が行うと打診が来ていましたな」




「なん……だと? どうしてそう言う大事な事を言わない!」




「命が惜しいですから」




 スペランザ商会当主の発言に、何も言えなくなる俺。


 下手に歓楽街で接待とかなれば、止めなかった当主に婚約者達から詰問が行くわけか。


 うむ……確かに命が惜しいな。




「……一応、報連相はしてくれ」




「わかりました」




 何とも締まらないが、理由は分かった。


 なので、無償は遠慮しておく。


 直接取引もドバイクス卿が許可を出せば、政商のみ受け付けよう。


 傘下の商会に関しては、直接取引はこれまで通り不可だが、政商が代表してなら受け付ける。


 その旨を伝えて再交渉をし、白金貨6枚で商談が成立した。


 ただ、次の言葉に更に金が掛かる事になったのだが……。




「精霊石の加工ですが、人数が限られていますよ。特殊技能ですから」




「げっ!」




「良ければ、我が商会御用達の工房をご紹介いたしますが? 我が商会系列の工房で、唯一、精霊石の加工が出来る工房です。腕は保証しますよ」




「……頼む」




「頼まれました」




 最後にドバイクス家政商はホクホク顔だった。


 工房とは言え、直接取引が出来る参加が増えるかもしれないのが嬉しいのであろう。


 対するスペランザ商会当主は渋い顔だ。


 まぁ、精霊石の加工が出来る工房を知らないので仕方ない面もあるのだが。


 こうして、政商どおしの静かな戦いも無事に幕を閉じた。


 精霊石のおかげで贈り物の目処も付いたし、兄上達への祝儀に関しても考えが出来た。


 次は加工技術を見て、取り込むとしよう。

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