幕間 同盟会議後の王城にて
いつもお読みくださりありがとうございます。
後書きにて少しお知らせがあります。
同盟会議終了後、各国一行はランシェスの王城にて一泊する事になっていた。
本来なら、同盟盟主であるグラフィエルが宿泊施設の提供も行わなければならないのだが、何故、王城になったのか?
それは、グラフィエルが泣きついたからであった。
『我が家で宿泊? 無理です。ムリムリ!』
『警備兵くらいなら貸すが?』
『部屋は問題無いですが、警備兵を貸されても無理です! 警備の数が足りません!』
『体裁があるだろう?』
『体裁よりも安全第一です! 陛下、お願いします』
この後もランシェス王の説得とグラフィエルの拒否が続き、安全面に関して執拗に言われ、ランシェス王が折れた結果、王城にて歓待する運びとなった。
尚、各国には事前に話を通している。
各国とも、グラフィエルの意向に従ったわけだが、その一番の理由は、安全面を強調したグラフィエルに配慮した為である。
決して、グラフィエルの機嫌を損ねない為とかでは無い。
グラフィエル本人は、恐怖政治に関して否定も肯定もしないので、必要とあればするのだと、各国が理解していたのはあるのだが……。
そして現在、王城では各国の王と主導者が部屋を割り当てられた後、ちょっとした酒宴が行われていた。
「では、同盟会議の成功を祝って、乾杯と行こうか」
「「「「「「乾杯!」」」」」」
ランシェス王が次の言葉を言う前に、勝手に乾杯し始める各国の頂点達。
ランシェス王の口角がピクピクしている。
しかし、ランシェス王は思う所があっても飲み込める人物である。
グラフィエルの事に比べれば、何の事は無い。
ランシェス王は器の大きさが更に広がっていた。
本人は全く気付いていないが……。
「さて、今頃は妃達と息子達も各々に話をしている頃だろう」
「妃はともかく、後継ぎ達には有用な意見交換をして欲しい所だな」
「小僧と皇帝の所は応用が利きそうで羨ましいわ」
「うちは……いえ、まともな話になる事を祈るとしますか」
「竜王国王……、その言い方は流石に……」
「良いのですよ、教皇殿。うちの息子は、バカで無いのはわかっているのですが、何と言うか、そのですね……」
「噂通りってか? ご苦労様としか言えんな」
「結婚して、子供が居るだけマシでしょうが!」
竜王国王に対して、一名を除いて全員が同情的であった。
その除かれた人物は、言うまでも無く、レラフォード代表である。
未だ独身街道驀進中の彼女は、伴侶や子供の話になると、最近では割と毒を吐く傾向にあった。
特に、各国の頂点達に関しては、時にかなりの猛毒を吐く。
目は濁った単一色になり、やさぐれ、人を殺しそうな睨みを利かせることもしばしば。
彼女の幸せは、何時、訪れるのか……。
「まぁ、後継ぎの悩みは仕方ないものだ。皇帝は耳が痛いだろうが……」
「構わぬ。あれは、儂の落ち度だしな。教育不足だった……としか言えんな」
「つうかよ、もう教皇か傭兵王が代表を嫁に貰ってやれよ」
「私ですか? 流石に無理ですよ」
「゛あ゛あん?」
「代表、口が悪いですよ。後、弁明しますと、代表の事が嫌いとか無理だと言う意味ではありません」
「未だに根付く、宗教関係か」
「ええ。それに、私も良い年ですからね。子供が出来るかも不明ですし。そう言った理由があるので、傭兵王の方が現実的じゃないでしょうかね?」
教皇から代表を振られた傭兵王、たじたじである。
何こっちに振ってんだ!と教皇を睨む。
だが、代表は、傭兵王に対してアプローチを開始し始めた。
傭兵王、必死に対処法を模索するも、良案が出ない!誰か、助けろ!と視線を送るが、華麗にスルーされる。
傭兵王、貞操のピンチ!
「傭兵王、お主、童貞なのか?」
「悪いかよ! 俺はお前らと違って、初めては好きな女と決めてんだよ!」
傭兵王は乙女であった。
総合ギルマスは漢女で王は乙女……傭兵国はそっち系の人が多い国なのであろうか?
とんでもない疑惑が浮かび上がるが、傭兵国民の名誉の為に傭兵王が吠えた!
「言っとくが、クッキーの野郎は特殊だからな! 俺は元が平民だからだ! 我が国は至って普通だからな!」
傭兵王、魂の叫び!
各国の王達は、とりあえずその言葉を信じることに。
但し、真相は調べないといかんかも?とは思っていた。
どうでも良い調査が開始されそうになっているのだが、そんな事を調査してどうするつもりなのか?
誰もその事に気付かないから、質が悪かったりする。
尚、代表は傭兵王の魂の言葉に一人頷いていた。
「ごほん。とりあえず、代表と傭兵王の話は一旦置くとして」
「「一旦置くな!」」
陛下が仕切り直しの言葉を言うと、傭兵王と代表がハモって抗議した。
二人の息はぴったりだ!
さぁ、さっさと付き合ってしまえ!と、皇王の視線が刺さる!
「だぁー! さっさと本題に移りやがれ!」
傭兵王、遂に耐えきれなくなる!
流石に弄り過ぎたか、と各国とも咳払い。
そして、夜の非公式の集まりは本題へとようやく移る。
「さて、各国としての意見交換ではあるが……、主に話し合いたいのは二つであるな」
ランシェス王の言葉に、全員が頷いて肯定を示す。
その一つ目の議題は、残る二国が同盟に参加する場合である。
例の国は参加はしないであろうが、万が一の場合に備えての話し合いであったが、その件に関しては満場一致の答えが出た。
「彼の国が参加を表明した場合は、同盟各国は反対を盟主へと表明する――と言う事だが、良いのだな?」
「こればかりは仕方あるまい。多くの疑惑があり、未だに暗躍しておるのだからな」
「皇帝の言い分は最もだな。皇国も足並みは揃えるさ」
「神聖国も揃えましょう。こちらも彼の国へは疑惑がありますしね」
「教皇殿がそう仰るなら、神樹国も同調せねばなりませんね。これからの為にも」
「ありがとうございます、代表。さて、残るは傭兵国と竜王国ですが……」
「傭兵国も乗るさ。だが、竜王国は彼の国に含む所はねぇんだろ?」
「そうでもないですな。風竜族を初め、各竜族は……特に黒龍族は一悶着ありそうですし」
「では、彼の国、ダグレストが同盟参加を打診してきた場合は反対だな。さて、残るもう一国だが……」
ランシェス王が残るもう一国――リュンヌに関しての議題を上げる。
その言葉に過敏に反応したのは、神聖国と傭兵国。
宗教に関する根深さは、現在進行形の問題であった。
「神聖国は反対します。あの国とは相容れませんので」
「傭兵国も同じだな。あの国と同じ同盟国家とか反吐が出る!」
「両国は相変わらずだな。神樹国はどっちだ?」
「出来れば、反対したいですね。ただ、我が国は、そこまで険悪でもないので」
皇王の言葉に代表が返す。
神樹国も宗教関連では相容れない国なのは間違いないが、神聖国と傭兵国ほど、彼の国憎しと言う訳でもなかった。
では、何故、神聖国と傭兵国はこれほど毛嫌いしているのか?
それは、リュンヌの政治体系と主神に関する事柄が理由であった。
リュンヌは王政であるが、神聖国に対抗してか、独自に御子を選抜している。
ただ、この御子と言うのがかなりの曲者であった。
リュンヌの御子は、必ず貴族から選抜される。
平民からは、どんな理由があろうと選ばれる事は無い。
選ばれた貴族家は誉れ高いとされるのだが、実はこの選抜こそ、神聖国と傭兵国が最も毛嫌いしている理由でもあった。
貴族からしか選抜されない御子だが、当然の如く裏がある。
リュンヌの貴族達は、御子に選ばれるようにと、多額の裏金を王族と選抜委員会へ支払っている実情があった。
その見返りが御子であるのだが、御子になった後も裏金の支払いは続く。
何故そこまで?と思う者は多いが、御子に選ばれた貴族家は、裏金以上の利益を得る事が出来る。
それが御子税と言われており、貴族、商人は支払う義務があった。
そして、その御子税の一部が裏金として王族と選抜委員会へと入る仕組みだ。
完全に腐敗した国であるわけだが、それに加えて崇め奉る主神の問題もあった。
リュンヌの主神は一神――生命神こそが唯一神とする、独自宗教の国家でもあった。
あのダグレストですら、主神は創世神としているのに、リュンヌはどの国とも相容れない宗教を国教としている。
この主神問題が更に神聖国と傭兵国が強固な姿勢を取らせている実情でもあった。
尚、余談ではあるが、傭兵国は主神は創世神で、次点が軍神、武神、魔法神、破壊神だったりするので、ちょっと前まで神聖国とも仲が悪かったのは仕方無い事であろうか。
今は関係改善しているが、改善されたのはグラフィエルの鶴の一声が合ったからに過ぎない事は、容易に想像できることだろう。
閑話休題
とまぁ、リュンヌとの確執は割と深刻なので、反発は仕方なし。
珍しく教皇も息を巻いて反対しているので、同盟参加は非現実的だった。
「両国の言い分はわかった。だから、その辺にしてくれ」
「まだ言い足りません! あの国の宗教は金さえ積めば許されるような宗教なのですよ!? 何処に等しさがあるのか分かりません!」
教皇ヴァルケノズ、本気でキレていた。
各国は、珍しい物を見た!って感じだが、話が進まないので、強制終了させることに。
傭兵王も思う所はあるのだが、教皇の勢いに飲まれてしまっていた。
傭兵王、残念臭のレベルが上がった!
「と、とにかくだ。リュンヌに関しては、現状は反対にしておこう」
「お、おう……」
「教皇殿は、烈火の如き怒りだったな」
「普段、怒らない人って、怒ると過激ですよね」
「竜王国王は人の事を言えねぇだろうが……」
「教皇殿、どうどう」
各々言いたい放題だが、仕方ない事だ。
代表が教皇を宥めている姿からも分かるように、教皇は既に肩で息をしていた。
皇王と傭兵王は、言葉遣いで教皇を怒らせない様にすべきであろう。
本人達も含め、教皇は怒らせてはならない――と言う、不文律が出来上がった瞬間であった。
そして、教皇が落ち着いてから、次の議題――一番の本題に移る事になる。
「で、次が本命なんだろ?」
「あれか」
「ああ、何となく察しました」
「はぁはぁ……ええ、わかっていますとも」
「「何の話だ(ですか)?」」
「分かっておらん者もいるようだが?」
ランシェス王の言葉に、傭兵王と代表へ残る各国首脳陣が説明に入る。
傭兵王は最近加入したので、多少は仕方無い部分もあるのだが、代表は分かっておけよ!と思う、各国首脳陣。
代表、ちょっとだけ項垂れる。
傭兵王、そんな代表にちょっとだけドキッとする。
代表の春が少しだけ近付いたかもしれないが、今は見守るべし!
「説明も済んだようだし、本題に移るぞ? 小僧、どこまで見据えてる?」
「ふむ……、最悪――いや、最良の未来までか」
「ほう? それはつまり……」
「皇帝の考えている通りですな。ええ、竜王国は協力を惜しみませんとも」
「皆さん、内政干渉には気を付けて下さいよ?」
初めから分かっている者達だけで話が進む。
代表はとりあえず黙っておくことにした。
だって、気付いてなかったんだし、仕方ないよね?
一方、傭兵王も現在は沈黙している。
とりあえずは、一応の結論が出るまでは黙っていることにした様だ。
実際は、めんどくせぇ話になって来たと思っているだけなのだが……。
「内政干渉? 帝国は人材を紹介するだけで口は出さんぞ」
「あ! 皇帝汚ねぇ!」
「汚いも何も、我が帝国は、初めからそのつもりだしな。むしろ皇王よ、そう言った言葉が出る方がおかしいのではないか?」
「竜王国は食材でしょうかね。難民とか出そうですし……」
「神聖国は、宗教関連と治安維持の為の派遣でしょうか」
「てめぇら……。おい、小僧」
「なんだ、皇王」
「お前はどうすんだよ?」
「泣きついてきたら、助けてやるまでだな。勿論、内政干渉などする気は無い」
「あいつが受けるとは、思えねぇんだがな」
「その辺りは、どう転ぶかわからん――が、素直な気持ちだの。どちらにせよ戦争になった場合、我々が勝てば、国土は3分割になるか4分割になるかの違いだけだしの」
「爵位はどうする?」
「他国と同じにするか、独自に作らせるか。どちらにせよ、受けた場合に決めれば良いだろう」
ここで、各国の話し合いが一息ついた所で、傭兵王が口を開いた。
「あのよぉ、そもそもの話、今この場でする話か?」
「どういう意味だ? 傭兵王よ」
「はっきりと言わせてもらうぜ。本人が聞いたら、胸糞悪い話だって事だよ」
傭兵王の言葉に、全員が口を開ける。
しかし、直ぐに思考を切り替え、確かに……と、言える話であった。
「同盟加入の話は、各国との折り合いもあるだろうし、盟主に対して、各国の意見として纏める必要はあるだろう。だがな、その先は本人も交えて話すべきだろうが」
「……そうだな。傭兵王の言葉も一理ある」
「内政干渉以前に、他家へ干渉してしまいますね」
ランシェス王、教皇の言葉に、代表と傭兵王を除く各国首脳陣は反省する。
そう、反省はするのだ。
でも、宙に浮いていて良い話でもない。
そうなると当然、別方向で話が進むわけで……。
「とりあえず、いざと言う時に話は通そう。相談があれば、各々対応でどうだろうか?」
「良いんじゃねぇの?」
「ランシェス王、1つだけ気掛かりがある」
「皇帝よ、何が気になるのだ?」
「クロノアス家には、武官の方が多い気がする。それとなく、文官に関して聞いておいた方が良いぞ」
「ご忠告、痛み入る」
「だぁ・かぁ・らぁ……、裏でこそこそ話してるんじゃねぇ!」
最後に傭兵王の怒号が飛び、悪巧み会議は強制終了の運びとなった。
その後は、雑談となった訳だが、この場の誰もが、とある人物に覗かれているとは全く考えていなかった。
『ふむふむ。各国とも、中々殊勝な考えです。マスターを世界の王に! ……でも、マスターは喜びませんよねぇ。うぅ、マスターを至高の存在にしたいけど、マスター自身が望まないから出来ない。悩ましい……』
RE・コード経由で覗いていたリエルは、深くため息を吐きながら、思考の海へと戻って行った。
12月11日と12月18日の投稿についてですが、検査入院と治療入院をする為にお休みさせて頂きます。
次回投稿日は12月25日に1話上げます。
年末年始は12月29日から1月4日まで毎日投稿します。
諸事情ではありますが、ご理解のほどよろしくお願いします。




