第174話 修羅場のクランと依頼
来週は遅めの正月休みを頂きたいのでお休みします。
お休みを終え、日常に戻って来た俺達であったが、現在はちょっと修羅場っていた。
理由は幾つかある。
まず、1週間のお休みは書類の山を作る時間だった事。
次に、お休み最終日に保護した子供達の事。
まぁぶっちゃけると、色んな方々からしこたま怒られた。
表立っては怒られたが、心情的には良くやったとも言われたがな。
ただ、怒ってきた中には財務卿も居たので、こちらには逆撃しておいたが。
『心情的には褒められる事でも、慣習破りは見逃せんよ』
『は? なら、スラムが出来ない財政の組み方が出来てない財務閥に問題があるのでは?』
『一朝一夕で無くせるなら、苦労しとらんわ!』
『つまり、試策はしていると?』
『…………』
『してないのかよ!』
『なら、クロノアス卿が妙案をくれ!!』
『大人はともかく、子供に関しては孤児院を作れば良いでしょうが!』
『土地は? 財源は? 人材は? 何処からかき集めてくるのだ?』
『人材に関しては、それこそスラムでしょう! 国家運営にして教育をしっかり施し、才能を開花させてやれば良い話でしょうが!』
『土地と財源はどうするのだ!』
『財源は上手くやってくださいよ! 土地はあるでしょ!』
『双方とも、少し落ち着け』
ザイーブ財務卿VS俺。
ヒートアップした所で、陛下が止めに入る。
小休止が入るが、父上は気が気でない様子であった。
まぁ、結論から言えば、いくつかはこちらの言い分が通った形にはなった。
但し、俺にはちょっとだけ罰が課せられたが、ある意味これも陛下の恩情と言う事なのだろうか?
『クロノアス卿の言い分は分かった。だが、そこまで言うからにはお主にも協力はして貰うぞ』
『財源ですか?』
『それはこちらが全て負う。代わりに、お主が人材を見繕うのだ』
『財源と土地は国が、人材はこちらと言う事ですか?』
『全てとは言わん。だが、スラムから雇用するのならば、お主が探し出してくるのが筋であろう? お主が言い出したのだからな』
『委細承りました』
『ザイーブ、余剰枠の一部を孤児院建設に当てよ。王都にある孤児院を一か所に統合する』
『陛下!』
『余とて親なのだ。子供には然るべき手助けがあっても良いと思うが?』
『わかりました。しかし、財源はどうにかできますが、土地に関してはどうされるおつもりでしょうか?』
『あそこを使う。場所に関しては、クロノアス卿には何も言わせん』
『外壁区……それも、何かあった場合、一番被害が出やすい場所ですか』
『そこしか空いておらんからの。クロノアス卿も異議は認めん』
『陛下の恩情に感謝を』
『うむ。現在の孤児院は、個人運営だったな?』
『その通りでございます』
『ならば、その孤児院の人材はそのまま引き抜くのだ。少しは足しになろう』
『かなり大掛かりになりそうですな』
『問題は、教育面の人材であるよ。貴族は嫌がるから採用できん』
『そちらに関しては自分が。スラムならばいるはずです』
『ふむ。ならば、人材に関しては少しだが給金を出そう。何も無しでは、葬式すら出来んからな』
こうして、陛下のお考えの元、国家運営の孤児院の草案が出来上がって行く。
何かあれば、その都度改案していき、形としていった。
それと、領地を持っている貴族の中にも、大都市と言われる領地には、やはりスラムが存在していた。
流石にそこまでは手が回らないし、流入の危険性もあった。
それに関しては、孤児院への受け入れはしない方向で話が決まった。
流石にキャパオーバーしてしまうからだ。
王都にある個人経営の孤児院だけでも、そこそこの人数になるからだな。
こうして、子供への救済案が可決され、実行へと移される。
貴族の大半は反対していたが、珍しく陛下が強権を使った。
まぁ、発案者に俺の名前があったから、反対した貴族達の敵視は俺に向いた事だろう。
反対した貴族曰く、陛下は俺に甘いそうだから。
後はお気に入りとも言われているな。
多少自覚があるので、否定できない。
ともあれ、大規模孤児院計画は動きだし、書類の山が増えた一因となった訳だ。
「お館様、こちらの書類に不備が」
「どこだ? ……あ、悪い。これは俺のミスだわ」
「ラフィ! スラムの連中と話を付けて来たぜ!」
「口調」
「おっと。お館様、話を纏めて来ました」
「ナリアは厳しいなぁ」
「日頃から気を付けていませんと、旦那様はボロが出ますので」
「酷ぇ!」
「あはは……」
とまぁ、割と和気藹々と仕事をして行く俺達。
ミリア達は、保護した子供達に勉強や戦闘訓練など、自分達が出来る範囲で教えていた。
休憩がてら様子を見に行ったのだが、真面目に勉強をしている。
最初こそ、いきなり貴族の屋敷に連れてこられて委縮していたが、きちんと説明して状況を飲み込むと……何故か土下座されてお礼を言われた。
他貴族に見られたら風聞が悪すぎるので、直ぐに止めさせたのは言うまでもない。
尚、保護した子供達だが、仕事をしながら勉強をしている。
『全て無償は駄目ですよ』
『本人たちの為にもなりませんしな』
全員からダメ出しを食らって、仕事と勉強の両立をさせている。
午前中は仕事、午後からは勉強と言う形をとっているのだが、子供達も納得しているのもあるが、人一倍やる気を見せてもいるので、敢えて口出しはしない方向にしている。
今後、成人を迎えたら、好きな道を歩ませる予定だ。
無理強いは良くないからな。
後、給金はちゃんと出しているぞ。
今いるメイドも住み込みの者もいるので、衣食住分に関しては給金から引かず、午前に働いた分だけの給金を出している。
使うのも良し、貯金するのも良し、お金の使い方を学ばせる上でも口出しはしない方向で、話し合って決めた。
一定の範囲までは自主性を重んじた形にしたのだ。
そんな子供達の勉強を影ながら見ていると、一人の女の子が俺に気付いた。
少しは気配を消していたんだが、気付くとは思われなかったな。
「お館様!」
女の子が声を上げると、全員が立ってお辞儀をする。
これはいかん……勉強の邪魔をしてしまった。
「ラフィ様、何か御用ですか?」
「いや、ちょっと様子を見に来ただけ。しかし……」
「何ですか?」
「少し聞いていたんだが、リーゼの教え方は上手いと思ってな」
「ありがとうございます」
リーゼの教え方は、前世の日本式と外国式を混ぜ合わせたやり方であった。
特に、数式に関しては前世のやり方と遜色がない。
これ、普通に学校や学院で普及できるんじゃね?
「シアちゃんにも、時々教えていましたからね」
「リーゼは先生の才能があるんだな」
そこでふと考える。
リーゼに教本を作って貰い、孤児院で試験的に使用して、学力向上が見込まれるなら、正式に申請をしても良いのでは?と。
(後でリーゼと話してみるか)
考えを纏めないといけないし、勉強の邪魔も良くないので、一旦この場から離れる。
食堂で飲み物を貰おうと向かうと、何故かブラガスが居た。
はて?何か緊急事態かね?
「お館様! 一体どちらにおられたんですか!?」
「休憩がてら、保護した子供達を見にね。で、飲み物を貰って、戻る所だったんだが」
「そうでしたか。実は、クランの職員が来ておりまして……」
「クランの? 何かあったのか?」
「何と言いますか……。簡潔に言えば、今までのツケが回って来たのもありますが……」
要領を得ないブラガスからの回答。
今の回答から察すると、問題が最低2つ以上起こっていると言う事か。
一難去ってまた一難。
ホント、仕事だらけだよなぁ……。
クランの職員が応接室で待っているとの事で、話を聞きに行くことに。
スゲー面倒な話じゃありませんように……。
「クラマス!」
「お疲れさん。何か問題が出たのか?」
「はい。実は……クラマスに動いて貰わないと、手が回らなくなりました」
「はい?」
職員から詳しく聞くと、頭を抱えたくなるような話が出て来た。
「まずですね、他国に【白銀の翼】の支部を作ると言う話になるんですが……」
「あれは、各国の冒険者ギルドが手を貸してくれる話じゃなかったっけ?」
「建物や職員は問題無いんです。ただ、クランへの応募が圧倒的に多くて、ギルドの業務に支障が出てるそうで」
「マジか……」
「マジです」
詳しく話を聞くと、試験運用されていたクランが、各国の冒険者ギルドで正式採用された。
条件付けはあるが、各国とも10近いクランが一斉に立ち上げを起こしたわけだが、そこに我がクランの支部が出来ると言う話が舞い込んだ。
その話を聞いた冒険者達は、他クランからの移籍申請を出したり、実力不足にも関わらず、何度も申請書を出したり、一部クランからは妨害工作まで出始める始末。
妨害工作に関しては、ギルドが徹底して潰したらしいが、おかげで他の場所の手が薄くなり、機能不全に陥りかけているギルドもあるらしい。
大きな街のギルドは、どうにか回しているらしいが、どこまでやれるかすら未知数との事だ。
「頭の痛い話だな」
「頭の痛いところ悪いのですが、まだありまして」
「あ、やっぱりか」
俺の予想通り、問題は一つだけじゃなかった模様。
そして、次の問題だが、これも頭が痛い話だった。
「指名依頼が飽和状態です」
「げっ! でも、人はいるだろう?」
「こなしてもこなしても、無尽蔵に湧いてきている状況です」
「なんでそんな状況になってんだ?」
「原因の一つは、言っては何ですが貴族ですね」
「あいつら……マジで余計なことしねぇ」
そう思いながら話を聞いたのだが、どうやら嫌がらせとかの話では無いらしい。
単に、需要に対して供給が追い付いていないのが現状だそうだ。
「商人も忙しいそうですよ。理由は間違いなく……」
「フェルの結婚式かぁ……」
王太子であるフェルの結婚式が約2か月後にある。
王家の結婚式なので豪勢な式になるのだが、顔覚えてもらおうとか利権に絡みたい貴族は豪勢な贈り物だったり、珍しい物を贈ったりする。
大抵は商人が忙しいのだが、珍しい物となると冒険者への依頼も多くなる。
今回は珍しい物を探してる貴族が多いと言う事なのだろう。
ただ、冒険者の数が足りなくなるとは思えんのだが……。
「依頼の内容ですが、高ランク向けが多いんですよ。後、遠出の依頼とかも。それで完了させるんですけど、思っていた物と違ったらしく、また依頼が来ると言った感じです」
「うわぁ……それは酷い」
「ええ。ですから、危険度の低い依頼は特例で低ランクに回しています」
「通常依頼は?」
「クランでは回せないので、冒険者ギルドに返しています」
「そこまでかぁ……。直ぐに動かないとまずいか?」
「明日にでも動いて頂けるのでしたら、今日はどうにかします」
「わかった。ちょっと商人側の情報を仕入れてから動くとする」
「では、各職員にはそのように伝えます」
「それで、もう無いよね?」
「…………」
「あるのかよ!」
話しづらい内容なのか、だんまりで答える職員。
これ以上なにがあると言うのか……。
「実は……王家からも依頼が来ていまして……」
「陛下……」
「クラマス自身に指名依頼は入っていないのですが、依頼内容が高ランク過ぎて誰も受けたがらないんです」
「そんなに高ランクの依頼って……。どんな依頼内容なんだよ」
「危険度不明、達成難易度S以上です」
「……おいおい、まさか……」
「はい。あの依頼です」
「そりゃあ、誰も受けんわ」
二人で納得した依頼内容。
依頼達成に掛かる時間が未知数な依頼である。
その名も〝ドリンクスライムの捕縛〟だ。
この依頼の難しさはドリンクスライムの生息域を探すところにある。
記録には捕縛された明記があるのだが、いざ、その場所に行くといないのだ。
一度人間に見つかると移動してしまい、次を見つけるのが難しい。
そして、記録にある情報だと、ドリンクスライムの周りには何故か攻撃的なスライムが共にいることも確認されている。
明記されているのは、アシッドスライムとポイズンスライムが主だが、珍しいのだとゴーゴンスライムなども記録にあったりする。
ある意味、危険度も未知数ではあるのだ。
「王家は、どうしてそんな依頼を出したんだ?」
「実は、結構前から出されてた依頼で、複数の冒険者たちが受けたのですが……」
「見つけられなかったと?」
「加えて、帝国内乱もあったので……」
「あー……それも響いているのか」
これは割と本腰を入れないといけないかもしれない。
ここまで問題が山積みだとは思わなかった。
いや、任せきりだったのも悪かったな。
「とりあえず、王家の依頼は後回しにする。最悪は俺が受けるから、所属の冒険者たちは気にせず動くようにしてくれ。勿論、王家の依頼を受けたいなら構わない」
「王家の依頼に関しては、現状高ランクしか請け負えないようにしてますが、受注ランクを下げますか?」
「うーん……、下げてもBランク以上にしないと厳しくないか?」
「そうですね。ゴーゴンスライムだと、Cじゃ厳しいでしょうね」
「ふむ。ではこうしようか。Cランク受注者は高回復魔法が使える者がいない場合、受注不可でどうだ?」
「……悪くないと思いますが、今の状況では確認をどうするか?が問題になるかと」
「そっちがあったか……。仕方ない。暫くはBランク迄で」
以上でやり取りを終え、職員は帰って行った。
かなり急いで出て行ったので、相当修羅場ってるのだろう。
早く動くためにも、こちらから動いた方が良さそうだな。
「ブラガス」
「わかっています。暫くはクランの方を優先してください。こちらはどうにかして回します」
「助かる」
簡潔に話した後、スペランザ商会へ向かうため、屋敷を出ようとして二人に捕まる。
玄関でヴェルグとリュールが待ち伏せしていたのだ。
「何処に行くの?」
「商会だ。ちょっとまずいことになってな」
「一人での行動は駄目。私達が付いていく」
「ヴェルグとリュールは用事が無いのか?」
「ボクの方は無いね。リュールはどうなの?」
「ん。私も問題無い。ミリアがラフィ様に付いていくようにって言ってた」
「トラブルホイホイだからか?」
「ん。それもあるけど、女除けも兼ねてる」
「変な貴族やご令嬢の排除が目的だね」
信用が無いと言うよりは、俺の時間を無駄にしないためっぽいな。
一応護衛も決まり、馬車でスペランザ商会へ向かう。
今回馬車なのは、時間と言うよりも体裁の方が大きな意味合いを含んでいる。
なんちゃって貴族な俺なので、周りの意見を取り入れた結果ともいえるかな?
とりあえず、急ぎで向かわないと。
「クロノアス様、本日はどのようなご用向きでしょうか?」
「いきなり悪いな。ちょっと今の情勢を知る必要が出来たんだ」
「承知しました。主を呼んでまいります」
待つこと数分、急いだ様子を見せずに商会の主であるブラガスの父親とネス――商業神レーネス――が姿を見せた。
ネスがいると言う事は、実際は急いで来た様子。
お互い握手を交わしてから席へと座る。
「本日は情報をお求めだそうで?」
「クランで色々あってね。単刀直入に尋ねるが、今の商人の動きを知りたい」
俺の言葉に考え込む商会主。
ネスも首を傾げていた。
多分、どういった意図があって聞いてるのかが分からないのであろう。
向こうもその様に聞き返してきたので、クランの情報を伝える。
この二人なら問題ないだろうしな。
「なるほど。それで情勢が聞きたいと」
「教えてもらえるか?」
「大恩あるクロノアス様の頼みです。全てお話ししましょう」
「助かる」
本来、情報と信頼が生命線である商会が、情報を話すと言うのは異例であったりする。
実際ネスは渋い顔をしていたが、文句も言えないのだろう。
俺が許可してるから働けてる部分もあるからな。
「まず、商人達。大店、中店、小店に関わらず、貴族の依頼で忙しいです」
「中店はまだあるとしても、小店もなのか?」
「法衣貴族は多いですから。それに輪をかけて、王太子殿下のご結婚です。どの貴族も必死ですよ」
「王族の結婚はいつもこうなのか?」
「大抵は忙しいですが、今回は少し異常ですね。まぁ、何故異常かはわかっていますが」
話によると、俺が贈る予定の馬車が原因らしい。
現状は王家以外だと開発者である俺とクロノアス家しか所有者がいない馬車。
誰も作れないので、国宝級とも言われているらしい。
「『また、クロノアス家の一人勝ちだ!』とか『国宝級の贈り物を何としても探し出せ!』とか、割と無茶振りしたり愚痴ったりしてますね」
「まさかの俺が原因!?」
「皆さん、王太子殿下に取り入るために必死なのですよ。少しでも価値のある物を――と」
「良い迷惑だ」
「他貴族からしたら特大ブーメランですな」
「…………」
「おっと、失礼。まぁ、以上の事から、どこもかしこも大忙しと言うわけです」
情報は手に入れたが、何とも言えない気分になる。
拡張馬車を贈るのを止めようかな?
「それは止めた方が良いかと。失礼ながら申し上げますと、殿下とクロノアス様は級友で仲が良いと有名です。なのに、陛下に贈られたものが殿下には無いとなれば、不穏な状況になりますので」
「め、めんどくせぇ」
「解決策としては、支部の方と王家の依頼だけで十分かと。下手に貴族の依頼をクロノアス様が受けますと、ややこしい事になりますので」
「仲の良い貴族家もか?」
「そこは問題ありません。逆に言えば、社交辞令の域を出ない貴族家の依頼は断るべきでしょう」
「参考になった。この礼は別の機会にでもさせてもらう」
「助けになって何よりです」
お互いに握手を交わし、商会を後にする。
翌日からはクランの仕事に集中していくのだが、多分、大変になるんだろうな……。
休みが終わったらこれだから、やっぱ世界は俺を社畜にしたいらしい。
絶対に御免だがな!




