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154話 ギルド総合本部と漢女ギルマス

連休1日目分です

 翌日、部屋で朝食を食べ、リュールとシャイアス殿が迎えに来るまで部屋でのんびりと過ごす。

 迎えがきた後はチェックアウトして、再び4人で行動となる。

 向かうは冒険者ギルド総合本部だ。


 雑談をしながらギルドへ向かう。

 途中、買い食いをしながら向かい、ギルド前に着く。

 冒険者ギルドの総本山なだけあって、建物が超デカい。

 横幅が家3軒分あり、奥行きも家2軒分あった。

 威厳を見せたいのはわかるが、建物内を全て使えているのか甚だ疑問ではある。


 外観に対する考察を止め、扉を開けてギルド内に入る。

 中に入ると、結構な数の冒険者達がいた。

 当然、初顔の者が入って来たので、こちらに目を向ける冒険者達。

 いつも思うんだが、依頼者だったら失礼だと思うんだよな。


 どの国のギルドもそうだが、冒険者と依頼者は同じ扉から入ってくるんだよ。

 そして、誰か入ってきたら、その度に入り口を見るんだよな。

 多分、冒険者か依頼者かの見極めと、冒険者なら実力を、依頼者なら金払いなどを見極めようとしているんだろうが、相手からすれば迷惑だし、失礼極まりない。


 そして当然、俺とヴェルグは初見なので、注目される。

 ただ、傍にはネデット傭兵団の団長であるシャイアス殿と前大会優勝者であるリュールが傍にいるせいか、絡んでは来なかった。

 1パーティーを除いて――。


「なんだぁ、おっさん。ここは子連れで来るとこじゃねぇぞ」


「いやアニキ、それよりも……」


「あん? ああ、確かに良い女連れてやがるな」


 下品な物言いをした後、いやらしい目でリュールを見る3人組の冒険者。

 普通なら怒りそうなものだが、俺は違う事を思っていた。


(こいつらバカじゃね? リュールを力づくでどうにか出来ると思ってんのか?)


 俺の気持ちと同じなのだろう。

 シャイアス殿は片手を額に置いて溜息を吐く。

 リュールとヴェルグも「はぁ……」と溜息を吐く。

 だがそれが癇に障った様で、3人組冒険者が更に絡んでくる。

 ギルド内でリュールとシャイアス殿を知っている者は、冷ややかな目で3人組を見ていたが、とある一人の冒険者が俺を見た瞬間に青褪めて一言漏らす。


「あ……ああ……じゅ、蹂躙者……」


 その声を聞いた他の冒険者が、ガタッ!と勢い良く立ち上がって驚いていた。

 そして、高ランクの顔出しがしてある方に確認の為に視線を向け――。


「ほ……本物だ……」


「おい! ギルマス呼んで来い!」


「ああ……遂にこの国も終わりか……」


 正しく、阿鼻叫喚のギルド内。

 つうか、俺は破壊神か何かなのかとツッコミたい。

 そんな簡単に国なんか滅ぼさないっての!

 そんな中、3人組の冒険者は――。


「あん? どうせ不正で成り上がっただけだろうが」


「そうでさぁ! アニキ、やっちまいましょう!」


「おう! その後は……へへへ……」


 そんな事を言って、イヤらしい目をヴェルグとリュールに向ける。

 そして、二人に手をかける――前にアニキと呼ばれた男は、天井に頭から突き刺さった。

 突き刺さった男はプラーンプラーンしている。


「は?」


「え?」


 何が起こったわからない取り巻き二人。

 まぁ簡単に言えば、俺がお仕置きしたわけだ。

 俺の事なら何を言っても構わんが、二人に向けられたイヤらしい目線にプッツンした。

 この二人は俺の女である。

 汚らわしい手で触らないで欲しい。

 だから触れる前に、男の顎を思いっきり蹴り上げて、天井にぶっ刺したのだ。


 状況がようやく理解できたのか「てめぇ!」と叫んだ後、腰に下げていた剣を引き抜いて斬り掛かってくるが、その剣を人差し指と中指で挟んで受け止め、力を込めて折る。


「へ?」


 間抜けな声を出した男は、顔面に俺のグーパンを決められて「ぶへっ」って声を出しながら壁にめり込んだ。

 壁にめり込んだ男は、前歯が折れて鼻血を流しながら気を失っていた。

 残りの一人が「ひ、ひぃ!」と言いながら、腰の入ってない剣を振るも同じように指で挟まれてから剣を折られ、足を引っかけて転ばされる。

 その転んだ男の顔を思いっきり踏み抜く。

 男の頭は床にめり込んで、声を出すことなく気絶した。


 僅かな時間で、3人を撃破した俺を見る冒険者たち。

 全員が一様に畏怖していたが、誰かが一言――。


「よ、容赦ねぇ……」


 と言えば、追随する声が増える。


「お、鬼だ……」


「いや、悪魔だろ……」


「流石、蹂躙者……」


 等々、人を鬼畜呼ばわりしてくるので、ニッコリ笑って、視線を向けてあげた。

 サッと視線を逸らす冒険者たち。

 そんな中、上からギルマスを呼びに行った冒険者が降りてきて、惨状を見た瞬間――。


「お、遅かった……」


 ガックシと肩を落とした。

 後で知ったのだが、ギルマスを呼びに行った冒険者は、ギルドの職員も兼業していたらしく、被害が出る前にと呼びに行ったが、全て水の泡となった。

 彼は泣く泣く、後始末をする羽目になったらしい。

 主に、修繕の方を……。


 その呼びに行った冒険者の後ろに、一人の人物が立っていた。

 その人物を見た瞬間、俺とヴェルグは顔を引き攣らせる。

 極太の手足に、今にも服がはち切れそうな胸板。

 顎髭はピンクのリボンで纏められており、頭はスキンヘッド。

 そして服装は……まさかのピンクなフリフリ服。

 そして、思わず視線を逸らしてしまった凶悪なチラリズム。

 そんな人物の第一声は――。


「あらぁん? また随分と派手にやらかしたわねぇ」


 オネェ言葉であった。

 正に名状しがたい化け物である。

 一歩動く度に全身の筋肉がピクピクと動き、ギシミシと音を立て、時折クネクネと動くその姿は、正に化け物以外の何物でもない。

 ヴェルグは既にフリーズしており「うぼぁ」と魂を飛ばしかけていた。

 俺もギリギリのラインではあったが、必死に理性をかき集めて、どうにか耐える。

 だが、被害は甚大であった。

 見慣れているはずの傭兵国冒険者たちでさえ、SAN値直葬待った無しで、次々と気絶か逃亡をしていく。


「相変わらずぅ、恥ずかしがり屋が多いわねぇん」


 俺の中の何かがプチンと切れそうである。

 SAN値?既にレッドゾーンに突入してますが?

 そんな俺を見かねたのか、シャイアス殿が前に出て、化け物に声を掛けた。


「相変わらずだな。それよりも、お前が来てからの方が酷い惨状なのだが?」


「私の色気がそうさせるのね。罪深いわぁん」


 プツン


「うぼぁ」


「ら、ラフィ!?」


「クロノアス卿!?」


 俺も限界を迎え、魂を飛ばした。

















 気が付くと、ソファで横になっていた。

 身体に異常は……特にはなさそうだ。

 はて?なんで横になっていたのだろうか?

 思い出そうとするが、記憶が無い。

 何かとんでもない体験をした感じではあるのだが……。

 考えているとコンコンとドアがノックされる。


「どうぞ」


 声を出すと、シャイアス殿とリュール、ヴェルグが入ってくるのだが、何故か頭に警報が鳴る。

 続いて入って来た人物を見て、俺は顔を引き攣らせ、全てを思い出した。

 身長2メートルの這いよる混沌……筋肉お化けのご登場だったからだ。


「ようやくお目覚めねぇん」


 その声にまたも意識を飛ばしそうになるが、どうにか耐える。

 そこへすかさずシャイアス殿からの説明。


「クロノアス卿、こちらは傭兵国のギルドマスターだ。まぁ、その、なんだ……見た目はあれだが、実力者で人格者ではある」


「よろしくねぇん」


「…………」


「クロノアス卿?」


「……ああ、よろしく」


 またも意識を飛ばしかけながら、どうにか挨拶をする。

 ふとヴェルグを見ると、こちらに視線を送り「もう慣れた」と合図を送って来た。

 ヴェルグよ……慣れるの早過ぎね?

 リュールとシャイアス殿は……ああ、なるほどね。

 二人は極力、見ないようにしているわけか。

 傭兵国民であっても、あの姿見はキツイわけか……。

 考察が終わったと同時に、ギルマスが声を掛けてきた。


「ここじゃぁ話もなんだし、移動しましょうかぁ」


 その言葉に異論は無いのだが、クネクネ歩くのは勘弁してもらいたい……。

 別室へ向かう間もSAN値は減り続けるのだった……。



 別室――と言うか執務室に案内された俺達は、ソファに座るように促される。

 4人で座ると相対して目の前に座るギルマス。

 うん……めっちゃキツイ……。


「とりあえずは、自己紹介からねぇん。私は傭兵国冒険者ギルドのギルドマスターで、ギルドマスター統括のクッキーよぉん」


「……グラフィエルです」


「ヴェルグです」


「んふっ。二人とも良く来たわん」


「ええと……こちら、預かって来た手紙です」


「預かるわね」


 ギルマスのクッキーさんは濃かった……。

 もう色んな意味で濃かったとだけ言っておく。

 手紙を渡した後、目を通すクッキーさん。

 彼?彼女?は手紙を読むと、こちらへ視線を向ける。

 頼むから凝視しないでほしい……。

 上から下まで舐めるように見た後、シャイアス殿の方を見て――。


「用件はわかったわぁ。3人を試験すれば良いのね?」


「なんて書かれてあるか、こちらは知らんのだよ。それと、あの話はやはり断らせてもらおう」


「そう。仕方ないわねん。でも、将来はしてもらうわぁ」


「あの、何の話で?」


 話の内容が見えないのでシャイアス殿へと尋ねると、シャイアス殿はサブマスにならないかと誘われていたそうだ。

 それを聞いて、何故断ったのかは直ぐにわかった。

 このギルマスと四六時中は無理なんだろうな――と。


「まぁ、私が引退する時にはぁ、ギルマス候補には上げるわよん」


「それは構わんよ。やるかどうかは別だが」


「期待してるわぁん」


「それで、手紙にはなんて書いてあったんだ?」


 シャイアス殿がクッキーさんに尋ねると手紙を渡してきた。

 口頭で説明するより、読んだ方が早いと言う事なのだろう。

 シャイアス殿が目を通した後、俺に手紙を渡してきたので、俺も目を通す。

 そこに書かれていたのは、最終試験申請の内容と試験官の提示であった。

 そして……その試験官というのが――。


「私にしろなんてぇ、あの子は何を考えているのかしら? あの子が認めるほど、あなた達は強いのかしらん?」


「さぁ……どうなんでしょうかね」


 クッキーさんの言葉に肯定も否定もせずに答える。

 今まで貴族の相手をして来た時も、肯定も否定もせずに答えてきたので、半分癖みたいになってしまったんだよな。

 その癖になった言葉を聞いたクッキーさんはニヤリと笑う。

 あ……地雷踏んだっぽい?


「んふふ。あなた良いわねぇ。どう? 私と結婚しない?」


「全力でお断りさせていただきます」


 即答であった。

 多分、クッキーさんは善人だと思う。

 でもな、男と結婚する気も寝る趣味もない!

 最近はのらりくらりと答えを出す癖がついた俺の、全力の否定であった。


「あらん。残念だわあ。あなた、とっても良い男っぽいのに」


「褒めて頂き、大変恐縮ですが、自分には婚約者がいるので」


「私も加えてもらっても「無理です。正妻に怒られます」」


 最後まで言わせずに、ガチの全力で断りを入れる。

 もし実力行使で来ようものなら、原初の力を開放してでも断固として抵抗する所存である!

 そんな俺の気迫を感じたのか?

 クッキーさんは潔く引いてくれる。

 尚、俺の気迫を感じたヴェルグとリュールは「もう少し言葉を」と「必死過ぎ」と言う視線を送って来ていた。

 だが「今回だけはわかってくれ」と視線を送ると、二人とも「今回は仕方ないか」と視線を外した。

 わかってくれて何よりである。


「それじゃぁ、訓練場に行きましょうねぇん。リュールちゃんは、1年ぶりかしらん」


「今回は勝つ」


「期待してるわぁん」


 そう言って立ち上がるクッキーさん。

 リュールも立ち上がり、二人して扉の方へと歩いていく。


「ほらぁ、あなた達もよぉん」


 こうして俺達は、地下訓練場に行くことになった。



 総合本部地下訓練場に案内されると、そこにはさっき絡んできた3人組冒険者の他、十数名の冒険者が居た。

 どうやら、他の試験官が試験を行っていたようだ。


「ご苦労様ぁん」


 クッキーさんのウィンクに魂を飛ばしかける試験官達。

 痛いほど気持ちはわかるぞ!

 そんな中、さっきの3人組冒険者はまたも絡んで来ようとして、クッキーさんが止めに入る。


「あなたたちぃ、いい加減にしなとぉ、私も怒るわよぉん」


 クネクネしながらクッキーさんが止めるのだが、3人組は聞く耳を持たずに突っかかってくる。

 そして……クッキーさんの逆鱗に触れる。


「黙れよこのオカマが! 俺達はそいつに「誰がオカマだ! ゴルァァァァァ!!」」


 クッキーさん、ブチ切れる。

 そして、アニキと呼ばれていた冒険者をアイアンクローで締め上げるのだが――。


「え? 何、あの速さ」


「凄く速かったよね?」


「ん。ギルマスは元SSS」


「マジで?」


「マジですよ。しかも、スキルがかなりえげつないので、二つ名は【黒焦げクッキー】と呼ばれていたんです」


「黒焦げ……火属性系統ですか?」


「ええ。正確には爆発系になるのでしょうか? 相手に攻撃を当てた瞬間に爆発したり、攻撃を受けた時にカウンターで爆発させたり、拳に火を纏って殴ったりと」


「えげつな」


「黒焦げの他には、【爆発クッキー】、【丸焼きクッキー】とか呼ばれたりもしていましたね」


「もしかして、有名人なの?」


「ギルマスは、元傭兵でもある。じじいの代の傭兵になる。出身はうちの傭兵団」


「ネデット傭兵団って、変なの多いよね?」


「ヴェルグは失礼。でも、スキルだけなら否定できない」


「もしかして、シャイアス殿や祖父も変わったスキル持ちなのか?」


「ん。お父さんは浸透ってスキルがある。鎧とか着ていても無意味。じじいは私と同じ戦斧。スキルは変態スキル」


「めっちゃ気になる」


「ん。じじいのスキルは、ギルマスと似ている。戦斧で地面を叩きつけたら爆発する」


「石礫的な感じか?」


「ん。ただ、自分の思った方向に飛ばせる。自爆もしない」


「確かに変態スキルだな」


「ん。後は、下着だけになると身体能力が跳ね上がる」


「……変態スキル過ぎね?」


 等と話している間に3人組冒険者のアニキ君は、クッキーさんにアイアンクローされた状態で持ち上げられ、プラーンプラーンしていた。

 残る二人が「「アニキ―!」」って叫んでいる。

 そして頭がメキメキいっていらっしゃる。

 ……クッキーさんにオカマ系の言葉は禁句だな。

 ほどなくしてアニキ君は解放されたが、トラウマを埋め込まれた様子。

 目を覚ました後、土下座して泣いて謝っていた。

 万力の様に徐々に締め上げられ、ギリギリのところで意識を保たされながら、死への恐怖を目の当たりにされたら誰でもそうなるわな。


 その後は大人しくなり、他の冒険者たちと並んで俺達の試験を眺めていた。

 試験終了後、3人組に土下座で謝られたのは言うまでもないかな?

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