第167話 勝負と結末
年末年始の毎日投稿1日目。
今年も残り3日になりました。
皆さんは仕事納めですかね?
久しぶりに学院へと来たら、盛りに盛られた噂を聞いたり、変な貴族令嬢に絡まれたりしたわけだが、教室に来たら来たでいきなり勝負を挑まれてしまった。
学院は何時の間にか、魔境へと変貌していたようだ。
「聞いていますの?」
「聞いてるよ。それよりも、なんで勝負なんだ?」
「少々事情がありまして。勝負が終われば説明は致しますわ」
「後さ……」
「なんですの?」
「口調、可笑しくなってないか?」
「そこは触れないのが、マナーでしてよ」
ヴィオレッタから触れて欲しくないと言われたので、それ以上は聞かないことにしたのだが、なんでリリィは笑いを堪えているのかな?
絶対に理由を知っているよな、これ。
「リリィ」
「な、なんですかラフィ。プッ! わ、私は、何も知りませよ」
「嘘つけ! じゃあ、なんでずっと、笑いを堪えてるんだよ」
「そこはお気になさらずに」
気にするなと言いながら、未だに笑いを堪えているリリィ。
ミリア達は、いきなりの出来事に置いてきぼりだったが、リアの一言で何かを察した顔になった。
「……あ、もしかして」
「リアさん、心当たりが?」
「あるね。でも、ラフィにはまだ話せないからなぁ」
「後で詳しく聞かせてくださいね。多分、そう言う事なのでしょうけど」
「ミリアは察しが良過ぎ。まぁ、間違ってはいないけどね」
リリィは理由を知っていて、ミリア達は何かを察する。
そんな状態の中で、俺だけが何もわからずに置いてきぼりだった。
ちょっと拗ねて良いですかね?
何もわからないまま勝負を受けるのは嫌だったので、理由を聞こうとしたら、始業の鐘が鳴ってしまった。
(くっ! 聞きそびれてしまった)
そして、それぞれが選んだ学科の授業になってしまい、結局の所、何も聞けないまま時間は過ぎ、放課後になってしまう。
逃げても良かったのだが、挑まれた勝負に……ましてや、女性から挑まれた勝負に逃げたとなったら、色々な面々に何を言われるか分かった物ではない。
特に、両親とか陛下とか王妃様とか……。
結局は逃げられないので、訓練場で勝負をすることになってしまうのだった。
「勝負を受けて下さり、感謝いたしますわ」
「なぁ、本当にやるのか?」
「勿論ですわ」
「はぁ……。勝負が終わったら、理由は話してくれるんだよな?」
一応、念押しで聞いておく。
こちらの質問にヴィオレッタはきちんと答えた。
「勿論、一から説明致しますわ。勝っても負けても致しますとも」
「……わかった。勝負の方法は?」
「剣技主体の実戦形式でお願い致しますわ」
「了解した。後さ……」
「なんですの?」
まだあるのか?と言わんばかりに、ヴィオレッタの声音が変わる。
だが、そんな事は気にせずに、言いたい事を告げる。
「喋り方、普通にしても良いんだぞ? 少し無理して喋ってるだろ?」
「……そんなことありませんわ」
「今の間は何かな? まぁ良いや。俺が違和感だらけだから、いつも通りに話してくれ」
「わかり……わかったわ」
こちらの言葉に応える様にして、口調を変えるヴィオレッタ。
うん、やはり昔から聞きなれている話し方の方がしっくりくるな。
その後、お互いに所定の位置へと向かい、距離を取って合図を待つ。
勝負の審判はリアが名乗り出てくれた。
『二人共、勝負は良いけど、審判はどうするの?』
『……決めてませんでしたわ』
『僕がしようか?』
『良いのか?』
『この中で、二人の動きを目で追えるのは僕ぐらいしかいないからね。消去法だよ』
『なら頼む』
『私からもお願い致しますわ』
『了解。(ヴィオレッタは、この勝負が終わったら話し方を戻してね)』
『(勝負後の話次第ですわね)』
何てやり取りが、訓練場に向かうまでの間にあったのだが、やはりリアも事情を知っているみたいだな。
小声で話しているのが何よりの証拠だし。
尤も、聞かれているとは思っていないだろうが……。
そして、今の状況になっているわけだが、ヴィオレッタの装備を見たら、またも違和感だらけ……いや、以前の戦闘スタイルとは全く違っていた。
「おい、舐めてんのか?」
「いいえ。戦闘スタイルを変えただけですが」
「そうか。あくまでも今の方が合っていると言う訳だな」
「そうですわ。何か不都合でも?」
「……そう言うつもりなら、それで良いさ」
俺は何にイラついているのだろうか?
装備が違うから?いや、違うな。
……ああ、そうか、自分自身に合っていない装備をしていると思っているからだな。
以前のヴィオレッタは、突きが主体のレイピア装備であったが、今の装備は一転して、歩兵が装備している片手直剣に小盾になっている。
当時のレイピア装備と同じく、速度を重視した形ではあるが、ヴィオレッタの戦闘スタイルからはかけ離れているからこそ、命を粗末にする気だと思ってしまったのか。
うん、見ても無いのにその考えに至るのは早計だな。
「準備はよろしくて?」
ヴィオレッタから声を掛けられ、こちらも準備が出来たと伝えようとして、再確認することがあるのを思い出す。
きちんと確認しとかないと、後々面倒になるからな。
「準備は出来ているが、再度確認する。これは決闘では無く、勝負で良いんだな?」
「ええ。勝負よ」
ヴィオレッタから再確認を取る。
何故、執拗なまでに再確認を取るのか?
それは、決闘と勝負の違いがあるためだ。
決闘は幼少期に一度体験しているが、勝負と大きく違う点がある。
それが約定の履行というものだ。
決闘は、前以て交わされた約定を基本は履行せねばならない。
本当に一部の例外を除き、必ず履行されるのが決闘である。
そして、決闘を行うには一部の例外を除き、正式な手続きが必要な点もあったりする。
対する勝負は、面倒な部分が全くない点だが、デメリットが無いわけではない。
勝負のデメリット……それは決闘とは違い、履行しなくても良いと言う部分だ。
次に、決闘と勝負についての重要な部分、対戦相手の生死についてだが、こちらも勝負の方がデメリットだらけである。
決闘の場合、間違って相手を殺してしまっても罪には問われないのに対し、勝負だと殺人罪が適用されてしまう点だ。
何故、そのような事になってしまうのか?
それが先程言った、正規の手続きに関係してくるわけだ。
決闘は、国によって多少の違いはあるが、その国の法に則って行われるからである。
対する勝負は、法的拘束力が何もない。
故に万が一、相手を死なせてしまうと、殺人罪が適用されてしまう訳だ。
では、勝負のメリットは何?と思うだろうが、簡単な話だ。
ちょっとした事なら、勝負をした方が手っ取り早いから。
ちょっとしたいざこざで、いちいち決闘の申請なんざしてられねぇ!と言うのが本音ではあるのだがな。
以上の事から、勝負と決闘は別物とされているのが現状だったりする。
では、何故、執拗に確認したかと言う話になるが、後から文句を言われない為である。
実は決闘だった――なんて話は良く合ったりするので、勝負も決闘も審判や立会人が必要不可欠なのだ。
謂わば、証人と言う役割も兼ねているのが審判や立会人だったりする。
尤も、貴族は建前を重視するので、何かあれば決闘をするのが習わしだったりするのだが、あまりしたがらないと言うのが実情だな。
その本音は、割と金が掛かるからであるが……。
世知辛い理由だよなぁ……。
「じゃ、二人共準備……って、ラフィのそれは何かな?」
「え? ただの木の棒だけど?」
「いや、ラフィがそれで良いのなら良いけど……」
審判であるリアが許可を出したが、舐められてると感じたヴィオレッタが怒りだす。
「舐めてますの!?」
うん、まぁ、当然の反応だわな。
ヴィオレッタの気持ちは良くわかる。
俺だって同じことをされたら、きっと怒るだろうし。
なので、こちらの返答は当然こうなる。
「いや、舐めてないけど? 以前の装備ならいざ知らず、今の装備じゃ警戒する必要性がないだけ」
「……後悔させて差し上げます」
ヴィオレッタの言葉が合図となって、勝負が開始される。
リアも慌てて、開始の号令をかけた。
リアの号令と共に、お互いに接近して距離を詰め合う。
お互いの間合いに入ると、先にヴィオレッタが仕掛ける。
「はぁっ!」
掛け声と共に振るわれる片手直剣。
上段からの振り下ろしに始まり、逆袈裟、左横薙ぎ、袈裟、突きと、連続攻撃を仕掛けてくる。
だが俺は、難なくその攻撃を躱し、木の棒でいなす。
(ふむ。攻撃方法自体は基本に則った型だな。小隊長クラスの実力はあるか?)
攻撃を躱しながら考える。
ヴィオレッタにもそれが分かっているらしく、小さく舌打ちをしていた。
どうやらヴィオレッタは、熱くなるとちょっとだけ悪態をつくようになる様だ。
女の子が舌打ちをしてはいけません!と言いたいが、真剣勝負をしているヴィオレッタには火に油だろうな。
「ちょっと! 真面目に戦いなさい!」
「いや、十分真面目に戦ってるけど?」
とは言え、本当に真面目かと言われたらNOである。
ただ、別に遊んでいるわけではない。
単純に力量差があるから、相手には遊んでいる様に見えるだけの話だ。
「どの口が! 全く反撃してこないでは無いですか!」
「そうは言われてもなぁ……」
実は、両親や兄姉の教えの中に【女性に怪我を負わすな!】と言う物があったりする。
もし破ったら、何を言われるか分かった物ではない。
なので、こちらが狙っているのはただ一つ。
背後からの首筋当てなのだが、ヴィオレッタは背後からの一撃をもの凄く警戒しているのが分かっていて、ちょっと手を出しにくいんだよな。
その間も、ヴィオレッタからの連続攻撃は続いてるので、躱しながらどうするかを考えている訳だ。
思考超加速様々である。
「本当に、全く当たらないわね……」
「お? 口調がいつも通りになって来たな」
「本っ当にむかつくわね! そうよ。これが素よ! なんか文句ある!?」
「いや、文句はないけどさ……」
ヴィオレッタの言葉に対し返答するが、実は素の方のヴィオレッタが魅力的だと俺は思うがな。
口に出して言ったら、ミリア達から呆れられるので、絶対に言わんけど……。
たらしとかジゴロとか言われたくねぇし。
「文句は無いけど、なんですの?」
いや、ヴィオレッタさん、何故そこを問題にするかね?
「ふーん……、僕も聞きたいなぁ」
「そこ! 審判だろうが!」
「審判だけど、参加する理由はあるよね?」
リアの言葉で、背中に変な汗が流れる。
現在、ミリア達は訓練場の端で勝負の成り行きを見守っているので、こちらの声は届かない。
だが、リアがミリア達に話したら……。
とてつもない悪寒が俺を襲う。
絶対に阻止しなければ!
「リアさんリアさん」
「何かな?」
「この話は、内密にできませんかねぇ?」
「しても良いけど、どうせバレるよ。後でバレた方が大変じゃない?」
「そっちもあったか……」
ヴィオレッタと勝負しながら、リアと会話する俺。
うーん、器用な事するよねぇ。
……自画自賛は止めよう、虚しい……。
「私を、無視するなぁーー!」
「うぉっ!」
「あ、ごめんね」
ヴィオレッタ、吠える。
明らかに怒りマシマシなので、とりあえずリアの方は保留にして、ヴィオレッタに集中しよう。
尤も、リアと会話しながら勝負をしている訳で、当然、躱されまくってる状況なわけで、苛立ち120%と言った所であろうか?
「……なんで当たらないのよ!」
「いや、仮にも冒険者ランクEXだし……」
「それにしても殆ど躱しているだけじゃありませんか!」
「いやね、俺も今ヤバい状況でね……」
「終わってからにすれば良いでしょうが!」
ヴィオレッタの言う事は最もではあるが、それで済まないんだよなぁ……。
普段は大人しい婚約者達だが、女性関連になると全く頭が上がらないのが実情だ。
まぁ、婚約者同士でドロドロの正妻争いや寵愛の取り合いなどされるよりは、遥かにマシな状況ではあるが。
とは言え、これ以上の嫁は勘弁したいのが本音なのだ。
要らぬ疑いを持たれたくない!
「あ、初めて当たりそう」
「え?」
「貰いました!」
その掛け声と共に、間近に迫るヴィオレッタが放った突き。
もう既に鼻先まで数センチと言った所であろうか?
(やっべ! 考えに集中し過ぎてた!)
とは言え、超思考加速中なので、攻撃が当たるまでには、まだ数秒の猶予があったりする。
それだけの猶予があるならば、問題無いと考え、ちょっとだけ本気を出して躱すつもりだったのだが……。
「勝負あり……だね」
「「え?」」
お互いが声を出し、現状を確認する。
ヴィオレッタの首筋に木の棒が添えられていた。
「あっれぇ?」
「何でグラフィエルさんが疑問形なのですか?」
ヴィオレッタの言う事はごもっとも。
だがな、こちらは躱すだけのつもりだったんだ。
なんで勝負がついているのかね?
「リア」
「何?」
「説明プリーズ」
「いや、見た通りだと思うんだけど?」
「プリーズ」
「仕方ないなぁ……」
そこから、リアの説明会が始まった。
勝負が終わった事に気付いたミリア達も集まって来て、リアの説明会が開始される。
「ラフィがどういった判断だったかは、わからないとだけ先に言っとくね。あくまで見た事実だけ言うよ」
リアの説明では、一瞬の出来事だと言う話だった。
当たると思われたヴィオレッタの突きが空を切って、その直後に首筋に木の棒を添えられただけ。
リアが認識した事実は以上だと言う。
「残像すら残さない速さで動いたんだろうね」
「そこは理解してる。問題はその先! なんで勝負がついたのかってとこ!」
「知らないよ。……あ! もしかしたら、あの話が原因とか?」
「何のお話ですか?」
「えーっとねぇ……」
こうして、勝負は終わった。
お互い不完全燃焼なのは否めないが……。
そして、リアからミリア達に先程の話が暴露され、俺は訓練場のど真ん中で正座をする羽目になってしまった。
その正座は、ヴィオレッタの理由を聞いてからも続くことになり、俺が全部悪い訳でもないのに、ジト目で見られたのは言うまでも無い事だった。
やきもちを妬くのは可愛いとは思うが、正座は勘弁して欲しいと、切に願う俺であった……。
どうしよう……執筆が進まなくてストックが足りん。




