149話 降嫁
今週は凡ミスしなかった(笑)
神喰問題、王城でのあれこれを終わらせ、現在4日目の書類決済に突入していた俺だが、突如、スマホもどきが鳴る。
スマホもどきに出てみると、相手は陛下であった。
次はどんな問題を持ってきたのか?なんて考えていたのだが、ある意味問題であり問題でない、それでいて俺に関する事柄だったので、断るわけにも行かなかった。
で、ブラガスに事情を説明して、ゲートを使い、竜王国王、皇帝、皇王、教皇を迎えに行く。
レラフォード代表?今回は同盟の話ではないので、呼んでいない。
と言うか、今ここにレラフォード代表を呼んだら、闇堕ちしそうなので呼べない。
その理由はと言うと――。
「降嫁、ですか?」
『うむ。クロノアス卿は成人したのだし、経済力もある。式まではまだ時間はあるが、その家のやり方に倣わなければいかん。なので、降嫁させようと思ってな』
「それはわかりましたが、抜け駆けしたら怒られません?」
『だからこそのお主への連絡、と言えばわかるだろう?』
「また送迎業なのですね」
『今回は運送業もあるかもしれんな。その辺りは、話し合ってからだが』
「……はぁ。それで、何時迎えに行けば良いですか?」
『今から頼む』
「急すぎます! せめて前日に!」
『任せたぞ』
「あ! ちょっと!」
こちらが何か言い終える前に、電話を切る陛下。
そして各国頂点をゲートで迎えに行って、今に至るわけだ。
当然だが根回しは済んでいて、各国頂点たちは訪問に怒ることは無かったが、遅いと逆に言われる始末。
ついさっき聞いたんだから仕方ねぇんだよ!と言いたい。
一応、やんわりと事情説明はしたけどな。
そして現在、城の中にある庭園で何故かお話し中である。
男だけのお茶会――中年と老人を添えて――華が無い。
「なんか失礼なことを考えておるだろ?」
「いえ、なにも」
危ない、危ない。
華が無いとか、死んでも言えんわ。
女性から見たら、イケオジのお茶会だからな。
腐ったご令嬢なら、きっと鼻血を出すこと間違い無しだろう。
「また変なことを考えていそうだが、まぁ良い。さて、今回集まってもらったわけだが」
「降嫁についてだろ? だがよ、ちと早すぎやしねぇか?」
「皇王は相変わらずですな。神聖国は、ジルドーラ家が認めれば文句はありません」
「帝国は言わずもがなだな。賛成こそすれど、反対はないな」
「竜王国は……ちょっと悩んでいます」
「ほう?」
陛下が珍しい物を見た!的な目になっている。
とは言え、俺も似たような感覚ではある。
竜王国王は結構な割合で即断することが多い。
悩みはするが、前以て答えを出しているって印象なのだ。
それが今回は悩んでいると言うから珍しい。
「なんで悩んでるんだ?」
「ラナを成人として認めても良いものか……。まだ、教育は必要なのでは? と思っていまして」
「本人には会って無いのか?」
「ええ。皇王の娘さんは――ああ、どちらにしても今年15でしたか」
「おうよ。だからと言って、早い遅いは別だけどな」
「それよりも疑問なんですが、なんで自分まで参加させられてるんですかね?」
全員が一斉にこちらを見る。
俺、可笑しな質問してないよね?
「なんでって……。グラフィエル君の事ですし」
「ヴァルケノズさん、降嫁に関して俺は関与しないといけませんかね?」
「言われてみれば……」
「だが、お主に関わる事じゃぞ?」
「陛下、自分に関わる事ではありますが、決を出すのはその親になるのでは? そして普通は、当事者が参加しないものだと思うのですが」
「……言われてみればそうだな」
俺の疑問から「あれ?」って感じになって来た。
これは……初めて逃げられるかもしれない!
だが、そうは問屋が卸さなかった……。
実は、各国の妃達も離れてお茶会をしていた。
そして、妃達は王より強かった……。
結果、逃げられず――。
「何を小さなことを。クロノアス卿、あなたは盟主でもあるのですから、参加は必須ですよ」
とはランシェスのリアフェル王妃。
「あらあら、クロノアス卿は真面目ねぇ」
とは竜王国のイリュイア王妃。
その二人の言葉に頷く、皇妃二人。
そして、妃達の言葉を聞いて、頷く王達。
俺の味方はいないようだ――チクショウめ!
観念して、会話に混ざるしかなくなってしまった。
「まぁ、色々と頼むかもしれんし、聞いておいて損はないだろう」
陛下の一言に全員が頷く。
あれ?運送業が確定したっぽい?
……仕事、増えないと良いなぁ。
半分現実逃避して、話を聞くことにする。
「各国が個別に――と言うのであれば、それでも良いのだが?」
「私としては足並みそろえたくはありますな」
「一度、娘に会ってからでも良いですか?」
「ふんむ。リーゼの意見も聞くとするか」
王たちが話し合う中、とあることを俺は思い出した。
確か、エルーナ姉が輿入れする時、金品関係が発生していたような……。
あれ、違うっけ?
百面相していると、陛下が声を掛けてきた。
「何を思い悩んでおる?」
「いえ、我が姉上が輿入れする時に色々あった気がしまして」
「そう言えば、お前は独立した貴族家だっけか」
「ええ。皇家や王族からの降嫁って、何かあるのでしょうか? 皇王陛下」
「んー、あるにはあるが……」
「ちょっと面倒な話になりそうですねぇ」
「そうなんですか?」
「ええ。国は違えど、差異程度でしょうし、竜王国のみならず、帝国や皇国も大変だと思いますよ」
竜王国王が言うには、王家や皇家の輿入れは大々的に行う決まりらしい。
それは竜王国だけではなく、ランシェスや帝国に皇国も同じで、神聖国でも神子の輿入れとなれば、それなりの規模になるそうだ。
「これ、かなりの額が動くんじゃ……」
「だろうなぁ……。ランシェスが一番安上がりだろうが、それでも相当な金額が動くだろうよ」
「マジですか……」
明確な金額を濁した皇王であったが、かなりのお金が動くみたいだ。
それだと、俺が運送業した方が安上がりだよな?と考えたのだが、各国から却下される。
「さっきも言いましたが、大々的にする必要性があるのですよ。それに伴って、同盟関係は良好だと、世間に対して宣伝できますし、国の財力もあると見聞させれますから」
「運送業は、寧ろ悪手だと?」
「悪手ではないですが、少量ならと言う縛りが付きますね。まぁ、神聖国は頼みませんけど」
ヴァルケノズさんが頼まないと宣言すると、全員が張り合ったのか元から同じ意見だったのかは知らないが、各国ともに頼まないと宣言する。
皇帝曰く「国の威厳もあるしの」との事。
仕事が増えないのは良いが、輿入れの話はまだ終わって無い。
ただ、この話は両親も交えて行うらしいので、城の兵士が急遽、俺の両親を呼びに行ってくれた。
その間に、竜王国王と皇王はラナとリーゼに会いに行くらしい。
皇帝は容認派なので、残って談笑するようだ。
両親が急遽呼ばれてお茶会に参加となり、母達は妃の茶会へ。
父は、各国王が集う茶会へと参加となった。
当然ながら、超緊張している両親。
俺?慣れてますから。
両親から、救いを求める目が向けられたが、華麗にスルー。
たまには、俺の気持ちを味わってください。
特に父上は……。
「さて、色々と進展もあったようだし、話を続けるとしよう」
「それで、竜王国王と皇王はどうするのだ?」
休憩の合間に、娘であるラナとリーゼに話をしに行った竜王国王と皇王であったが、二人の意思を確認した結果の答えは――。
「私は認めますかね。ラナも大人になっていました」
「俺の方は許さないとリーゼに恨まれるな。クロノアス卿にべた惚れだったわ。わっはっはっは。」
「神聖国、と言うかジルドーラ家に確認を取りましたが、こちらも問題ないですね」
各国が乗り気なので、降嫁は確実となった。
一部始終を聞いていた父上が、俺に目を向けて――。
「グラフィエル、結納金で破産しそうなんだが……」
「父上、実はそのことで聞きたいことが」
こうして、今度は妃達も交えて、お茶会が開催される。
それに加えてもう一つ。
陛下が別室で、俺の婚約者で貴族籍のある者達を待たせているそうだ。
こちらのお茶会が終わったら、次は陛下を交えて、自国の貴族達とのお茶会らしい。
両親は気が気でないが、聞きたいことがあるので、両親の現状をスルーして聞く。
「父上、母上、結納金の事なのですが、今回の場合ってどうなるのですか?」
「どうなる……とは?」
「自分は独立した貴族家になりました。ですが、婚姻の場合は両親が用意するのが慣習みたいなのですが、我が家の場合ってどうなるのでしょうか?」
「その時折だが……初婚に関しては、家が出すぞ」
「父上、お金、大丈夫ですか?」
「…………」
「父上!?」
父上、空を見上げて現実逃避。
これ、地味にヤバいのでは?
とここで、陛下から待ったが掛かる。
「結納金? 降嫁の場合は状況が変わるぞ」
「え?」
「降嫁の場合、グラキオスではなく、グラフィエルが出さないといかんの。独立した貴族家に嫁ぐ場合は、その家の当主が出す決まりだからの」
「リアたちの場合はどうなるのですか?」
「貴族と貴族だからな。そこは慣習通りだ」
「ミリアはどっちになるんだろう?」
「神子様の場合は、降嫁と同じですね。なので当主持ちです」
「となると……ミリア、リリィ、ラナ、リーゼ、ミナが俺持ちですか?」
「亜人側はわからぬから、聞いてくれ。それと、傭兵国の方は多分だが、貴族同士の慣習か商人と同じ扱いになるだろう」
「なるほど……」
とここで、父上が復活。
母上が甲斐甲斐しく看病していたようだ。
あれ?ルラーナ姉の場合だとどうなるんだ?
「王子に嫁ぐのだから、当然、結納金は支払うぞ。尤も、額は少ないがな」
「どうしてです?」
「嫁入り道具は必要な物や思い入れのある物だけしか、持っていけんからの。だから、持参金も少なめなのだが、代わりに王家で残りの物は買い揃えるのだ。だから、双方少ない額で済む」
「勉強になります」
「ただ、これは表向きの理由だな」
「では裏の理由は何でしょうか?」
聞かされた裏の理由はいくつかあり、経済を回すためにわざわざ散財したり、間者の流入を防いだり、余計な腹を探られないなど、多岐にわたっていた。
「降嫁も同じだが、輿入れよりは費用が上だな」
「殿下の方を大々的な式にするのにですか?」
「息子の式の費用は王家が持つ。しかし降嫁の場合、式の費用は王家ではなく、貴族持ち――と言えばわかるか?」
「ああ。式の費用で割高になると」
「しかも降嫁だからな。王家や皇家の娘が嫁になるのだから、貧相な式には出来んと言う事情もある」
「式の費用はどうなるのですか?」
「降嫁の場合でも、その辺りはその貴族家によるな。独立した者なら当主でも良いし、親でも構わん。ただ、他に舐められぬようにするのであれば、式の費用は当主が支払い、両親は盛大な祝儀が無難だろう」
「だそうですよ、父上」
「他貴族への結納金と祝儀は任せろ! グラフィエル!」
「現金ですね、父上」
とまぁ、ちょっとした笑い話も間に入って、一息つく。
今のところ、父上が用意する相手は、ティアの公爵家、リアの騎士爵家になるのか。
そこで、あっ!となる。
シアについてはどうしようか?
そのことを話すと、王妃が手を挙げて、人を招く。
招かれたのは、ドバイクス侯爵とシアであった。
「さて、ノスシア嬢についてなのですが……」
リアフェル王妃が声を出すと、ドバイクス侯爵が答える。
「個人的には半々の気持ちなのですよ。共に出してやりたくもありますが、まだ手元に置いておきたいとも思います。妻とも相談しましたが、娘の意思を尊重しようかと」
「ですが、高等学校に在学中はどうなのでしょうか?」
ドバイクス侯爵の言葉に、リアフェル王妃が懐疑的な言葉を出す。
その言葉を聞いたシアは、悲しそうな顔をした。
リアフェル王妃が思わず「うっ」と狼狽えるくらいの悲しい表情であった。
なので、異世界の常識を出してみよう!
……結婚は16歳からでした。
まぁ、同棲とかはできたし、打開案が無いわけではない。
そのことを全員の前で話すことにする。
「式は挙げるとして、年齢の事もありますし、13歳になるまでは通いでも良いのでは? と愚考します」
「それは考えた。ただな、娘が除け者みたいでな」
「そうなると、一緒に住むしかないのでは? もしくは、ドバイクス侯爵家から、監視の人員を出してもらうとか」
「それもどうかと思いますが……」
ドバイクス侯爵もリアフェル王妃も否定的であった。
とは言え、このままだとなぁ。
なので、シアの意思をまずは確認してみることに。
シアの答えは――。
「シアは、お姉ちゃんたちと一緒に、式を挙げたいです。ラフィ様と一緒に住みたいです」
ハッキリと意思を示した。
では、周りの答えはと言うと――。
「前例がないわけではないので、国としては構いませんが、グラフィエル殿に変な噂が立つ可能性が……」
「うーむ、それは流石に……」
全員が、良い反応を示さなかった。
ただ、シアの意思と気持ちは汲んでやりたいと言う気持ちもある。
ならば、俺の答えは一つである。
「ドバイクス卿……いえ、お義父さん。俺は皆と一緒に、シアも含めて式を挙げたいと思います」
「だが、君にも負担が……」
「構いませんよ。裏でしか言えない阿呆どもは、放って置けば良いです。それよりも俺は、シアを大事にしたいので」
「グラフィエル君……」
「シア。もう一度、自分の口ではっきりと、意思と想いを言うと良い。後は俺がどうにかしてやるから」
そう言うと、シアは涙を流しながら、再び己の意思を、想いを言葉にして告げる。
「シアは……みんなと一緒が良いです! 除け者はイヤなのです!」
「だ、そうです。そして、俺はそんなシアの想いを肯定します。皆さんはどうしますか?」
俺の言葉に男性陣は腕を組んで考え、女性陣は手に扇を持って広げ、口元を隠して思案する。
ま、どういう結果を言われようが、俺は決行するけど。
とここで、ドバイクス侯爵が一言。
その言葉に、リアフェル王妃と陛下が問答する。
「私は娘の意見を、意思を尊重します。ただ、いくつか条件は付けるつもりですが」
「その条件とは?」
「まず、学校は卒業することです。学院に関しては、その時に考えます」
「まだあるのですよね?」
「はい。次に、子作りに関しては、学校卒業まで認めません。己の意思を通すのなら、最低年齢までは耐えてもらわねば」
「他には?」
「教育もまだ不十分ですので、家庭教師を何人か。それと、我が家の侍女を2名、派遣したく思います」
「おとうさ「わかりました」――ラフィ様!?」
「シア、ドバイクス卿は君の意思を認めたんだ。なら、出された条件は受けないといけない。やましいことが無いなら、猶更だ」
「……わかったのです。全て受けるのです」
「後は1か月に一度、顔を見せに来なさい。皆と一緒でも、一人でもそれは構わない」
「わかったのです」
「グラフィエル君、色々あるとは思うが、よろしく頼む。我が家も最大限味方になろう」
「ありがとうございます。シアの事は任せて下さい」
「幸せにします、とは言わないのだね」
「自分が幸せでも、相手が幸せかはわかりませんから。だから言うとすれば、皆で幸せを見つけていこうと思います。ですかね」
「なるほど。良く解った。……シアを頼むよ」
「頼まれました」
途中から、陛下も王妃も何も言えなかった。
婚姻する家同士が納得してしまった以上、王家からは何も言えない。
ただ、風評被害は避けられないだろうと考えた。
故に陛下と王妃は頷き合い、一つだけ約束をさせる。
「輿入れは、ドバイクス家が最後になるようにしてください。両家とも多少の風評被害は覚悟の上なのでしょうから、それくらいは呑んでもらいます」
「……わかりました。王家のご慈悲に感謝を」
「代わりに、幾分かの風評被害は和らげましょう。少なくとも、噂を立てるのは貴族派閥だけになるくらいには……ね」
「情報操作ですか?」
「人聞きの悪い。美談にするだけですよ。代わりに、多少の恥ずかしさには、目を瞑って頂きますが」
「謹んでお受けしましょう」
どうにか、シアの話も丸く収まる。
結果、父が準備する家は今のところ、公爵家、侯爵家、騎士爵家の3家。
今後、増える可能性もあるが、今はこの3家で話は終わる。
そして、平民であるナユについてだが――。
「グラフィエルの方から、出した方が良いだろう。ただ、金額は多くなくて良いからな」
「わかりました、父上。相場は、教えてくださいね」
「任せておけ」
こうして、各家の輿入れ話は終わり、翌日から準備へと入る。
ヴェルグ、イーファ、リジア、スノラ、リュールを除く婚約者達は、一度自国へと帰り、半月ほど準備に取り掛かるようだ。
終わったら、通信機で連絡が来る手筈である。
さて、皆が動ているうちに、片付けられる用事は片付けてしまうとしよう。




