153話 ヴェルグとのお泊り
今回は少し後書きがあります。
3国会談も終わり、竜王国の出席者を送り届けようとして、これからの予定を竜王国王に聞かれる。
一応、用事は終わったし、次の案件に向かおうかなと考えて、思い直す。
傭兵国には、冒険者ギルドの総本山である総合本部がある。
折角、傭兵国に来たのだし、一度は見に行っても良いかも?と考えてしまう。
幸い、ヴェルグとリュールも冒険者登録はしており、ヴェルグは短期間でSランクになっている。
上位ランカーが行けば、ちょっとは騒ぎになるかもだが、どの程度の冒険者がいて、どれくらいの強さでランクは如何ほどか見ても良いかも?なんて思ってしまったのだ。
その事を、全員に伝えると――。
「なら、シャイアス。お前が案内してやれよ。護衛の意味も兼ねてな」
「それは構わんが、国からの依頼か?」
「お前の娘の旦那だろ? タダで動けよ」
「相変わらず、狡賢い奴め。まぁ、良いけどな」
そう言って話を進める二人だが、本当にそれで良いのか?と思ってしまう。
こういった依頼関連は、きっちりするべきだろう。
それに、散策もしたいので――。
「有難い申し出ですが、そこまで気を使って頂かなくても良いですよ。自分も冒険者ですし」
「そう言えば、そうでしたな」
「……ああ! 思い出したぜ! EXに上げるかどうかの冒険者か!」
「とりあえず、総合本部での登録はSSS止まりですね」
「ならよ。俺から手紙を書くから、総合本部へ行ってくれ」
傭兵王にギルド総合本部へ行って欲しいと言われる。
何かあるのだろうか?
少し話を聞きたいが、竜王国側も待っているので、まずは送り届けてから話を聞くことにしよう。
「あ、すみません。直ぐに送りますので」
「構わんよ。少し気になったしな。まぁ、私が聞いてはいけない話かもしれんから、先に送ってくれるか?」
「わかりました」
早速ゲートを開き、玉座の間へと繋げる。
竜王国王はゲートを潜る直前で、傭兵王に話しかける。
「正書した書面を、後日送ろう。そちらも、正書した物を送ってくれ。調印式と終戦宣言はそれからでも良いかな?」
「構わねぇが、なるべく早めに輸出入規制を解除してもらいてぇな」
「終戦宣言の日に解除すると約束しよう。但し……」
「その日に支払えば良いんだな? わかった」
「では、失礼する」
短いやり取りを終え、竜王国勢は帰って行った。
ゲートを閉じた後、再び傭兵王との話し合いになる。
話の議題は、総合本部への立ち寄りについて。
「それで、手紙の内容は聞いても?」
「あん? そんな大した話じゃねぇよ。保留になってたEXの件について、国は認めるって手紙を渡すだけだ」
「うわぁ……。いらねぇ……」
本気で嫌な顔をする俺。
総合本部は認めていないが、同盟各国にあるギルド本部では、既にEX扱いである。
今更「EX認めます」とか言われても、嬉しくはない。
寧ろ、ギルド全体で認めてしまえば、厄介事が増えそうである。
だが傭兵王は、そんな俺の顔を見てニヤリと笑い――。
「そうか。そんなに嬉しいか!」
等とほざいてくる。
これにはカチン!と来たので、言い返す。
「傭兵王の目は節穴ですね。ああ、だからシャイアス殿が告白されたわけですか」
「てめぇ……」
額に青筋立てて睨む傭兵王。
殺気も駄々洩れである。
俺とヴェルグにとっては柳に風だが……。
リュールもシャイアス殿も涼しげな顔をしている。
対する大臣達は「陛下! 落ち着いて下さい!」や「国を滅ぼす気ですか!?」など、めっちゃ傭兵王を止めていた。
更には、護衛や戦闘メイドさん迄が物理的に止めに入る始末。
傭兵王、人望無いのかねぇ……。
あ、今メイドさんから、鋭いチョップが脳天に入った。
傭兵王の顔がテーブルに勢い良くぶつかる。
テーブルに亀裂が入るくらい強くいったな。
傭兵王、地味に痛かったらしく、ちょっと涙目だったが、冷静にはなった模様。
「お前ら! 俺はこれでも王だぞ!」
「王なら王らしく、冷静にしてください」
傭兵王の言葉に、一人のメイドさんからの鋭いツッコミ!
傭兵王の威厳は、またもや低下した模様。
あ、傭兵王がまたもや涙目に……。
……この傭兵王、メンタル豆腐かよ。
傭兵王は「クソが!」と、悪態をつきながら、こちらへと向き直り、本題に戻す。
「あー、クソ。とりあえず、手紙を渡すから、持って行ってくれ。後は向こうの判断に任せる」
「あれ? 傭兵国が運営をしているわけではない?」
「何か勘違いをしている様だが、冒険者ギルドに関しては基本不干渉だぞ。協力関係はあるが、運営には口を出さねぇ。それは傭兵国でも同じだ」
「信用度を国が認可する感じなのか」
「そうだ。国が深く関与すれば、腐敗するだろうし、貴族どもの干渉も増えるだろう。だからこその独立経営だ」
「ギルド幹部自体が腐敗しそうだなぁ」
「そうならないように、ギルドマスターだけは国が選出している。総合本部のギルマスは傭兵国が選出。各国の本部ギルマスは総合本部ギルマスが選出した後、国の調査が入る仕組みだ」
「徹底的に調べ上げて、極力、腐敗の温床を排除するのか」
「総合本部だろうが、各国本部だろうが、ギルマスに選ばれるには色々と厳しい審査があるんだよ」
穴だらけに見えなくもないが、今までこの方法で回って来たのだから、案外有効な手なのだろう。
ギルマスになるには実力も必要だが、人格者であることも必須らしい。
あれ?そうなると、ダグレストは?
その事を聞いてみると……。
「ダグレストか……。噂は聞いてるから調査中なんだが、どうも上手く行ってねぇ」
「理由は?」
「不明だ。送られてくる調査報告書には不審な点が無いんだよ。だが、国がギルドに介入しているのは確定っぽいんだが……」
「証拠が無いと?」
「その通りだ。近々、ギルドへの指名依頼を出す予定だ」
「干渉なのでは?」
「今回は、ちとキナ臭い。最悪、ダグレストの冒険者ギルドは清浄して正常化しないといけねぇ」
「傭兵国が主導で行うのは拙いのでは?」
「ギルドマスターの更迭は、国が行う。幹部の更迭は、その国のギルマスか総合本部が行う。一応、任命責任があるわけだしな。この辺りは協力してになるな」
あくまでも、国が行う更迭はギルマスに関してだけらしい。
清浄と正常化は総合本部が行うらしく、国は不干渉。
住み分けして行うからこその、清浄だとさ。
……俺に依頼が来ないことを祈ろう。
面倒なのは御免被る!
話も終わり、今度こそ席を立つと、メイドの一人が盆に手紙を乗せて差し出してきた。
先程言っていた、総合本部への手紙らしい。
手紙には蝋の上から傭兵国の紋章を押して固めた封がされており、正式な重要書類として渡される。
何かあってはいけないので、空間収納にしまい、会談場を後にした。
城を出ると、日が少し傾きかけている。
会談は昼前で、早めの昼食を取ってからだったので、軽く数時間は話し込んでいたようだ。
今の時間からギルドに向かうと、混み合いそうだなと考え、散策しながら宿を探すことにする。
「クロノアス卿。何も宿を取らずとも、今晩も我が家にお泊りして頂いて構いませんが」
シャイアス殿から、今晩もどうぞ――と言われるが、リュールも家族団欒したいであろう。
折角の申し出だが、断ることにした。
「いえ。リュールも話したいことがあるでしょうし、今晩はご家族で。お気持ちだけお受けします」
「ん。気にしなくて良いのに」
「俺が居たら、団欒できないだろう?」
「ん。気にしない。でも、じじいはうるさそう」
「まぁ、親父はなぁ……」
「あはは……。まぁ、今日はボクがラフィを独り占めしておくから」
「む。それは、ダメ」
ヴェルグの言葉にリュールが反応し、軽くじゃれ合う。
そんな様子をシャイアス殿は眺め――。
「二人とも楽しげですな。……今思えば、リュールと対等に言い合える同年代や同性はいないと気付かされました。この縁談は、娘にとっても良き友が出来る話になりましたな」
「ヴェルグも、俺達に会うまでは一人でしたし、気の合う友が出来て良かったと思います」
そんな話をしながら、歩を進めていく。
二人はじゃれ合いながら笑っており、今の平和が続けば良いなと、心の底から願った。
4人で歩き、十字路へと差し掛かる。
ネデット家の父娘とは、この場で一度別れる。
別れる前に、明日の予定を話し合い、待ち合わせ場所や集合時間を決めていくのだが――。
「ん。明日も私が案内する」
「輿入れ準備しなくて大丈夫か?」
「ん。1日くらい大丈夫。良い? お父さん」
「構わないが、明日は総合本部で話し合いするだけだぞ」
「ミリア達から聞いたけど、ラフィはギルド関連トラブルホイホイ。私とお父さんで、ラフィの汚名返上」
「いや、汚名じゃないからな」
「ん。不名誉の間違い。でも、私とお父さんが居れば回避できる。私達、有名人」
「私は構わんが。良いですか? クロノアス卿」
「こちらは構いませんが、お忙しいのでは?」
「クロノアス卿の件が無くても、どうせ行かなくてはならないので。ご迷惑でなければ」
「では、よろしくお願いします」
「ん。任せて」
と言う感じで、明日も4人で行動となった。
宿に迎えに来てくれるとの事なので、ネデット父娘がお勧めする宿へと案内してもらう。
二人に案内してもらった宿は、VIPが利用するお高い宿であった。
多分だが、地味に試されてるっぽい。
ふむ……ならば、一番お高い部屋に泊まろうではないか。
受付に行くと、どの部屋にするかを聞かれたので、勿論、最上階の一番お高い部屋にしましたとも。
そのお値段、なんと1泊、大金貨1枚。
前世の金額に直すと、1泊1千万である。
これだけ高いのだから、当然、質も高い。
1フロア一つ貸し切りで、外には護衛付き。
室内にはメイドも控えており、焼き菓子なども常設されていた。
どうやらこの宿、傭兵国で1番の宿らしい。
俺が今回止まった部屋は、爵位の高い貴族や大商人が稀に泊まる部屋らしい。
シャイアス殿は苦笑いし、リュールはそんな父に軽く肘打ちをする。
宿にチェックインを済ませると、ネデット父娘は帰宅。
宿には俺とヴェルグだけ。
二人でソファに腰を下ろし、メイドが淹れてくれたお茶を一啜りして、話をする。
メイドさんは話が始まる前に、そっと出て行っていた。
「ラフィ、良いの? こんな無駄遣いして」
「たまには良いだろ。ミリアやリーゼに言わせれば、贅沢しなさ過ぎらしいからな」
「そういや、リリィは少し困ってたね。ラフィが散財しないから、経済に影響がありそうだって」
「使うべきところは使ってるんだけどなぁ」
「主に食に関してだけでしょ? ねぇ、今って総資産いくらあるかわかってる?」
ヴェルグの言葉に思い返してみる。
色々と手広くやってはいるが、養鶏の大改革で毎月数%。
それに、飲食店から数%に帝国内乱での金。
後は娯楽関係にも手を出して、それなりの売り上げがあったな。
全部商会に任せているけど。
……あれ?もしかして、支出より収入の方が大きく上回ってる?
いやいや、家臣の給料とかも支払ってるんだぞ?そこまで大きな差があるわけが……。
「その顔は把握してないよね?」
「そ、そんなわけ――」
「じゃ、総資産言えるよね?」
「ごめんなさい」
ギブアップして謝る俺。
一応、ある程度の資産は把握している。
だが、総資産となると怪しい。
空間収納内にも、それなりに硬貨が入っているし、素材なども入れっぱなしである。
市場相場が荒れないように、少しずつ小出しにしているのだが、在庫はまだまだあるのだ。
「一度、整理したら?」
「そうする」
ヴェルグに言われて、空間収納内のリストを頭の中に出すと、膨大な量の名前が出てくる。
そして最後に、多分リエルが算出したであろう最大鑑定額と最低鑑定額が出てくるのだが――。
「空間収納内の総資産がやっばいわ……」
「いくらだったの?」
「最高額が黒金貨7枚で最低額が3枚だった」
「平均額が5枚って……。ちょっとは売ろうよ」
「これでもこまめに売っているぞ。消費より、供給の方が遥かに早いんだよ」
「もっと流せば?」
「流石に市場が荒れるな。これ以上は相談しないと」
これ以上は問答になりそうなので、お互いに話すのを止める。
とここでドアがノックされる。
入室を許可すると、先程のメイドさんが「お夕食はどうなさいますか?」と聞いてきた。
現在の宿は部屋で食べるか、常設しているレストランへ行くか、各々で好きな店に行くかが選択できる。
当然、俺とヴェルグが選んだのは――。
「「外食一択で!」」
「かしこまりました。ご朝食はお部屋になさいますか?」
「それで頼むよ」
「かしこまりました」
聞くことを聞いたメイドさんは、お辞儀をして部屋を出ていく。
あ、言い忘れてたけど、ちゃんとチップは渡してるからな。
こういった宿では、チップがその人物のステータスを表す。
普通が銀貨1枚で、気に入ったら大銀貨数枚にまで跳ね上がる。
俺は同盟盟主でランシェスの侯爵家当主だ。
低いチップを渡せば、恥となってしまう立場である。
なので当然、チップは金貨1枚。
メイドさんはきっと、小躍りしているに違いない。
その後は談笑し、夜になったところで、ここだ!と思う店に入り、二人で食事をとる。
飯は普通に美味かった。
食事を終え、部屋に戻り、風呂に代わる代わる入り、ベッドで寝るのだが――。
「ラフィ、一緒に寝よ」
「いや、婚前前にそういうのは……」
「ただ一緒に寝るだけだよ? それとも、ラフィは別のこと考えたのかな? ……エッチ」
「……抱き枕になっても知らんからな」
そう言ってから、二人で一緒に寝て、夜を明かした。
ミリア達に知られたら、間違いなく大目玉なので、このことは墓まで持っていく予定だ。
尤も、ヴェルグが自慢げに話したせいで、直ぐにバレて大目玉を食らうことになるのは、ミリア達が帰ってきて直ぐになることを、この時の俺は知らない。
尚、朝起きたら、ヴェルグと抱き合っており、気恥ずかしかった。
耐性……付けないとダメだなぁ。
いつも読んで頂きありがとうございます。
また、誤字&脱字報告と修正も感謝です。
気を付けてはいるのですが、どうしても出るのは何故なんでしょうかね?
さて、次の連休ですが1日1話を上げる予定です。
予定日 22日木曜0時 23日金曜0時 24日土曜0時
こちらで予定していますが、もしかしたら25日日曜0時も上げるかもしれません
最低3話は投稿すると思っていてください。
また、次回から出てくるギルドマスターのラフ画を知り合いから頂いたので、木金土の何処かで掲載予定です。
あくまでも知り合いが読んで想像したラフ画なので本決まりとかではありません。
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