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幕間 輿入れ準備・ミナ編

いつも感想・誤字・脱字報告と修正、ありがとうございます。

 帝国内乱が集結した後、私はラフィ様の婚約者となってランシェスへと移り住みました。


 ロギウスお兄様も護衛として共に来ており、私もロギウス兄様も充実した日々を送っていました。




 ラフィ様や婚約者の皆さんと過ごし始めて数日が経った頃、私はとても驚きました。


 それは、婚約者の皆さんはとても仲が良かったのです。


 何故驚いたかと言えば、私にも兄や姉がいるのですが、表向きは仲が良さそうに見せているからです。


 ですが裏では仲が悪かったり、利権や実家絡みでドロドロしていたりと、幸せとは言えない様子や話を聞いていました。




『ミナも嫁げば分かりますよ』




 仲の良かった姉はそう言って、暗い表情をしていたことがあったのですが、ラフィ様の婚約者達にはそれが無かったのです。


 内乱時に見た仲の良い姿は嘘では無いと思っていましたが、それでも裏では少しくらい実家や国の柵のせいで苦労しているのでは?と思っていたのです。


 ですが実際は、内乱時に見た通りかそれ以上に仲が良いので驚いたわけです。


 そんな私に、ミリアさんはちゃんと説明してくれました。




『不思議ですか?』




『はい。私にも兄と姉がいますが、姉達から聞いていた話と違いましたので』




『歴史がある貴族家だと確かにそうなのでしょうが、ラフィ様は新興貴族なので』




『ですが、各国の王女が降嫁するのであれば、国の思惑などで……と、思ってしまうのですが』




『そうですね。ですが、ラフィ様はその柵の部分を己の才覚でかなり黙らせているのです』




 ミリアさんのお話を聞いて、そんな事が出来るのでしょうか?と言う疑問が浮かびます。


 しかし、私はふと内乱の事を思い出しました。


 ミリアさんは少し笑ってから、更に話を続けます。




『今、内乱の事を思い出しましたよね? 他にもありますが、そう言う事なのです』




『ですがそれは、恐怖政治なのでは?』




『否定はしませんが、本人が望んでしているわけではないのです』




『あくまでも副産物だと?』




『言い得て妙ですね。結果的にそうなっているわけですが、もう少し詳しく言えば、国が勝手にそう思っている――が正解です』




 なるほど、と私は思いました。


 為政者である以上、最悪の想定はすべきである……と。


 それが今は上手くかみ合っている状況なのですね。




『それと、私達の仲が良いのも、ラフィ様が直接見染められたのがほとんどです。リーゼさんやイーファさん達は少し違いますが、ラフィ様自身がきちんとお話して通じ合っているからこそ、私達も仲が良いのですよ』




『そう聞くと、見初められた方が傲慢になりやすい気がするのですが……』




『ええ。ですから、私達も気を付けていますし、貴族家同士の話し合いの場では、敢えてそう言う風に見せる場合もあります』




『表と裏を逆に見せるですか。その発想はないですね』




『ラフィ様の実家は歴史ある貴族家ですが、ラフィ様自身は何も無ければ平民落ちする方でしたからね。だからこそ、新興貴族として確立できているわけですが』




 今の話は貴族家に良くある話ですね。


 あ、だからこそある程度は好きにやれると言う事ですか。




『続けて、ラフィ様は牧畜関係を改善しました。完璧では無いですが、国も利益を得ていますから』




『ランシェスはそうでしょうが、他国は違うのでは?』




『ミナさん、現在婚約者となっている大半の王族と皇族の共通点はわかりますか?』




『……そういうことですか。確かに、利益は受けていますね』




『帝国に関しては微妙ですけどね』




 ミリアさんは苦笑しましたが、確かに帝国は微妙だとは思います。


 ですが、一番初めの話に戻るなら、帝国の元皇太子がラフィ様に対して、宣戦布告をしたのと同義ですからね。


 お父様が介入しなければ、今の私はきっといなかったに違いありません。


 そうなると、帝国だけが微妙なのは仕方ないのでしょうね。


 そもそも、帝国と傭兵国は実力主義の国ですし。




 そんな話をした後、私は皆さんに迎え入れられて、楽しい日々を過ごしました。


 楽しい日々の中には、ラフィ様と二人でデートをして、婚約指輪を頂いたりもしました。




『少し遅くなったけど』




『いいえ。ラフィ様もお忙しいですし、その……二人きりでお出かけも出来ましたから』




 多分私は、少し顔を赤らめて、ラフィ様にお礼を言ったと思います。


 デートの経験など皆無なので、緊張のあまり、記憶が一部飛んでしまったのです。


 当然、帰宅後は皆さんからの質問攻めです。




『隠し事は駄目ですよ』




『情報共有は大切ですから』




『今後の参考にもできますし』




 デートの秘密は無し!が、皆さんの共通認識の様です。


 恥ずかしかったですが、出来る限り話をし、緊張で一部記憶が無いので、結果的に一部の話を有耶無耶に出来たのは幸いでした。




『ラフィのデートスキルが上がってきてない?』




『それは良い事だと思います』




『次は妾の番じゃな』




 イーファさんの言葉にリジアさんとスノラさんが異議を唱えていますが、その状況すらも皆さんは楽しんでいます。


 これもある意味、ラフィ様の家では家風なのでしょうね。




 そして、短いながらも充実した日々を堪能していた私は、輿入れ準備の為に帝国へと一時帰国しました。


 勿論、護衛任務を兼業しているロギウス兄様も共に帰国しています。




「お父様」




「親父」




「二人共、早い帰国だな。まぁ、早々に輿入れの準備であるし、仕方ないの」




「私は、少し嬉しいですけどね」




「ほう?」




「婚約者から妻に成れる日が近づいたわけですから」




「なるほどの。……ミナ、今は幸せか?」




「はい!」




 帰国して直ぐにお父様とお話をして、私はお父様の問いに元気良く答えます。


 私の言葉と表情を見たお父様は、穏やかな笑みを浮かべてから一言「そうか」とだけ言って、執務に戻りました。




「親父、俺は?」




 ロギウスお兄様はお父様に無視されて、ちょっと悲しそうでした。




 帰国した日の夜、夕食を食べながら輿入れの話を進めていきます。


 そう言えば、久しぶりに家族揃って――嫁いだ姉や婿入りした兄は除く――夕食を食べた気がしますね。


 今日は一部のお料理をお母様が調理したとの事でいつもよりおいしく感じます。




「ミナ。帰国中に我が家の伝統料理を覚えて貰いますからね」




「わかりました。お母様」




 我が家の伝統料理ですか。


 婚約者の皆さんでラフィ様に手料理を振舞ったりもしたので、メニューが増えるのは喜ばしいですが、夕食系だと機会は少なそうですね。


 帰ったら、料理人にも教えなさいと言う事でしょうか?




「それとな、ミナの輿入れについてなのだが……」




 お父様が何やら言いづらそうに話します。


 何か問題でもあるのでしょうか?




「帝国は内乱が終わってから日が浅い。そして、当然だが国庫にも重大なダメージを負った」




「輿入れは難しいと言う事でしょうか?」




 そうなると、皆さんよりも遅れて帰る必要が出てきますね。


 全員で話し合った結果、期間を決めていたのですが、これは予想外過ぎます。


 ですが、お父様の言いたい事は違うようです。




「何か勘違いをさせたようだが、お前の輿入れ位は出来る。ただ、予算の調整が必要なのだ」




「そこまで減っているのですか?」




 どの国もそうですが、王族や皇族の資産は莫大です。


 一領主の資産など雀の涙と思えるほどなのですから。


 とは言え、国庫と資産は別なはずです。


 私の輿入れは資産からのはずなので、国庫は関係ないはずなのですが……。




「ミナはこの辺りの話を知らなかったか。嫁入り道具は資産から出して揃えるが、その荷物を運ぶための財源は国庫からとなる」




「どうして分けているのですか?」




「簡単な話だ。輿入れの大規模運搬は国家事業と同義なのだ。その規模を見せつける事によって、帝国は安泰だと知らしめるのが目的でもある」




「嫁入り道具は見えないからですか?」




「いや、嫁入り道具の多さで皇家の資産を示し、輿入れ行列で国庫の規模を示す――と言う事だな」




 帝国の権威を示すために、分けて行う訳ですか。


 そう言えば、お姉様の時も仰々しい輿入れをしていたのを思い出しました。


 当時は分かりませんでしたが、今なら理解できますね。




「だがな、今回はちと規模が違う」




「他国に嫁ぐからですか?」




「それもだが、他国からも嫁ぐ者がいるからな。どの国も権威を見せる為、大規模にやる筈だ」




「同盟国なのにですか?」




「同盟国だから……と言うのもあるな。ミナの旦那がどう思うかは知らんが、貴族、王族、皇族とは、見栄っ張りだからの」




「ラフィ様なら『そんな金があるなら、もっと他のとこに使えよ』と言いそうですね」




「耳が痛いの。ああ、そう言えば、近々ランシェスから技術指導者が来るの」




 確か、お父様がランシェス王に依頼をした件でしたね。


 我が国でも牧畜関係を強化したいからと、大金を支払って技術指導をお願いしたと手紙で書かれていましたが……。




「ランシェス王は渋々と言った感じだの。なんでも、クロノアス卿の一声もあったとか」




「お父様、それは単なる噂ですよ」




「…………そうか。そういう事にしておこうかの」




 お父様に噂と伝えた件ですが、ある意味では真実です。


 とは言え、全てが真実と言う訳ではありません。


 ラフィ様にランシェス王から話が来たのは事実ですが、それは報酬の話だけです。


 牧畜関係の改善は、ラフィ様の発案で行われています。


 ランシェス王家はその案を譲り受けましたが、一定の報酬を支払っています。


 この話はラフィ様から婚約者全員にお話しされている事なので、特に隠す必要も無いのですが。




『王家から、債券が発行されたんだよ』




『買われたのですか?』




『うんにゃ。多分、他貴族からの口撃を躱すためだろうな』




『建前ですか』




『出してもいない金で、年利5%の収入。牧畜関係改善の報酬だろうね』




『どのくらいの期間なのですか?』




『25年らしい。年金と債券年利で毎年貰える額が大白金貨1枚弱なんだけど』




『後で増えそうですよね』




 と言うお話をしたのですが、お父様の話では大金を支払ったと言っていたので、ラフィ様の債券年利が更に増えそうな気がします。


 ラフィ様に資金が集まり気味な気がしますが、お父様は気付いているのでしょうか?




「それでな。以外にも国庫に余裕が無くての」




 お父様が話を続けていましたが、少し思考の中に囚われていたようです。


 ですが、そんな私を見てお父様は口角を上げて笑いました。


 あ、これは色々と悪だくみしている時の顏です。




「ミナの懸念はクロノアス卿に資金が集まり過ぎな件だろう?」




「気付いていたのですね」




「当然だ。そして、資金が集まっている理由だがな……」




 その先の話に、私は思わず口をあんぐりと開けてしまいました。


 お父様の話の中に今現在も同盟非参加国の話が出たのですが、余りにも荒唐無稽の話だったからです。




「クロノアス卿は、いずれ大きな買い物と出費をすることになる。いわば先行投資だ」




「領地ですか? 彼が経営しますかね?」




「ガザライズ、余はな、決して無いとは思っておらん」




「ダグレストとリュンヌですか?」




「リュンヌは無いだろう。可能性はダグレストだな」




「隣国で敵対国だからですか?」




「それもあるが、少なくともあの国は三国を敵に回しておる。何処かは言わなくてもわかるな?」




「我が帝国、ランシェス、フェリックですよね?」




「そして、神聖国、竜王国、神樹国はクロノアス卿にご執心だ。傭兵国も借りが出来るであろうしな」




「実質、同盟国の全てを敵に回しているのと同義ですか」




「だが、あの国は何かがおかしくなっておる。恐らくは大規模戦争になるだろう」




「…………ダグレストが滅びるとお考えですか」




 ガザライズお兄様とお父様のお話を聞いて、ようやく理解しました。


 ダグレストの領地を切り分けてラフィ様に渡す。


 それも、大規模な領地を……ですか。


 ですが、ラフィ様が承諾するでしょうか?


 私は承諾しないと思うのですが……。




「彼は、意外と押しに弱い。続けて、正論で論破したら断り切れない部分もある」




「…………お父様、まさか!?」




 私の考えにお父様はまたも笑って答えました。


 これは……少々危険です。




「お父様、私が許すとでも?」




「許す許さないの問題ではないな。お前の旦那は家臣団の層があまりにも薄い。帝国だけではなく、他国の王達も同じ考えだと思うがな」




「私が止めます」




「無理だな。家臣へ志願する流れはどう足掻いても止められん。ならば我々のすることは、適切な人材を送る事になる」




「ラフィ様が許容するとは思えません」




「許容せざるを得んのだよ。武官はまだしも、文官に関してはどうにもならん」




 お父様の言う事は理解はできますが、ラフィ様が望んでいない事を私は許容できません。


 ミリアさん達も同じでしょう。




「一つ勘違いをしている様だが、別に乗っ取るとか干渉する気は無いぞ」




「信じられません」




 私はお父様に甘え切ってるオドオドした皇女と言う印象が根付いてますが、1つだけ間違いがあります。


 私は、お父様の思考を読み解く努力をしていたのですから。


 オドオドは否定できませんが……。




「あのオドオドしていたミナがこんなにも立派になって」




「母上、今はそれどころでは……」




 ガザライズお兄様の言う通りです。


 お母様は空気を呼んで下さい。




「妻の発言はこの際置いておくが……。先にも言った通り、干渉する気は無いぞ」




「では、何故?とお聞きします」




「下手に干渉して、怒りの矛先が向いたら困るからだな。だから、適切な人材を家臣団に斡旋して、それで終わりだ。当然、家臣に抜擢されたら、実家との縁は切らせる」




「反発必須になると思いますが?」




「余が抑える。それに、余り者の三男以降を対象にする予定だ」




 お父様が最後に言った言葉が事実なら、確かに家臣団の層は厚くなりそうです。


 そして最後に、お父様は一言付け加えました。




「あくまでも、領地を得たならばだな。その時が来たら連絡はするから、そんなに睨まないでくれ」




 お父様に言われて、自分の顔を触ります。


 続けて、侍女が手鏡を持ってきてくれたので、鏡で顔を見ると確かに怖い顔をしていました。


 これはいけません。


 どうにか、表情を戻して話を再開しようとしますが、お父様は伝える事は伝えたと言わんばかりに口を噤みました。


 これ以上は、話さないと言う事なのでしょう。


 私はため息を吐いてから、輿入れの話に戻すことにします。




「それで、輿入れはどうされるのですか?」




「大々的に行うとも。予算の都合もつける。ただ、ちょっとは荷物を減らして欲しいの」




「ラフィ様にちょっかいを出せない様に、目一杯増やしますね」




 私がにこやかに返事を返すと、お父様は口角をヒクヒクさせていました。


 半分は冗談なのですけどね。




 そして翌日からは輿入れの準備に取り掛かります。


 まぁ、やる事は嫁入り道具の選別と服の選別ですが。


 後はお母様から伝統料理の手ほどきとちょっとした訓練ですね。


 とは言え、半月ほどで輿入れ準備と伝統料理の手ほどきは終わってしまったので、久しぶりに仲の良かったお姉様に会いに行きました。


 近況報告も兼ねてですが、お姉様はとても喜んでくれました。


 ただ、ちょっとだけ闇堕ちしそうではありましたが。




「ミナは素敵な旦那さんで良いわねぇ。奥の関係も良好そうだし」




「あの……お姉様はあれからは……」




「変わらないわよ。跡継ぎは産んだのだし、好きにするわ」




「今度、私達のお茶会に招待しますから、その時に色々とお話しくださいな」




「目一杯、愚痴るわ!」




 等のやり取りがありました。


 そして、約束の日になり、私はラフィ様に連絡を入れます。


 あれ?そう言えばロギウス兄様は……。




「俺、皆から1カ月放置されてたんだが……」




「ロギウス兄様ごめんなさい!」




 輿入れ準備の最後は、何とも締まらない形で幕を閉じました。

今月の投稿は、全て幕間で終わりそうです。

う~ん……ここまで幕間が長くなるとは予想外だった(笑)

当初予定していた話数じゃ終わりそうにないし、なんでこうなった?

年内にはある程度までは進めたい作者の謎の疑問でした(笑)

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