160話 試練と言い合い(仮)
日付を1日勘違いしてました。
楽しみにしていた読者様には、大変申し訳なく……。
あ、サブタイの(仮)は、変更予定があるのでつけております。
宴が終わった翌朝。
案内された家で一晩を明かし、身体をほぐしてから外に出る。
外に出て一番初めに見たのは、死屍累々とした竜達とウォルドであった。
どうやらウォルドは酔い潰れて、外で寝ていたっぽい。
そして、ウォルドを含めた竜達から聞こえる声。
ある意味地獄絵図であった……。
「ぎぼちわるっ」
「のみずぎだ……」
「だれか、だずけで」
他にも「はぎぞう」とか「し、しぬ……」などの声も聞こえてくる始末。
そんな状況の中、こちらに向かって歩いてくる老人二人。
白竜族の長と銀竜族の長である。
二人は飲み過ぎで這い蹲っている同胞を見てため息を漏らした。
うん……その気持ちは痛いほどわかるぞ。
「グラフィエル殿、お見苦しい物を見せてしまって……」
「嘆かわしい。仮にも竜であろうに……」
「お二人の気持ちはわかりますよ。こちらも護衛がねぇ……」
そして3人共に溜息を吐くのであった。
そんな俺達の姿をヴェルグは苦笑いしながら見ていた。
飲み過ぎで唸っている者達を放置して4人で朝食を取り、現在俺達は里の郊外へと来ていた。
これから昨晩話した試練を行う訳だが、一体どんな試練を行うのであろうか?
人型の銀竜は目的地に着くと竜の姿に戻って、俺と相対する。
「さて、試練の内容だが、まずは強さを見せてくれ」
「戦えば良いのか?」
「是であり否である」
「どういうことだ?」
銀竜はこちらの質問には答えず、時空間魔法とスキルを発動させる。
同時に、俺が持つスキルが勝手に発動した。
今起こった出来事を冷静に分析して、俺は銀竜が何をしたのかを瞬時に理解する。
「やはり持っていたか」
「思考加速の同調か。持っていない時点で、試練失格になるのか?」
「否。だが、持っていなければ、我の方に優位性があるだけだ」
「なるほどね」
銀竜が行った思考加速の同調。
それはつまり、周りへ被害を出さない為の工夫でもあった。
思考を加速させた状態で同調し、脳内イメージ戦闘を行う事で現実への被害を無しにしようと言う事であった。
そうなると、思考加速の上位スキルである超思考加速は使わない方が良いのか?
『使えるなら使って良いぞ』
『うぉ! びっくりした』
『同調させているからな。表層意識で考えたら相手にバレるぞ』
『そう言う事は事前に言ってくれ』
『ラフィって相変わらず何処か抜けてるよね』
『いつもこの様な感じなのかね? 奥方』
思考加速の同調にしれっと入っているヴェルグと白竜の長。
なんで二人共同調領域にいるんですかね?
『同調指定をしたのはお主だけだが、魔法自体は範囲魔法なのでな。スキルを持っていれば同調可能だ』
『人のツッコミに真顔で返すな。言われんでもわかってるわい!』
ちょっとしたボケに真顔で返す銀竜へ突っ込んでおく。
あれ?俺は何時から関西人になったんだ?
……うん、考えるのは止めよう。
どうせまたボケ殺しされるし、本題に移ろう。
『ラフィが真面目モードに入った』
『ほう? それでは拝見するとしましょうか』
外野が色々と言ってるが無視を決め込んで、銀竜へと相対する。
試練が開始されるわけだが、精神的に弄られた感が拭えないので、初っ端から全力で行くとしよう。
決して、イラっとしたとかやり返したいとかじゃないからな!
『では、始めるとしようか』
『泣かしちゃる!』
同調領域での脳内イメージ戦闘を開始するのだが、結果だけ言うと俺の圧勝であった。
宣言通り、銀竜のプライドをズタズタにしてちょっと泣かせてやったのだが、脳内イメージ戦闘の内容は至ってシンプルな戦闘だった。
初っ端から超思考加速を発動して銀竜よりも優位に立ち、銀竜が繰り出す全ての攻撃を無効化した上で、物理でフルボッコしただけである。
途中から銀竜が『もうやめ……』とか『ゆ、ゆるひて!』など言っていたが、聞く耳持たずにフルボッコし続けた。
そして、同調を解除して今に至る訳なのだが、当の銀竜はと言うと――。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい――」
ひたすら許しを乞うていた。
白竜の長はドン引きしているし、ヴェルグは「やり過ぎだよ……」と呆れている。
ヴェルグの言葉に反論できないので、素直にごめんなさいして銀竜のケアにあたるのであった……。
銀竜がどうにか落ち着きを取り戻し、試練の結果を聞くのだが、聞くまでも無く戦闘試練は合格であった。
これで試練は終わりなのかと聞くと、試練自体は複数あるとの事だったが、銀竜は残りの試練を行う気は無いと言い切る。
何故に?と思うのだが、銀竜の答えはシンプルであった。
「行う必要が無くなった」
「まぁ、あれだけの事をされたらのぅ」
「ラフィってトラウマ製造機だよね」
「ヴェルグ酷くね!?」
だが、ヴェルグの言葉は当たっていて、トラウマ製造機と聞いた二体の竜の長は震えあがっていた。
いやいや、別に何もしないんだが?
とは言え、銀竜が言う試練の内容であったが、俺は既に次の試練は合格しているとの事だった。
「次の試練は、思考加速を有効活用できているかであったが、超思考加速を持っている時点で合格である」
「そんなんで良いのか?」
「無論。超思考加速は思考加速の上位スキルである。上位スキルを有している時点で思考加速を有効活用してきた証になるのだからな」
「残りの試練は?」
「臆さぬ心であるが……お主は大丈夫であろう?」
「相手と状況によるかな?」
「引けぬ戦いで臆さねば良い。例えば、守りたい者を守り切る戦いなどだな」
銀竜の言葉に俺は考え込んでいると、ヴェルグがうんうんと頷いていた。
ヴェルグには心当たりがあるらしい。
俺にはさっぱりであるが、ヴェルグの反応を見た銀竜はみて来た者の意見を採用した模様。
いや、フルボッコの後遺症で逃げただけかも知れんが、そこには触れないでおこう。
またケアをするのは大変だしな。
こうして、銀竜の試練は幕を閉じたのだが、試練を行った理由は何故だろうか?
その理由は、クロノアス家の始まりと銀竜の役割に関する為だった。
「まずは試練の通過を称えよう。汝には相応の資格がある」
「そりゃどうも。それで、昨日の話に戻るのか?」
「うむ。だがそれを語るには、我に関する全てを伝えなければならないがな」
「どういうことだ?」
俺の質問と同時に光が収束して、リエルが姿を現す。
この時点で姿を現すと言う事は、何かあるな?と考えた。
それは当たりで、リエルは結構焦っていた。
そこまでリエルが焦る理由は何なのか気にはなったが、更に珍しい者が参加してきた。
「まさか……時の大精霊まで来るとは……」
「お久しぶりです、精霊王様」
「久しぶり。で、ここに来た理由は?」
「全てをお伝えする為です」
「待ちなさい! 原初との約定を、あなた方は破るのですか!?」
「リエル?」
「原初と共に在りし核よ。その原初が彼なのでしょう? ならば、話しても問題はないはずですが?」
「問題のすげ替えに過ぎません!」
「貴様は何を懸念している?」
「私は、マスターの為に動くだけです。今のマスターには早過ぎます!」
「それを決めるのは我らではない。それにだ。マスターの為だと言ってはいるが、本当にその者の為なのか?」
「問題のすげ替えだと言っているでしょう!」
「核よ。何故に伝える事を拒むのです? むしろ知らなければいけない事柄でしょう」
「それを決めるのは、あなた方ではない!」
「その言葉、そのまま返そう。聞かない事を決めるのも核の役割では無いだろうが」
「黙れ! クソ雑魚銀竜が!」
「否定はせぬよ。故に強者で資格ある者が決めるべきであろう?」
「黙れと……「リエル」」
俺の言葉に言い争っていた者達がこちらを見る。
リエルはバツが悪そうに、大精霊と銀竜は平静を装って。
全員が俺の言葉を待つ間、辺りには静けさが漂っていた。
俺は、この時だけは上位者として振舞うことを決めて、話を始める。
「さて、リエルは原初の約定と言ったが、その約定の内容は? 今、ゼロから受け継いだ内容を確認したが、そんなものは見当たらないのだが?」
「そ、それは……」
「次に、時の大精霊。お前は以前はぐらかしていた内容を全て話すと言う事で相違ないか?」
「仰られる通りです、精霊王様」
「最後に、銀竜。お前が話す内容は、銀竜の役割とクロノアス家の事について以外にあるのか?」
「無い。ただ、話自体では疑問が出て、脱線する可能性はある」
「で、リエル。俺は話を聞きたいんだが?」
「だ、ダメです! 許容出来ません!」
「それは何故だ?」
「…………」
「だんまりすると言う事は、何かやましいことがあると捉えるが?」
「全ては、マスターの為です」
「そのマスターが聞きたがってるのに止めるのか?」
「後悔する可能性が高いのです」
「……何を知っているんだ?」
「言えません」
「はぁ、情報秘匿は勘弁してもらいたいのだが?」
「これだけは、何があっても言えません」
さて、どうしようか?
原初権限でリエルに介入しても良いのだが、出来る限りリエルの意思は尊重したいとも考えている。
悩む俺にヴェルグが服の裾を引っ張ってきたので、何か打開策が無いかを聞いてみる。
するとヴェルグは、リエルを説得すると言い始めた。
あそこまで頑なに拒否し続けるリエルを説得できるのかは、甚だ疑問ではあるが、ヴェルグには考えがあるようなので任せてみる事にした。
「大船に乗ったつもりでいてよ」
「泥船の間違いじゃないのか?」
「ひっど! ボク、泣いちゃうかも」
「嘘泣きは止めような」
「バレたか」
「まぁ、何か考えがあるようだし、任せるよ」
「任された!」
そして始まるリエル攻略作戦。
ヴェルグはリエルを呼んで、何やら内緒話を始めた。
時折聞こえてくる言葉に、嫌な予感を覚えるのだが、中々にリエルはしぶといらしい。
(やっぱり、だめか……)
そう考えがよぎったのだが、そこから更に十数分後、何とヴェルグはリエルの説得に成功したと言って来た。
一体どんな魔法を使ったのであろうか?
ヴェルグに聞くと、人差し指を唇に当て「ヒミツ」とウィンクして返してきた。
ヴェルグの可愛らしい返答に、思わず抱きしめたくなった衝動をどうにか堪え、ヴェルグを褒めてから話を戻す。
説得されたリエルは何やら頭を抱えている。
(契約魔法の一種でも使われたのか?)
うっかり言質を取られて、そこにすかさず契約魔法とかになれば、いくらリエルでも対処は難しいと思う。
そんなリエルを見ていると、こちらの視線に気付いたリエルが近づいて来て一言。
「気分が悪くなったら、言って下さい。力づくでも中断させます。それと、気になる事があればちゃんと説明しますので」
「わかった。納得してくれてありがとうな」
「いえ……」
そう言ってリエルは俺の肩に座った。
いつもの定位置に座ったので、話を再開する。
「さて、色々とあったが再開しようか」
こうして、俺達は銀竜の役割とクロノアス家の成り立ちについて聞く事になる。
さて、何を聞かせてくれるのか、今から楽しみである。
誰か、スランプの抜け方知りませんかねぇ……。
文章構成で2か月位スランプ中(´;ω;`)




