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幕間 酒と愚痴と情報と……

連休最終日分です。

 傭兵国のとある酒場。


 1階では国や酒場が違えど、変わらない光景と喧騒があった。


 そんな酒場に一人の男が現れる。


 年齢は40代に届くか届かないか位。


 その男は酒場に入り、迷うことなくカウンターへと足を運ぶ。


 男に気付いた酒場のマスターが声を掛けようとして、珍しい来客の姿に驚く。




「久しぶりじゃねぇか。最近はとんとご無沙汰だったのによ」




「色々と忙しかったのさ。それで、上は空いてるかい?」




「どっちだ?」




「耳の方だ」




 そのやり取りの後、マスターは人差し指を立てる。


 男は懐から金貨を一枚取り出し、マスターに渡す。


 金貨を受け取ったマスターは、親指で部屋を示し、部屋の場所を伝える。




「角部屋だ。口が堅く、腕の良い奴を一人付けよう」




「助かる」




 そう言ってから男は部屋へと向かって行った。





 部屋へと入った男は、ゆっくりと椅子に腰を落とす。


 ほどなくして酒樽とグラスが運ばれ、料理の注文を聞かれたので「お任せで」と答える。


 そしてさらに待つ事数分、待ち合わせしていた人物の一人が姿を見せた。




「あらぁん? 待たせちゃったかしら?」




「いや、然程待ってはいないさ」




 やって来たのは筋肉お化けである、冒険者ギルド統括本部ギルドマスターのクッキー。


 そして出迎えたのは、ネデット傭兵団の団長シャイアス・ネデットであった。


 何故この二人が密会的な事をしているのか?


 それはこの後に現れる者の招集であったからだ。




「あの子は、まだ来てないのねぇん」




「そうだな。どうせ料理もまだなのだし、待てば良いさ」




 そして二人は暫く待つ事に。


 その間に料理も運ばれ、後は主催者の登場を待つだけとなった所で、その当人が姿を見せた。




「よう。待たせちまったか?」




「私はぁ、そうでもないわよう」




「俺もそこまで待ってはいないな」




 その言葉を聞いた主催者は「そうか」とだけ零し、席へと着く。


 そして、開始の合図とでも言うように、各々がグラスへと酒をつぎ、主催者の言葉を待つ。




「今日は集まってくれて礼を言う。何分、早目に聞いておきたくてな。金は俺が持つから、思う存分飲み食いしてくれ」




「そうするとしよう」




「遠慮はしないわよぉん」




「……ちょっとは遠慮しろよ」




 その言葉の後、3人はグラスを当て、乾杯をする。


 全員が一気に酒をあおり、グラスを空にして二杯目に突入する。


 またも直ぐに空け、三杯目に突入したところで話が始まるのだったが……。




「それにしても、お前の娘は最優良物件に嫁げたな」




「俺もそう思うが、苦労は多そうだな」




「リュールちゃんねぇ。私としてはぁ、結婚できたことが意外だったわぁ」




「クッキー、どういう意味かね?」




「だってあの娘、結婚とか興味なさそうじゃなぁい?」




「……やはり、そういう風に見られていたか」




 シャイアスは深くため息を吐く。


 実際の話、リュールの結婚願望は割と強めであった。


 ただ、育った環境や本人の強さに加え、先代団長であり実父の存在が少なからず悪影響を及ぼしていたので、クッキーの言う事も間違ってはいない。


 だが親としては、面と向かって言われると腹ただしいものでもあった。


 なので、少し逆撃するシャイアス。




「いつまでも結婚できない奴に言われたくはないな」




「ああん? 喧嘩売ってるんのかゴルァァァ!」




「クッキー、口調」




「あんたは黙っておきな!」




「はぁ……。俺、一応はこの国の王なんだがな」




 クッキーの言葉に、ため息を吐く主催者。


 最近ため息しか出ない主催者の正体は、傭兵王ジャバ・ウォッカーであった。


 彼が何故、この酒宴を開いたのか?


 それは、試験の結果を聞くためと実際に相対したクッキーからの報告を聞くためであったのだ。


 尤も、今はそのような雰囲気ではないが……。


 どうやって話を進めようかと悩むジャバであったが、軌道修正したのはまさかのクッキーであった。




「シャイアス、後で覚えておきなさぁい。それでぇ、ジャバちゃんは何を聞きたいのかしらぁん」




「ちゃん付けすんな! 後、わかって言ってるだろう!」




「ジャバ。クッキーのペースに乗せられるな」




「さっき乗ったお前が言うな!」




 傭兵王ジャバ、ツッコミが大変に忙しい。


 実はこの馴れ合いは、昔からであった。




 この三人、実はネデット傭兵団繋がりである。


 先代団長の元で同じ釜の飯を食った仲間で戦友。


 そして、クッキーはシャイアスとジャバの教育係であり師匠でもあったのだ。


 故にジャバは、クッキーに対して人一倍苦手意識があった。


 そして意外にもジャバは、クッキーとシャイアスが言い争いする度に仲裁に入るストッパーだったとは誰も知らない事実である。


 彼は昔から苦労人であった。




「はぁ……。なんで毎度毎度俺ばっかり……」




「それが運命なんだろ」




「宿命とも言うわねん」




「うっさいわ!」




 愚痴に対して、辛辣な意見で応対するクッキーとシャイアス。


 昔から変わらない関係がそこにはあった。


 しかし、時間は有限である。


 雑談ばかりしているわけにもいかない。


 気持ちを切り替え、ジャバは本題へと移る。




「それで、試験結果はどうなったんだ?」




「あらぁん? 報告は上げたはずよぉん」




「時間的に見る暇が無かったんだよ。それに、他にも聞きたいことがあったしな」




「クロノアス卿の強さについてか」




「シャイアスも見ていたんだろ? この場は無礼講でもあるのだし、率直な意見を聞きたいんだよ」




 ジャバの言葉に何かを考えるシャイアス。


 対するクッキーは五杯目の酒に突入だ。


 料理をつまみながら酒を煽り、一息ついた所で話を始める。




「一つだけ質問よぉ。それを知って、ジャバちゃんはどうするのかしらぁ?」




「どうもしねぇよ。これは勘だが、時代が動くんだろうな。傭兵国もその在り方に変化を促す時期なのかもしれねぇとは考えているが」




「傭兵国も帝国と同じく、実力至上主義ですものねぇ」




「ああ。だからこそ、聞いておきたいわけだが」




「お前の考えはどうなんだ?」




 ジャバの言葉に、シャイアスが質問で返す。


 シャイアスの質問の意図を瞬時に読み取ったジャバは直ぐに答えを返す。


 伊達に長い付き合いをしていないと言わんばかりの早さであった。




「傭兵と言う職業は無くならんよ。ただ、今までよりも質が求められる可能性は高いな。実力的にも教養的にも……な」




「いくつかの傭兵団は淘汰される……か。フリーに関しては?」




「数は減るだろうが、その代わりに仕官する奴が増えると考えている。だが、変革には痛みが伴うだろうな」




「なるほどねぇん。ジャバちゃんはぁ、グラフィエルにそれだけの神輿となる資格が有るか見極めたいのねぇん」




「傭兵国は実力至上主義ではあるが、その始まりは冒険者と傭兵からだ。文武に加え、人を引き付ける魅力も必要だろう?」




 ニヤリと笑うジャバ。


 クッキーとシャイアスは「はぁ……」と息を吐き、どうするか思案する。


 しかしクッキーは、その野生とも言うべき勘に基づいて、考えるのを止めた。


 どう転んでも時代は動くと肌で感じたのだ。


 だからクッキーは、ジャバの望む答えを出した。




「良いわぁ。答えて上げる。あの子は本物よぉ」




「EXに最も近いと言われた男よりもか?」




「経験と言う観点で言えば未熟だけどぉ、将来性は上ねぇ」




「もし、全力でやりあったら?」




「私とぉ? お互いに殺し合うならぁ、私が負けるわねぇ」




 クッキーの言葉に目を見開くジャバとシャイアス。


 クッキーの強さを知っているからこその在り得ない答えだったからだ。


 そんな二人を尻目に、クッキーは話を続ける。




「試験の時はねぇ、お互い無力化を念頭に置いていたのよぉ。それで私は負けたのよねぇ」




「……信じらんねぇな」




「事実だ。俺が審判をしていたからな」




「マジかよ……。それで、お互い全力だったのか?」




「俺から見た感じだが、クロノアス卿は余力があるように感じられたな」




「私も同意見ねぇん。ただぁ、1つだけ心配事はあるわねぇ」




 そのクッキーの言葉に耳を傾ける二人。


 傭兵国の最大戦力にして、数々の異名を持つクッキーの心配事。


 二人が興味を持つには十分な事であった。




「あの子はぁ、ちょっと考え過ぎな部分があるのよねぇ。慎重と言えば聞こえは良いけど、悪く言うなら臆病すぎるわぁ」




「そう言えば娘が『過保護過ぎ』とか言っていたな」




「多分だけどぉ、失うのを極端に怖がっているんじゃないかしらぁ。問題はぁ、折れやすいのかぁ、それでもと前に進める力があるのかなのよねぇ」




「それなら問題ねぇよ」




 ジャバの言葉に、今度はクッキーとシャイアスが耳を傾ける。


 そしてジャバから語られた内容を聞いて、クッキーとシャイアスは正反対の事を考えていた。




「諜報部の情報だがな、あいつは帝国内乱で嫁を失ったらしい。正確に言えば一度失って、戻って来たらしいが……」




「意味がわからないのだけど、その時に折れなかったのね?」




「嫁に手を出した第三勢力を壊滅させたそうだ」




「ならば折れないが答だろう」




「そうでもないわねぇん。その時は一人だけでしょうけど、複数人になった場合はどうかしらねぇん」




「心が折れると?」




「可能性の話だな。ここで議論し合っても意味がねぇ」




「そうねぇん。ただぁ、嫁達に手を出すのは止めた方が良いわよぉん」




「俺も同意見だな」




「その答えは?」




「国が消えて無くなりそぉだからよぉん」




「否定できねぇんだよなぁ……」




 思わず身震いするジャバ。


 シャイアスはどうにも想像できないようだが、数々の人間を見て来たクッキーが言うのだから、間違ってはいないのだろうと思い直す。


 結果、グラフィエルを怒らすな、と言う結論に至るわけだが、そこで問題が一つ。


 他に逆鱗は無いのだろうか?いう話になる。




「こればかりはわからないわねぇん。シャイアスちゃんがぁ、リュールちゃんに聞くのが早いわよぉ」




「最近、娘がちょっと内緒にしていることが多くてな……」




「お前も苦労してるんだなぁ……」




「ジャバ。所帯を持つとお前もそうなるぞ」




「お前みたいにならんように頑張るわ」




「なんならぁ、私がジャバちゃんのお嫁さんになってもぉ「全力で断る!!」」




 クッキーの言葉を全て聞く前に、本気のお断りを入れるジャバ。


 クッキーが結婚できる日が来るのは、何時になるのか?


 神すらもわからない事案なのは、言うまでも無かった。




 その後は愚痴大会へと移行する。


 尤も、その大半はジャバであるが……。




「リュンヌのクソ共! 相変わらず、上から目線で話しやがって!」




「冒険者ギルドは不介入よぉ。頑張りなさぁい」




「竜王国への支払いに、クロノアス卿への借金。財政がぁぁ!」




「税金上げるなよ?」




「あそこの傭兵団! また問題を起こしやがって!」




「シャイアスちゃんが潰せばぁ?」




「傭兵団同士の抗争は、一部例外を除いてご法度だろう。うちじゃどうにも出来ん」




「と言うかクッキー! 副業は止めろって言ったよな!」




「んふふぅ。可愛いお洋服づくりは趣味よぉん。副業じゃないわよぉ」




「金銭が発生したら副業だと思うが?」




「見解の相違ねん。シャイアスちゃんだってぇ、奥さんには良い服着て欲しいでしょう?」




「それはまぁ、そうだが……」




「シャイアス! 丸め込まれるな!」




 等々、ジャバの愚痴が止まらない。


 そんなジャバに律儀に付き合うクッキーとシャイアス。


 久方ぶりに三人揃った密会酒宴は、夜が更けるまで続くのだった。






 翌日、グラフィエル達の見送りに来たシャイアスの顔色は、二日酔いで真っ青であった。


 当然、傭兵王ジャバも二日酔いで体調不良の中、公務をこなすことになったのは言うまでもない。


 一番多く酒を飲んでいたクッキーが、何事も無かったかのように仕事をこなしていたのを後で聞いた二人は「「マジ、バケモノ!!」」と、各々の職場で言った事は仕方が無いだろう。


 後でそれがバレて「誰がバケモノだゴルァァァァ!!」と、乗り込まれたのも仕方のないことであろう。


 こうして、密会酒宴は最後に混沌を残して幕を閉じたのであった。

この話で、傭兵国での話は一旦おしまいです。

もしかしたら、また別で傭兵国編はやるかもしれませんが、今は未定だったりします。

あ、でも、クッキーさんは再登場させる予定です。

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