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140話 帝国内乱の終結

18話目。

本日2話目になります。

 ヴェルグは気まずそうな顔をしながら、俺を見る。

 疑問はある。

 だがそれよりも、再び顔を、声を聞けたことが、その事を後回しにさせた。

 そして、本能のままにヴェルグを求め、抱きしめる。


「生き返ってくれて、本当に良かった……」


 もう離さない、失わないと言う気持ちで、ヴェルグを強く抱きしめる。

 ヴェルグも強く抱き返してくれたが。


「ちょっと強いよ。でも、心配させてごめんね」


 苦情を言ってから謝るヴェルグ。

 そんな彼女もまた愛おしかった。


「あの、我もいるのですが?」


 ディストの声が聞こえるが、それどころではない。

 寧ろ、空気読めよ!と言いたいが、それすらどうでも良かった。

 口づけしたい衝動に駆られるが、理性を働かせて我慢する。

 そのまま、1分ほどヴェルグを抱きしめて離す。


「ラフィ、涙の後」


「ああ、すまない」


「そんなに悲しかったの?」


「当たり前だ」


「それなのに、あの扱いなの?」


「悪かった。でも、ヴェルグを失ったと思った時、初めて自分の気持ちに気付けた。だから、もう迷わない」


「それじゃ、証明して」


「わかった」


 そして俺は、空間収納から一つの小箱を取り出す。

 小箱の中身は、婚約指輪。

 それを手に取り、ヴェルグの左手を取る。

 そして、その指に指輪を嵌めた。


「これが俺の答えだ。受け取ってくれるか?」


「ロマンも何もないね」


「俺達に、まともな時があったか?」


「ないね」


「これも、俺達らしくないか?」


 そう言うと、ヴェルグは首を縦に振る。

 その顔は少し赤かった。

 そして、もう一度抱き合い、お互いに口を近づけ……。


「おっほん!」


 ディストが咳払いをして、初めて辺りを見廻す。

 ニヤニヤ笑うゼロとツクヨ。

 目を逸らしながら、辺りを警戒するウォルドと老人。

 結界内で苦悶の声を上げる神喰。

 白目を剝いて倒れているジルニオラ。


「なに、このカオス」


「ラフィ~……」


「あ、俺達は気にしないで続けていいぞ」


「情熱的ね。ゼロもあれくらい情熱的な時があったのに……」


「だから声を掛けましたのに」


 最後のディストの言葉に、顔を一気に赤くする俺とヴェルグ。

 だが、この場には笑い声が響き、笑顔があった。

 遠目に見える反乱軍も、武装解除を受け入れている模様。

 ようやく内乱が終わったと、この時実感した。




 神喰とジルニオラを断絶結界で逃げられない様にして、本陣へと戻る。

 傭兵団の一員も、もれなく一緒である。

 道中、ヴェルグに疑問だったことを聞いたが。


「全部終わったら、ちゃんと話すから」


 と言われ、現在は別の質問中。

 ランシェス武術大会で拳闘術部門優勝者の老人が何故ここに?と疑問をぶつけていた。

 その答えは至極簡単な理由だった。


「儂も放浪の旅をしながら鍛えていますのじゃ。そこでディスト殿と知り合ったのですじゃが」


「いくつかの国を渡り歩いた後、帝国にて修行をしておりました。そしてご老体と出会い、勝負を申し込んだのですが、恥ずかしながら負けてしまいまして」


「その後は、共に修行の旅をしていたのですじゃが、内乱に巻き込まれて追われる事になったのですじゃ」


「我が反乱軍の兵を返り討ちにしてしまったもので」


「儂も良き経験を積ませてもろうたのじゃ。ディスト殿が気に病むことではないと思うのじゃがの」


「ふ~ん。で、なぜ神が下界に?」


「気付いておったのじゃな。いや、この話し方はやめるかの」


「どっちでも良いけど、何故下界に?」


 純粋な疑問と、ゼロの作ったルールに抵触してないか確かめる。

 後者は杞憂に終わった。

 いや、シブリーの眷属らしいと思った。


「神ではなく、純粋に武人としての高みを目指したいからじゃな。神格は当然返しておるし、返せなかった部分は封印もしておるよ」


「セブリーの眷属らしい理由だな」


「誉め言葉かの。どっちにしても、お主とは争わんよ。争えば、消滅するのはこちらじゃしの」


「それは重畳。後、喋り方変わってないぞ?」


「おっと。慣れた喋り方は変えられんのぅ」


 理由もわかったところで、本陣に到着。

 走りながらの会話であったのだが、傭兵団の者達がついて来られる速さで走っていた。

 傭兵団の者達は、ついてくるのが精一杯で、本陣に着いた頃には息も絶え絶えであった。


「マジ……バケモン……」


「それについてく、ぜぇぜぇ、うちの副団長は、ぜぇぜぇ、どうなんだって話だよ」


「俺ら、はぁはぁ、良く生き残ったな」


 そんな彼らを見ながら、迎え入れる本陣。

 警戒はしているが、心配ないと思うよ。

 恐怖はしっかりと叩き込んだし、そもそもの話、契約破りされてるわけだしねぇ。

 その事を本陣にいる各部隊長に話すと。


「一応、監視は付けときます」


「任せるよ。ただ、副団長には話もあるから天幕に連れていくけど」


「恐らく、補佐役も同行するでしょうね。そちらは警護を厚くします。後はクロノアス卿にお任せしますが」


「わかった。それと、帝都に使いを。反乱分子の制圧報告をしに行かせてくれ」


「ロギウス殿をお借りしても?」


「皇女殿下とロギウス殿に確認してくれ。ロギウス殿がいない間は、俺が護衛しよう」


「助かります。誰か! 皇女殿下様とロギウス様に報告と確認を! それと、警護の人員選抜だ!」


 各部隊長が順に話し、己の部隊へ指示を出していく。

 その間にヴェルグは皆に会いに行った。

 先程から天幕で歓喜の声が漏れている。

 気持ちは痛いほどわかる。

 さて、俺も天幕に向かおう。




 2時間後、天幕でゆっくりとしていたが事態は動く。

 帝都へ報告に出た使いが、何故か皇帝を伴って戻ってきたからだ。

 いや、確かに反乱分子は制圧したが、いきなり皇帝が出張ってくるとか、危険じゃないのか?

 帝国兵や近衛は止めなかったのだろうか?


 出迎えないわけにもいかないので、皆で天幕を出て――うん、まぁ、そうだよねぇ……。

 天幕の前には、帝国兵と近衛がいた。

 帝国兵は大隊規模で、近衛は全員っぽい。

 狙撃や奇襲対策もばっちりであった。


 その中から近衛らしき人がこちらへとやってくる。

 彼は胸に手を当て要件を述べる。


「帝国近衛騎士、序列11位のペンディ・フィン・フィルストであります! 皇帝陛下が詳細をお聞きしたいとのことですが、安全な場所はおありでしょうか!? 無ければ、城にご同行願いたいとのことです!」


「同盟国軍盟主、グラフィエル・フィン・クロノアスだ。天幕内は安全だが、より安全を求めるなら城が良い。皇帝陛下殿の意見を尊重したいので、聞いてきてはもらえまいか?」


「はっ! でしたら、城へのご同行をお願い致す所存であります! 各国の皆様も、簡素ではありますが、休息できる場所を提供したく! 如何でしょうか!?」


「反乱軍兵の捕縛は?」


「現在、別大隊がランシェス、神聖国軍に変わり、随時捕縛中であります! つきましては、反乱軍首魁ジルニオラの引き渡しをお願いしたく!」


「また逃げられても困る。城へは連れていくが手元に置いておきたい。それと、傭兵達の扱いだが、こちらに一任させてもらいたいのだが?」


「ジルニオラの件に関しては承諾しました! 傭兵達の扱いに関しては、私ではその答えを持ちませんが、同盟国軍が監視していただけるのであれば、帝国側は今暫くの間、手を出しません!」


「わかった。後の事は城で話そう」


「はっ! ご英断に感謝を!」


 最後にそう答え、近衛は皇帝に報告へと戻った。

 公の場なので、かなり偉そうに喋ってしまった。

 リーゼやミリアに言わせると、これで正解らしいが。

 うーむ、未だに慣れないな。


 こうして、本陣の撤収が始まる。

 帝国兵も協力して、速やかに撤収は済んだ。

 ただ、やはりというか、帝国側と亜人の軋轢はあった。

 こればかりはどうしようもない。

 帝国軍は皇帝が、亜人達には俺が言い聞かせたので、余計な衝突は起こっていない。

 但し、一触即発ではある。

 ちょっとしたことで爆発するのは確実だろう。

 一抹の不安を抱えながら、帝都に向かう。


 帝都に到着し、主要メンバーは城へ。

 残りの者たちは、帝国兵に案内され、簡素な休息場所へと向かう。

 帝国兵に話を聞くと、温かな食事と一杯の酒が用意されてるとの事。

 ささやかなお礼らしい。

 当然だが、亜人達もそちらに向かっている。

 何もないことを祈るばかりだ。



 帝城の一室。

 会議室でもなく、謁見の間でもない。

 皇族の私室へと俺達は案内されていた。


 案内されたメンバーは――。

 俺、婚約者達、ゼロ、ツクヨ、ウォルド、ディスト、老人神、ナイーファ、ファリジア、スーノラト、そして何故かシャリュール。


 対する皇族は――。

 皇帝、皇妃、ガザライズ皇太子、ロギウス殿、シャルミナ皇女。


 部屋には皇室専用メイドが数名。

 明らかに護衛も目的としたメイド。

 そしてこの場にいるということは――。


(最も信用がおける、口の堅い者達か)


 そしてもう一人。

 この場にいて正解であり、不正解な人物。

 近衛騎士団の長が皇帝の後ろに立っていた。


 皇族の私室とは、プライベートな空間。

 いわば皇居である。

 そして皇居は、男子禁制である。

 昔読んだラノベとかでもそうだった。

 だが、この世界はちょっとだけ違う。


 この世界の皇居は、基本男子禁制。

 特例があれば、決められた範囲内ではあるが入れる。

 当然だが、浅い部分までだ。

 奥までは入れない。

 但し、その特例すらも滅多なことでは下りない。


 そんな皇居の中で、来たことがある感じがする近衛騎士の長。

 いや、間違いなく何度か足を運んでいるのだろう。

 彼はこちらを警戒するが。


「よさんか。余計な事をして、怒らせたくない。だから、お主も座れ」


「陛下、私は警護が任務です」


 皇帝陛下の言葉に、真っ向から正論をぶつける近衛騎士の長。

 普通なら不敬だが、皇帝は怒ることもなく笑い、ちょっとだけ呆れた。


「お前は昔から変わらんの。いい加減、引退したらどうだ?」


「陛下が退位されたら、私も退きましょう」


「皇帝、そちらの方は?」


 俺はたまらずに質問をする。

 帰ってきた答えは、納得できるものだった。


「こやつは儂の幼馴染でな。今は公であり、私事でもあるから、座ってほしいのだがな」


「だそうですよ? こちらは気にしませんので、いつも通りでよろしいのでは?」


「…………仕事ですから」


「固いの……。クロノアス卿、どうにか出来んか?」


「座って警護されては? 話が進みませんし」


「…………わかりました。失礼致します」


 皇帝と俺の言葉に渋々頷き、座る近衛騎士の長。

 全員が座ると、メイドがお茶を配膳する。

 素早く配膳し、後ろへと下がるメイド。

 良く教育されていた。

 そして本題に入る。


「まずは礼を。この度は助かった」


「それは各国代表と頑張って説き伏せた皇女殿下に言われるべきでしょう。俺は何もしてませんよ」


「謙遜する必要はない。北の魔物もお主が対処したのだろう?」


「いえ。それは自分の婚約者と配下が」


 そう言って、ヴェルグとディストを紹介する。

 皇帝は目を丸くするが、次の答えに納得した。


「ディストは、黒竜です。ヴェルグは、俺に近しい者ですかね。私事でも、実力としても」


「なるほど。……お主と近しい実力者と竜か。それほど苦労はしなかったと見て良いのか?」


「楽勝だったらしいですよ。少し手間取ったのは、統率魔物くらいだと言っていました」


骨竜(ボーンドラゴン)だったか? 我らだけであれば、全滅していたであろうな」


「そちらの騎士なら、勝てるのでは?」


「クロノアス卿、買い被りかと。地上戦ならまだしも、動く要塞には勝てません」


「謙遜ですね。いくつか手は持っているでしょうに」


 口に紅茶をつけ、近衛騎士の長の回答を待つ。

 幾ばくかの沈黙。

 それを破ったのは皇帝だった。


「はぁ、バレておるな。余もお主の事だから、何か手は持っていると思っておるが」


「…………申し訳ありません。ですが、軽々しく話すのは」


「ふむ……。クロノアス卿、申し訳ないが」


「詳しくは聞きませんよ。俺は手を持っていますね? としか聞いてませんよ」


「だ、そうだ。どうなんだ?」


「はぁ……。ええ、持っています。しかし、通じるかは未知数ですね。あくまでも攻撃手段があるとご認識して頂きたい」


「では、一つだけ。その攻撃は通じますよ。ただ、一撃では仕留められませんが」


「それは良いことを聞けました。これからも精進するとしましょう」


 俺はどうやら、かなり警戒されていたらしい。

 以前にやらかしているからなぁ。

 警戒されても仕方ないか。

 気持ちを切り替えて、次の話に進む。


「それで、何故、私室での話なのですか?」


「各国には改めて場を設ける。その前に、余の娘が何を対価にしたのかを聞きたい」


「それを話すとでも?」


 皇帝に対して一歩も引かず、紅茶を再び口につけて余裕を見せる。

 うん、この紅茶は美味いな。

 後で調べて買って帰ろう。


「勘違いをしているようだな。余が聞きたいのは、各国への対価ではなく、お主に提示した対価だ」


「何故、俺だけに聞くのですか?」


「お主が動くならば、何か理由があるか、相応の対価が必要だろう。グラフィエル・フィン・クロノアスという人間は、何かを守ることに関して動くと、余は思っている。さて、返答は以下に?」


 良く人の事を調べたもんだ。

 だが、勘違いをしている。

 俺が動く理由は他にもある。

 今回はその他の理由があったからに過ぎない。


「特に何も。強いて言えば、亜人は俺の庇護下に入った事と、傭兵達に関しては、こちらが預かりたい位ですかね?」


「十分厄介なことではないか! はぁ、また法改正をせねばならぬのか……」


「父上、諦めましょう。私も手伝いますから」


「ガザライズ……。頼りにしているぞ」


 何故か皇帝と皇太子が揃って溜息を吐いた。

 親子の絆が深まるのは良いことだ。

 だが何故、溜息を吐く?……解せぬ。


「他には無いのか? いや、もう何でも言ってくれ。どうにかするから」


「特には。後、首謀者であるジルニオラですが、引き渡すのは問題ないですけど、前みたいなことが起こるのでは?」


「脱走の事か? 流石にもう無理だな。手引する貴族はいないであろうし、利用価値も無いであろうからな」


「反乱に失敗したからですか?」


「今回はまだ、大義名分があったのだろう。だが負けた以上、それは失われ、ただの反乱分子となった。クロノアス卿には申し訳ないと思っている。あの時、温情をかけてもらったのにな」


「処刑――されるんですね」


「最早庇いきれん。余らだけならばまだしも、あの馬鹿は臣民にまで危険に晒した。臣民が納得せんし、帝国は実力主義だ。1度は余の介入で不本意な形だったのも良くなかった。あの時戦わせて、己の力を理解させるべきであった」


「なんか、すいません」


「いや、お主は悪くない。全ては余らの教育が行き届いておらぬことだな。ガザライズは上手くやるのだぞ」


「私は文官気質ですから。大丈夫ですよ。寧ろ心配なのは……」


 ガザライズ皇太子はロギウス殿を見る。

 ロギウス殿はその視線を受け、皇帝に直訴した。


「親父、悪いが暫くの間、近衛長を軍の頭に置いてくれ。俺はクロノアス卿の下で鍛え直したい」


「お前は何を言ってるんだ?」


 俺も皇帝の言葉に一票入れるぞ。

 ホント、何を言ってるんだ?。

 だがロギウス殿の言葉は、皇女殿下の発言によって空気と化す。

 結果としては承認されるんだが、俺は頭が痛くなった事を言っておく。

 2年前に言われた精霊の言葉は正しかったなぁ……。

 俺には絶対、女難の相があると思う。


「お父様、私からもお願いがあります」


「ミナもか。言ってみよ」


「グラフィエル様と婚約がしたいのです!」


「…………本気か?」


「はい。懸念があるようなのでお伝えしますが、別に国の為ではありません」


 そう話した皇女殿下は、前に見たビクッ!としてから話していなかった。

 いや、家族だから無いのか?

 ふとロギウス殿を見ると、横に首を振っている。

 皇女殿下は家族相手でもそうだったのか。


「国の為ではないと? では、誰のためだ?」


「自分の為です。私は、グラフィエル様を尊敬しております。堂々とした立ち居振る舞い、毅然とした態度、お父様にも物怖じせぬ心。私はそんなグラフィエル様に惹かれてしまいました」


「尊敬と愛は違うのだぞ?」


「承知しております。ですが、グラフィエル様の婚約者である皆様は、向上心を忘れておりません。それに私も交じりたいのです。勿論、負けません。それに……あの絶望的な状況を切り抜け、愛する方を救い、熱く愛してくれる。そんな方に巡り合う機会は、もう無いと思います」


「それでお前は、幸せになれるのか?」


「私を変えて下さったのは、グラフィエル様です。だからきっと私達の関係はもっと変わると思うのです。それは、ミリアンヌ様達との関係も変わると思うのです。帝国の皇女からグラフィエル様の妻に。皆で支え合い、助け合い、守り守られ。ですが、その場所に私が居ないのは、とても耐えられませんでした」


「彼の気持ちは?」


「必ず振り向かせて見せます!」


 そこには、あのオドオドしていた皇女殿下はいなかった。

 その姿を見た皇帝は俺を見て、問いかけてきた。

 だから俺も、誠実に答える。


「お主はどうする?」


「努力する、変わろうとする女性は嫌いではありません。彼女の気持ちに応えようとは思います」


「どちらになるとしても――か?」


「今も変わられております。愛はこれから育めば良い。俺はもう少し素直に、我儘になると決めたので。だから……シャルミナは俺がもらう」


 大胆不敵に宣言する。

 俺の言葉を聞いたシャルミナは顔を赤らめる。

 俺達の言葉に皇帝は笑みを浮かべた。


「お主等の決意、見届けた。ミナよ、好きにするが良い」


「ありがとうございます、お父様」


「親父、俺は?」


「好きにせい。シャルミナの護衛扱いで出してやる。仕事はきちんとしろ。それが条件だ」


 ロギウス殿には半放任主義らしい。

 ロギウス殿も喜ぶべきなのだが、釈然としない気持ちで一杯みたいだ。

 そこへ、近衛長が一言。


「私の意見は無視ですか……」


 背中に哀愁が漂っていた。


 その後は、捕虜の引き渡し。

 各国へシャルミナが提示した条件などを伝える。

 仮にもお義父さんになるのだから、余計な駆け引きは省いた。

 後で各国代表に怒られるかな?


「ミナも思い切ったものだ」


「これもグラフィエル様のおかげです」


 そんなに持ち上げないで欲しい。

 基本的に俺は、貴族としてはダメな部類なのだから。

 それをミリアやリーゼ、リリィがフォローしてくれている、ある意味ダメ男なのだから。

 ……自分で言って、悲しくなるな。

 この考えはよそう。


 その後も戦後処理などの話や、二人の出立日などを話し合う。

 そして最後に、《《あれ》》の話になるのだが。


「あれは言わば、第三勢力です。こちらで処分します」


「しかし、国に被害をもたらしたのも、また事実であろう?」


「申し訳ないですが、こちらにも事情があります。これ以上、この件に首を突っ込むのであれば、覚悟が必要になります」


「ランシェス王は、覚悟を決めたと?」


「半分は巻き込まれてますが、最終意思は皇帝の仰る通りです。皇帝も、覚悟をお決めになりますか? 代わりに、とんでもない心労が増えますよ?」


「今暫く、考えさせてくれ」


 こうして話し合いは終了した。

 それから1週間は帝国に滞在する事になってしまう。

 帝都に避難していた臣民達が戻り始め、全ての臣民が帝都に戻った翌日、元皇太子で反乱軍の首魁ジルニオラが公開処刑された。


「俺は――俺が! 次代皇帝だ!」


 その言葉を残し、ジルニオラは断頭台の露へと消えた。



 こうして、帝国内乱は幕を閉じた。

次話からは事後処理と幕間になります。

山場は超えた感じですかね。


以降、シリアスさんは少しずつお休みしていきます。

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