幕間 輿入れ準備・ラナ編
いつもお読みいただきありがとうございます。
今回は後書きを少し書いてあります。
私、シャラナ・ゴショク・フィン・オーディールは輿入れの為、自国であるオーディール竜王国に帰省しています。
そして今は、城の訓練場にて騎士団総長と訓練をしています。
「はぁぁぁ!」
「ぬぅ!? 中々に鋭い攻撃!」
「そう言いながら、軽く受け流しているではないですか!」
「姫様とは年季が違いますからな」
帰省した翌日から、騎士団総長と朝から夕方まで実戦形式の模擬戦をしているのですが、やはり一筋縄にはいきません。
これがラフィ様の言っていた経験の差と言うものなのでしょう。
さて、何故私が騎士団総長と濃い訓練をしているのかと言いますと、それは帰省した日に遡ります。
『お父様、お母様、輿入れの為に一時帰国しました』
『お帰り、ラナ』
『あらあら。輿入れとなると、色々と準備しないといけないわね』
『ふっ、お転婆な妹にもようやく『そこの変な人、五月蠅いです』ぐふっ!』
『二人共、相変わらずだな』
以前からのやり取りを終えてから、私は事情説明をします。
とは言っても、先ほど言った通りなので、特に話すことはないのですが。
一通り話をした後、私は輿入れ準備の時にどうしてもしなければいけないと決めた事があるので、お父様にお願いをします。
『お父様、騎士団総長を呼んで頂けませんか?』
『ん? 呼ぶのは構わんが、何か用事があるのか?』
『騎士団総長にしか、お願いできないことがあります』
『……わかった。誰か! 騎士団総長をここに!』
お父様が近くにいる者に騎士団総長を呼びに行かせます。
今の時間帯なら、訓練場でしょうか?
暫くして、騎士団総長がお父様の執務室へとやってきました。
『騎士団総長ドリッド・フィン・ボーエン、お呼びとあり参上しました』
『うむ、楽にせよ。それでな、娘が騎士団総長に話があるそうなのだ』
『姫様がですか?』
『詳しい話は娘から聞いてくれ』
騎士団総長はお父様から話を聞き、私の方へ用件を聞いてきました。
そして、私が話した内容にお父様は止めに入り、騎士団総長は驚いています。
お母様は通常運転で『あらあらまぁまぁ』していましたので、とりあえずは放置しておきます。
『姫様。何故、自分にお声掛けを?』
『騎士団総長が適任だと考えたからです』
『訓練ならば、近衛でもよろしいのでは?』
『正直に言いますと、近衛総長ならば実力的に問題は無いと思います。ですが、騎士団総長と近衛総長では、とある部分で決定的な差が出ていると考えています』
『その差とは、なんですかな?』
『実戦経験の差です。近衛も訓練はしているでしょう。時には騎士団に混じって遠征などもしていると聞きますが、やはり実戦数となれば騎士団の方に軍配が上がると思っていますが、間違えていますか?』
私の言葉に騎士団総長は少し考えて……何故か豪快に笑いだしました。
一体何が面白かったのでしょうか?
『なるほどなるほど。姫様は姫様なりに考えられたのですな。ですが、近衛総長と自分にそう差があるとは思えませんな』
『私、これでも人を見る目はありますよ? 付け加えるなら、ラフィ様と共に戦場や魔物狩りなどもしていますし、訓練もしていましたから、それなりに目は肥えています』
私の言葉にお父様もお母様も何も言わず、騎士団総長も沈黙しました。
何か間違った事を言ってしまったのでしょうか?
ですが、騎士団総長は直ぐに真面目な顔に戻って、お父様に進言を始めました。
『陛下。姫様の言葉が真実ならば、何名かの騎士と試合をさせたいのですが』
『駄目だ』
『ですが、姫様は修練を望んでおられるご様子。回復魔法が使える者も待機させますし、なるべく怪我をさせないように配慮しますが』
『お父様、私からもお願いします』
『ううむ……だが、しかしなぁ……』
『陛下。これは姫様の適性検査とでも思ってください』
『お願いします、お父様』
私は目を潤ませて、お父様にお願いをします。
ここぞと言う時の、必殺のおねだりです。
お父様は、私の必殺おねだりにタジタジです。
後、もう一息なので、ダメ押しのお母様で押し切ります。
『お母様、お父様を説得して下さい』
『その前に、1つ聞きたいのだけど?』
『何ですか?』
『どうして、修練したいのかしら?』
『ラフィ様は過保護ですが、それは失う事を極端に恐れているからだと思うのです。それならば、せめて自分と皆を守れ位の力は必要だと感じたからです』
『ラナじゃなくても良いのじゃなくて?』
『ラフィ様の傍にいる為には、努力を惜しんではいけないのです。ラフィ様の妻として支えていくのは勿論ですが、ただ支えていれば良いとも思いません』
『気持ちはわかるけど、ラナでなくても良い理由ではないわね』
『甘えるのと何もしないのとでは全然違います。私は、何もしない堕落した妻にはなりたくないありません』
『そう……。なら、私から言う事はないわね。しっかりと旦那様を支えるのですよ』
『はい!』
最後にお母様からの許可を得ました。
これでお父様も認めるしかありません。
お父様はお母様に凄く甘いですから。
『はぁ……。騎士団総長、我が妻と娘は強いな』
『心が、ですな。姫様のレベルに合った修練方法を模索しましょう。ただ、もしも才能があった場合には……』
『わかった。あれの授与を許可しよう。……嫁入り道具にあれで良いのかとは思うがな』
『お互い、娘には悩まされますな』
お父様と騎士団総長が、何やら分かり合った様な会話をしています。
その会話が終った後、騎士団総長は一礼して退出して行きました。
そして、話は今に至るのですが――。
「きゃっ!」
「姫様。鍔迫り合いは姫様にとって不利ですぞ」
「わかっています!」
「鍔迫り合いに勝とうとして、筋肉がついて腕が堅くなれば、旦那殿に嫌われるかもしれませんな」
「余計なお世話です!!」
修練を始めて十日、騎士団総長から一本も取れていません。
騎士団総長以外の騎士では私の方が強く、部隊長クラスでようやく私の相手が務まる位だったので、騎士団総長が直々に付き合って下さっているのですが、部隊長と総長では強さの次元が全く違っているのが良くわかりました。
部隊長も実戦経験は私より豊富で技術面も上でしたが、ラフィ様の家臣であるウォルド様に鍛えて頂いたのが幸いして、戦闘能力の総合面で上回っていたのですが、総長相手では全く相手になっていないのです。
これは戦闘方法を変えるしか無いですね。
考えを纏め、もう一度修練を開始しようとして、お母様の声が聞こえてきました。
「ラナ。あなた、どうして訓練場にいるですか?」
「お母様?」
お母様のお顔がとても怖いです。
ですが、今日も急ぎの用事は無かったはずです。
お母様は、何故こんなにも怖いお顔をしているのでしょうか?
小首を傾げて、本気で分からない素振りをすると、お母様は盛大にため息を吐いた後、私を叱り始めました。
「ラナ。あなたにはきちんと伝えたはずなのですが?」
「伝えた? 記憶にないのですが?」
「あなたは……。今日はドレスの試着や輿入れ用の家財道具を選ぶから空けておきなさいと言ったでしょうが!」
「私、聞いてないです」
「そうでしょうね。私が話しているにも拘らず、聞き流していたのですからね」
あ、これは駄目なやつです。
お母様が本気で怒っている時の気配です。
怒っているお母様は、家族の誰も止められないのです。
「あなたは……そういう所は、全く進歩してないのはどうかと思いますよ」
「お母様……あの、何もこの場でなくても」
「何処でも同じでしょう? それとも、この場だと問題でもあるのかしらね」
「その、恥ずかしい……です」
「恥ずかしいのでしたら、こういうことにならない様に気を付けるべきでしょう?」
「うう……ごめんなさぁい!」
訓練場でお母様からのお説教を頂いた私でしたが、当然周りに騎士達はいるわけでして……。
その騎士達から温かい目で見守られてしまう私がいて……。
うう……もの凄く恥ずかしいのです。
あ、騎士団総長が笑いを堪えているのです。
絶対に訓練で痛い目に合わせてやるのです。
私は騎士団総長への細やかな復讐を誓いながら、お母様に引きずられていくのでした。
あれ?お母様ってこんなに力が強かったでしたっけ?
その日の午後、お母様から一週間の訓練禁止を言い渡されました。
「お母様、酷いです」
「あなたは、一体何をしに戻って来たのかしら?」
「えっと……輿入れの準備に」
「その準備は進んでいるのかしら?」
「…………えへへへ」
「はぁぁ……。本当に、そういう所は誰に似たのかしら」
お母様に似たのだと思います。
決して、口には出せませんけど。
言えば倍返しどころではありませんし。
私は言いたい感情を押し殺して、黙々と着せ替え人形になる事にしました。
「姫様、今度はこちらを着てみましょう」
「こちらのドレスも似合いそうですね。アクセサリーは……こちらが良さそうです」
「王妃様、普段着はどうされるのですか?」
「商人が明日来るので、その時に見繕いましょう」
侍女達が楽しそうに私を着せ替え人形にしながら、お母様に明日の段取りを聞いて行きます。
それから、訓練禁止を言い渡された一週間の間、着せ替え人形にされながら、騎士団総長に一矢報いる方法を考えながら過ごしていきました。
結果として良い方法が思いつきましたが、お母様のお話をまた聞き流してしまい、もの凄く怒られた挙句、訓練中止を言い渡されそうになって焦ってしまったのは、ちょっとした笑い話としてラフィ様にお話しようと思います。
そして、お母様に言い渡された訓練禁止期間が開けました……が、輿入れの準備が終わっていません。
お母様から更に追加で禁止期間を設けられてしまいました。
「お母様!」
「駄目なものは駄目です!」
聞く耳持たずでした……ちょっと泣きそうです。
そして、どうにか5日後には全ての準備が終わり、ようやくお母様からも許可が下りました。
ですが、あまり時間も残っていません。
早速、騎士団総長と修練再開です!
「準備は終わられましたのかな?」
「勿論です。ここに、お母様の許可証があります!」
何故かお母様が、お父様に訓練許可証の発行をしていました。
私は約束は守ると言うのに……。
私は信用が無いのでしょうか?
……そう言えば、色々とやらかしていたような気がします。
これは黒歴史ですね。
誰にも知られないようにしなければ……。
「では、修練を再開しましょうか。時間も限られておられるようですし」
「今日こそ、一本取って見せます!」
思考が別の方向へ行きかけていたのを、騎士団総長の声掛けによって戻します。
集中しなければ怪我をするので、余計な考えはいけません。
騎士団総長と相対してから、一息吐いて集中力を上げます。
さぁ……今日こそ取りますよ。
「行きます!」
「どこからでも!」
お互いに一声掛け合った後、私は距離を詰めて横薙ぎで剣を振り、それを騎士団総長が盾で受け止めます。
続いて総長は上段から剣を振り下ろしますが、盾で受け止められていた剣を弾いて後方へとバックステップで逃げて距離を稼ぎ、再度仕掛けます。
しかし総長は、直ぐに剣を引き、盾を前面に出して半身で行う守りの型を展開して、こちらの攻撃を受け止める体制を取りました。
いつもと同じ流れに、私は思わず舌打ちしそうになりましたが、慌てて止めます。
(私は王女。舌打ち何てもってのほかです)
ですが、騎士団総長の守りの型は本当に堅牢です。
耐性を崩させるのは至難の業になるのですが、ここは敢えて突っ込んでみます。
「やぁぁぁ!」
「ぬっ!」
気迫と共に着きを繰り出しますが、騎士団総長特注の丸みを帯びた盾に受け流されてしまい、その反動を利用した総長がカウンターを繰り出してきます。
(ですが、これがチャンスです!)
突きを受け流され、がら空きになった背に騎士団総長の件が迫りますが、片足を軸にして回転し、遠心力を利用して攻撃を受け止めます。
ですが、やはり力負けして吹き飛ばされてしまいました。
しかし、ただ吹き飛ばされたわけではありません。
吹き飛ばされるのは織り込み済みなのですよ!
吹き飛ばされる直前に、がら空きになった胴に後ろ回し蹴りをお見舞いしてやりました!
え?淑女がはしたない?問題無いのです!
ラフィ様考案のスパッツを履いているのです。
『スカートでも動きやすくしたい?』
『正確には、動いても下着が見えなくしたのですが、王女としての風聞もあって、ズボンは履けないのです』
『なるほど。なら、スパッツを作ってみるか。試作品で作るから、後で感想を聞かせてね』
ラフィ様と帰国前に相談をして、作って頂いたこのスパッツに死角はありません!
どんなに激しく動いても下着は見えませんから、後ろ回し蹴りも出来ちゃうのですよ。
「くっ! これは予想外でしたな」
「一矢報いてやったのです!」
鎧を着ているのでダメージは皆無でしょうが、予想外の動きと攻撃に総長は苦い顔をしました。
ですがそれも一瞬で、次には笑っていました。
私も思わず笑顔になります。
「流石……と、言うべきでしょうな。ですが、やはり両刃剣は姫様に合っていないように思います」
「……そうですか」
騎士団総長の言葉に落ち込みますが、総長は騎士の一人に言伝して、何かを取らせに行かせます。
その間、休憩になったので、水を飲んで待っていると騎士が戻ってきました。
戻ってきた騎士の手には武器が握られていますが、あれはもしかして……。
「姫様にはこちらのほうが良いでしょう。竜王国でも一握りの者しか扱えない武器にして、戦闘術の一つ」
「総長、まさか……」
「はい。刀でございます。そして、姫様は格刀術の方が合っているかと」
竜王国の中でも攻防一体と言われる、使い手の少ない戦闘術を私が?
少し混乱する中、総長は続けて話をします。
「陛下には許可を取ってありますよ。刀自体は量産品が山の様にありますが、これは本物の魔刀です。姫様ならば、きっと扱えるでしょう」
「お父様が……。ですが、良いのでしょうか?」
「構わんよ」
了承の声が聞こえたので、声の方を振り向くとお父様がいました。
執務は良いのでしょうか?
「お父様?」
「騎士団総長とは話をしていてな。お前に才能があるのなら、嫁入り道具として持たせる予定だった」
「ですが……これは国宝なのでは?」
「国が管理はしているが、国宝では無いよ」
「国外に持ち出すと、貴族達が黙っていないはずです」
「黙らせたよ。お前の旦那は、確かに敵が多い。だがな、竜王国の貴族達は友好な立場だ。なんせ国を救ったのだからな」
「良いのでしょうか?」
「先にも言ったが、才能が無ければ渡さんよ。ラナ、お前は才能の片鱗を見せたのだ。ただ眠っているよりは、使える者に渡した方が良い」
「お父様……。謹んで拝命いたします」
「うむ。お前の目的の力になる事を、切に願う」
「ありがとうございます」
こうして私は、新たな力をお父様から頂きました。
きっとお父様は、魔刀を私に託すために苦労なさったに違いありません。
(ありがとうございます、お父様)
そして私は、時間の許す限り格刀術を学ぶ事にしました。
騎士団総長も基礎は習っているそうで、残りの時間を全て修練に費やしました。
「姫様は、才能がおありですな」
「そうなのですか?」
「格刀術は、基本からの応用が難しいのです。基本は刀の扱いと格闘術ですが、応用して組み合わせるのに才能が要ります」
「簡単に思えるのですが……」
総長の話によると、とっさの判断力にどう応用していくかが非常に難しいそうです。
ラフィ様やウォルド様を見ていると簡単に見えるのですが……。
「目が肥えているのでしょうな。もしくは、クロノアス卿の家臣との訓練で才能が花開いたのかもしれません」
総長はそう言ってから、基本の訓練を再開させます。
そして、どうにか基本を修得した私は、皆で決めた約束の日にどうにか間に合わせる事が出来ました。
これでラフィ様の隣に立って戦う事が出来るのでしょうか?
いえ……一番は妻となる皆を守る事が出来るかですね。
帰ったら、ラフィ様に見て頂きましょう。
愚痴も含めて、話したい事が沢山出来ました。
ミリアさんが淹れてくれた紅茶を飲みながら、私の1か月間をお話しするのです。
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きちんと目は通しているので、ご了承ください。
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最後に来週の投稿ですが、諸事情によりお休みさせて頂きます。
次回投稿日は25日になりますが、どうぞ宜しくお願い致します。




